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それでも僕は死にたくないⅡ ◆jVERyrq1dU





「剣埼、クラッシャー……あの女と筋肉質な男……二人とも殺してきなさい」

ぼぅっとした表情で、リンは天地が引っ繰り返るような事を言った。
クラッシャーはともかくとして、剣埼はリンの言った言葉をうまく飲み込めず、目を瞬かせている。

カイトと銀髪の女と筋肉質の男の間に何があったのかは分からない。叫び声は聞こえてきたが、普通の話声は音量が足らず、聞きとれなかった。
けれどもカイトが困惑し、涙を流し、頬を叩かれたのだ。
愛しのカイト様があそこまで不当な扱いをされて、黙っていられるほどリンは我慢強くなかった。
カイト様に対して盾突いた女と男を始末しなければならない。一刻も早く。
そしてカイト様を私達のチームに迎え、奴隷二匹を使って殺し合いを脱出するのだ。

「許さない……!絶対に許さない……!あんな低俗な二匹の家畜が私のカイト様にあのような仕打ちをするなんて……!」
あの二人も初音ミクとかいう売女と同じような存在だ。一刻も早く殺してカイト様を私の元へ連れて来なければならない。


リンの心の中に居るカイトは誰よりも有能で素敵な、絶対の存在だ。
故に、目の前で繰り広げられた一連のトラブルは、カイトが原因である事に気付かない。
考える事すら出来ない。全ての害悪はカイトとリン、そして召使であるレン以外の下等な連中が引き起こすものなのだ。

────カイト様は正しい。悪いのは連中だ。

もはや信仰にも似たその思いは、リンに剣埼が自分とクラッシャーを警戒している事を忘れさせた。
その結果、リンはクラッシャーだけではなく、殺し合いに乗っていない剣埼にまで、殺害を命じてしまった。
リンはお姫様として育って来たのだから、例え剣埼であろうと本気で命令したら言う事を聞く。そんな風に考えているのかもしれないが……

「さあ!早く殺してきなさい!クラッシャー、剣埼!」
「チョチョチョット……どういうことディスか!?」

剣埼は慌てて聞き直す。リンとクラッシャーは出会った当初から怪しいと思っていた。
だが、まさかこうも突然にこんな事を言い出すとは思ってもみなかった。
二人が悪事をするとしたら、剣埼の目を盗み、あくまでこっそりするはず、そう思い込んでいた。

「どうもこうもないわ。早く、殺してきなさい!」
「ド、ドンドコドーン、本気で言ってるんディスか!?」
「何を言ってるのか分からないけどさっさと殺してきなさい!」
「そんな……」
やはり二人は危険人物だった。こうもあっさりと本性を見せるとは予想外だ。
「俺が行くぜ。連中をぶっ殺して優勝へ一歩前進だぜ( ゚∀゚)アハハハ八八八ノ ヽノ ヽノ ヽ/ \/ \/ \」
「やっぱり、やっぱりモマエニャ殺しニァいにニョッテイチャノカー!!」
二人を倒すべき悪だと確信し、剣埼は声を荒くする。そのため、いつも以上に滑舌が悪くなってしまった。

クラッシャーが刀を握りしめ、壁の影から飛び出そうとするのを、剣埼は彼の後方から肩を捕まえ、必死に止める。
パワー、スピード……剣埼はその全てがクラッシャーよりも勝っている。だが大人しく諦めるクラッシャーではなかった。
眼をぎらりと光らせ、振り向きざまに刀を払う。

「きゃあ……!」
刀を避けるために、剣埼が後方に飛び退く。その際にリンにぶつかってしまい、リンは短い叫び声をあげた。
「何ジェだ!ドゥスィテコニョチワイにドるんニャ!!」
「もう何回言ったか分からねえけど、優勝しなくちゃ死ぬんだから乗って当たり前だろうがドンドコドーン!!!!!」
何故かオンドゥル語で切り返しながら、剣埼に切りかかるクラッシャー。こんな一瞬では変身すら出来ない。
生身で戦うしかない。だが、ここで諦める訳にはいかない。

