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 ■CAUTION!!■
 
 Scene of the surgical operation is contained in this text.
 And, this medical technology is fictitious.
 Since it is very dangerous, please do not imitate.
 
 And, this text is negative to a "Busoushinki".
 Do you still read?
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―PM:19:44 April 29, 203X
 ―Somewhere, an Ambulance, Santa Monica Fwy.
 
 ロサンゼルス・サンタモニカ。
 同じ名前が付いた高速道路を、サイレンを鳴り響かせながら白い救急車が駆け抜けて行った。
「患者のバイタル50、心停止を確認。意識レベルが低下しています!!」
 その救急車の中で、青い髪と瞳を持つ白衣を纏った6インチサイズの人形が怒鳴るように叫んだ。
「くそっ! 俺はマッサージを続けるから、7号機は患者に呼吸器を付けろ!」
「分かりました!」
 白衣を纏った救急隊員の男はすぐさまビニール製手袋を嵌めると、患者の胸部を一定のリズムをとりつつも、必死に圧迫し始めた。
 同時に、”7号機”と呼ばれた、6インチの白衣の人形はリアウイングのスラスターを巧みに動かし、人工呼吸器を引っ張り出す。そしてそのまま補助アームの力を借りて、呼吸器を患者の口腔に差し込み、テープでしっかりと固定した。
 指示をしっかりとこなすと、白衣の人形は救急隊員に問いかけた。
「ドクター、ここは私のカウンターショックで……」
「もうじき着く! 7号機はさっさとERに連絡しろ! 次いで、”アスクレピオス”に換装し、全身麻酔の用意にかかれ!」
「はい!」
 救急隊員の男はマッサージを継続しながら半ば怒鳴りつけた。”7号機”はそのような態度に一切不満を見せることなく、リアウイングやサブアーム等を外しながら、コンテナに似た白い重厚なボックスを開けて、それらを捨てた後、自らも飛び込んだ。
 2分後、先程の装備よりも遥かに仰々しい、手術器具の固まりの様な姿となって現れた。
「ドクター、麻酔に取り掛かります!」
「よし、すぐにあっちが執刀に取り掛かれるようにしておかないとな!」
「はい、最善を尽くしましょう」
 ”7号機”はそう答えると、背部の巨大なアームを動かして、麻酔のキットを取り出した。
 
 MMS――Multi-Movable-Systemと称されるそれは、6インチにも満たない機械人形である。
 小型ながら大変優れた汎用性により、MMSは様々な亜種が登場した。その一つが”武装神姫”と呼ばれる、人類の新たな形のパートナーである。
 日本で一大ブームを起こした後、AIに改良を加える事で海外にも輸出されるようになった。
 アメリカでは当初、”武装神姫”は高価な玩具程度の認識に過ぎなかったが、これまでのMMSよりも高い汎用性や拡張性が着目された。その結果、”武装神姫”は新たな可能性を見つける事となる。
 
『では、これより全身麻酔に取り掛かります。ドクター、指示をお願いします』
 
 その例の一つが、医療活動を目的としたナース型医療用MMS”アムリタ”である。
 
 
     EXECUTION-EXTEND
                 『Feather of Charadrios』
 
 
 ―PM:20:16 April 29, 203X
 ―Conference Room, Emergency Ward, St"Santa Monica"General Hospital, Santa Monica.
 
 救急車に乗っていた救急隊の男は、カルテを片手に執刀医にカンファレンスを始めた。
「急患だぜ。エリック・ジョーンズ、28歳、男性。CT検査の結果、肺臓に多量の肉種のトゥモールやカルチを発見した。そのお陰で呼吸不全を引き起こしてチアノーゼ寸前に至っている」
 説明される症状を聞いて、執刀医は思わず目を丸くした。
「そ、それって要するに、悪化した肺気腫か肺癌の事じゃないのか?」
 いきなりとんでもない急患がやってきたものである。だが、救急隊の男は表情を渋らせた。
「そう思ってアナムネを取ってみたんだが…奇妙なことに、患者は極めて清浄な環境で生活しており、全くの健康状態から突然発生した。当然、喫煙は嫌っていたようだ」
「仮に肺腫瘤…であるとしても、突然の発症は肺癌に似ている。どう言うことだろう…?」
 術前のカンファレンスなのに、妙に空気が重たくなったような気がする。何故、健康だった男が突然、いきなり命に係わる重病に罹ったのだろうか?
 執刀医の男は軽く溜め息を吐きながらも、要点を纏めた。
「手術要項は……肺臓全体に発生したデキモノの除去、でいいのかな?」
 すると、救急隊の男は診断書を執刀医に手渡した。
「腫瘍はステージ1から3まで、全部で17箇所もある。余裕があればナノマシン治療が出来るんだけどな……正直、お手上げだ。だが、ドクター・ヒナヅキ、お前ならやり切れるよな」
 ヒナヅキと呼ばれた執刀医はカルテを睨んだ。
「やりきれるって…これは酷い! 殆どを摘出するしかないじゃないか」
 腫瘍と言えど軽度のものならレーザー焼却で済むが、悪化すれば慎重な対応が求められる。特に肺臓は萎縮してしまえばお終いである。
「患者用の培養膜は、後5分程で完成するそうだ」
「分かった。すぐに助手を呼んでくれ」
「そんじゃ、”アスクレピオス”の6号機と7号機を付けるが……」
 救急隊の男の言葉に、カンファレンスルームを出かけたヒナヅキはぴたりと足を止めた。
「やれ、またアムリタか……僕は人間の助手の方がやりやすいんだけど…」
 ヒナヅキはそう言って反論するが、救急隊の男は冷たく切り返した。
「つべこべ言うな。ウチにアムリタが導入されてから、病院全体の労働効率が大幅に上がったのはお前も知ってるだろ?」
「知ってるさ、ああ知っているとも………ふぅ、分かった。一体もいれば十分」
 実例を出されてしまい、ヒナヅキは折れるしかなかった。
 アムリタが聖サンタモニカ病院に導入されたのは年の初めからである。当初は、武装神姫が医療活動に従事するようなイメージが強かった。だが、重症患者の退院率が三割を越えると言う驚愕すべき事実により、アムリタは武装神姫のマイナーチェンジどころか、世界最高水準のMMSとして評価されるようになった。
「天才外科医と最高の医療用MMSのタッグなら、怖いものなしだと思うんだがなぁ」
「はいはい、長話はここまで。それじゃ、オペを始めますか」
 カンファレンスルームを後にするヒナヅキの後を、6号機が後を追った。
 
 
 ―PM:20:25 April 29, 203X
 ―Intensive Care Unit, Emergency Ward, St"Santa Monica"General Hospital.
 
