風雪、士と共に幻想を風靡す(Ⅱ) ◆F.EmGSxYug
ドナルドが吠えると同時に、私は横に跳んだ。リンを掴んで。
今の私は文以上に速い。一跳びで廊下を抜け出す。二跳びで、改札口へ。
最初は固まっていたリンだけど、しばらくすると状況を把握したのか暴れ始めた。
「ちょっと、放して、放しなさいっ!」
「放したら、あんた死ぬわよ」
リンが何か言葉を返す間さえ与えず、爆発が起こった。
ドナルドのものでもなければ私のものでもない。
『援護は遅かったか?』
「ううん、早過ぎるくらい」
爆発は、空からのロケットランチャー。
ドナルドと色々と話している間、私は念話でグラハムと通信していた。
私が撃ってと合図を送ったら、すぐに駅に撃ち込むように、と。
あんなことを馬鹿正直に話したのは、時間稼ぎだ。
日光より明るく炎を舞い上げる元・駅の廊下を見やりながら、駅の外に出る。
頭はすっきりしている。体だって力が溢れている。
今さらだけど、文は凄かったんだな、って思う。
……けれど、感慨に浸ってる暇はない。猶予は精々2分半。
グラハムにこれからすることを伝えると、驚いたような反応が帰ってきた。
けれど位置的に話し合っている猶予はないと伝えて、無理やり話を打ち切る。
そのまま駅の外、とりあえず安全そうな地面の上に、リンを放り出した。
変な悲鳴を上げるリン。
「いだっ!?」
「私が飛び上がったら、できるだけ遠くに走って。わかった?」
「っ……誰があなたの言う事なんか……!」
「言っておくけど、私に時間がないの。まさかあんた、死にたいのさ?」
「死にたくなんか!」
「じゃあ走って」
答えは聞かない。聞いている暇が無い。
まだ喚いているリンを無視して、上空へ飛び上がる。
文の霊力がプラスされているおかげだろうか、息が切れることはなかった。
視界には聞いた通り、グラハムが操縦するA-10。少しだけ、顔が歪んだ。
……実を言うと、ほんの少し怖い。
自分がちゃんと、文の力を扱えるかどうか……
今の私は文でもあるってことは分かっているけれど、それでも。
『ええいっ……不可能だと思ったらすぐに諦めろ!』
「わかってる」
そう返して、空中でプレミアム首輪改を付ける。
ここからは禁止エリアを通り続けることになるんだから当たり前……
グラハムももう、着けてるらしい。
そのまま、こちらに向けて飛んでくるA-10――そう、寸分違わず私の方へ。
落ち着いて大気を読む。文の力、風を操る力は、今だけ、この身に。
グラハムはできるだけ速度を落としているけど、それでもこっちへ来るのは数秒で済んで……
通りすぎる寸前、私はA-10に手足を向けた。
「マッハキャリバー!」
『All right』
編み上げられる魔力の紐は、体を防護しながらA-10の側面に絡みつく。
風で前髪が舞い上がって、顕になる額。一瞬まばたきしそうになって、けれど堪える。
A-10が巻き起こす風を、文の力で操作して、機体へと私の体を吸い付かせ……
マッハキャリバーが機体側面に着機したと同時に、自分の足を凍らせて固定した。
「――できた!」
思わず声が漏れる。A-10の上で。
真下では地面の光景が今まで見たことのないような速さで動いてる。
飛んでいる飛行機に乗る、それも生身で……正直、ここまでうまくやれるとは思わなかった。
……一人と一足も同感だったみたいだ。
『成功しましたがそれでも、生身で攻撃機に乗り移るというのはかなり無茶だったと思います』
『全くだ。無謀にも程が……その格好はどうした? まるで射命丸のような』
「後で話すわよ。それより、このまま駅に攻撃しようとしたらさ、
あと二分で何回できる?」
『逃げるつもりではなく、乗ったまま攻撃するつもりだったのか?』
「そうよ。今の私なら、一緒に攻撃できる……と、思う」
後ろの地面に取り残され、消えていった駅を一瞬だけ振り返りながら、そう返す。
私の作戦は単純だ。
リンを連れ出してすぐに駅を脱出して、ドナルドごと駅を攻撃する。
ドナルドは飛べない、だからこの高さでこの速度なら反撃できない。
もしあいつが私と同じ能力なら、きっと空を飛べるようになった。
けれど、人が空気を吸う必要がなくなってもそれだけじゃ空を飛べないように、
ドナルドは、いくら魔力があったってどうやっても飛べない。
視線を戻す。デパートが右に現れて、後ろに流れていった。
A-4からF-4にループしたんだろう。
『全く無茶をするものだ……そうだな。
君が張り付いた以上空気抵抗が増しているし、そもそも落とさないと君が墜ちる』
「大丈夫。風を操れるから落ちない、今の私は」
『そうだとしてもフルスピードは無理だ。恐らく、二回か。
どの道二回も攻撃すれば、ドナルドもこちらの意図に気付き駅を離れるだろう』