剣埼はクラッシャーに向かって自ら接近する。
逃げるか、その場にとどまり避けるか、剣埼はそのどちらかの行動をとるしかないと考えていたクラッシャーにとって、剣埼の動きは想定外のものだった。
クラッシャーが振るう刀は、剣埼がさっきまでいた場所を切り裂こうとしている。今更刀の軌道を変えることなど、剣士でも何でもないクラッシャーには出来ない。
だからクラッシャーは悪態を吐きながらそのまま刀を思いっきり振るった。

予想外のスピードで接近して来た剣埼に、刀は上手く当たらない。刃の根もとの部分が剣埼の肩を切り裂く。
鮮血が舞ったが、根元で切った故にその傷は浅い。剣埼の行動に何の支障も与えないほどに、効果のない一撃だった。
剣埼の動きは止まらず、クラッシャーの懐に潜り込み、そしてタックルを仕掛ける。

狙いは、刀を握りしめたクラッシャーの腕。渾身の一撃を放った直後であるため、
クラッシャーは剣埼の攻撃を避ける事はおろか、反応すら出来なかった。
必死にクラッシャーに体当たりする剣埼。自分よりも大きな体を持つ剣埼の体当たりをまともに食らったクラッシャーは、大きくバランスを崩し、

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
彼の手から刀が離れた。刀は宙を舞い、地面に落ちる。
金属質な音をたて、地面に落ちる刀。おそらくこれで電車から降りた三人も何事か異常が起きていると判断してくれるだろう。

「テメエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」
クラッシャーは怯みもせず、剣埼に掴みかかる。彼の頬を思い切り殴った。
だが剣埼は怯まない。この程度の荒れ事、今までに何度も経験している。
またも殴りかかるクラッシャーに、剣埼は逆に拳を叩き返した。クラッシャーの顔面を思い切り殴る。
殴って殴って、蹴って蹴って蹴りまくる。刀さえなければ恐ろしい相手ではない。ライダーに変身しなくても簡単に勝てる相手だ。
だがクラッシャーは倒れない。何が彼の体をここまで支えているのか……

「ロウリイラレンアリラレルンビャア!!」
もういい加減諦めるんだ、と叫ぶ。興奮によってますます日本語が危うくなってきた。
「ああん! てめえだけには絶対負けねえぞ……俺は」
つい先ほど、クラッシャーはリンの前で剣埼に敗北を喫した。同じ相手に二度も負けてたまるか。
これ以上リンに嘗められてたまるか。俺はドイツのキーボードクラッシャー様だ。
こんな滑舌が悪い野郎にも、そしてお姫様ぶってるリンにも、嘗められたままで終わらせない。
ネット上でカオスの名を欲しいままにしてきたように、この殺し合いでだって、俺は圧倒的パワーで優勝してみせる。

────リンと協力して!!!!

「ぶっ殺してやるぜ……!」
笑みを浮かべてファイティングポーズをとるクラッシャー。
「いい覚悟だ。敵ながら……」
剣埼はクラッシャーと対峙し、睨みあう。

剣埼はこの時、クラッシャーとの闘っている間のほんの一瞬ではあるが、ある事を失念していた。
敵はクラッシャーだけではない。もう一人いるのだ。

「しまったあッ!」
剣埼は叫んだ。リンが足元に落ちている刀を拾い、それを自分の背中に器用に隠して、今まで隠れていた壁の影から飛び出したのだ。
リンは電車から降りた三人の元に向かっている。間違いない。殺す気だ。
裏切った剣埼と、その剣埼にボコボコやられているクラッシャーに愛想を尽かして、自ら殺しに行こうとしている。

リンは走っている。クラッシャーを倒し、そしてリンを追いかけてあの三人が襲われる前に彼女を倒さなければならない。
変身していない生身の状態で、この一瞬の間に、そんな事が出来るのか?

「まだまだ勝負は終わっちゃいねぇ!!!!!」
クラッシャーがまたも殴りかかってきた。

どうする。どうする……どうするんだよ俺!!!!