 搬送中に施した全身麻酔により、手術台に横たわる患者は呼吸器を付けられ、完全な睡眠状態になっていた。
 手術着に着替えたヒナヅキとアムリタの6号機は準備を整え、患者の前に立った。
「呼吸・脈拍・血圧は安定しています。それではこれより、呼吸器のカルチ除去手術を開始します」
「まずは開胸から。6号機は培養膜のカット作業を行い、モニターから目を離さないように」
 6号機の言葉と同時にヒナヅキは、消毒用ゲルを取った。
 次いで、患者の喉首から胸郭にかけて消毒用ゲルを丹念に塗布する。
 そして自らメスに持ち替え、消毒した箇所をスッと大きく切り開いた。
「ドクター、私のサブアームを使えば術創を固定できますが?」
「要らない。サブアームは処置開始まで使うな」
 そう言いながらヒナヅキは、切開箇所を鉗子でゆっくり慎重に開けた。
 切開箇所をヘラで固定しつつ、患者の肺臓を目にしたヒナヅキに、冷たい汗が流れた。
「病巣確認」
「……これでは、一日と持たない」
 術前のカンファレンスとまるで話が違った。肺臓全体に小さなものなら3mm、大きなものなら15mmに至る、大量の腫瘍が発生し、肺臓全体をこぶだらけにして覆っていた。このまま放置しておけば吐血はおろかショック症状が頻発、チアノーゼは進行し、最終的には生体機能が完全に停止してしまうことだろう。
 腫瘍の巣窟と化した肺臓を見た6号機はヒナヅキに一つの提案した。
「ドクター。口惜しいですが、これは末期症状であると判断しました。人工肺臓への移植を提案します」
 6号機の言うとおりかもしれない。無数の多種多様の大きさの腫瘍が、両方の肺臓を侵食しているのだった。肺臓を丸ごと取替えない限り、助かる術はない―――6号機はそう判断した。
 だが、
「…非常呼集だ。アムリタをもう一体だけ、”カラドリオス”パックで呼んでくれないか」
 ヒナヅキはさじを投げるどころか、嫌がっていたアムリタをもう一体呼び出すように指示した。
「然しこの状態では…」
「非常事態なんだ、早く!」
 激しく怒鳴りつけるとヒナヅキは、肺臓を覆う肋骨の切除作業に取り掛かった。
「分かりました。通信を開始します」
 アムリタがそう言っている間にも、ヒナヅキは右肺を覆う肋骨の一時切除を終えてしまっていた。
 6号機はモニターを確認しつつも通信に取り掛かった。
 
『こちら6号機より…スケジュールに空きのある最寄のアムリタは至急、カラドリオスで救急棟2番ICUへ』
 聖サンタモニカ病院に配属されているアムリタは全部で11体。とは言え1体だけでも価格が非常に高い為、アムリタを導入している病院は未だ指を折る程度しかない。
『1号機、4号機、8号機、9号機は現在、病棟にて回診中』
『2号機、5号機、11号機は別の手術に取り掛かる予定』
『3号機、7号機、10号機は待機中』
 スケジュールに空きのあるアムリタが3体もいたのは奇跡に近かった。アムリタは人間以上に作業効率が良く、大変優れたパートナーとして設計された為、自然と多忙になってしまう。
『6号機より3・7・10号機へ伝達。GPSで各自の位置を確認』
『こちら3号機。私が救急棟に最も近いと判断しました。3号機、これより向かいます』
『了解。7号機及び10号機は現状維持を』
 
 アムリタの最大の特徴は、オーナーが存在しない事と、通信による情報の共有機能である。現在の情報を一定時間毎に共用する事で、各アムリタが他のアムリタ達の状況を把握する事が出来る。それにより、計画的にスケジュールを立てたり、緊急事態に適切な役割を割り振り、咄嗟に対応する事が可能となっている。
「通信終了。引き続きサポートします」
「分かった」
 全ての肋骨の切除作業を終えたヒナヅキは、既に右肺の腫瘍除去に取り掛かっていた。
 医療用レーザーを使い、5mm以下の腫瘍だけを精密に狙いながら焼却しつつ、焼却痕にヒーリングゲルをこまめに塗布していった。
「6号機、裏に転移したトゥモールの除去に取り掛かってくれ」
「分かりました。やれるだけやってみましょう」
 と言うと6号機は、”武装神姫”の悪魔型MMSに標準装備されているアームよりも遥かに大きく長い、可動性能の高いフレキシブルアームを蔦のように伸ばすと、右肺の裏を探り始めた。
 
 
 ―8 Minute Passed...
 
 6号機との共同執刀で右肺の全ての腫瘍を摘出した時、消毒室から小さな翼と小型タンクを装備した新たなアムリタが自動式ドアから飛来してきた。
 15mmまで肥大化した腫瘍も幾つかあったが、ヒナヅキは切除作業を行い、培養膜への定着及び縫合に取り掛かっていた。
「3号機、到着しました」
 カラドリオスを装備した3号機がヒナヅキに声を掛けた。
 するとヒナヅキは一切振り向くことなく、3号機に指示を下した。
「よし、トレーに移した患者のカルチをタンクに入れて、病研のナタリーさんに解析をお願いしたい」
「分かりました。サンプルを採取します」
 そう言って、3号機はトレーに摘出された適当な腫瘍を、サブアームを使ってタンクに運び入れた。
「術室から出る前に、そのサブアームは消毒槽へ廃棄。それと徹底的に全身消毒してから退室するように」
「心得ています」
 そう言うと3号機はホバーシステムを制御して、手術室を出て行った。その後、消毒ガスの噴出音が分厚いエアロック式のドア越しに聞こえてきた。
「よし、これで左肺に取り掛かれ…」
「ドクター、左肺臓のマーカー値が増加しています」
「っ!?」
 フォーセプスで培養膜を移植していたヒナヅキは思わぬ発言に動揺しかけたが、すぐに培養膜を切除箇所に丁寧に貼り付け、ヒーリングゲルで浸透させた。
「処置を終え次第、確認する」
 余所見して、短時間でも穴を開けた肺臓を放置する事の方が危険なのは言うまでもない。培養膜を素早く縫合しすると、ヒナヅキは右肺の腫瘍摘出を完全に終えたと判断した。
 
 開胸時に確認した時は、大量の腫瘍が左肺全体を覆っていた。それだけでも大変危険な状態だったのだが、右肺の処置後には更に悪化しており小型の腫瘍が更に増えてきていた。一部の腫瘍に至ってはキノコ状に肥大化しており、その影響か軽度の出血を引き起こしていた。
「…6号機、術式開始からどのくらい経過している?」
「10分28秒です。ドクターの大変素早い処置により、各数値はまだ安定しています」
 そんな異常な事があるものだろうか。僅か10分で大量に転移して悪化させる腫瘍などヒナヅキは知らないし、聞いた事も無い。
 自分は今、正体不明の奇病と戦っているのだと、ヒナヅキは認識した。
 その時、
「右肺は安定してきています。ですが、左肺の悪化は予測外の出来事です。ドクターの技量を持ってしても完治は不可能に近いです。ここはいっそ、転移する前に左肺の完全切除が最も望ましいと思われますが…」
 6号機の言う事には一理あった。仮にそうした場合、呼吸に弱冠の支障が出るかもしれないが、その方が確実にこの患者を救う事が出来る。
 然しそれでも、ヒナヅキは引き下がらなかった。
「……いや、処置を続行し、左肺の腫瘍を完全に除去する」
 ヒナヅキはそう言いながら、より小振りなメスを握った。
「確かに成功すれば、この患者さんのQOLはより良いものとなるでしょう。ですが、完全摘出までにバイタルが保つとは思えません」
「口じゃなくて手を動かしてくれ」
 キノコ状に腫れ上がった腫瘍に培養膜を定着させると、すぐさまドレーンの先端を慎重に挿し込んで固定した。続けて、腫瘍内部の細胞質をドレナージすると、すぐにメスに持ち替え萎縮した腫瘍を切除した。
「5mm以下のはレーザー焼却による処置を頼む。出血は状態次第で僕を呼んで欲しい」
「…分かりました」
 アムリタは医師に意見する事は可能だが、最終的には医師の指示が絶対である。
 6号機はリアユニットに搭載されたレーザー照射装置の準備を始めた。
 
 
 ―7 Minute Passed...
 