「わかった。飛ばして」
同時に、加速し始めるA-10。大気が湿気っていることを忘れるくらい、風が鋭い。
バリアジャケットと髪が靡く中、風を操ってデイパックが吹き飛ばないようにして、弓を取り出した。
剣を口に咥え、能力を引き出す。
「ずっ――!」
頭が痛む。それを堪え、見え始めた駅を睨む。
外に出ようとしていたドナルドがこちらを見上げるや否や、
駅の中に戻り防壁を作り始めるのが確認できた。
必要なのは力押し。弓を扱える自分と、霊力に満ちた自分。
元々あった矢は使わない。矢は、自分の氷で編み上げる。
番えた矢は、出来る限りの風を纏わせ、加速させる――
『コマンダー、目標視認――攻撃を開始する!』
「――――ッ!」
グラハムが言ったのと同時に、放った。
音速を越えて着弾し竜巻じみた暴風を巻き上げる、矢。
更に続いて次々と叩き付けられるロケットランチャーの弾丸。降り注ぐ爆撃は、吹雪のように。
だからというわけじゃないんだろうけど、駅の火事は逆に収まり始めていた。
あまりにも爆発が多すぎて、燃料となる建築物を失ったために。
『順調ではありませんね』
穴だらけというには崩壊しすぎている駅の上空を通り越すとともに、そんな言葉が聞こえた。足元から。
剣を持ち直して、問いかける。
「マッハキャリバー?」
『駅には、私にも感知できるほどの魔力の渦が存在していました。
ダメージは確かに与えていますが、撃破するにはあと二回は攻撃が必要です』
『……先程以上の手が必要ということか』
「切り札なら、あるわ。とっておきのが」
ループで一瞬にして切り替わる景色を余所に、
落とさないよう注意しながらあるものを取り出す。
取り出したのは、一枚のカード。文字通りの、切り札。
「魔法カード、発動」
私が呟くとともに、一振りの剣が具現化される。それを、弓に番えた。
同時に、私たちの目にまた映り始める駅だったもの。
……今はもう、駅じゃない。
度重なる破壊だけではなく、ドナルドが固めた防壁などで肉眼でもわかるほどに形を変えている。
それは即席であっても、城と呼んでもいいのかもしれない。
「マッハキャリバー」
『Load Cartridge』
だから、剣を覆う。
霊力最大で風を操り、城まで届く道程を編み上げる。
嵐の帯は、真っ直ぐに城へと伸びる。
グラハムは一足先に攻撃を開始し、城はあっさりと紅蓮の炎に包まれ――
それでも、揺らぐは空気のみ。城は少しも揺れ落ちない。
その様を意に介さずに、マッハキャリバーに指示を一つ追加する。
驚いた様子だったけれど、反論は気に介さない。
確かにアレは城だ。
けれど、そうであろうと、撃ち抜いてみせる。
■
「ど、どういうこと? あちらから来た飛行機が、また同じ方向から……
あいつがくっついていた以上、別の機体だということはないでしょうし……
駅はああなってしまったし、もう何がなんなのっ!」
炎上する駅から少し離れた場所で、草むらに体を伏せながらリンは叫び続けていた。
誰に対してでもなく……強いて言えば、ありとあらゆるものに対して。
言うまでもないが、彼女はループなど知らない。混乱するのは当然だ。
彼女は結局のところ、どこまでも蚊帳の外だ。今に始まったことではない。
知っているようでまるで違うKAITOと出会った時から、ずっとそうだった。
むしろ攻撃機が同じものだと気付けただけ、彼女は冷静だったかもしれない。
吐き捨てながら、それでもリンは動けない。
土に伏せるなど、ここに来るまでの彼女にはとてもできなかっただろう。
けれど立って走ろうにも、いったいどこへ行けばいいのか。
彼女にはどこにも行く宛てはない。信じられる相手などいない。
クラッシャーはもう、死んでしまった……
「風……上から?」
思わず、リンは空を見上げる。
依然として、曇ったままの暗い空。だが、その曇天が掻き乱されている。
風の源は、今、上空にいる攻撃機――その翼に立っている少女から。
風音を響かせながら、チルノは弓を引く。
養由基の弓は、生半可なことでは壊れない。
故に、出来る限りの力――膂力、魔力、霊力、あらゆる力――で、弦を張り詰めさせる。
「エクス――」
番えた聖剣の名を呼ぶ。その霊力が収束し、吹き荒ぶ。
その効果は簡単だ。攻撃力を倍加させる、という単純な。
伝承に関する知識がある者なら、誰でも知っている。これが湖の妖精が鍛え、返還された剣であることを。
仮にも彼女は湖の妖精――ダム・ド・ラックの系譜である。この剣を扱えないはずもなく。
ただ乱雑に積み重ねた城を、この剣が打ち破れないはずもなければ。
自分一人の力を永久かつ最大限に使えるだけのドナルドには、
最大限に使える力そのものを限界まで引き上げた攻撃は瞬間的な上昇であろうとも防げない!