リンはカイト達から見えないように刀を上手く隠しつつ、カイト達の元へと急ぐ。
剣埼には、そしてクラッシャーには呆れを通り越して絶望してしまった。
剣埼は姫であるこの私の命令を断り、クラッシャーはそんな剣埼にさえ勝つ事が出来ない。
なんという下らない存在だろうか。


カイト様の顔がどんどん鮮明になっていく。それに合わせて、私の胸の鼓動は加速していく。
カイト様は相変わらず、悲しそうにしていた。許せない。あの女と男を殺して、家畜の餌にしてやらなければ気が済まない。
クラッシャーは頼りにならない。だったら私が殺ってやる。考えてみれば、私自身の手で殺した方がすっきりするかもしれない。
低俗な者の血を浴びるかも知れないと考えると嫌だが、それでカイト様が喜んでくれると思えば……血を浴びる事すら苦ではない。

特にあの女は念入りに殺して見せよう。あの女がカイト様に盾突いたから、カイト様はあそこまで悲しんでいるのだ。
元凶であるあの女は、絶対に絶対に絶対に絶対に許さない。

カイト様が近づいてくる私の存在に気づき、目を見開いた。何故か知らないが、銀髪の女まで驚いている。
私が駅のプラットホームに入ると同時に電車は出発した。カイト様……やっと会えましたわ……
最愛の人に再会して感極まったのだろうか。私は目に涙が滲む。だけど……泣いている場合ではない。

ああ────見ていて下さいカイト様。今、貴方の傍で蠢く害虫を、この私自身の手で始末して見せますわ。

▼ ▼ ▼

「リン……リンなのか?」
俺はお化けでも見るような目つきで突然現れた妹を凝視した。
ハクも俺と同じく、アレクに抱かれながら驚いた表情でリンを見ている。

さっきから駅の中が騒がしい。どこかで聞いた事がある叫び声が何度も聞こえてきたり、何かの金属がコンクリートに当たるような音も聞こえてきた。
そんな物音に俺はいつものようにすっかり怯え、アレクになんとかしてくれ、と喚いていた。
その時だ。その時、突然リンが駅の改札口からこちらへやって来たのだ。

「リンちゃん……」
ついさっきまで涙を流し、悲しそうにしていたハクはリンの姿を見るなりぱっと表情が明るくなる。
そんなハクを見て、アレクは彼女から離れた。俺はリンに再会出来て素直に嬉しかった。
もう二度と会えないかと思っていた。リンは俺にとって妹のような存在……家族なのだから。

ハクの表情が明るくなったのは何故だろう。リンとハクは知り合いではあるが、別に仲が良かったわけではないはずだ。
売れっ子のリンと日陰者のハクにどのような接点があるのだろうか。何もない……はずだ。
リンはいつも双子のレンと一緒に元気に遊びまわっている。ハクとは年齢が離れ過ぎているから、きっと友達にもなれない……はずだ。
それなのに、ハクはどうしてあれだけ喜んでいるんだ?

俺は考え、すぐに気付いた。

……知り合いだからか。知りあいの無事を確認できて、知りあいに再会できて、ハクは素直に感激しているのだ。
こんな時にまでどうにかしてハクを貶めようとしている自分の思考回路に、俺はほとほと嫌気がさした。

「リンちゃん……無事だったんですね」
リンににこりと微笑みかけるハク。
「リ、リン……生きて再会できて、本当に良かったよ」
ハクに負けじと、俺も兄貴らしいところを見せる。

「カイト様……」
「……え?」
リンが妙に色っぽい表情で俺に向かって「カイト様」と言った。聞き間違いではない。確かにあいつはカイト”様”と言った。
「この殺し合いの場でも、いつか再会できると信じておりました……」
何かが、何かがおかしい。何かが確実に狂っている。リンの奴、俺の事をからかっているのか?
それにしてもあいつ……いつからあんな色っぽく……着ている服も妙に扇情的だし……って俺は妹に対して何を考えているんだよ。

「か、からかっているのか?」
「……いいえ。どうしてですか? どうしてそんな事を言うの?」
真顔でリンは言った。違う、あれは演技じゃない。俺をからかっているようには見えない。
ならばどうして、どうしてリンは俺に対してあんな恭しい態度を取るんだよ。
(何かおかしいのか?)
アレクが俺の耳元でそう囁いた。俺は口をパクパクするだけで、何も答える事が出来なかった。


「リンちゃん……私も会えて嬉しいです」
「待てハク!」
リンのところへ駆け寄ろうとしたハクを俺はとっさのところで捕まえる。

何かがおかしい。あれは間違いなくリンだ。リン以外の何者でもあるはずがない。
確信を持って言える。あそこにいる女の子は、俺の妹、鏡音リン。
だが────リンはあんな事言わない。ふざけているのならともかく、素で俺に対してあんな口調を使うなんて、絶対にリンではない。
だけど……だけどあれがリンである事は間違いない。だけど……わけわかんねえ……!