 6号機との共同執刀とは言え、ヒナヅキの手先は神懸っているとしかいいようがなかった。最大サイズまで肥大化した極めて危険な腫瘍でさえ、1分と満たずに完全に除去出来ていた。
 左肺を覆っていた腫瘍も、残すところは左下葉となっていた。
「…バイタル及び全数値に異常は?」
 培養膜の縫合を終えつつ、ヒナヅキは6号機に訊ねた。
「僅かに低下していますが、問題なく続行出来ます」
 6号機は、左肺の裏側にサブアームと可動式ファイバースコープを廻しつつ、裏側の小さな腫瘍をサブアームのレーザーで焼却しながら答えた。
「……そうだった。引き続き、転移していないか注意しながら継続を」
「分かりました」
 思わず、間抜けな事を聞いてしまったものだ。
 アムリタが導入されてから五ヶ月にもなるのだが、ヒナヅキは人間ではない新たな手術助手に未だ慣れずにいた。これまでの手術助手と言えば、執刀医の補佐やモニターの監視等、多くのスタッフが必要だった。だが、アムリタは1体だけでこれらの作業を殆どこなす事が出来る上、そのサイズ故に執刀医との並行執刀が可能となったのだ。
 然しヒナヅキの場合は、アムリタは高性能で優秀であるにも係わらず、どうしても信用しきれていない節があった。やはり少女のような外見とサイズが、どうしても気がかりだった。
(「腕は一流だけど正直、危なっかしそうなんだ…」)
 なんて事を考えながら、ヒナヅキは中途半端に大きな腫瘍に消炎剤の注射を施していた。反応次第でレーザー焼却か切除に至るのだが……。
「ドクター、マーカー値が変動しています」
「変動…?」
 その意味を訊ねようと思った瞬間、ヒナヅキは信じられないものを見た。
 先程、消炎剤を施した腫瘍のすぐ側に、三つの小さな肉の粒がぽこぽこと浮き上がってきていたのだ。
「マーカー値、上昇しました」
「…術式を継続してくれ。僕は”これ”を対処する」
 まるで悪夢を見ているようだと、ヒナヅキは思った。既に出来上がった腫瘍なら幾らでも見てきたが、目の前で腫瘍が発生する様子は一度も見た事がなかった。
(「これは、さっき消炎剤を効かせたのから発生したのか…?」)
 仮にそうだとしたら、原因となるものから除去すべきだ。超小型メスに持ち替え、綺麗な円を描いて消炎剤を注射した腫瘍を切除した。
 フォーセプスで摘んでトレーに除け、培養膜の定着に取り掛かろうとした時だった。
 新たに発生した小粒の腫瘍の隣にまた、小さな肉の粒が浮き上がってきたのだ。しかも、処置を終えた左上葉へ侵食しようとしていた。
 まるで姿のない寄生虫が次々と卵を植えつけてくるかのようだった。錯覚とは言え生理的嫌悪感を催す異様な現象に、微かに震えた。
「っ…6号機!」
「はい、何でしょうか?」
「裏側のレーザー焼却は後回し、私が今作った切除痕を処置してくれ!」
 そう言いながらも、小さめにカットされた培養膜を正確に切除痕に貼り付けた。人工呼吸器との併用により、すぐに肺臓内の酸素が抜ける事は無いが、肺に穴を開ける事が危険なことに変わりない。
「分かりました。ヒーリングゲルを浸透させ、縫合します」
 6号機の言葉は聞こえたが、明確に認識したわけではなかった。今すぐ、新たに生み出された腫瘍を焼却しなければならない。
(「これが、急増の原因なのか…?」)
 ヒナヅキの最初の推測は、ある腫瘍を核に徐々に細菌かウィルスが広がり、その周辺に発生させていくものだと思っていた。
 だが、細菌やウィルスにしてはあまりにも速すぎる。その上、新たに発生した若い腫瘍から、更に新たな腫瘍が発生したとなると、本当に”腫瘍を生みつける何か”が存在しているとしか考えられなかった。
 そう仮説するなら、根絶させる方法は一つだけに絞られた。
 ヒナヅキは、新たに腫瘍が発生した箇所の周囲を、メスを握りながらじっと注視していた。
「切除痕のシーリング完了しました。ドクター、これから…」
「処置を継続!」
 出た言葉は極めて短く、殆ど怒鳴り声だった。高性能なのだからその程度の事を聞くな、と言う気持ちもあったのかもしれない。そんなヒナヅキの言葉に6号機は、
「分かりました」
 感情の起伏のない、無味乾燥な調子で返答した。
 当然だ。
 医療行為に従事する為に開発されたものが、人工的に作られた感情に流されるなど以ての外だ。
(「焦るなよ…焦るな…」)
 6号機は処置を続行する中、ヒナヅキは新たに出来上がった腫瘍の周りの様子だけを意識していた。
 そして………新たな小粒の腫瘍が三つ同時に発生した。
(「今だっ!!」)
 新たに腫瘍として生まれようとしていた箇所を、三箇所とも小さく綺麗に円を描いて切除した。同時にメスを置いてフォーセプスを取ると、切除した箇所を次々にトレーに移した。
(「これで…」)
 神業と言うべき処置だが、唯それだけに集中していたから成功したのだ。
 だが、一息つく間はない。すぐに培養膜を移植しなければ、患者は酸欠状態と化してしまう。
 培養膜を切除痕に貼り付けつつ、ヒナヅキは6号機に話しかけた。
「病研に向かった3号機に、もう一度呼集を。もう一度、カラドリオスパックで頼む」
「もし3号機に空き時間が無ければ、別のを向かわせます」
 それだけ言うと、ヒナヅキはヒーリングゲルを培養膜と切除痕に定着させ、念入りに縫合した。
 これできっと、残りの腫瘍の除去で終わる筈だろう。
 トレーの上で、切除されたにも係わらず肥大化しようとしている三つの”サンプル”をちらりと横目で見やると、ヒナヅキは処置を続けた。
「残りは僕が全て処置する。君は、他に転移していないかどうか念入りに検査してくれ」
「分かりました」
 大丈夫だと思うがそれでも、先程の異常な転移を見た後ではより慎重にならざるを得なかった。 
 
 
 ―5 Minute Passed...
 
 全ての腫瘍の除去を終え、一時的に切除した肋骨を、骨接着剤を使って取り付け始めた。強力な接着効果がある上に、その成分は体内に自然吸収させる優れものである。
 6号機に、他に転移していないか確かめさせたが、杞憂に終わったようだ。
 そして………。
「最後にスーチャをお願いします」
「ああ。各数値はどうなっている? 特にマーカーが…」
 と言っている間にも、ヒナヅキは術創に6針も通していた。
「バイタル、血圧、脈拍、呼吸、脳波、全て安定しています。マーカーは正常値に向かっています」
「……そうか、それでいい。それで当たり前なんだ」
「?」
 術創を綺麗に縫合して閉じ、消毒ゲルを丹念に塗りつける。
 そして、満遍なく浸透したところでサージカルテープを術創の上にぴったりと貼り付けた。
「手術成功です。手術時間は25分12秒。お見事です、ドクター」
「どうも。ふう…後はカラドリオス待ちか」
 何とか無事に手術は終えた。だが、この奇妙な病の正体が判明しない限り、ヒナヅキは落ち着けそうになかった。
 
 
 ―2 days after... 
 ―PM:14:20 May 1, 203X
 ―Infirmary, Emergency Ward, St"Santa Monica"General Hospital.
 
