「幻・其の八」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
幻・其の八 - (2007/09/15 (土) 20:20:41) のソース
唐突に「来た」攻撃。 「……行くヨッ!!」 ランが手にした銃を放つ。先陣を切っていた一体の鳥型神姫が、弾丸から放たれた電撃に、その機能を停止させ、落下。 「マスター!」 「まだだ! あっちはあっちに任せろ!」 襲撃に気付き声を上げたリュミエを、修也が制する。 「こっちも……、来る!」 修也の腕が、空手でいう正拳を繰り出す。それをカタパルト代わりに、リュミエが飛び出した。 弾丸装備は、直線的な機動しか出来ないように見えて、その実そうではない。サブスラスターとして機能するランディングギア、 主推力ではあるが動きの自由度が高い主翼スラスターを偏向させることで、少なくとも通常の天使型と同程度の機動力は確保している。 すれ違いざま、左手のハンドガンで鳥型の頭部を撃ち抜く。 「……っ」 リアルバトル用の制限プログラムは、今回は外してきた。もちろん、敵も外しているだろう。 つまり、純粋な壊しあい。いや、殺し合い。 「わかってるけどっ……」 右腕のチーグルが、別の鳥型の胴体を貫いた。ただぶつけただけ。しかし「弾丸神姫」という二つ名を持つ彼女のスピードは、ただぶつけただけで一体の神姫を軽々真っ二つにする。 「だけど……!」 また一体、神姫が堕ちる。 「トシロー! キリがない!!」 ショックダガーで砲台型を昏倒させ、ランが叫ぶ。 「ああ、予想してたよりも、戦力が多い……。しかも、正面突破を狙ってくるとは、な」 敏郎が、アタッシュケースで飛び回る神姫を叩き落す。落とした神姫を、ランが仕留める。 (にしても妙だ。これだけの戦力があるなら、正面突破などしなくても、やりようは幾らでもあるはず) 敏郎は、過去の経験から、この状況のおかしさに気付く。 (……まさか) その可能性に考えが至った瞬間。 「それ」が、飛び出した。 かすみと虎太郎がいる地点の地面を砕いて。 「……!?」 背中に二つのドリルとブースターを背負った神姫が、突如として飛び出した。 「なっ!?」 その手が握るライフル――恐らく、当てどころによっては人間さえも殺せるであろう武器。 そのレーザーサイトから発せられた光点。 それは違わず、かすみの額に当たって。 その引き鉄が、引かれる瞬間、 「――やらせねえぇっ!!」 激昂とともに、アリスの握ったヴズルイフから放たれた弾丸が、引き鉄が引かれるより「速く」、敵の神姫の胸部を貫いた。 「コタローはやらせない!!」 後ろでも似たような状況になっていたのだろう、虎太郎の神姫ミアの叫びが聞こえる。 「かすみっ! 大丈夫!?」 「コタロー、ケガ無い!?」 それぞれの神姫がそれぞれの主に、心配気な声をかける。 「え、ええ」 「大丈夫、みたいだ」 かすみと虎太郎が、それぞれ返す。 (それより……) 虎太郎は、かすみのそばにいるアリスを見た。 (アレはいったい……?) アリスの体が、放電現象を起こしていることを。 「何だ……?」 「トシロー! ヤツら逃げてくヨ!」 さっきまで、イヤというほど群がっていた神姫が退いてゆく。 (さっきの本命への襲撃が失敗した段階で、あきらめたのか?) そう考えるのが妥当だろう。幸い、何体かの神姫は電撃で麻痺させ、そのまま確保することが出来た。 敏郎が、ほんのわずか気を抜いた瞬間、 ドサッ、と、 「……!?」 一つの物体が落下してきた。 敏郎はその正体に気付き、戦慄し、一瞬遅れて叫んだ。 「まずい!! 急いでここから離れろ! 奴ら、この公園ごと吹っ飛ばすつもりだ!!」 落下した物体、小型クラスター爆弾。 サイズは手榴弾より少し大きい程度だが、高性能の火薬によって、この公園の一区画くらいは軽く吹き飛ばせる、立派な軍用兵器。 