「どうしたんですか?」
訝しげに、そして不満そうにハクは言った。ハクにしてみれば自分をとことん卑下した相手に、知り合いとの再会まで邪魔されているのだ。
きっと俺の事がウザくてウザくて仕方がないのだろう。だが、なんとなく直感的に、このままリンに近寄らせてはいけない気がした。
「わ、分からない……分からないけど。あれはリンだよな?」
ハクは俺の質問には答えず、疲れた顔をして微笑みかけた。その顔を見たとたん、俺の胸に何やら気分の悪いものが湧いて出てきた。

やめろ。その顔はやめろ。頭が悪くて、妹すらも警戒するような情けない俺を卑下する表情。
その表情だけは本当に虫唾が走るからやめてくれ。俺はヘタレじゃない。例えヘタレだとしてもお前よりは遥かにマシなんだから……!

「……当り前じゃないですか。口調が少し違うのはカイトさんをからかっていからですよ。
 カイトさんは……えっと、慎重すぎるんです」
「今、言葉選んだな」
「え?」
「慎重すぎるって言う前だ。お前、えっとって言った。お前は臆病者って言おうとして、考えなおして慎重すぎるって言葉に変えたんだ!
 きっとそうだ!」
「い、言いがかりです……!」
こんな場面であるにも拘らず、またもハクと口喧嘩してしまう俺。
だが口を衝いて出てきたハクへの非難の言葉は一度飛び出してしまえば収まりがつかない。

「リンちゃんがそこにいるんですよ!?妹の前で喧嘩なんて……やめて下さい」
「分かってるよ。分かってるけどお前がああ言うから────」
突然、誰かに背中を叩かれた。後ろを振り返ると、アレクだった。
複雑な表情をしている。アレクの言いたい事は分かる。だけど……そもそもあいつは本当にリンなのかよ……

「カイト様……私が思った通り、この二人に苦労させられているようですね」
リンが少しずつこちらに近づいてくる。ハクはその言葉を聞いて、さすがに違和感を感じたのだろう。
目を瞬かせてリンを観察している。
「リンちゃん、それってどういう意味ですか……」
「カイト様、私と共に行動しましょう。愚鈍な従者たちは捨てなさって……私は貴方の言うとおりに、完璧に従いますわ。
 利発で勇敢な貴方の事……きっと、この下らない殺し合いとやらを打破する方法も、考えていらっしゃるのでしょう?」
リンはハクにもアレクにも全く視線を移そうとはしない。俺だけを、嫌に官能的な表情を浮かべて見ている。
声も蜜のように甘ったるい。俺の耳に心地よく溶けていく。

「リン……冗談ならやめろ」
俺は半ば震えながら言った。冗談でない事くらいリンの態度を見ていれば分かる。だが言わざるを得なかった。
頼むから演技であって欲しい。俺をからかっているだけならどれだけ嬉しいだろう。
間違いない。リンの身に何かが起きたのだ。何者かがリンに何かをして……そして別人のようになってしまった。
あるいは別の何かが起きて……。ともかく、このリンはいつものリンではない。

────この殺し合いは、俺の大切なリンを奪っていきやがったんだ。

「冗談なんて……私は本気ですわ。何やら様子がおかしいようですが、そこにいる2人に何かされたのですか?
 もし、そうなら私……」
「リンちゃん……」
ハクが再び、近づいてくるリンに歩み寄る。それに追従してアレクも。
得体の知れない不安が錯綜し、混乱している俺は、もはやハクを止める事が出来なかった。
あれはリンであってリンではない。あのリンとハクが接触した時、いったい何が起こるのだろう。先を考えるのが怖い……
もしかしたら流血。こんなあり得ない考えまでごく自然に俺の脳内に浮かんでくる始末。
もはや頼りになるのはアレクしかいない。ヒーローであるあいつしか、頼れる奴はいない。