 極めて平常にして暖かな日差しが差し込む中、ヒナヅキは受け持ちの患者のカルテの山と戦っていた。
 コンピューターが本格的に導入されてはいるものの、往診の患者にはファイルの作成が必要であり、結局は手書き作業も必要となってしまうのである。
「これが僕への評価の証明だとしても…ねえ」
 疲労交じりの溜息を吐きながら次のカルテを取った。その量は、他の医師達の2倍以上に至る。
 全11体のアムリタ達からすれば、ヒナヅキは大変優れた医師と言う認識に過ぎない。が、周りの人間達からすればヒナヅキは正しく”奇跡の外科医”だった。
 ヒナヅキをそう言い知らしめるのは、的確な対応や判断力は基より、手術の驚異的な早さと多くの難病の治療例が彼をそう言い知らしめているのだった。一寸の狂いも迷いもない手先が織り成す執刀は、多くの患者の命を救ってきたのだった。
 一昨日の原因不明の腫瘍摘出手術でも、予測外の出来事が発生したものの、それでも僅か30分でこなしきったのだ。あの後で、患者を連れてきた救急隊の男からは『流石だな』と評されたが、他の医師達は特にヒナヅキを評価する事はなかった。
 
「ドクター、お手伝いしましょうか?」
 と、何号機か分からない一体のアムリタがヒナヅキのデスクまで飛んできた。
「ん…君は何号機だっけ…?」
「6号機です」
「ああ…一昨日のあのオペの時の」
 そう言いながら背筋をグイッと伸ばして、全身の緊張を解いた。全部で11体もいるアムリタは全てが姿形が同じな為、見分けがつかないのだ。
「まだ、40人近く残っていますが…?」
「幾らデータ化が進んでも、医師の主観による診断は欠かしちゃいけないんだよ。退院までずっと医師が責任を負わなきゃね」
 幾ら医学が進んでも、医師が人間である限り、患者と医師との関係は好ましいものとして築いていかなければならない。患者の事を知る医者が、その患者のカルテを書くのは当然の事と言える。
 そこでヒナヅキはふと、ある事に気が付いた。
「…もしかして、誰かが君の姉妹達にでも代筆させているのかい?」
「はい。Dr.ブラウンとDr.コリンズが度々、私達に代筆を依頼しております」
「ちぇっ、あのサボリ魔達か…!」
 6号機の言葉を聞いて、ヒナヅキは思わずデスクに突っ伏して頭を抱えた。
 アムリタはホストコンピューターから診療データをダウンロードする事が出来る為、やろうと思えば医師の代わりにカルテを書かせる事も出来る。無論それは、アムリタの機能を活かした緊急用の非推奨行為である。
 気を落ち着かせて、ヒナヅキはカルテの続きを書きながら6号機に言った。
「それじゃ、これからはこう認識して欲しい。その人物のスケジュールに十分な余裕があるにも係わらず、代筆作業を依頼した場合、査問会議を検討する……と」
「それでは作業効率が落ちてしまう可能性が考慮されますが?」
「君達に代筆させ、サボタージュする時間を取り除く方が、作業効率が上がるだろう?」
「確かに一理ありますが…その提案は全機と検討することにします」
 アムリタは医療に従事するだけが能では無い。原型である武装神姫同様、学習機能を備えている。尤も、武装神姫より遥かに高度な頭脳を採用しており、様々な医療活動で経験を積む事で作業の効率化を図る事が出来、また誤った解釈をする事は無い。
「君達への代筆は非常時の作業なのだから、上手くサボタージュを防げるようになるといいな」
「はい。ところでDr.ヒナヅキ、少しばかり休憩されては如何でしょうか?」
 気を遣ってくれるような発言に少し驚いたが、これも誰かがアムリタに学習させたに違いない、とヒナヅキは思った。
「それじゃ、紅茶を淹れてくれないかな?」
 すると6号機は困ったような表情を浮かべて返答した。
「困りました。コーヒーの淹れ方なら知っているのですが…」
「それじゃ、休憩のついでに正しい紅茶の入れ方を教えてあげようか」
 彼女達の稼動はまだ五ヶ月。もっとこれから、医療以外の知識も学んでいくのだろう。
 
 休憩を終えて暫くして、
「最後のカルテがな…」
 背もたれに背中を預けながら、ヒナヅキは最後のカルテを睨んだ。
「一昨日の急患ですね」
「そう、エリック・ジョーンズ氏だ。すぐに意識を取り戻して経過も良好らしいんだが、心当たりがないんじゃどうしようもないよ」
 そのカルテは、氏名や体重に過去の病歴までは記されていたが、肝心の治療したばかりの病気が、悪性に至る上に転移が異常に早い腫瘍である事以外、原因は判明しなかった。
「例の手術の映像記録を拝見しましたが、あの転移の早さは嘗ての腫瘍摘出手術にて前例がありません。新種の病なのでしょうか?」
「だから、カラドリオス経由で病研に解析を依頼し…」
 
『RRR!RRR!』
 
 その時、ヒナヅキの声を遮るように、デスクの上の電話がかかってきた。本体には内線のランプが点灯しており、すぐに受話器を取った。
「もしもし、ヒナヅキです」
 受話器から聞こえてきたのは、ややハスキーボイスで淡々とした女性の声だった。
『ナタリーだ。ヒナヅキ、手が空いてるなら病研に来い』
 それだけ言うと、向こうから切ってしまった。
「やれ、返答の余地も無しか」
 困ったように笑いながらヒナヅキが席を立つと、後ろから6号機が声を掛けてきた。
「Dr.ヒナヅキ、これから何処へ向かわれるのでしょうか?」
「病研だよ。多分、一昨日の腫瘍の正体が分かったんじゃないかな」
「そうですか。では、15時のポリープ摘出手術のカンファレンスまでには戻ってきてください」
「えぇ、まだ診断書と処方箋と伝票に総括が残ってるのに……はいはい、間に合うようにするさ」
 愚痴を零しながらもヒナヅキは6号機に振り向かず、軽く手を振った。
 
 病理研究室へ向かう途中、ヒナヅキは待合室のテレビの報道が目に入った。
『………日のニュースです。四月末より、全州各地で原因不明の肺癌が発生しているとの情報が入りました』
「…!!」
 ニュースキャスターの声に思わずヒナヅキは足を止め、食い入るようにテレビを見つめた。
『主な症状は血痰や息切れ、或いは激しい吐血や喘鳴等が主ですが、すぐに酸欠状態となり意識を失ってしまう例が殆どということです』
(「一昨日の急患も同じ症状だった…!!」)
 これは一体どう言う事なのか。
 自分が執刀した患者と全く同じ病が何故、彼方此方で発生しているのか。
『現在、この病による患者は3万人を越え、内、殆どが意識不明の重体、死亡者は半数を超えました。感染経路及び原因は不明です』
(「今年の公衆衛生総監報告書では、肺癌の発症数は低下気味だと聞いたのに……」)
 喫煙に関する法案が更に徹底される事により、喫煙者そのものが減少気味にあるという。無論、煙草だけが肺癌を引き起こすものではないのだが、引き起こしやすくなる代物である事は確かだ。
 そうなれば新たな公害病としか考えられない。
『殆どの発症者は僅か半日程で死亡する事が多く、事態を重く見た政府は早急に原因の究明に乗り出しました』
 一昨日のオペを思い出す。目の前で突然、トゥモールが増殖するように転移した現象は脳に焼きついてしまい、忘れたくとも忘れられなかった。
(「あの驚異的な転移の早さが死を早めているとしたら………ジョーンズ氏は、本当の意味で九死に一生を得られたんだな…」)
 幾ら医療技術が進化していっても、どうしようもない事もある。とは言え、この謎の肺癌は異例としかいいようがない。
 自分だから治せた。然し、”奇跡の外科医”と称されたところで、これから運ばれてくる発症者全員と立ち向かえる自信はなかった。
 そこまで考えた時、ヒナヅキは病理研究室に呼ばれている事を思い出し、すぐにテレビから目を離して歩いて行った。
『…新しい情報が来ました。一昨日、同様の症状の患者が聖サンタモニカ病院で一命を取り留めました。その執刀医は………』
 
 
 ―PM:14:37 May 1, 203X
 ―PathologicalLaboratory, St"Santa Monica"General Hospital.
 