「――カリバーッ!!!」
手を放す。王の剣が放たれる。
編まれた空気の中を輝き走る剣は、流星のごとく。
光の筋を残しながら、城を突き破り――
地に突き刺さると同時に、太陽のような黄金の爆発が城を――いや、エリア一帯を覆い隠した。
空にいるチルノの目が眩むほどの光。次いで巻き上がる嵐。
地上で起こった爆発による風は、上空にいるA-10さえ揺らす。
『ぬっ――』
「私、降りるよ」
『なに? おい、待――えぇいっ、私はB-3に着陸する、あまり離れるな!』
答えを待たず、チルノは跳んだ。
空を舞うその姿に、思わずリンは呆けて――地を走る影を、見落とした。
駅だったものへと軌道を向け、そちらへ視線を向けているチルノも、また。
あれほどの爆発を起こした割に、駅だったものは今までの攻撃に比べて破損していない。
理由は、ただ一つ。彼女が物理的な衝撃を抑えたからだ。
『なぜ、あの剣の魔力に非殺傷の設定を加えるように言ったのですか?』
「死なずに済ませられるなら、それで十分でしょう?」
『…………』
マッハキャリバーの返答はない。そんなことは、チルノも予想している。
魔力の残滓が埃のように舞う中、彼女は着地のため減速を開始して……
ようやくドナルドがよろめきながら、外に出るのを視認した。
致命傷はない。けれど、全力で走れる体でもない。
――今の私なら、三十秒もあれば取り押さえることができる。
そうチルノは考えたところで、自分自身の馬鹿さを呪った。
「あいつ……!」
減速していた体の向きを変える。翼を傾けさせて、加速する。
今の彼女は、ドナルドよりずっと速い。けれど、距離が違う。何よりも、高度が。
え、とリンが声を上げる暇もない。
マッハキャリバーのローラーを走らせながらリンの近くに地面に着地した時には、
ドナルドは彼女の首にランサーアサルトライフルを突き付けていた。
「あははははっ、運がなかったねぇ!
わざわざ殺さなかったってことは、君にとって何らかの価値があるんだろう――
或いは、価値がなくても生かさなきゃいけない理由とか?」
「ド、ドナルド、これは……」
追いついてきたチルノに対し、勝ち誇った笑みを向けるドナルド。
状況を理解していないリンに対して、もはや彼は体裁を繕わない。繕う価値がない。
ほんの一瞬顔をそちらに向けると、更に笑みを歪ませて脅しつけ――
「うるさいなぁ……リンにはもう選択権はないんだよ!
さて、君にとって価値があるってことは、つまり人質にするにはじゅうぶ……
えっ?」
視線を戻した瞬間に、困惑を強いられた。
チルノが、消えている。
状況を理解するより速く背中に走る、衝撃。
悲鳴と共に、ドナルドは宙へと投げ飛ばされる。
「ぐぁぁっ!?」
「――幻想、風靡!」
理解出来ないまま、今度は逆に地面へと叩き付けられる。
回転する視界の中、ドナルドはかろうじて空に浮かぶチルノの存在に気付き、理解した。
答えは単純にして困難だ。
一撃目は「目を離した一瞬の隙に背後に回って蹴った」、
二撃目は「ドナルドが吹き飛ぶ以上の速度で動いて回りこんで蹴った」、それだけ。
文の速度とチルノが得た能力、両方を最大限に発揮してこそ成せる絶技に、
消耗したドナルドでは追いつけはしない――!
「ぐっ……ドナルドマジックゥゥゥゥ!」
姿勢を崩し転がりながらも、ドナルドは残存魔力全てを費やして十近い凶器を錬成し、空へと射出する。
もっとも、それも既にただの悪あがきでしかない。
チルノが剣を振るうと共に、巻き起こった風が半分を吹き飛ばし、残りが凍りついて砕けた。
その隙にドナルドは起き上がり、撤退するため三国志カードを取り出そうとし……
「――させないっ!」
空へと消えた。カードが、ではない。カードが入っているデイパックが、だ。
音より速く踏み込んだチルノの剣は、即座に相手の逆転の一手を斬り落としていた。
ドナルドの魔力は残っていない。そして、今、全ての荷物を喪った。
そのことが示すのは、一つである。
「く、くそぉっ!」
もはや策も何もなく、ドナルドは逃走を図ろうとした。つまり、そうしようとすることすらできなかった。
後ろを向いた瞬間にふくらはぎを剣で切り裂かれ、ドナルドは無様に転倒する。
顔を起こした瞬間に彼が見たのは、無表情でもう片方の剣を突き出すチルノの姿――!
「ひっ!」
「…………」
反射的に悲鳴が漏れる。当然、何か考えての行動ではない。
……けれど、それでチルノの剣は止まった。ドナルドの目前で。
■
ドナルドの微かな声を掻き消すように、風が吹いた。
見下ろす。目の前にいる相手を、剣を突きつけて。
もう、ほとんど決着は付いている。
だから余分なものとして蓋を閉めた、怒りという感情が溢れ出ようと沸き上がってくる。
傲岸不遜で、文の死体を辱め、まさに悪そのものだと言える存在。
……私の、敵。
「……っ」
唾を飲むような音を喉からさせて、ドナルドは右手を上げた。