ハクが微笑みながら、リンの小さな体を抱きしめようとしたその時だ。何かが叫びながら、プラットホームに飛び込んできた。



「フォノフォハロロシリウァイウィロッレルウォー!!リヲルンルンラー!!」
※訳(その子は殺し合いに乗ってるぞー!!気を付けるんだー!!)
「チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!逃げちゃイヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

カイトは勿論の事、ハクもアレクも、突然乱入して来た二人に驚愕する。
乱入して来た剣埼は見た。近づいてくるハクに切りつけようと、刀を自分の体の陰に隠し持っているリンを。
ハクとリンの距離はもう2メートルもない。いつ切りつけてもおかしくはない。

「ヘシン!!」

全力疾走で走りながら、ブレイバックルにカードをセットし、仮面ライダー剣に変身する。
一気に運動能力が増すのを全身で感じながら、後方から追いかけてくるクラッシャーを突き離し、リンに向かって加速する。
早くリンを止めなければ、あの銀髪の女の子が殺されてしまう……!



カイトは恐怖で頭がどうにかしてしまいそうだった。突然現れた男二人。
先頭に立ってリンに襲いかかろうとしている男については、見た事がないし、何を言っているのか見当もつかない。
だが、後方からリンに「逃げるな」と叫んでいる男の事はよく知っている。
殺し合いが始まった直後、俺と隊員を襲った少年だ。また出会ってしまった。今度はリンを殺そうとしている……

例え俺の知らないリンでも、俺の妹であることには変わりない。だからあいつらに殺されてしまうのだけは嫌だった。
リンは俺にとって大切な存在だ。あの外国人のガキに俺の大切な人を殺されるなんて……そんなの認めたくない……!

そう心に決めたが、やはり俺の足は恐怖によって固まり、一向に動かなかった。
だから、すぐ近くに居るアレクに縋り寄り、必死になって叫んだ。



ハクは事態が呑み込めずにいた。リンと自分達の再会に突然乱入して来た男二人。
彼らの顔つきから判断して、どうにも穏やかではなさそうである。彼らはリンに向かって疾走して来ている。
このままではリンが危ない。直感でそれだけは分かった。あの二人の目的はリンだ。
リンに危害を加えようとしているのに違いない。

私は怖かった。怖くて怖くて仕方がなかった。だけど自分よりも年下で、まだ幼いリンちゃんを見捨てられはしない。
怖くて怖くて逃げだしたい。どうして日陰者の私がリンちゃんのような売れっ子を助けてやらなければならないのだろう。
いつもいつもこの少女に私は嫉妬してきた。そんな私がどうしてこの子を助けなければならないの?
そんな弱音が沢山頭の中に浮かんでくる。けれども、土壇場で最も強く私の脳裏に浮かびあがってきた言葉は、マスターが言ってくれた言葉だった。
アレクさんは私の事を信頼しているのだから……その気持ちを裏切るわけにはいかない……

私はもう、弱音なんて吐きたくない。アレクさんのもとで立派な歌手に……弱音なんて吐かない強い人間に……なりたい。

「リンちゃん!来て!」
私はリンちゃんの小さな手を握りしめて引っ張り、迫って来る男達から逃げる。

アレクさんに認められたい。もっと信頼されたい。今になって思えば、その気持ちがカイトさんを苦しめていたのだろう。
私がアレクさんに認められるため、気丈に振る舞うのを、カイトさんは自分への当て付けだと邪推した。
カイトさん……気持ちは痛いほどよく分かります……ですけど……


「フォステンクンカスンカ!!」
※訳(どうして逃がすんだ!!)
「アレク!!リンを、リンをあいつらから守ってやってくれぇ!!」
カイトが叫ぶのを聞いて、アレックスは事態を見極める。先頭に立ってリンを追うカブトムシっぽい男は見た事も聞いた事もないが、
後方からリンを追う外国人の少年の風体は、カイトから聞いた危険人物に酷似している。
カイトの怯え具合から見て、あの少年はほぼ間違いなくカイトとはっぱの男を襲った少年だろう。
となると、あのカブトムシの男は少年の仲間と考えられる。リンに向けている殺意は間違いなく本物だ。
危険人物どおしが手を組むとは……