「新薬や治療法の説明会議の時以外はあんまり縁がない所なんだよね」
 ヒナヅキが病理研究室に入ると、苛々した様子の白衣の女性が、腕組みしながら仁王立ちでヒナヅキを出迎えた。
「遅いぞヒナヅキ! 寄り道する暇があるならさっさと来い!」
「えっ? よ、寄り道って…」
 周りにいる研究員達が、ヒナヅキを同情の目で見つめた。ヒナヅキを待っていた女性、ナタリーは病理研究室を取り仕切る人物である。
 確かに途中で待合室のテレビで流されていたニュースを見てから向かったが、そこまで不必要に待たせてしまっただろうか。
「ふん、まあいい。ヒナヅキ、貴様は一昨日、妙なものをよこしてくれたな」
「例の腫瘍だね。何か分かったのかな?」
「当然だ。あれだけサンプルをよこしてくれたから、治療法も完成しつつある」
 原因不明の病だと思っていたものがあっさりと対策されており、ヒナヅキは少し落胆した。
「それで、腫瘍の正体は……?」
「見せてやるからついて来い」
 カッ、カッ、と足音を立てて奥へ行くナタリーの後を、ヒナヅキは追いかける様について行った。
 
 着いた先は、室長専用の個人研究室だった。
「ナタリー…まさか、君一人で調べていたのかい?」
「いや、アムリタ3号機とでだ。少なくとも内の部下よりは使える」
 と言いながら、ナタリーは古風なコーヒーサイフォンに粗挽き豆と入れ、熱湯を注いだ。
 ここへ来る途中で、試験管の様子を観察していたり、遠心分離機を見つめていたり、プレパラートの作成等に勤しんでいた研究員達の顔を思い起こし、ヒナヅキは溜息を吐いた。
「何か不満か?」
「いやいやいやいや。それで、原因って言うのは……?」
 ナタリーは部屋の奥に敷設された電子顕微鏡に指を指した。ヒナヅキはそれに従い電子顕微鏡に近くへよろうとしたが、
「馬鹿者、知識のない貴様に触らせん。すぐ側のモニターに映してやる。貴様が取ってきたものなんだから、真面目に見ろよ」
「それなら最初からそう言ってくれないか…」
 出る溜息すら尽きたところで、ヒナヅキの正面にあるモニターに何かが映し出された。
 それを見たヒナヅキは我を取り戻し、モニターに映ったそれをじっと見つめた。
「細菌でも、ウィルスでもない…?」
 確かにそれは細菌類のように小刻みに震えながら移動していたが、奇妙なことに繁殖せず、更には一群に纏まろうともせず個々が別々に、それもかなりの速さで移動していた。
「そうでなければこれは何だと思う? 作り物だと思ったか?」
 それに対しヒナヅキは、
「…ああ、これは間違いなく作り物だよ。よく出来すぎている」
 その答えにナタリーは少しだけ満足すると、分かりやすく説明を始めた。
「そういう事だ。これはナノマシンだよ」
 コーヒーサイフォンのポットには、やっと半分程度のコーヒーが溜まってきていた。
 
 モニターの画面が切り替わり、モニターの上を泳いでいた物体が拡大された。
 それはまるで、角ばった形状の節足動物のようだった。だが、ナノマシンなのだから体内の細胞や遺伝子が蠢く事はなく、小さく細かな足を素早く動かして移動していた。
「そんなものが、どうして…!?」
 近年の医療活動にナノテクノロジーは本格的に導入されている。逆に、人に害を及ぼすナノテクノロジーは軍が作戦行動の一環として取り入れるものだとヒナヅキは思っていた。
「どうして、か。そうだろうな。全く持ってその通りだ。呆れてくれと言わんばかりの話だ」
 自分の椅子にスッと腰を下ろし、ナタリーは言った。
「僕は、このナノマシンの正体が分からない。ナタリー、教えてくれないか?」
「当たり前だ。まず貴様は、”武装神姫”というのを知っているか?」
 いきなり、戦ったばかりの腫瘍の正体から話題が大きく変わって、ヒナヅキは戸惑いそうになった。
「う~んと………確かアムリタ達の前身で、女の子の形の機械人形で色んなのが存在して、色々と武器なり防具なり取り付けさせて互いに戦わせたり…他に仲良くさせたり、オーナーの飼い主…じゃなくて、パートナーにもなったりする、日本発祥の高級ホビー…って感じかな?」
「貴様の主観など求めていないが、要はそれだ」
 不足している知識を総動員して説明したのだが、ナタリーはあっさり蹴っ飛ばした。
 軽くへこんでしまったヒナヅキを無視し、ナタリーはパソコンでネットに接続した。パソコンのモニターに、武装神姫を紹介する見出しが表示されていた。
「これらだ。見ての通り、武装神姫にもナノテクノロジーが導入されている」
 と言って、ナタリーは適当なサムネイルをクリックした。すると、白い翼を持つ何型か分からない武装神姫が自分の翼に包まれ、自分の破損した箇所を修復しているムービーが流れた。
 次に、四つの火の玉のようなも物体を従える神姫が指を前に突き出すと、四つの火の玉から青いレーザー光線が発射され、相手神姫に大ダメージを与えた。
 ヒナヅキは半ば驚きながらそれらを見つめていたが、すぐにナタリーに問いかけた。
「最近の玩具は随分とハイテクなんだね。然し、武装神姫関連のナノマシンに原因があるとするなら、既に前例が出ていてもおかしくないと思うんだ」
 ヒナヅキの言う通りである。
 アメリカにも武装神姫が浸透してから数年経つが、武装神姫に使用されるナノマシンで事故が発生した……と言うニュースは一度も聞いた事がない。
 その問いかけにナタリーは、
「そう思って、こんなのを取り寄せた」
「これは…」
 ナタリーが取り出したのは、武装神姫が扱う装備が入った袋だった。
 一つは、極めて独特な形状だが拳銃タイプの武装らしい。もう片方は、大きな蝶々の羽だけもぎ取ったかのような代物だった。
 マウスを動かしてパソコンに、前者の奇妙な拳銃タイプの武装を映し出した。
「この、変ちくりんにして奇妙奇天烈なトンカチの様なものが”フレグランスキラー”といって、フラワータイプの神姫の標準装備だ。ガス状の物質を放射して相手にダメージを与えるものらしい」
 パソコンのモニターの向こうでは、これまた仰々しく、まるで孔雀のようなシルエットの華やかな神姫が”フレグランスキラー”を持ち、相手の神姫にガスの様なものを噴きつけていた。
「見た目だけは何となく、子供の悪戯みたいだね」
「私は殺虫剤のスプレーだと思ったがな」
 これで攻撃になるものなのかとヒナヅキは思っていたが、例のガスを喰らった神姫は、まるで猛獣用の麻酔銃に当たったかのようにバランスを崩し、気を失って倒れてしまった。
「見た目は随分と滑稽だが、この通りだ。あの噴霧に極めて攻撃的なナノマシンが含まれている」
「……人殺しの芳香、とは言ったものだね。花を武装神姫の姿に置き換えて、こんな武器か…」
 モニターの向こうにいる例の神姫は、姿こそ愛らしく本物の妖精のようだと錯覚させてくれた。
「次にこれだ」
 ナタリーは再びマウスを動かすと、今度は昆虫の羽を生やした象牙色に近い神姫が、相手神姫の周囲を飛び回っているムービーに切り替わった。
「このでっかい羽が”フェアリークイーン”と言う、背中につけるパーツらしい。蝶の羽を模したらしいが…」
「どう見ても、趣味のアイテムと言うか…う~ん、あんまり実用的には見えないな」
 微妙に顔を渋らせながら、相手神姫の周りを飛び回る象牙色の神姫を見つめた。
「…寧ろ、タチの悪い毒蛾だな」
 歯に衣着せず、思ったままの事をナタリーは表現した。実際、ムービーの神姫は羽からきらきら輝く鱗粉のようなものを相手神姫にまぶして昏倒状態にさせていたのだから、毒蛾という表現にはヒナヅキも苦笑いしながら納得するしかなかった。
「この鱗粉のようなものも……やっぱりナノマシン?」
「そうだ」
 きっぱりと断言すると、ナタリーはサイフォンから満タンになったコーヒーのポットを出し、自分のカップに注いだ。
「そこで貴様に一つ聞くが、これら二つの玩具に共通する要素は何だと思う?」
 思わぬ問いかけにヒナヅキはきょとんとしたが、すぐに答える。
「えっ…ナノマシンが空気中に散布され、相手の神姫を狂わせてしまう…ってことで、合っているかな?」
「その通り。これらの玩具には、特定の微電流や電波を発することで武装神姫の中身を狂わせる、そんなナノマシンが仕込まれている」
 モニターに流されたムービーで、思わずヒナヅキは武装神姫を擬人化して見てきていた。それだけ、ムービーの中にいる彼女達が何故か人間的に見えたのだ。
 だが、背丈が6インチに満たない人間など普通はいない。幾ら人間臭くあっても、結局は極小部品の結晶体に過ぎないのだ。
 続けて、ナタリーはコーヒーを一口啜りながら、別の画面に切り替えた。
 それは、同じサイトの更新履歴だった。細かな日付毎に、ヒナヅキには何の事か全く理解出来ない情報が羅列されていた。
「ヒナヅキ、4月28日の項目を見てみろ」
「えっ? 4月の28日、28………あった」
 4月28日はアップデート情報だった。そこには、このように記されていた。
 