敵は証拠隠滅を狙って、全てを爆破する作戦に出た。 時限信管が作動、爆発する寸前に、 「アビス展開! 間に合えぇーっ!!」 ミアの両手から、青白い光が発せられた。 その光が爆弾を包み込み、この一帯を吹き飛ばすはずだった爆風は、青白い光とともに、上空へと抜けた。 「……ま、間に合ったぁ~」 ミアが、ぺたりと座り込む。 窃盗団との戦闘は、こうして終わった。 「聞きたい事は、いろいろとあるんですが」 実験を切り上げ、一行は研究所へと戻っていた。 「……どうやらそちらも、のようですね」 その一室にいるのは、敏郎とラン、虎太郎とミア、そしてかすみとアリス。 机を挟み、さながら取り調べのような形で、敏郎はかすみに質問していた。 「……ええ」 「危険な事態の直後で申し訳ないとは思います。しかし」 「……やめろこのバカ刑事!!」 その敏郎の言葉をさえぎり、アリスが声を張り上げた。 「かすみは悪くねえんだっ! 行き場のなかったあたしを引き取ってくれただけなんだ!! あたしはどうなってもいいから、これ以上かすみを責めるなよぉ……!!」 最後はほとんど、泣いているのに等しかった。 そのアリスの頭を人差し指で撫でながら、かすみが言う。 「……たしかにアリスは、おそらくは違法改造神姫です。経緯はどうあれ、それを私が所有していることに、代わりはありません」 「かすみっ!!」 アリスが弾かれたように、かすみに顔を向ける。しかしかすみは、敏郎を真っ向から見つめ返して、 「……でも、あなたはそれを咎めようとはしないでしょう?」 敏郎にそう言った。 「なぜ、そう思うのですか?」 「あなたは違法改造神姫そのものが問題だと思っているわけではなく、その使われ方が問題だと思っている。でなければ、あなたの神姫があんな素体を持つはずがないと思うんです」 今は通常の素体に戻ったランを見て、かすみは言う。 「……アレも違法改造、だと?」 敏郎がかすみを見る。恐ろしいほど冷たい目で。 「少なくとも、私にはそう見えます」 かすみも敏郎を見る。負けないほど冷たい目で。 そうして睨み合うこと数秒、 「……プっ」 「……く、くくっ」 どちらからともなく吹き出し、小さく笑いあった。 「……いいんじゃないですか? 今回はどっちもどっち、ということで」 「いいんですか? 警察官がそんないいかげんで」 言い合う二人の目は、穏やかなものに戻っていた。 「……あの素体、どこで入手したものなんですか?」 はぐらかされるのを覚悟で、かすみは聞いた。 「あれ、俺が作ったんです」 しかし予想に反して、答えが返ってきた。それも意外なところから。 「高槻さんが? そういえば、ミアちゃんのあの青白い光って」 「ああ、アレは……」 技術屋二人、技術談義に入ったのを見て、 「アリスちゃん、っていったね」 「……ああ」 いまだ警戒を解かないアリスに、敏郎は声をかける。 「さっきのは、君自身の気持ちを確かめるためでもあったんだ」 「あたし、自身の……?」 「君には力がある。そしてさっき、大切な人を守ろうとする気持ちがあるのもわかった。君は決して、間違わないだろうってこともね」 敏郎は続ける。 「実は昨日も、君みたいに主を守ろうとする神姫と出会ってね。彼女に言ったんだ。大切なのは『心の在処』だってね」 「トシロー、それボクの受け売りじゃないカ!」 「ぐっ、い、いいじゃないかたまには俺が格好良く決めても!」 言い合う敏郎とランを見て、アリスは思う。 自分の力は、忌むべきモノかもしれない。でも、その力で大切な人を守ることが出来るのなら。 「……捨てたもんじゃ、ないかもな」 解説・アリスの能力 体内で電気を発生、周囲の金属に帯電させる。 これを応用し、ヴズルイフの銃身と銃弾に帯電、帯磁させ、電磁力で銃弾を加速させることができる。 [[幻の物語]]へ