「アレク……リンだけは守ってやってくれよ……
 大事な大事な妹なんだ……こんな馬鹿げた殺し合いで死んでいい奴じゃない」
「分かってる。分かってるさカイト……!」
鏡音リンについてはカイトとハクから何度も聞いた。彼らにとって大切な存在。
特にカイトにとっては家族同然の存在だ。この殺し合いで漸く再会できた家族。守ってやらなければならない。
リンを……そしてもう一人……リンを連れて逃げた勇気あるハク。アレックスは決意する。

────マスターとして、リンとハク、両方を完璧に守りきる……!!

アレックスはカイトの元から離れ、リンとハクを追いかけるカブトムシの男に向かって疾走する。

疾走する二人の男の前に立ちふさがるアレックス。少年はともかくとして、カブトムシ風の男は相当なスピードで走っている。
その運動能力は人間以上、バルバトスのような恐ろしい実力の持ち主かもしれない。
アレックスは気合を入れ、二人の男を一喝する。

「止まらなければ、お前らを倒す!!」
「ロイテレフルェ!!フォウェハリカラナンラ!!アラクフィエンロアロロラ!」
※訳(退いてくれ!!俺は味方なんだ!!早くしないとあの子が!)

カブトムシの男が接近してくる。速い。想像以上に早い。
アレックスは男を凝視してスピードを見極めようと努める。拳を握りしめ、タイミングを合わせ、そして────

「チェリャア!!!」

渾身の力を込めて走って来る男に向けて放った。その拳が男の顔面に当たるかと思った瞬間、男の身体がアレックスの視界から消える。
男はパンチが当たる直前、アレックスの身長よりもぎりぎり高くジャンプし、そしてそのまま高速で飛び越えたのだ。
仮面ライダーの運動神経を最大限に生かした回避方法に、さすがのアレックスも虚を突かれた。

アレックスを飛び越えた剣埼は、そのまま線路へと降り、リンとハクを追いかける。

「クソッ!」
「どけえええええええええええええええええええええええ!!!!」
息をつく間もない。カブトムシの男の次に、少年がアレックスに向かって突進して来た。
顔から血を流し、いかにも疲弊していそうな少年の走るスピードは、さっきの男に比べると明らかに遅い。
だが、その代わり、彼の眼は恐ろしいまでに狂気の色で光っていた。

「イスラエルにトルネードスピィィィィィィィィンンンンンンン!!!!!!!」
突然少年が高速で回転し、アレックスにスピンアタックを仕掛けてくる。
どうする? アレックスは唸りを上げて迫る少年を前にして自問自答する。
さっきのようにパンチするか?それとも、奴を止める事をまず最優先に考えタックルでもするか?
そんな風に行動して、はたして止められるのか?さっきの男のようにまた予想外の方法で避けられはしないか?

「死ィィィィィィィネエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」

────もう考えるな!やっぱり俺には、これしかない!!

「おおおおおおおおおお!!」
アレックスは雄叫びをあげながら、スピンアタックしてくるクラッシャーを掴みにかかる。
アレックスの十八番、バックドロップ。こう言う土壇場で出す技は、やはり自分にとって一番使い慣れた、得意な技、それが相応しい。


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄アアアアアアアアアアア!!!!!!」
「おおおおおおおおおおおおおお!!」
クラッシャーのトルネードスピンアタックがアレックスに衝突する。
アレックスは恐ろしいまでの衝撃に、倒れそうになるが、全身に万力のような力を込め懸命に耐える。
鍛え抜かれた筋肉が軋みを上げる。そしてクラッシャーの身体を掴みにかかる。だが、クラッシャーの身体は怖ろしい勢いで回転していた。
掴もうとしても手が弾かれ、なかなか思うようにいかない。このままでは押し切られてしまう。