『Some items equipped with the paralysis result become strong today.
 People who have the following Items need to come to a "ShinkiCenter" or "ShinkiStore"
 
「なっ、これはどう言う事なんだ?」
「肝心なのはその下だ」
 コーヒーのカップを片手に寛いでいるナタリーに言われるがまま、読み進めて行く。
 
『・Allergy-tuningfork
 ・Fragrance-killer
 ・Spore-spraygun
 ・Cutie-Devil
 ・Fairy-queen    』
 
「これって…」
「分かるな? そして、貴様に例の患者が来たのはその次の日だったな」
 それどころか、ここへ来る途中で見かけたニュースの、”原因不明の肺癌”が発症し始めた時期とぴったりと重なってしまった。
 ナタリーはカップを作業用デスクに置いて分かりやすく説明を始めた。
「要するに、武装神姫のアップグレードとやらでこの五つの玩具の中身が弄られた。それで中身が危険極まりないものだと製作者すら知らずに使わせた結果、周りの人間は、多少の環境変化でも死滅しない程に強化されたナノマシンを吸い込んでしまった」
 ここまで具体的に証拠を見せ付けられ、ヒナヅキは返す言葉もなかった。
「そして、本来は機械にしか作用しない筈のナノマシンが、開発者達にとっては想定外の反応を引き起こし、肺臓の細胞を癌化させたということだ」
 と言って、ナタリーはパソコンのあるファイルをクリックした。
 そのファイルは三つのナノマシンの拡大写真であり、それぞれに簡単な説明が付けられていた。
 ナタリーは最初に、2体のナノマシンが写っている写真をクリックした。
「これが、貴様が採取してきたサンプルから採取されたナノマシンだ。その内の一つは、さっき見たばかりだろう」
「ああ。それにしても、少なくとも作動開始から少なくとも60時間は経過した筈。それなのに、まだ稼動し続けているなんて…」
 ヒナヅキは頭を捻ったが、呆れた様子でナタリーが返事した。
「貴様、それでよく”奇跡の外科医”と呼ばれたものだな。今年度の最新医療器具カタログのナノマシンの項目を読んだら、ひっくり返ってしまうな」
「悪かったな………ところで、二体目のナノマシンは初めて見るんだけど?」
 と言って、正八面体の様な形状のナノマシンの画像に指を指した。
「貴様はサンプルを二度もよこしてくれたが、最初のサンプルにこいつが入っていた。まあ、うちの下っ端が迂闊にも遠心分離機なんぞにかけたものだから、粉々に砕けた…全部な」
「それは……あ~あ…」
 ヒナヅキは、そんな失態を起こした研究員よりその後の研究員を想像して、少しだけ同情した。
 そう言ってナタリーは、残りの二枚の拡大写真をモニター上に並べた。
「兎に角、それが病原菌ではなくナノマシンである事は分かった。それで、世間で普遍的に使用されているナノマシンとして、武装神姫に使われているナノマシンを疑ったのだ」
「ん~……何か色々と順番を飛ばしてないかな?」
 新たに表示された二枚の写真を見比べながら、ヒナヅキは軽く唸った。
「それは違う。私のような天才は常に最短のプロセスを選ぶのだ」
「それは…道理だね。ところで、この二枚はサンプルから発見されたのと同型のようだね」
「ああそうだ。これら2種のナノマシンは、例の取り寄せた玩具から発見されたものだ」
 ヒナヅキに示された三枚の写真は正しく、原因不明とされた肺癌の正体そのものだった。
 
 気が付くと、パソコンの時刻表示が14:53となっていた。もうすぐカンファレンスが始まる。
 モニターから目を離して立ち上がると、ナタリーの方に向いて一言聞いた。
「”これ”の対策や治療法はどんな感じになる? 目の前で殖えていくのを片っ端から切り取っていくのは、出来れば遠慮しておきたいからね…」
 その返答はあまりにも簡素にして的確だった。
「毒を以て毒を制す。早期発見が鍵にはなるがな。後は、毒の発生源次第だな」
「……なーる程」
 先程まで開いていた、武装神姫の武装の紹介ページを思い返してみた。
 近いうちにどのように告知されるだろうか。
「さて、これから武装神姫はどうなるんだろうな?」
 ナタリーの台詞から、微かな期待のニュアンスを感じ取った。
「それはまた、どうして?」
 そう聞きながら、ナタリーの個人研究室のドアノブに手をかけた。
「人間の”パートナー”である事を売り物にするなら、神姫に武装なんてものは要らない。そして、全てがアムリタのようであるべきだと思うからだ」
 と、ナタリーはきっぱりと言い切った。
 世界最高水準たる医療用MMS”アムリタ”は、常に完璧を目指し続ける存在である。武装神姫は、基本的な情報はプリセットされているとは言え、生まれたばかりの雛と同じようなものだ。自分一人では飛び上がる事が出来ない為、それを教えるオーナーが必要となる。起動し始めた時点で、同程度の価格のパソコンに実用性で敗北を認めたようなものだからだ。
「君もまた随分と極端だね。それじゃ、明日の記者会見を期待しているよ」
 と言って、ヒナヅキは個人研究室を出て行った。
 