開いた手から、歪んだ銃がからんと音を立てて落ちる。
……ホールドアップって奴だろうか。
足を斬られた以上、この殺し合いが終わるまでまともに動けないのは確かだ。
泥だらけで、傷だらけで助けを乞う姿は、あまりにも弱々しい。
かつて私に怯えたリンと、何一つ変わらなく、隙だらけで。
傷つけることも、殺すことも……容易だと思う。
腕に力を込める。ミラクル・コンタクトの残り時間は僅かだ。
文の力でドナルドを殺す。それは、仇討ちとして最良の形かもしれない。
少し念じるだけで、風は相手の首を胴から切り離すはずだ。
それだけで、殺せる……
――もう私に打ち勝てたきみなら、出来るわ
ほんの一瞬だけ、眼を閉じて、開く。
そうして、気持ちを吐き出すように、息を吐いて……
私は剣を下ろして、背を向けた。
「……バカだねぇっ!」
そんな声が響いた。響いたのを耳で聞くよりも早く、私は動きを大気の震えから感じ取っていた。
だから――それがドナルドの遺言で。
血の噴き出す音がするのは、当然だ。
こいつが腕を振るより早く、私が後ろに向けて剣を振り抜いたんだから。
「…………バカ、か。
だから、知ってるわよ……そんなことは」
向き直る。脇に銃が落ちていた。
素早く拾って、私を斬ろうとしたんだろう。でも、それはもうできない。
体に銀杏の葉のような切り込み……心臓にまで届く切り込みがあるから。
私がこうしなかったら、私がこうなっていた。
――いいえ、効率を考えるなら、そもそも最初からこうするべきだった。
「でも、間違いじゃなかったよね、文?」
バスタードチルノソードから手を放す。
空を見上げると同時に、感覚が消えていく。雪が止む。瞳が、髪が、元に戻る。
カードの効果であたいの中に来てくれた文の力が、消えていく。
それは、ただの時間切れでしかない。
それでも……だからこそ風が吹く中で、考えてしまう。
風に導かれるように、私の前に何かが飛んできた。反射的に、掴む。
……文が使っていた、羽団扇だった。
飛んできた方向――ドナルドの荷物が四散した場所を見る。そこにあるのは、見覚えのあるカメラ。
「――――」
想いを馳せるように、空を仰ぐ。
あたいの取った行動を見た文は、満足して消えたのか、それとも罵っただろうか。
どうか前者であってほしいと、あたいは願う。
■
ドナルドは死んだ。自分は助けてもらった。
リンはそれを確認しても、腰が抜けたままだった。
目の前で突如向けられた凶悪な殺意と、人智を超えた幻想の戦い。
そんなことよりまず、なぜ自分が助けられたかが分からない。
リンが何も出来ず、言えないまま……チルノは彼女へ振り向く。
「ひっ」
思わず漏れる悲鳴。腕は自然に、後ずさる動きをする。
「…………? 大丈夫?
ドナルドに何かされたわけ?」
「……いえ、大丈夫、ですけど」
「そう」
チルノはそっけなく言うと、地面に落ちたドナルドの荷物を集め始めた。
無言で、凍りついた空気。彼女にとっては気にならないのかもしれない。
けれど、何もかもに押しつぶされそうなリンは、言葉を搾り出して風穴を開けないとやっていけない。
「なんで……ドナルドを許そう、と……」
「そうやって殺し合い続けてたら、最後の一人にまるまで永遠に終わらないじゃないのさ。
なら、我慢できるのが我慢して止めたほうがいいでしょ」
「そんなこと、できるわけ……」
「あんたには求めないわ。あたいがするだけ」
そう言ってカメラを大切そうに仕舞うチルノに、リンは言葉を続けることができない。
分からないことだらけだった彼女も、一つだけ分かったことが出来た。
きっと、どうやっても自分にはチルノの考えなんて分からない――
そんなリンの思考を知ってか知らずか、チルノはそう言えば、と付け足した。
「なんであんた、ドナルドと一緒にここにいたの?」
「え? あ……」
口ごもりながらも、リンは話し始める。
ドナルドの出会い、病院で咲夜に出会ったこと……そして、
「塚モールから、ロボットが出てきた?」
「確か、ドナルドはそう……」
新たに現れた、謎の体の存在を。
話を聞くこと数分、チルノは短く明確に答えを出した。
「リンの言い方、あいまいすぎてわかんない」
「…………」
返せる言葉はない。
リンをあてにしなかったドナルドが詳細に話しているはずがないので、
彼女がちゃんと話せないのは当たり前なのだが。
またしても止まる会話に、横から声が入り込む。
「……仇は討ったのか?」
「グラハム? 討った……ことに、なるのかな」
現れたのは、グラハム・エーカー。
ランサーアサルトを拾い上げながら放たれた問いに、チルノはそう答えた。
そうか、と短く返し……彼は視線をリンへと向ける。
「彼女はどうする」
「連れてくわよ。放っておける状況じゃないかもしれないし」
「というと?」
「後で話す。たぶん、タケモトとかに聞かないとあたいにはよくわかんないし。
それよりA-10は……」
「あれか?
