「第十二話 ヒーローにかけた夢」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
第十二話 ヒーローにかけた夢 - (2011/07/27 (水) 22:32:39) のソース
第十二話 「ヒーローにかけた夢」 『ぐああああっ!』 『ファッファッファッファッ……どうだビートルA、手も足も出まい?』 『ぐ……、なんて力なんだ! 今までの怪獣とは全然違う!』 『ファッファッファッファッ……当然だ。このゼットキングは貴様を倒す為に作られた最強の怪獣なのだ』 『くっ、ならばアクティオン光線で!』 『おっと、いいのか? ゼットキングが倒されれば、体内に仕掛けられたタイマーが作動し、お前のオーナーは街ごと木っ端微塵になるのだぞ?』 『何だって!? 卑怯だぞ、バノレカン星人!』 『ファッファッファッファッ……卑怯もラッキョウもあるものか。食らえ、エポキシパテ爆弾!』 『うわあああーっ……』 『バノレカン星人の卑劣な罠によって、ビートルAはブロンズ像にされてしまった! ラン子の、オーナーの、そして地球の運命は!? 立ち上がってくれ、我らのビートルA! 次回に続く!』 ※※※ 「うわ~ん、ビートルAが負けちゃいました~」 「大丈夫ですよ。来週にはきっとラン子さんも元に戻ってます」 「って……、えーっ、来週はお休みなんですか!?」 夕方、テレビの前で妙にエキサイトしているクレアを横目で見ながら、俺は皿洗いをしていた。 「何見てるんだ、クレアは?」 「知らないの? 輝さん、ビートルAっていう番組だよ」 「びーとるえーす?」 「うん。主人公の矢住蘭子はね、ある日街を破壊しようとする怪獣から恋人をかばって命を落としてしまうんだ。だけどその勇気に感動した正義の宇宙人から特別な神姫の体を与えられて、普段は恋人の神姫ラン子として、ピンチの時には大きくなって戦うっていう設定なんだ」 「へえ」 「だけどラン子が本当は人間だっていう事は、周りの人には絶対に秘密なんだって。だからラン子はオーナーへの想いを伝える事は出来ないんだ」 「子供向けなのか、それ」 にしてはずいぶん重たい設定だと思った。 「なんか子供とか神姫には結構受けてるらしいよ」 「そういやメリーもラブシーンがどうとか言ってたが、そうかこの番組だったのか。雅は見ないのか?」 「ふん。子供向けじゃない。水戸〇門の方が面白いわよ」 「ホントお前の趣味っておっさんくせえよな」 「うっさいわねー」 そんな話をしてから、入り口に近い席で待っている客にコーヒーを持って行く。 「お待たせしました。コーヒー、アメリカンです」 「ああ、どうも……っとわっ!」 その時、俺の手がカバンに当たって、中から書類のようなものが落ちてしまった。 「あっ、すいません!」 「いや、大丈夫ですよ」 「ん、これって……」 落ちた書類を拾い上げると、そこに書かれていたのは……。 「ビートルA……?」 「あはは……、すいません。それ、脚本なんです」 ※※※ 「お客さん、脚本家だったんすか」 「はい。とは言っても、まだ駆け出しなんですが」 浅田さんと言うその人は笑って、コーヒーカップに口を付けた。 「でも、凄く受けてるじゃないですか。僕の神姫も毎週楽しみにしてますよ」 「はは、どうも。……でも、なかなか大変なんですよ」 浅田さんは健五の言葉に薄く微笑んだ。 「締め切りが大変で、予算もかかるし……、実は、そろそろ打ち切りにしようかっていう話になってて」 「えっ、打ちき……もご」 「どうしました、輝さん?」 「何でもないよ、クレア! ……輝さん、声大きいよ」 「わりい。でも、打ち切りってもったいないっすよ」 「そうですけど、なかなか続きの展開が思いつかなくて。次回の放送分以降はまだ撮影が途中で止まってるんです」 浅田さんは小さく溜息をつく。 「正直、自分としても続けるのが辛くなって。夢と現実って違う物なんですね、本当」 「……」 少しの間、沈黙が降りる。 「……そうだ!輝さん、やってみたい事があるんだ」 ※※※ 「おいクレア、お前に手紙が来てたぞ」 「手紙ですか?」 クレアにそれを手渡すと、封筒を開いたクレアは目を丸くした。 『クレア君へ いつも応援してくれてありがとう! 君の元気な姿は、僕や防衛チームのみんなが心の支えにしているよ。だが、僕は今バノレカン星人の罠にはまって身動きがとれない。そこで、君の声援が必要だ! 君の勇気を僕に分けてくれ。あの人の命、そしてこの地球に生きる人々の命を星人の好き勝手にさせるわけにはいかない! だから、最後の力を振り絞って君にこの手紙を送る。お願いだ。みんなの未来のため、君の力を貸してくれ。 ビートルAより』 「ら、ら、ラン子さんが……。ビートルAから手紙が来ました~!」 「あら、凄いじゃないですか!」 テレビの前で無邪気にはしゃぎだしたクレアは、そのまま店の出入り口まで駆け出した。 