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第十一話『魅惑のお風呂タイム』 - (2008/02/02 (土) 00:34:11) のソース
「――――――――――ッ!」 一歩で踏み込み、抜刀と同時に納刀する。 肉眼では絶対に、センサーの類を使ったとしても視認するのは不可能な彼女の剣は、彼女の身の丈以上の竹を両断していた。 「―ッ! ――――――――ッ!!」 そのまま呼吸をせずに予め鈴をつけておいた竹に切りつける。その数約二十。それもかなり距離を置いてその竹はあった。 「――――――――――――ッ!!」 しかし、全てが彼女の間合いの範囲である。彩女は鈴の音を頼りに竹を探し出し、両断していく。 その速度は獲物を見つけた獅子の如く、足捌きに迷いはない。 そのまま二十近い竹をほぼ一瞬で両断し、鈴の音がなくなった頃、彼女はようやく刀を納め“目隠し”を解いた。 「―――――――ふぅ。まぁこんなところですか」 自らが斬りおとした竹を見ながら彩女は呟いた。 彩女がやってきた方向からは物凄い数の竹が斬り落とされていた。彩女がいまやっていることはただの修行ではなく、道を作っているのだ。 「今半分くらいですかね。主は・・・・あぁあんな遠くにいます。まぁ切っただけでは道にはなりませんし。退かすのは主でないと出来ません」 道を作るついでに修行をし、その過程で切られた竹でメンマを作り、そのメンマを町内会や老人会に持っていくことで酒や米等の農作物を得る。2036年以降だというのに、未だに物々交換が成立するのが田舎のいいところであろう。 ちなみに今作っている道は駅への近道である。別に山を降りるだけなら簡単なのだが、降りた先がどこに繋がっているかと言うのは非常にわかりづらい。なので記四季と彩女はたまに新しい道を作るのだ。 * ホワイトファング・ハウリングソウル *第十一話 *『魅惑のお風呂タイム』 「今日はご苦労さん。風呂沸いてるから先にはいれや」 「御意。意外と汚れてしまいました」 彩女は記四季の言葉に甘え先に風呂にはいることにした。 竹をひたすらに切り払い無事に道が開通したとき、既に日は傾いていた。 「・・・・」 彩女は無言で鎧の留め金を外し、脱いでいく。 全てを外し終わり素体だけになった彼女は、次にハウリン素体の色に染められたスーツを脱いでいく。彼女のふくよかな胸があらわになり、次に白い肌が湯気に惜しげもなく曝される。 彩女は脱いだものをきちんと畳むと、前をタオルで隠しながらヒノキで作られた広い湯船に浸かる。この湯船は記四季手作りの一品だ。 「・・・ふぅ・・・やはり日本人は風呂ですねぇ・・・・」 肩まで浸かり彩女は一人呟く。 この風呂に浸かる瞬間が、彼女は大好きだった。 実際神姫が風呂に浸かる必要は無い。汚れを落としたいなら洗浄液を使えばいいのだ。だが彩女は風呂が好きだった。 「・・・・この感覚・・・この暖かさ・・・堪りません・・・にゃ~」 その顔は普段の真面目そうな顔ではなく、完全にリラックスした顔だ。 今まで誰にも見せたことの無い、彼女が一番油断した顔。 「そうだねぇ・・・でも茹で魚になりそうだから長いのは嫌かな」 「茹で魚ですか。それはなんとも・・・・なんとも?」 彩女は風呂(神姫サイズだが結構広い。人間で言うと風呂桶四つ分ほど)を見渡す。 しかし湯気に阻まれているせいか、先程の声の主は見つからない。 「・・・・・・・・・・・気のせい、なわけないですよね。・・・・ん?」 ふと、湯の中から小さなストローが出ているのを見つけた。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・また古典的な」 彩女はそのストローにふたをしようとして・・・ふと考え直し、神姫サイズの風呂桶(記四季作・ヒノキ削り出し)を手に取る。 そのまま左手でストローの先を塞ぎ 「――――せいッ!!」 右手の桶を全力で振り下ろした。 水しぶきが上がり、波紋が生まれ・・・その後、水面は静かになった。 彩女は湯の中を探りアメティスタの尻尾(ヒレ)を鷲掴みにするとそのままずるずると引きずり、洗い場に放置する。 