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狛犬はうりん劇場 強襲の招き猫 - (2007/12/07 (金) 20:31:54) のソース
強襲の招き猫 暖かくも柔らかな朝の日差しを浴びつつ境内の掃除に勤しみます。 春先とはいえまだ肌寒いこの季節、ですが私はご主人より頂いた巫女服に身を包み今日も元気にお勤めを果します。 皆様もお風邪など召しませぬように。お早うございます、結です。 「お早う結さん。午後に試合があるんだろう?今日は休んでいいよ」 「お早う御座います。確かに試合はありますがお勤めはしますよ」 「はははっ、そうかそうか。まぁ無理のないようにな」 カラカラと笑い声を残して宮司さんは本殿に向かわれました。 そうなのです。今日は午後から境内で試合があるのです。 本来神前で武装を振るうなど神楽でもない限りありえないのですが、挑戦を受け尚且つそれをスポーツとしての試合とした事で許されたのです。 そうそう、以前お仕置きで抜いたのは神社の守護の為なので上記には触れませんよ? それにこの神社で奉っている神様が鍔の神様ですから尚の事。荒々しさを基とする刃と冷静さを基とする柄、その二つの橋渡しをしている鍔。その神様なんですから共存を目指しその為の試合ならば大目に観て頂けるかと。この試合を通し私と彼女に何らかの「共通」が生まれますようにと拍手を打っておきましたし大丈夫でしょう。 と、大事な試合がありますが私はここの巫女さん、時間の許す限りはお勤めに励むも当然の事なのです。 一通りの朝を終え境内に出るとベンチにご主人が。どうやら読書中のようですがそのお姿はなんとも… 「相変わらず動物に好かれてらっしゃいますね」 猫まみれでした。膝の上はもとより両サイドに足元までご近所の野良猫達がわんさかと寝そべっています。 「毎度の事。それより体調はどう?」 「問題なく。ご主人はもう一枚羽織っておいた方が宜しいかと」 「んー、そうするかな」 膝の猫を下ろし母屋に向かわれます。 「そうそう」 何か思い出されたように振り返り、 「勝とうな」 勝利の奉納をご所望されました。 「はい。力の限りを尽くします!」 神前試合を勝利で飾るべく意気を確認しあう主従なのでした。 昼過ぎ、燦燦と輝く太陽の下彼女達が来られました。 マスターさんとその肩で仁王立ちしているチロルさん、更にお友達と思われる方々が数人。石段を登って今日という日を楽しみにしていらっしゃったご様子。 私はご主人とベンチにてお迎えします。 「こんにちは皆様」 「こんにちは結にゃん」 ・・・・「にゃん」ですか。犬なのですけどね私・・・ 「こんにちは。すいませんね、無理を聞いて貰った上にこんな人数で来てしまって」 「いや気にしないしない」 パタパタ手を振り「こっちも久々にバトル見たかったし」とご主人。新装備の試運用も兼ねているのでしょう。 チロルさんはマオチャオの基本装備を一式とヴァッフェバニー型のリアユニット。ただ右手に研爪を左手には防壁を装備しリアユニットに研爪をもう一つ。 私は手に竹箒、腰の後ろに玉串、背中にお御籤箱を。 「今日は勝つからね!」 「私もですよ」 拝殿前の石畳で向かい合い合図を待ちます。 「準備はいいかな?」 「はい」「うん」 中央でご主人が下げている手。 「始め!」 振り上げられました。 練習で上達したのであろう彼女は以前のような攻めではなくなっていました。 確実にこちらの隙を捉えるべくジャブ的な軽打撃で牽制し必殺の研爪を狙ってきます。 (これはこれは) 成る程、両手の装備が違うのが判ります。防壁でこちらの攻撃を受け研爪で致命傷、二刀流の基本にして真髄の構えですね。確かにこれは攻め難い。ですが同時に読み易いというもの。 「はっ!」 箒の柄を向け刺突から横薙ぎへ。 「効かないもん!!」 防壁で受けて弾かれます。左手を箒の軸上でスライドさせ柄尻へと手を移動し弾かれた反動をりようして彼女の左側へ、そのまま大降りの一撃を背中に打ち込みます。 ドカッ!とした手応え、房近くが直撃したもののこの程度では気絶には至らなかったようです。 (争上衣が厄介ですね) あの防御を貫くには柄打ちや鞘打ちでは無理のようです。