「あの、輝さん、戸を開けて下さい! ビートルAを応援したいんです!」 「ああ、いいぜ。よっと」 引き戸を開けると、クレアは外へ出て行く。 「ビートルA、頑張って下さい!バノレカン星人なんかに負けないで、地球を守って下さ~い!」 道行く人の目も気にせず、何度もクレアは空に手を振った。 その姿を見た浅田さんは、ただ驚いて見ているばかりだった。 「……本当に、こんな手紙で信じるなんて」 「それだけ楽しみにしてるんですよ。それは多分彼女だけじゃない、子供も神姫もみんなそうです」 おやっさんも後ろからやって来て笑った。 「もう一度やってみたらどうでしょう。彼女のように、夢を信じていた頃を思い出して」 浅田さんは黒縁の眼鏡を直して、背筋を正した。 「……はい。……そうだ」 ※※※ その丁度二週間後のこと。 『卑劣な手段によってビートルAを倒したバノレカン星人。そして今、地球に危機が迫っているのだった……!』 『ファッファッファッファッ……。地球人に告ぐ! ビートルAは死んだ! お前達を守るものはもういないのだ!』 「あっ、今度はテレビまで使うなんて、どこまで卑怯な宇宙人ですか!?」 マスコミを使って地球人の不安を煽る作戦らしい。 テレビ画面の中では、赤黒スーツにヘルメットの人々がせわしなく動いている。 きちんと放送出来てるってことは、どうやら浅田さんはスランプから抜け出せたようだ。よかったな。 しかしその時、テレビを見ていた俺と健五は目を疑った。 「あれ? あれって……」 「あ、ああ……」 『ビートルA、頑張って下さい! バノレカン星人なんかに負けないで、地球を守って下さ~い!』 テレビに映っていたのは、そう、空に向かって手を振るアーティルタイプの神姫だった。しかも、前にクレアが言った台詞をまんましゃべっている。 「あ! マスターマスター、あたしと同じアーティルです!」 「う、うん、そうだね」 『頑張って、ビートルA!』 『わたし達のマスターを、地球を守って!』 アーティルの叫びに続いて、町中の神姫達が空を仰いで声を張り上げる。 『ええい、静かにしろ! もうすぐ地球はわれらバノレカンのものになるのだ!』 その時場面が変わって、握り拳を見つめて走り出すエスパディアを映した後、CMになった。 「おいおい、これって」 「浅田さんがプレゼントしてくれたんじゃないか?」 「……」 おやっさんは笑っていたが、俺たちは唖然としていた。 その時、CMが終わって、クレアがまた驚いた。 「あっ、あれはなんですか!?」 『あっ! あれはなんだ!?』 テレビの中でもスーツの人が同じ台詞を言ったのには吹いた。 『ファッファッファッファッ、神姫どもめ、こうなればゼットキングを使って、ぐおおっ!』 画面の中でヘンテコな宇宙人が吹き飛ばされて、青い神姫が現れた。 『……ラン子。お前はここで死ぬような奴じゃない』 青い神姫が手からビームを出すと、ビートルAにくっついていたパテがはげ落ちた。 『ぐっ……。あ、あんたは』 「スタッグNです! 凄い、スタッグNが来てくれました!」 「スタッグ?」 「悪の宇宙人から力を与えられて、ラン子とオーナーを取り合っていがみ合ってた神姫だよ」 健五の説明からは、やっぱりこの番組が子供向けとは思えなかった。 『ガタ子……。あんた、変身できなくなったんじゃ』 『神姫達が勇気をくれた。もう一度戦う』 『お、おのれ! 何故エポキシパテ爆弾が!』 『そのパテ、まだ完全に固まっていなかったから』 『しまったぁ! 速乾性のパテを使えばよかった! ……ええい、こうなったらゼットキングもろとも爆破してくれるわ!』 『ラン子、いくよ』 『……言っとくけど、あの人は渡さないからね!』 『別にいい。愛は奪い取るものだから』 『ファッファッファッファッ、二人まとめて吹き飛ぶがいいわ!』 『吹き飛ぶのはお前だ! アクティオンん……』 『リノケロス……』 「いけええ!」 『『ヘラクレスラッシャー!!』』 『ぐわああああっ!』 「やったやった、ビートルAが勝ちました!」 クレアは大はしゃぎ。それを少し離れて見ていた俺と健五は、ふとこんな話をした。 「浅田さん、夢があって脚本家になったんだよね」 「ああ、そうみたいだったな」 「夢って、持ってなくちゃいけない?」 「難しいなあ。ま、あったほうがいいもん、かな」 健五はそれきり押し黙っていた。 「『愛は奪い取るもの』ですか……。一度言ってみたいですねー」 メリーの不穏な言葉を耳にしながら、俺は考える。 俺の夢……、俺の夢は――。 ~次回予告~ 横浜エリア最強のランカー神姫、アテナ。 その圧倒的な力を前に、メリーは、クレアは何を見るのか――? メ「新展開、で・す・よ?」 次回、 [[第十三話 灰染の女神]] 「そう硬くならなくていいわ。さ、始めましょう」 [[武装食堂]]に戻る