「・・・・い、いくらなんでも・・・これは酷いんじゃないか・・・な・・・?」 「あらごめんなさい。貞操の危機を感じたもので」 「別に良いじゃん女の子同士でお風呂はいったって・・・・って起き上がれないっ!? い、いつの間に両手を後ろで縛ったのっ!?」 「いやだってアメティスタ。貴女は百合ですし」 「スルーしたね!? ボクに桶で一撃食らわせた挙句拘束したことに対するツッコミをスルーしたね!? しかもボク脚部がイーアネイラ装備だから本当に起き上がれないんだけど!!」 「まさにまな板の鯉。捌くも捌かないも私次第ですね?」 「はっ! まさかこのままこのボクを美味しくいただこうって腹!? っていうか何か彩女のキャラが違う!!」 「違います。このまま敢えて放置します。・・・っていうかどうやって入り込んだんですか。陸地歩けないでしょう貴女」 なぜか風呂場にいたアメティスタにそう言いながら、彩女は前を隠していただけのタオルを体に巻く。 彼女にとって風呂は至福の時間であり、それを邪魔された今はかなり機嫌を損ねていた。 「・・・いや、朝のうちに井戸から記四季さんに引き上げてもらってね。その前は地下水脈通ってきた」 「さりげなく大冒険してませんかそれ。というかよく通れましたね・・・しかも主が井戸使わなかったら意味が無いですし」 「記四季さんが毎朝井戸の水を汲むのは知ってたしね。あとはそのまま引き上げてもらって、お湯が沸くまで湯船に水張って泳いだりしてた」 そもそも断られる可能性もあったのだがアメティスタはそれを考慮していない。予知能力のなせる業だろうか。 「・・・なるほど、貴女の進入経路は解りました。解りましたけどなんですか突然。しかもその話からすると一日中ここにいたみたいですけど」 彩女はアメティスタに問いかける。 そう、別に遊びに来るのはいいのだがアメティスタが朝からここにいいる理由が判らないのだ。 彩女に会いたいならば、アメティスタは彩女を呼ぶだろう。しかし今日は呼ばず、湯船の中で一日を過ごしていた。その理由はなんなのだろう。 「・・・いや、昼寝したら寝過ごしちゃって。さっき起きたのだって水がお湯に変わったからだし」 「・・・あぁ、だから茹で魚と」 「そうそう。それでね・・・今日はお泊りに来ました!」 「帰れ」 「早っ!?」 彩女はアメティスタの言葉に即答する。 記四季の性格から考えて彩女とアメティスタは同室で寝ることになるだろう。寝首をかかれるとも限らないからだ。 ・・・アメティスタは実際寝込みは襲わないがのだが、心理的に宜しくない。 「大体なんですか藪から棒に。主の許可もなしにそんなこと・・・」 「あるよ。記四季さんの許可。っていうか記四季さんの提案だし。『キャンペーンバトルに備え、お互いのチームワークを高めたい。それに明日迎えにいくのは面倒』だってさ」 「・・・・・・・・・主、チームワーク以前の問題です・・・」 肩まで浸かっていたものを、今度は顔まで浸かりながら彩女はいう。 いつもならこの広い風呂を独り占めできるのだ。貞操の危険なしに。少しの間だけとはいえあまり好ましくない。好ましくないのだが・・・ 「・・・主の許可が下りているのでは仕方が無いです。泊まってもいいですよ」 「あんがと。話もまとまったところでそろそろ解いてくれないかな。もう何もしないからさ」 「・・・・予知できるんなら、私の次の行動もわかりますよね」 「判る。判るけどボクはそんな未来認めない。だからボクはボクが見た未来を変える。そのために彩女に頼んでるんだ」 「諦める勇気というものも必要です。・・・という訳で主が風呂場に入るまでそのままでいてください。大丈夫、ムニエルにはなりませんから」 「と、鳥の血に悲しめど魚の血に悲しまず・・・・」 「声ある者は幸い也」 「・・・・・」 「・・・・・」 「声あるんだから解いてよ」 「嫌です。私のお風呂タイムを邪魔したらどうなるか・・・・・・・・・思い知ってください」 [[前>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1663.html]]・・・[[次>http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1691.html]]