恐らく、軽い調整でもう一度の戦闘には耐えられる」
「一回しか使えないって言ってたじゃないのさ」
「先程の戦いで、私は一度もガトリング砲を使わなかった。
撃ったのはロケットランチャーのみ……
すなわちガトリングの方は消耗していない、ということだ。
ロケットランチャーを外せば、片手落ちながらも万全で使用できる」
「……意外と考えてたのね」
「ま、攻撃を受けていたのならこうもいかなかっただろうが……
相手が対空攻撃に欠ける存在で助かった、というべきか」
「わかった、とりあえずデパートに戻ろう。行くよ、リン」
「あ…………」
歩き始めるチルノに、リンは何か言い返そうとしたものの……言葉が浮かばない。
生き残るためには、ついて行くほうがいいと分かっている。
それでも根本的な部分にある何かが、彼女について行くことを拒否していて……
グラハムが、リンにだけ聞こえるように言葉を発した。
「付いて行きたくない、という権利はこの私は与えない。
私は君の不幸を知らない。知っているのはチルノの不幸だけだ。
そちらの不幸をなんとかしようとすることはできても、君の不幸はできない。
故に、知っている不幸をなんとかするだけだ。
拒むというのなら引き摺ってでも連れて行く」
そう言って歩き出したグラハムの言葉には、有無を言わせない迫力がある。
渋々、リンも歩き出した。
依然として、太陽は雲から出ようとはしない。
【B-4 /2日目・日中】
【チルノ@東方project】
[状態]疲労(大)
[装備]バスタードチルノソード@東方project派生、養由基の弓@三国志Ⅸ(矢残り5本)
リボルバーナックル&マッハキャリバー@リリカルなのはStS(残弾0/6、予備18)
プレミアム首輪改
[道具]支給品一式、エクスカリバー@遊戯王DM、方天画戟@三国志Ⅸ
葉団扇@東方project、射命丸文のカメラ@東方project
[文のデイバッグ]
支給品一式(食糧一食、水二食消費)、BF-疾風のゲイル@遊戯王5D's
BFデッキ@現実、デュエルディスク@遊戯王GX、サバイバルナイフ@現実
至高のコッペパン@ニコニコRPG、拳銃(0/6予備弾24)@デスノート
[思考・状況]
基本思考:英雄として殺し合いに乗った者を倒し皆を守る、主催を倒す
1:敵は倒すだけで殺すべきじゃないのが理想、けれど現実は――
2:デパートに戻る
【備考】
※空は飛べますが体力を余計に消費します
※氷符 アイシクルフォールは制限対象に入っていないようです。
弱体化してはいますが、支障なく使えます。
但しイージーモード限定です。自機狙い5way弾は出せません
※バスタードチルノソード越しに並行世界の情報を得ることで、その世界の自分の能力を使えます。
ただし並行世界の自分の情報と混濁するため記憶障害などの負担が掛かります。
※並行世界の知識を得ました。自分が必要とする能力を完全に再現できます。
※だいぶ知的になりました。以前に勝手に部下にしたことも意味はないと思っています。
※会場のループを知りました。
※バリアジャケットはいわゆるアドベントチルノと同じデザインです。
※エクスカリバー@遊戯王DMが使用可能になるのは12時間後です。
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダム00】
[状態]:疲労(中)、ほっぺたにビンタ痕、頭部にダメージ、思考異常
[装備]:緋想の剣@東方project、プレミアム首輪改、ランサーアサルトライフル(41/350)@Gears of War2
[道具]:支給品一式×2(一食分食糧と水消費)、DMカード(悪魔のサイコロ)@遊戯王シリーズ
キッチリスコップ@さよなら絶望先生、不明支給品1
A-10のマニュアル(英語)及びキー@現実?(おじいちゃんのエースコンバット6)
[思考・状況]
1.文の分までチルノを守る+チルノの暴走を止めたい
2. デパートへ移動。ロボットとやらが気になる
※参戦時期は一期終了後(刹那のエクシアと相討ちになった後)。
※自分を取り戻しましたが、また戻ってしまいました。
※会場のループを知りました
※ヒテンミツルギ極意書を見ましたが、正しい理解をしてるかどうかは不明です
※A-10はB-3にキーを抜いて放置しています。燃料の残量は問題有りません。
火器に関しては、ロケットランチャーを外せば万全に戦闘可能です。
【鏡音リン@VOCALOID2(悪ノ娘仕様)】
【状態】顔がぼこぼこ(行動には痛み以外での支障なし)、軽度の疲労、
右腕骨折(応急手当済み)、 精神疲労
【装備】なし
【持物】なし
【思考・行動】
基本思考:最後まで生き残る。
1:チルノ達と行動……する?
2:バトルロワイアルに恐怖。元の世界に帰りたい
※色々と現実逃避しています
※タケモトらの話を聞きました。
今の私は文以上に速い。一跳びで廊下を抜け出す。二跳びで、改札口へ。
最初は固まっていたリンだけど、しばらくすると状況を把握したのか暴れ始めた。
「ちょっと、放して、放しなさいっ!」
「放したら、あんた死ぬわよ」
リンが何か言葉を返す間さえ与えず、爆発が起こった。
ドナルドのものでもなければ私のものでもない。
『援護は遅かったか?』
「ううん、早過ぎるくらい」
爆発は、空からのロケットランチャー。
ドナルドと色々と話している間、私は念話でグラハムと通信していた。
私が撃ってと合図を送ったら、すぐに駅に撃ち込むように、と。
あんなことを馬鹿正直に話したのは、時間稼ぎだ。
