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妄想神姫:第五十九章(前半) - (2007/12/23 (日) 22:46:15) のソース
**主の無き華と、新しき風(前半) ---- まただ。私・槇野晶はMMSショップ“ALChemist”の扉を開き入ってきた、 招かざる客共へと相対する。この時節、歳末となると勘違いして迷い込む “二人連れ”が必ず居てな。毎年追い払うのに苦労する物だ……しかも、 今年は何故か、こういう連中を見ていると苛立たしい。“告白”以来だ。 「ええい!ここは喫茶店ではない、見せつけんでさっさと帰らぬかッ!」 「見せつけてるってー☆ケンジあたし達お似合いかもよー?ふふふ……」 「だな、子供にはまだ早いかもな。行こうぜユリ♪じゃあなお嬢ちゃん」 横に積んでおいた塩を撒いて、『一文字多い』カップル共を追い出す。 そして店の方を振り返ると……なるほど、白壁と木目調ドアのシックな 装いに私は一人肯いた。この外観、オープンカフェに見えなくもない。 尤も、こんな地下でオープンもクローズもあった物ではないと思うが。 一段落した所で、店の奥から呼ぶ声が聞こえた。そう、我が“妹”だ。 「……マイスター?どうしましたの~、また勘違いした人達ですの~?」 「む、ロッテ今待ってろ。もうじき戻る……そうだ、また喧しい連中だ」 「マイスターってここまで過剰反応するタイプですか、ロッテちゃん?」 「去年はこんなに酷くなかったと思いますの。多分、アレの所為ですの」 「……迷わせちゃってるのは、心苦しい気もするんだよ。でも……ね?」 ……どうも見透かされているらしいな。そう、自分でも分かっている。 ロッテ達の“告白”を受けてから、自身のそう言った意味での在り方を 色々と考える様になってしまってな……言うべき言葉があるのに、未だ 言えぬという弱さもあり、他人のそう言う姿は見ていて辛い物がある。 だが癇癪を起こしすぎとも言えなくはない。少々落ちつかんとな……。 私はじっと店の中央に佇み、深呼吸がてら改めて店内を見回してみた。 「すぅ……はぁ~……ん、もう少し待ってくれぬか皆。すぐ戻るぞ?」 『はいっ!』 洒落た木製のベンチとテーブル。壁一面を埋め尽くす、落ちついた意匠の 棚には……神姫達の為にと、私が作り続けてきた“Electro Lolita”達。 キャッシャーや私の居座る机も、パン屋か喫茶店か?という木目調の物。 偶に飾ってある絵は、値段こそ大したことはないが優しい雰囲気を放ち、 ガラスケースには硬質装備も入っているが、極力柔和な飾り付けである。 徹頭徹尾雑然さを廃した店内はお洒落且つ可憐で、照明も優しく明るい。 「……あぁ、そうか。私は結局、全てに於いて神姫を尊重していたのか」 「マイスター……マイスター?大丈夫かな、足でもぶつけてない……?」 「む?!あ、いや大丈夫だぞっ。少々深呼吸をな……戻ろうかクララや」 「ん……今は書き入れ時だから、マイスターもボクらも頑張らないとね」 『クルルゥ♪』 己がどういう振る舞いをしてきたか、改めて確認した私は店の奥に戻る。 そう、全ては神姫の為に。これが私の……“あの時”から変わらぬ姿で、 今作っている“これ”も、神姫の為だ。ともあれ作業台には二人がいた。 リンドルムに乗り私を迎えに来たクララと、アルマ・ロッテが合流する。 「マイスター遅いですの!早く春に掛けての“新作”が見たいですの♪」 「そうですよ……何でも今回はとっても凝ってるって聞いたんですよ!」 「春新作の“Electro Lolita”……どんなデザインになってるのかな?」 「有無、凝っているしデザインも拘った……のだが、少々悩んでいてな」 興味津々と言った風情の三人。彼女らは、本当に飽きさせぬ反応をする。 こういう娘らがいる故に、私も奮起するのかもしれんな。そう思いつつ、 箱から取り出したのは、白を基調とした淡色のドレス。それが“四着”。 「ふぇ……あ、あれ?え~と、紅と蒼に……翠と、“紫”ですかこれ?」 「有無。正確には“菫色”とでも言おうか。フリルにも似合うだろうッ」 「うん。他の服も“桜色”と“空色”に、“萌葱色”って風情なんだよ」 「縫製もより一層、腕が上がってて綺麗ですの~♪……でも“四着”?」 「そう。“四着”なのだ。四パターン考えているのだが、お前達は三人」 正確には五パターンなのだが、最後の“白陽”は私が自身で着る服の色。 だがそれを考慮せぬとしても、どうしても一人分が余ってしまうのだな。 “三姉妹”で着回せばいいのかもしれぬし、販売するにあたってはむしろ バリエーションの多い方が好都合なのだが。どうもこう、据わりが悪い。 「一人増やすって選択肢は……ない、かな。マイスターの心情を思うと」 「そうだな。お前達への“答”が出ない内には、何かと混乱しかねない」 「でもそれだったらこの“菫色”はどうするんです、マイスター……?」 「むぅ……誰かに試着だけしてもらい、後は販売開始と行きたいのだが」 「……マイスターはいつも、わたし達に着せてくれてましたの。だから」 「そうなのだ。偏った拘りと分かっていても、是非着て欲しくてな……」 大事な“妹”達の眼鏡に適わぬ品を出すのは、正直些か気が引けるのだ。 それは即ち、私の試作品を着こなして……喜んでもらってから売りたい。 量産タイプの“フィオラ”ですら、そのプロセスは決して崩さなかった。 だが、今ある新作の試作品は四着。このままでは、どうしても足が出る。 「もう二着考案し、それを交代で着てもらうか?……少々考えてみるか」 「あ、それならとりあえず基本の三着だけでも着せてもらえませんの?」 「それがいいかもしれないよ。マイスターに少しは見てもらいたいもん」 「ね、あたし達に着させてくださいよ。仕舞っちゃわないで……ねっ?」 「ふむ……しょうがないな。では“桜”と“空”、“萌”を着てもらう」 『はいッ!!!』 ──────春を呼ぶ色、もう少しだけ欲しいのにね。 ---- [[次に進む>妄想神姫:第五十九章(後半)]]/[[メインメニューへ戻る>妄想神姫]]