「俺は最強のキーボードクラッシャー様だアアアアアアアアア!!!!誰にも負けてたまるか!!!死んでたまるかチクショオオオオオ!!!!」
「俺は、俺はハクのマスターだ!!こんな馬鹿げた殺し合いで、ハクやあの黄色い女の子が死んでいいはずがない!!
 俺は────力なき者を守る!!!守ってみせる────うおおおおおおおおおおおおおお!!!」

相撲のように、組み合い、互いに押し切ろうとするクラッシャーとアレックス。
アレックスの両手が、クラッシャーの身体を掴もうとすると、クラッシャーがそれに抗う。
互いに全力。アレックスは使命感、そしてクラッシャーはこれ以上負けてみじめになりたくない、リンに呆れられたくないという自尊心。
一瞬の膠着状態の末、とうとうアレックスはクラッシャーの体を完璧に掴んだ。

────クラッシャーの視界が引っ繰り返る。クラッシャーは一瞬、何が起こったのか全く理解出来なかった。


「ヤアァッッ!!」


クラッシャーの体がアレックスの筋肉に支えられふわりと持ちあがり、そして次の瞬間、地面に頭から叩き落されていた。
アレックスの十八番、バックドロップ。それが今、完璧に決まった。

「あ……く、くそ……お…………」
意識が朦朧としたクラッシャーが悔しそうに何事か呟く。それをちらりとだけ見て、アレックスはすぐにハク達の元へと走る。

あの少年の事は気になるが、今はハクとリンの命を守らなければ。アレックスはクラッシャーに注いでいた意識をすぐに切り替える。
全速力でハクとリン、そして危険なカブトムシの男を追いかける。あの男は強い。クラッシャーよりもずっと強い。
だが、負ける訳にはいかない。ハクやカイトと出会って、自分は常人にはない力を持っている事を自覚させられた。
今こそそれを行使すべき時、力なき者を守る時────



「じょ……上等だぜ……」

アレックスが去った後、倒れたクラッシャーは両手を支えに必死に体を持ち上げる。
剣埼から与えられたダメージ、アレックスから与えられたダメージ。それらによってクラッシャーの体はすでにぼろぼろだ。
だがここで頑張らなければ……きっとあとで後悔する。事態は予想外にも不味い方向へと転がっている。

リンは何故あそこまで無警戒に、剣埼の前でアレックスとハクを殺せと言ったのだろうか。
あれでは自分から剣埼に殺してくれと言っているようなものだ。そして実際にその通り、剣埼はリンを殺しに向かっている。
アレックスとハクとカイトが、リンではなく剣埼をゲームに乗っている者と誤解してくれたのは嬉しい事だが……

剣埼は強い。恐らくアレックスよりも。両方と戦ったクラッシャーだからこそ分かる事実だった。

このままではリンは殺される。あのむかつく剣埼に……!

「させねえ……!させねえぞ畜生!!リンは俺が利用するんだ……!
 この殺し合いを優勝して生還するために、俺とチームを組んでこれからも共闘するんだ……!
 こんなところで殺されてたまるか……!リンは俺のものだ畜生……!!」


リンに戦闘力はない。俺がやられてしまえば、殺し合いに乗っている俺達は必ず殺し合い抵抗者に始末されてしまう。
だから、絶対に負けられない。何度負けても諦めない。俺はリンの命も背負っている。
一度、チームを組んだからには、一蓮托生だろうが……!!



sm135:それでも僕は死にたくないⅠ 時系列順 sm135:それでも僕は死にたくないⅢ
sm135:それでも僕は死にたくないⅠ 投下順 sm135:それでも僕は死にたくないⅢ
sm135:それでも僕は死にたくないⅠ 鏡音リン sm135:それでも僕は死にたくないⅢ
sm135:それでも僕は死にたくないⅠ キーボードクラッシャー sm135:それでも僕は死にたくないⅢ
sm135:それでも僕は死にたくないⅠ 剣崎一真 sm135:それでも僕は死にたくないⅢ
sm135:それでも僕は死にたくないⅠ 弱音ハク sm135:それでも僕は死にたくないⅢ
sm135:それでも僕は死にたくないⅠ KAITO sm135:それでも僕は死にたくないⅢ
sm135:それでも僕は死にたくないⅠ アレックス sm135:それでも僕は死にたくないⅢ






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