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第七話 あなたの街を宣伝! - (2011/05/17 (火) 22:12:32) のソース
第七話 「あなたの街を宣伝!」 五月二十八日、午前十一時五十八分。 そろそろその時がやって来る。 俺もおやっさんも神姫達も、そして店の常連達も緊張した面持ちでテレビ画面を見守っている。 ただ、健五とクレアだけが状況を飲み込めていないようだった。 「あの、輝さん、どうしたの?」 「しっ。静かにしてろ」 「?」 しばらくして、時計の針が十一時五十九分を指す。 同時に画面が、CMから別の物へ変わった。 『この後はmotto!サーチング!』 『今週のグルメコーナーは下町特集! おしゃれなバーから、なんと神姫がいる食堂まで!?』 「「おおーっ!」」 店の中が沸き返る。 「って、ええ!? 今、このお店映ったよね!?」 健五が驚いてこちらを見る。無理も無いだろう。 「どうして!?」 「いや、前に取材されたんだよ。三ヶ月くらい前に」 「ええーっ!?なんで!?」 「いいから見てろって。ほら」 テレビ画面の中では、司会のお姉さんがしゃべり出した。 『こんにちは~。Mottto!サーチング!の時間ですよ。今週のゲストは、Fun-C’sのお二人で~す!』 『いえーい! キャンディです☆』 『カシスで~っす! ヨロシクじゃん!』 『お二人とも今週月曜に新曲をリリースしたということで・・・』 「お、あの二人って前に来たな」 「輝さん、取材って!? ねえねえ」 「んだよしつけーな。前にウチを取材したいってオファーがあったんだよ。いいから静かに見てろ。みんな楽しみにしてたんだ」 興奮する健五をなんとかなだめた。手の掛かるヤツだ。クレアは目ぇキラキラさせてじっと見てるってのに。 まあでも、前の水野さんの話を聞く限り、仕方の無い事かとも思う。 そういえば、取材の話が来たときはまだこいつに会ってなかったんだよな。 ※※※ 収録が始まる直前、雅は緊張しきっていた。 「……おい雅、硬いよお前」 「う、うっさいわね。仕方ないでしょ、初めてなんだから」 「まったく雅さんは心配性ですねえ。そんな思考じゃそのうちお肌ががびがびになりますよ」 「いつまでも胸が成長しないのに偉そうに言わないでくれる」 「やる気ですか? 赤だるま」 「かかって来なさいよ、貧乳」 「元気じゃねーか、お前」 っていうかお前ら神姫だろ。成長も老化もしねーよ。 なんて考えていると、カメラさんと今回のリポーターのお姉さん方が来た。 「お待たせしました。そろそろ撮影の方に入りたいと思いますので」 「あ、そうっすか。じゃあよろしくお願いします」 さて、撮影だ。上手くいってくれよ。 なんて考えていたのだが。 「はい、続いて紹介するのはこちら、東京は桐皮町にあります明石食堂です」 リポーターのお姉さんがそう言ったあと、カメラさんが二人の神姫にズームする。 「こちらのお店はなんと神姫がいらっしゃるということなんですよ~。楽しみだね、二人とも」 「はーい! 楽しみですっ☆」 「わくわくするじゃん!」 聞くところによると、あのシュメッターリングとベイビーラズは二人一組のアイドルユニットなんだとか。今は神姫もアイドルをやる時代らしい。 「じゃあ早速、お店の中を紹介していきましょう」 お姉さんが神姫二人組を引き連れてのれんをくぐる。 すると、入ってきたお姉さん達とカメラさんに向かって、メリーと雅が挨拶をする、という算段だったのだが。 「いっ、いらっしゃいませっ!」 「い、いらあっしゃいませええ!」 俺はまたずっこけてしまった。お姉さん達とカメラさんが苦笑する。 「雅! お前これで三度目だぞ! 何だその変顔は!」 「だって~! カメラなんて慣れてないわよ~!」 さっきから二人が緊張しっぱなしで、まともに撮影が進まないのだ。 「ま、まったく雅さんは、本当に心配性です、ね、あはははは」 「そういうメリーも! なんでガチガチなんだよ! いつも接客やってるだろ!」 「だ、だってその、いつも来るのが知ってる方ばっかりで、テレビなんて初めてですから、その」 あっちゃあ。普段常連ばっかなのが裏目に出た。 「頼むよお前ら。テレビで放映したらこんなもんじゃないぞ。知らないトコからも人が来んだからな」 っていうかこういうサービス業はコミュニケーションとれなきゃやってけないんじゃなかろうか。 「じゃあ、ちょっと落ち着いてから再開しましょうか」 スタッフさん達のありがたい言葉に甘えて、少し休憩することにした。 「すみません、撮影止めちゃって」 「いえいえ。大丈夫ですよ」 話をしていると、おやっさんが茶を淹れてくれた。 