既に仕込みである事は知られているので抜いても構わないのですが今の攻防で攻めに出るのは少々軽率でしょう。 (さて、どうしましょうかね) 「今度はこっちから!」 彼女が以前に増した速度で向かってきます。振り被った防壁が来ると箒を立てて流す体制を・・ 「!」 しかし来たのは防壁と左の膝蹴り。防壁の一撃を箒で受け蹴りをギリギリで捌き・・ 「なっ!?」 避けきったと顔を上げれば目の前に白い房。彼女の尻尾です。今の状態では防御も回避も間に合いません。 「くっ・・」 しまったと思った時には視界を奪われていました。目を直撃された私は距離をおいて。 「これで決まりなんだから!!!」 彼女の声とその気迫、これは! ガシュ! 「くぅぅっ!!」 勘で上体を反らしなんとか致命傷は避けられたようですが胸元を切られました。ぼんやりと回復した視界には裂かれた巫女服と傷付いた己身が写ります。 (よもやここまで上達しているとは) 完全な読み違いに気付けば傷を負っている、情けない限りです。 (ここは戦法を変えるべき・・・) 手にしていた竹箒をその場に置くと腰から玉串を抜きます。 「何それ?そんなんじゃ私は倒せないよ?」 「そうでしょうか?チロルさん相手には効果的な装備なんですよ?」 「なんでもいいや。トドメだよ!!」 迫る彼女、その左手が伸ばされるとその親指辺りを玉串で打ち掌を地面に向けます。そのまま左手で手首を掴み下回りに回転させ足を払えば面白いように彼女が中を舞います。 「にゃっにゃっ!??」 篭手返し。合気道の技を応用した技術で彼女を投げ飛ばしその腹部に玉串を打ち下ろします。 「んー!!」 ギリギリで防壁を戻し衝撃を緩和した彼女、距離を取り玉串の先を向ける私。 腹筋の力で起き上がったチロルさんの攻撃は研爪。牽制なしの真一撃です。起き上がった時の反動そのままの突撃は速度、重量共に申し分ないでしょう。まともに当たれば間違いなく負けです。 (ギリギリまで・・) その爪が当たるギリギリで前進、右肩を玉串で打ち下ろしその体との間に滑り込みます。後ろに伸びた足を戻して彼女の右足を払い左手で腰を押せば背中から転倒、最後に玉串の柄尻でも打撃を。 払い腰からの打撃は流石に効いたようです。フラフラとしながらでも立ち上がる彼女、その意気はまだ健在です。 「ま、負けたくない・・・だから負けない!!」 防壁を投げ付け背中の研爪を装備、両手を大きく振るうとその風だけで攻撃されそうな気迫を感じました。 (大技で来るようですね) 私は背中に気を張りつつその渦中に飛び込みます。 「必殺!」 斜め上にジャンプそのままリアを噴かして急降下してきます。 「チロルクロス!!」 胸の前で交差した両の爪、それが振り払われるその一瞬! 「そこ!!」 その中心を逆風に打ち据え左手で背中のお御籤箱、そのグリップを掴みます。 ゴッ! そんな重たい音と共に打ち出される大吉の棒(スラグ弾)が彼女の両手に直撃します。 ・・・大吉!? これは拙い! ドカァァァン!! 何とか爆風の真下で身を縮めお御籤箱を盾にして難を逃れました。 が、これはいくらなんでもやり過ぎなのでは?ご主人。 見れば爆心地から3m程先でチロルさんが煤だらけで気絶していました。 「・・・・ぅぁ・・・・」 あんなのの直撃に耐えた争上衣は所々コゲコゲに。壊れなかっただけでも凄いですがやはりこれはダメでしょう。 気絶した彼女はまた縁側にてお休みして頂き、マスターさん達はご主人との会話に花をさかせておられます。 私は彼女の隣でお茶を飲んで一息を。 「でも凄いですね。あのランチャー」 「試作品なんだけどね。爆発力をもう少し抑えるべきだったな。ごめん」 「いえ、試合でしたし。それに本気でなければチロルも納得しなかったでしょうから」 それでもあれはやり過ぎでしたね。 未だ目を回している彼女に「ごめんなさい」と一言を。 まだまだ続きそうなご主人達の会話を横にお茶を飲む今日この頃、 「和みますね」 隣で眠る彼女以外和気藹々とした午後でした。 そうそう、チロルさんは煤だらけですけど大丈夫ですよ。 後日、お御籤箱は改良され、爆発力も半分程になったのは言うまでもありません。 現在装備 巫女服 ×1 仕込み竹箒 ×1 玉串ロッド ×1 御籤箱ランチャー(改) ×1