日光より明るく炎を舞い上げる元・駅の廊下を見やりながら、駅の外に出る。
頭はすっきりしている。体だって力が溢れている。
今さらだけど、文は凄かったんだな、って思う。
……けれど、感慨に浸ってる暇はない。猶予は精々2分半。
グラハムにこれからすることを伝えると、驚いたような反応が帰ってきた。
けれど位置的に話し合っている猶予はないと伝えて、無理やり話を打ち切る。
そのまま駅の外、とりあえず安全そうな地面の上に、リンを放り出した。
変な悲鳴を上げるリン。
「いだっ!?」
「私が飛び上がったら、できるだけ遠くに走って。わかった?」
「っ……誰があなたの言う事なんか……!」
「言っておくけど、私に時間がないの。まさかあんた、死にたいのさ?」
「死にたくなんか!」
「じゃあ走って」
答えは聞かない。聞いている暇が無い。
まだ喚いているリンを無視して、上空へ飛び上がる。
文の霊力がプラスされているおかげだろうか、息が切れることはなかった。
視界には聞いた通り、グラハムが操縦するA-10。少しだけ、顔が歪んだ。
……実を言うと、ほんの少し怖い。
自分がちゃんと、文の力を扱えるかどうか……
今の私は文でもあるってことは分かっているけれど、それでも。
『ええいっ……不可能だと思ったらすぐに諦めろ!』
「わかってる」
そう返して、空中でプレミアム首輪改を付ける。
ここからは禁止エリアを通り続けることになるんだから当たり前……
グラハムももう、着けてるらしい。
そのまま、こちらに向けて飛んでくるA-10――そう、寸分違わず私の方へ。
落ち着いて大気を読む。文の力、風を操る力は、今だけ、この身に。
グラハムはできるだけ速度を落としているけど、それでもこっちへ来るのは数秒で済んで……
通りすぎる寸前、私はA-10に手足を向けた。
「マッハキャリバー!」
『All right』
編み上げられる魔力の紐は、体を防護しながらA-10の側面に絡みつく。
風で前髪が舞い上がって、顕になる額。一瞬まばたきしそうになって、けれど堪える。
A-10が巻き起こす風を、文の力で操作して、機体へと私の体を吸い付かせ……
マッハキャリバーが機体側面に着機したと同時に、自分の足を凍らせて固定した。
「――できた!」
思わず声が漏れる。A-10の上で。
真下では地面の光景が今まで見たことのないような速さで動いてる。
飛んでいる飛行機に乗る、それも生身で……正直、ここまでうまくやれるとは思わなかった。
……一人と一足も同感だったみたいだ。
『成功しましたがそれでも、生身で攻撃機に乗り移るというのはかなり無茶だったと思います』
『全くだ。無謀にも程が……その格好はどうした? まるで射命丸のような』
「後で話すわよ。それより、このまま駅に攻撃しようとしたらさ、
あと二分で何回できる?」
『逃げるつもりではなく、乗ったまま攻撃するつもりだったのか?』
「そうよ。今の私なら、一緒に攻撃できる……と、思う」
後ろの地面に取り残され、消えていった駅を一瞬だけ振り返りながら、そう返す。
私の作戦は単純だ。
リンを連れ出してすぐに駅を脱出して、ドナルドごと駅を攻撃する。
ドナルドは飛べない、だからこの高さでこの速度なら反撃できない。
もしあいつが私と同じ能力なら、きっと空を飛べるようになった。
けれど、人が空気を吸う必要がなくなってもそれだけじゃ空を飛べないように、
ドナルドは、いくら魔力があったってどうやっても飛べない。
視線を戻す。デパートが右に現れて、後ろに流れていった。
A-4からF-4にループしたんだろう。
『全く無茶をするものだ……そうだな。
君が張り付いた以上空気抵抗が増しているし、そもそも落とさないと君が墜ちる』
「大丈夫。風を操れるから落ちない、今の私は」
『そうだとしてもフルスピードは無理だ。恐らく、二回か。
どの道二回も攻撃すれば、ドナルドもこちらの意図に気付き駅を離れるだろう』
「わかった。飛ばして」
同時に、加速し始めるA-10。大気が湿気っていることを忘れるくらい、風が鋭い。
バリアジャケットと髪が靡く中、風を操ってデイパックが吹き飛ばないようにして、弓を取り出した。
剣を口に咥え、能力を引き出す。
「ずっ――!」
頭が痛む。それを堪え、見え始めた駅を睨む。
外に出ようとしていたドナルドがこちらを見上げるや否や、
駅の中に戻り防壁を作り始めるのが確認できた。
必要なのは力押し。弓を扱える自分と、霊力に満ちた自分。
元々あった矢は使わない。矢は、自分の氷で編み上げる。
番えた矢は、出来る限りの風を纏わせ、加速させる――
『コマンダー、目標視認――攻撃を開始する!』
「――――ッ!」
グラハムが言ったのと同時に、放った。
音速を越えて着弾し竜巻じみた暴風を巻き上げる、矢。
更に続いて次々と叩き付けられるロケットランチャーの弾丸。降り注ぐ爆撃は、吹雪のように。
だからというわけじゃないんだろうけど、駅の火事は逆に収まり始めていた。
あまりにも爆発が多すぎて、燃料となる建築物を失ったために。
『順調ではありませんね』
穴だらけというには崩壊しすぎている駅の上空を通り越すとともに、そんな言葉が聞こえた。足元から。
剣を持ち直して、問いかける。
「マッハキャリバー?」
『駅には、私にも感知できるほどの魔力の渦が存在していました。
ダメージは確かに与えていますが、撃破するにはあと二回は攻撃が必要です』
『……先程以上の手が必要ということか』
「切り札なら、あるわ。とっておきのが」
ループで一瞬にして切り替わる景色を余所に、