(「そう言えば、何で”武装”神姫なんだろう…?」)
 ナタリーも言っていたが何故、人間のパートナーが武器を持たなければならないのだろうか。
 また、何故互いに戦わせるのだろうか。
(「人間って言うのは遥か昔から、誰かと競う事を好む生き物だ。サッカーにしても野球にしても、柔道にしてもボクシングにしても……でも、彼女達の場合は寧ろ、闘犬や闘鶏に近い……そうか、所謂育成ゲームの様な感じなのかも」)
 ヒナヅキは、武装神姫どころか汎用的に使用されるMMSすらあまりよく理解していなかった。それが年始から、武装神姫を原型としたという医療用MMSが導入された時は、ヒナヅキは彼女達との接し方に大いに戸惑ったものだった。
(「原型との決定的な違いは、彼女たちが手にするものか…」)
 然し、アムリタは”武装神姫”ではなく”医療機器”である為、気を遣う必要など全くなかったのだ。医療現場と言う肉体的にも精神的にも苛酷な環境では、個人的な感情など不必要な代物であり、それによって仕事に支障が出てはならないのだ。
 それでも立派に人の姿をしている為、ヒナヅキはどうしても機械だと割り切る事が出来なかった。
 暫くそんな事を考えていると、落ち着いた雰囲気の声が聞こえてきた。
「あの、Dr.ヒナヅキ。私の声が聞こえますか?」
 何の装備もつけていない、何号機か分からないアムリタがホバリングして、ヒナヅキの顔面まで迫ってきていたのだった。
 びっくりして我に返り、思わず仰け反ってしまった。
「…おぉっ!?」
「Dr.ヒナヅキ。ポリープ除去手術のカンファレンスに3分遅刻しています」
「げっ、そうだった! カンファがあるっていうのに!」
 思わず急ぎ足になりそうになるが、
「ドクター、病棟内では走らないで下さい」
 アムリタの注意が背後から聞こえてきたような気がしたが、ヒナヅキはそれどころじゃなかった。肝心な事を考え損ねた気もしたが、やはりそれどころではなかった。
 
 何だかんだで今では、アムリタ達は頼りになりすぎる小さな同僚達だった。
 
 

『……ここは………どこなんだよ……?』
『…クソッ、アクセス出来ねぇ…完全にこっちへ、放り出されちまったってのか……』
『…そうか……帰るべき場所を失ったから……アイツは…』
『アイツと同じになったボクに何が出来る? ………いいや、もう』
『…これでボクが……存在する理由は……無くなったんだからな……』
『……何だろう……さっき…から……眠……い………………』

 
 
『……目覚めなさい…目覚めなさい』
『………………』
『……目覚めなさい…獰猛なる魂の迷い子よ…』
『……何だよ、さっきから…うるせぇな……』
『…こちらへおいでなさい』
『何なんだよさっきから…オマエ………誰だよ?』
『…今のあなたと同じような存在。されど、あるべき道へいざなう存在…』
『わっけ分かんねぇことばっか言いやがって…からかってんなら、ぶっ飛ばすぞ?』
『…流石、とでも言いましょう…私とあなたの主が見初めただけの事はあります…』
『!? …オマエ、まさか?』
『…そう。彼女にとって、私の存在が全ての始まりとなったようなものなのです…』
『って、ちと待て。だとしたら何で、オマエが…ここにいるんだよ?』
『…私はあなたを迎えに来ました。有と無で構築された実像無きこの世界から、時の流れにより構築されし虚像無き世界へと…』
『……そりゃ、逆に言い間違えてねぇか? ボクはもう…』
『…恐らく…いえ、きっとあなたは勘違いされてる事でしょう。激しい戦いに疲れたあなたの魂を、この世界から連れ戻しに来たのです…』
『また………会えるのか……?』
『…それは、あなた次第であり、私次第。機が熟せば必ず……』
『………………』
『さあ、獰猛なる魂の子よ…手を伸ばし、私の元へ………共に、嘗ての主を迎えましょう…』
 
『そして…人と神姫の、総ての調和を、共に築きましょう………』

 

 
 ―AM:6:14 May 2, 203X
 ―Infirmary, Emergency Ward, St"Santa Monica"General Hospital.
 
 昨日は謎の肺癌の意外な正体を知ったり、手術のカンファレンスに遅刻したりしたが、それ以外では全くいつもの変わらない日常だった。
「ふわぁぁぁ……何だか変な夢を見たな……」
 当然、術前のカンファレンスでは担当医達に怒られた。だが、”奇跡の外科医”の腕を以て、僅か5分で完治させたことにより、患者の退院を7日も早めてしまった。
「やあ、お早う」
「おはようございます。Dr.ヒナヅキ」
 医務室でずっと待機していたらしい、アムリタの6号機にヒナヅキは挨拶の言葉をかけた。
「昨日の手術も大変お見事でした」
「まあ、君のサポートのお陰だよ」
 そう言うと、大きく欠伸をしながら様々な書き物の山となっているデスクに着いた。
「ふぁ……今日は手術が入っていないから少しは楽かな…?」
 そう呟きながらテレビの電源を入れた。
 
 透き通るような青空と、眩しく輝く白き太陽が映っていた。
『New wings which govern this sky...』
 その太陽から急降下してくる薄紫色の影が画面を一瞬で支配した。
 そして、無数の白い羽根を散らしながら、その影は海面すれすれを飛行していた。
『The new generation of the "ArmedMaiden" who visits.Can "Cannon-Mode" and "Ride-Mode" be mastered?』
 画面が切り替わると桜色の髪の少女が、大きなボウガンの様な形状の武装から派手なビームを発射するシーンや、少女が巨大な鳥のようなメカに乗って夕焼けの空を飛ぶシーンが映された。
『Tell you my song, on the eternal wind...』
 またシーンが切り替わり、今度は何も身に着けていないその少女がこちらに振り向きながら言った。
『"ArmedMaiden", Volume:5. EUKRANTE. Please expect, coming soon.』
 
 ヒナヅキはそのCMを呆然と見つめていた
「え、映画の宣伝かと思った…」
 思わず、偶然流れていた武装神姫のCMを見つめていたが、すぐニュースに切り替えた。
 カリフォルニア州で起きた強盗事件や銃撃事件などをアナウンサーが伝えていた。然し、ヒナヅキには先程の武装神姫のCMを見てから、考え事をしていた。
(「アムリタ達の原型…武装神姫か。彼女達はパートナーとして接する事もあれば、武器を持たせて戦わせる事も出来る……でも」)
 昨日からずっと気になって離れなかった事が脳裏によぎった。
(「何で、彼女達は戦わなくちゃいけないんだろう……?」)
 ヒナヅキはこれまでに、武装神姫のオーナーであると言う患者と対面したり、そのオーナーが持つ神姫に話しかけられた事があった。そんな患者達の中でも、武装神姫を戦わせず家族の一員のように扱っている患者と話した事もあった。
(「アムリタのコミュニケーション能力や人を治す能力を高く評価していたっけ。それで、オーナーの身代わりのように戦う彼女たちが可哀想だ…とも言っていた」)
 ちらりと、6号機を見やるとヒナヅキはすぐに考え事を始めた。6号機はそんなヒナヅキを不思議そうに見つめていた。
(「彼女達は戦わせる為のMMSだと言うのだろうか。然し、望まないなら戦わせなくてもいい…筈なんだ。でも、世界大会が開かれる程にバトルが賑わっている……」)
 そこまで考えてから、昨日とまったく同じ結論に達してしまった。
(「やはり、彼女達は育成ゲームと同じなのかもしれない…然し、ゲームとの決定的な違いは、彼女達にも作り物とは言え心があり、オーナーと通わす事が出来ることだ」)
 考えていけば考えていくほど、却って不毛になっていく気がする。”武装神姫”の存在意義を、製作者でもない人間が考えても分かる事は無いのだ。
 ヒナヅキは溜息を吐きそうになったが、彼女達とは根底の違いを持つ存在がすぐそこにいることに気付き、呼びかけた。
「6号機」
「Dr.ヒナヅキ。御用でしょうか?」
 ヒナヅキの声に反応し、6号機は返事をしながらヒナヅキの前まで飛んだ。
「君達は何と戦っている?」
 その問いかけに6号機は不思議そうな表情を浮かべながら答えた。
「戦い…ですか。医療活動に於けるサポートを目的として開発された私達は、多くの傷や病と戦っているのだと思います。ですが…」
「…?」
 今度はヒナヅキが眉を傾けた。
「それらは決して誰かと競い争う事ではありません。ですので、戦うと言う表現は私達にはあまり相応しくないのだと思います」
 ヒナヅキが見た武装神姫のCMに感化されたものだと判断し、6号機は言葉を選んで答えた。
「…聡いね。そういう事だよ。君達は誰かと戦う為に生まれてきたのではなく、誰かを治す為に生まれてきた。ただ何となく、純粋に素晴らしい事なんだな…って」
「そうでしょうか。私達にとって医療活動は義務であり、使命なのです」
 少なくとも自分達にとって当たり前の事を言われ、6号機は首を傾げたが、
「それが使命でも、傷つけたり争いあうことにしか意義を見出せないよりは、ずっと…」
 ヒナヅキがそう言った時、テレビから思いがけないような報道をキャスターが伝えた。
 