「はい、どうぞ」 「あら、ありがとうございます」 「二人とも、うまくやってるかい?」 「いや、それが全然ダメで。どうすりゃいいんですかね」 「ふむ。……二人とも」 雅とメリーが顔を上げる。 「何ですか? おじさま」 「ごめんなさい京介さん」 「いやいや、謝らないで。それより、外を見てご覧よ」 「……?」 二人とスタッフさん達を連れて外に出てみる。 すると。 「おお、雅ちゃん! メリーちゃんも! 頑張れよう二人とも!」 「緊張しなくていいんだよ!」 「あたしらがついてるからね!」 「あ……」 外には、商店街の人々が駆けつけていた。 「皆さん……」 メリーも雅もたまげた様子だった。 「どうして?」 「どうしてって、決まってるさね」 そう言ったのは、豆腐屋の千絵おばさんだった。 「あんたらはうちの商店街の仲間なんだ。その仲間が頑張ってるなら、応援するのが筋ってもんだろ?」 「だってよ。こりゃあ頑張らねえといけねえなあ、おめーら?」 俺は自然に笑みがこぼれた。 「……はい」 「……っく、……ふん、恥ずかしいことしてくれちゃって」 二人は手の甲で目尻をぬぐいながら、それでも笑顔を見せる。 「おーっ! 輝ちゃん、女の子泣かせたなぁ!?」 「罪な男だねえ、輝ちゃん!」 「う、うっせーっすよ! ってかめぐみさんも後ろで笑ってないで下さいよ!」 そんなやりとりを交わしながら、俺は思う。 ここは本当に温かい所だと。 心なしか、スタッフさん達も笑顔になったようだった。 「……そうだわ。ディレクターさん、ちょっと……」 ※※※ 『……はい、続いての紹介はこちら、東京は桐皮町にあります明石食堂です』 『下町の面影を残すこの町の特徴は、ずばり温かさ。町を歩いていると、あちこちで元気な声がします』 リポーターのお姉さんとナレーターが交互に説明した後、のれんをくぐったお姉さん方に雅達がお辞儀する。大分緊張は消えているな。 「おっ、来ました来ました!」 「それに、さっきの源治さんの店じゃないか!?」 「あ、ホントっすね。おい健五、さっき映った店ってお前と最初に会ったトコだぞ」 「ああ、そういえば」 「思えばえらいこっちゃだったよなあ。まさか中学生でひった……」 「わーっ! わーっ! 言わないでよ!」 「分かった分かった。言わねえから騒ぐな」 さっき流れた町の映像は、お姉さんがスタッフさんに言って撮ってもらったらしい。無茶な事をすると思ったが、町の人々の思いが伝わったのだろうか。 『こちらのお店はなんと神姫がいらっしゃるということなんですよ~。楽しみだね、二人とも』 『うんうん☆どんな所か楽しみ☆だよね!』 『それじゃ早速突撃じゃ~ん!』 『いらっしゃいませ!』 『い、いらっしゃいませ!』 『このお店の特徴は、神姫がお料理をしたり、ウェイトレスをしているというところなんですね~』 テレビ画面の中で二人がお辞儀をした。 「おおっ、来ました来ました!」 「きゃー! きゃー! あたしなんて顔してんの~!」 「ははは……」 『……なるほど~、テーブルにはこのように階段が設けてあるんですね』 『はい、こうすれば神姫も楽に登れますんで』 「やべ、俺もけっこう緊張してんな……」 『じゃあそろそろ、お料理の紹介に移るよ☆!』 『お待たせしました。カツカレーです』 『こちらの名物は、ご主人自ら選んだ有機野菜が溶け込んだカツカレーです』 『おいしそうじゃーん!』 「マスターが出たぞ!」 「はは、やっぱり少し恥ずかしいですね」 一緒に笑い合ってくれる人たちがいる。 それはとてもありがたいことなんだと、俺は思う。 『こちら明石食堂はJR中央線桐皮町駅から徒歩八分!』 「いやあ、嬉しいねえ!これでこの商店街も有名になるってもんだ」 「まったく、マスター達は町の希望だよ」 「ちょいとあんたら、儲けのことばかり考えてんじゃないよ!」 「うへえ、止めてくれ千絵さん」 「わははは……」 「なあ健五」 何ともなしに、俺は聞いていた。 「何?」 「なんか困った事があったら、遠慮しねーで来いよ。ここは……まあ、なんだ、お前の居場所でもあるからな」 「うん? ……うん」 何を言っているのか自分でも分からないが、健五はもっと理解していないようだった。 まあでも、この町が、この食堂が、こいつの悩みを和らげることが出来たら、それでいい。 密かに、俺はそう思った。 ※※※ 所変わって、ある洋食店の店内。 「……フム……明石食堂……デスか。フフ」 その男は、不敵に微笑む。 「一度、訪れてみる必要がありそうデスね」 ~次回予告~ 「ヨロシクお願いしマス、シマヅ君」 明石食堂にやって来た一人の男が波乱を呼ぶ! 天才フレンチシェフ、アンリの目的とは!? 次回、 [[第八話 ボヌールからの挑戦状 前編]] お楽しみに! [[武装食堂]]へ戻る