落とさないよう注意しながらあるものを取り出す。
取り出したのは、一枚のカード。文字通りの、切り札。
「魔法カード、発動」
私が呟くとともに、一振りの剣が具現化される。それを、弓に番えた。
同時に、私たちの目にまた映り始める駅だったもの。
……今はもう、駅じゃない。
度重なる破壊だけではなく、ドナルドが固めた防壁などで肉眼でもわかるほどに形を変えている。
それは即席であっても、城と呼んでもいいのかもしれない。
「マッハキャリバー」
『Load Cartridge』
だから、剣を覆う。
霊力最大で風を操り、城まで届く道程を編み上げる。
嵐の帯は、真っ直ぐに城へと伸びる。
グラハムは一足先に攻撃を開始し、城はあっさりと紅蓮の炎に包まれ――
それでも、揺らぐは空気のみ。城は少しも揺れ落ちない。
その様を意に介さずに、マッハキャリバーに指示を一つ追加する。
驚いた様子だったけれど、反論は気に介さない。
確かにアレは城だ。
けれど、そうであろうと、撃ち抜いてみせる。
■
「ど、どういうこと? あちらから来た飛行機が、また同じ方向から……
あいつがくっついていた以上、別の機体だということはないでしょうし……
駅はああなってしまったし、もう何がなんなのっ!」
炎上する駅から少し離れた場所で、草むらに体を伏せながらリンは叫び続けていた。
誰に対してでもなく……強いて言えば、ありとあらゆるものに対して。
言うまでもないが、彼女はループなど知らない。混乱するのは当然だ。
彼女は結局のところ、どこまでも蚊帳の外だ。今に始まったことではない。
知っているようでまるで違うKAITOと出会った時から、ずっとそうだった。
むしろ攻撃機が同じものだと気付けただけ、彼女は冷静だったかもしれない。
吐き捨てながら、それでもリンは動けない。
土に伏せるなど、ここに来るまでの彼女にはとてもできなかっただろう。
けれど立って走ろうにも、いったいどこへ行けばいいのか。
彼女にはどこにも行く宛てはない。信じられる相手などいない。
クラッシャーはもう、死んでしまった……
「風……上から?」
思わず、リンは空を見上げる。
依然として、曇ったままの暗い空。だが、その曇天が掻き乱されている。
風の源は、今、上空にいる攻撃機――その翼に立っている少女から。
風音を響かせながら、チルノは弓を引く。
養由基の弓は、生半可なことでは壊れない。
故に、出来る限りの力――膂力、魔力、霊力、あらゆる力――で、弦を張り詰めさせる。
「エクス――」
番えた聖剣の名を呼ぶ。その霊力が収束し、吹き荒ぶ。
その効果は簡単だ。攻撃力を倍加させる、という単純な。
伝承に関する知識がある者なら、誰でも知っている。これが湖の妖精が鍛え、返還された剣であることを。
仮にも彼女は湖の妖精――ダム・ド・ラックの系譜である。この剣を扱えないはずもなく。
ただ乱雑に積み重ねた城を、この剣が打ち破れないはずもなければ。
自分一人の力を永久かつ最大限に使えるだけのドナルドには、
最大限に使える力そのものを限界まで引き上げた攻撃は瞬間的な上昇であろうとも防げない!
「――カリバーッ!!!」
手を放す。王の剣が放たれる。
編まれた空気の中を輝き走る剣は、流星のごとく。
光の筋を残しながら、城を突き破り――
地に突き刺さると同時に、太陽のような黄金の爆発が城を――いや、エリア一帯を覆い隠した。
空にいるチルノの目が眩むほどの光。次いで巻き上がる嵐。
地上で起こった爆発による風は、上空にいるA-10さえ揺らす。
『ぬっ――』
「私、降りるよ」
『なに? おい、待――えぇいっ、私はB-3に着陸する、あまり離れるな!』
答えを待たず、チルノは跳んだ。
空を舞うその姿に、思わずリンは呆けて――地を走る影を、見落とした。
駅だったものへと軌道を向け、そちらへ視線を向けているチルノも、また。
あれほどの爆発を起こした割に、駅だったものは今までの攻撃に比べて破損していない。
理由は、ただ一つ。彼女が物理的な衝撃を抑えたからだ。
『なぜ、あの剣の魔力に非殺傷の設定を加えるように言ったのですか?』
「死なずに済ませられるなら、それで十分でしょう?」
『…………』
マッハキャリバーの返答はない。そんなことは、チルノも予想している。
魔力の残滓が埃のように舞う中、彼女は着地のため減速を開始して……
ようやくドナルドがよろめきながら、外に出るのを視認した。
致命傷はない。けれど、全力で走れる体でもない。
――今の私なら、三十秒もあれば取り押さえることができる。
そうチルノは考えたところで、自分自身の馬鹿さを呪った。
「あいつ……!」
減速していた体の向きを変える。翼を傾けさせて、加速する。
今の彼女は、ドナルドよりずっと速い。けれど、距離が違う。何よりも、高度が。
え、とリンが声を上げる暇もない。
マッハキャリバーのローラーを走らせながらリンの近くに地面に着地した時には、
ドナルドは彼女の首にランサーアサルトライフルを突き付けていた。
「あははははっ、運がなかったねぇ!
わざわざ殺さなかったってことは、君にとって何らかの価値があるんだろう――
或いは、価値がなくても生かさなきゃいけない理由とか?」
「ド、ドナルド、これは……」
追いついてきたチルノに対し、勝ち誇った笑みを向けるドナルド。
状況を理解していないリンに対して、もはや彼は体裁を繕わない。繕う価値がない。
ほんの一瞬顔をそちらに向けると、更に笑みを歪ませて脅しつけ――
「うるさいなぁ……リンにはもう選択権はないんだよ!