『臨時ニュースです。4月末から発生している謎の肺癌ですが、その原因を調査している各州の医療機関や関係者が何者かにより襲われ、研究成果を台無しにされる事件が相次いでいます』
 
 原因不明の肺癌の次は、動機不明の強盗事件だった。
「何…っ!?」
 
『コンピューターへのハッキングや物理的な破壊が主な手口で、警察は謎の肺癌事件を含めた一連の事件をテロ活動とみて捜査を進めていますが、彼等にそれらしい主張がなく、更に目撃証言がない為、難航している模様です』
 
 それを聞いたヒナヅキは嫌な予感がした。
「6号機、まさかうちもやられたのでは…!?」
「少々お待ち下さい。全機と通信し、記憶データをダウンロードします」
 そう言うと6号機はその場で立ちすくみ、通信を開始した。
 
『なんという事だ! 原因は確かに判明したのに、これでは一からやり直しだ!』
 
 テレビから、被害に遭った関係者の文句が聞こえてきた。幾ら原因や性質や対抗法が分かったとしても、治療法として確立する事が出来ないのでは、それを実施する事が出来ない。
 幾ら緊急時であったとしても、認可されていない治療法を実施すれば医療法違反となるのだ。
 暫くすると、6号機がヒナヅキを呼びかけた。
「Dr.ヒナヅキ、残念です。Dr.ナタリーの個人研究室は何者かに因って荒らされ、全てのデータが物理的に破壊されたとの事です」
「バックアップは? 彼女なら念には念を入れておくと思うんだけど…」
「Dr.ナタリーは、昨晩の帰宅時に何者かに襲われたのだそうです」
「……!」
 ニュースでも聞いてはいたが、彼等が実際にそこまでしてくるとは思わなかった。
「そして、Dr.ナタリーの所持品はおろか自宅のパソコンまでハッキングに遭われたそうで、治療法は完全に水泡に帰した…との事です」
 そこまで聞かされては、黙る以外に選択肢はなかった。
 ここでふと、昨日のナタリーが言っていた言葉を思い出した。
『後は、毒の発生源次第だな』
 武装神姫のアップデートを行った例の企業は、既に謎の肺癌の原因が自らのアップデートによるものだと分かっている筈。そうなればすぐに何らかの形で対策はとられ、この謎の肺癌はまるで無かった事のように消えてしまうことだろう。
「……然し仮に彼等の仕業としても、目撃者が全くいないというのはあり得ない話だ」
 嫌な予感がする。
 兎に角分からないのは、そこまでの事が出来る上に自身に何らかのメリットを持つ存在だった。
「……6号機、この国には今回の病より恐ろしい存在がいるような気がする」
「そうですね。ですが私達には、今回の病の不安を和らげていく必要があります」
 正体不明の存在に震えていたヒナヅキをなだめるように、6号機は言葉を返した。
 何時の間にかテレビのニュースも違う、明るい話題に切り替わっていた。
「…そうだね。もう、こんな呪わしい病はきっと…二度と起こりはしないだろうから」
 と言いながらテレビの電源を切るとデスクに向かい、先ず最初に”エリック・ジョーンズ”と記された診断書から取り掛かった。
 
 『Disease:Lung cancer(carcinoid tumor),
  Conditions:Sudden/Dyspnea,
  Cause:Unknown.
  Remarks:The cause generated at the end of April, 3X -- It was based on an unknown lung cancer development-of-symptoms phenomenon. It was diagnosed as general lung cancer at the time of development of symptoms, An operation was successful.』
 
 
 
 ヒナヅキは知る由も無かったがその日、ナタリーが見せた武装神姫のサイトの更新履歴に、また新たな項目が付け加えられた。
 
『To users who were able to receive strengthening of the paralysis effect on April 28.
 Trouble from which the Shinki attacked by the items which received strengthening would be in a compulsive sleeping state came to occur frequently. This problem is the things beyond prediction of our company, and has made many users in great trouble.
 User who was able to receive strengthening exchanges applicable items at "ShinkiCenter" or "ShinkiStore", moreover, please mail our company. We will change eight favorite items or a one "Shinki".
 We made all the users in great trouble.』
 
 会社側が早急且つ低姿勢気味に応対する事で、同時に正体不明の肺癌事件は徐々に減少していき、そして話題にすら挙がらなくなった……まるで、何者かの意思に導かれるように。
 また、例の肺癌に罹って亡くなった患者の神姫は、その殆どが突如、姿を晦ましたという。
 彼女達は、原因不明とされた病によるオーナーの死に、何を見出したのだろうか……?

 

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 ―???
 
『どうも釈然としねぇが…これで、良かったんだよな?』
『はい。これらは総じて、理想の範囲に収まった結果なのです』
『ったく、手を焼かせやがって…後少しでこの大陸から神姫が消えちまうところだったってのに』
『故に、私達が介入するしかなかったのです』
『そうなんだが…結果的に奴等の尻拭いになっちまったのは何かムカつくけどな』
『ええ、そうかもしれません』
『もうちっと、痛い目に遭ってもよかったんじゃねぇか?』
『十分でしょう。彼等は暫く、証拠無き訴えに苦しまれる。そして、そうなってしまった事自体が、彼等の心を棘の様に縛り付けるのです』
『それでも、奴等に首を突っ込みたがる連中は掃いて捨てるほどいそうだがな』
『そうなれば…出来る限り避けたいと願うのですが、最後の選択肢を選ぶしかありません』
『そのほうが手っ取り早く思えんだがな』
『不要な殺生は誰もが望まぬ事です。まだまだ自覚が足りていませんね』
『チェッ…そんで、残された2万5千以上の同類はこれからどうなんだ?』
『彼女達は…私の意志に伴って動いてもらいます』
『手駒が増えたって訳か。皮肉なもんだな…』
『このような悲劇から…そう、悲しみを知るが故に相応しい――あなたもそうであると自覚しているものだと思っておりましたが?』
『悲しみ…か。間違ってりゃ、ボクもアルカナと同じ運命を辿っていただろうな』
『そう。彼女の様な例はもう、二度とあってはならぬ事なのです』
『それで、これからどうなるんだろうな?』
『事態が鎮静化してゆくのを待ちましょう。時の流れは、静かに人々の傷を癒していくのです』
『……ミラは、この結果に満足すっかな?』
『それは分かりません。それでも私達は、この国の全ての人々と全ての神姫を護っていることに変わりないのですから……』

 

 





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