さて、君にとって価値があるってことは、つまり人質にするにはじゅうぶ……
えっ?」
視線を戻した瞬間に、困惑を強いられた。
チルノが、消えている。
状況を理解するより速く背中に走る、衝撃。
悲鳴と共に、ドナルドは宙へと投げ飛ばされる。
「ぐぁぁっ!?」
「――幻想、風靡!」
理解出来ないまま、今度は逆に地面へと叩き付けられる。
回転する視界の中、ドナルドはかろうじて空に浮かぶチルノの存在に気付き、理解した。
答えは単純にして困難だ。
一撃目は「目を離した一瞬の隙に背後に回って蹴った」、
二撃目は「ドナルドが吹き飛ぶ以上の速度で動いて回りこんで蹴った」、それだけ。
文の速度とチルノが得た能力、両方を最大限に発揮してこそ成せる絶技に、
消耗したドナルドでは追いつけはしない――!
「ぐっ……ドナルドマジックゥゥゥゥ!」
姿勢を崩し転がりながらも、ドナルドは残存魔力全てを費やして十近い凶器を錬成し、空へと射出する。
もっとも、それも既にただの悪あがきでしかない。
チルノが剣を振るうと共に、巻き起こった風が半分を吹き飛ばし、残りが凍りついて砕けた。
その隙にドナルドは起き上がり、撤退するため三国志カードを取り出そうとし……
「――させないっ!」
空へと消えた。カードが、ではない。カードが入っているデイパックが、だ。
音より速く踏み込んだチルノの剣は、即座に相手の逆転の一手を斬り落としていた。
ドナルドの魔力は残っていない。そして、今、全ての荷物を喪った。
そのことが示すのは、一つである。
「く、くそぉっ!」
もはや策も何もなく、ドナルドは逃走を図ろうとした。つまり、そうしようとすることすらできなかった。
後ろを向いた瞬間にふくらはぎを剣で切り裂かれ、ドナルドは無様に転倒する。
顔を起こした瞬間に彼が見たのは、無表情でもう片方の剣を突き出すチルノの姿――!
「ひっ!」
「…………」
反射的に悲鳴が漏れる。当然、何か考えての行動ではない。
……けれど、それでチルノの剣は止まった。ドナルドの目前で。
■
ドナルドの微かな声を掻き消すように、風が吹いた。
見下ろす。目の前にいる相手を、剣を突きつけて。
もう、ほとんど決着は付いている。
だから余分なものとして蓋を閉めた、怒りという感情が溢れ出ようと沸き上がってくる。
傲岸不遜で、文の死体を辱め、まさに悪そのものだと言える存在。
……私の、敵。
「……っ」
唾を飲むような音を喉からさせて、ドナルドは右手を上げた。
開いた手から、歪んだ銃がからんと音を立てて落ちる。
……ホールドアップって奴だろうか。
足を斬られた以上、この殺し合いが終わるまでまともに動けないのは確かだ。
泥だらけで、傷だらけで助けを乞う姿は、あまりにも弱々しい。
かつて私に怯えたリンと、何一つ変わらなく、隙だらけで。
傷つけることも、殺すことも……容易だと思う。
腕に力を込める。ミラクル・コンタクトの残り時間は僅かだ。
文の力でドナルドを殺す。それは、仇討ちとして最良の形かもしれない。
少し念じるだけで、風は相手の首を胴から切り離すはずだ。
それだけで、殺せる……
――もう私に打ち勝てたきみなら、出来るわ
ほんの一瞬だけ、眼を閉じて、開く。
そうして、気持ちを吐き出すように、息を吐いて……
私は剣を下ろして、背を向けた。
「……バカだねぇっ!」
そんな声が響いた。響いたのを耳で聞くよりも早く、私は動きを大気の震えから感じ取っていた。
だから――それがドナルドの遺言で。
血の噴き出す音がするのは、当然だ。
こいつが腕を振るより早く、私が後ろに向けて剣を振り抜いたんだから。
「…………バカ、か。
だから、知ってるわよ……そんなことは」
向き直る。脇に銃が落ちていた。
素早く拾って、私を斬ろうとしたんだろう。でも、それはもうできない。
体に銀杏の葉のような切り込み……心臓にまで届く切り込みがあるから。
私がこうしなかったら、私がこうなっていた。
――いいえ、効率を考えるなら、そもそも最初からこうするべきだった。
「でも、間違いじゃなかったよね、文?」
バスタードチルノソードから手を放す。
空を見上げると同時に、感覚が消えていく。雪が止む。瞳が、髪が、元に戻る。
カードの効果であたいの中に来てくれた文の力が、消えていく。
それは、ただの時間切れでしかない。
それでも……だからこそ風が吹く中で、考えてしまう。
風に導かれるように、私の前に何かが飛んできた。反射的に、掴む。
……文が使っていた、羽団扇だった。
飛んできた方向――ドナルドの荷物が四散した場所を見る。そこにあるのは、見覚えのあるカメラ。
「――――」
想いを馳せるように、空を仰ぐ。
あたいの取った行動を見た文は、満足して消えたのか、それとも罵っただろうか。
どうか前者であってほしいと、あたいは願う。
■
ドナルドは死んだ。自分は助けてもらった。
リンはそれを確認しても、腰が抜けたままだった。
目の前で突如向けられた凶悪な殺意と、人智を超えた幻想の戦い。
そんなことよりまず、なぜ自分が助けられたかが分からない。
リンが何も出来ず、言えないまま……チルノは彼女へ振り向く。
「ひっ」
思わず漏れる悲鳴。腕は自然に、後ずさる動きをする。
「…………? 大丈夫?
ドナルドに何かされたわけ?」
「……いえ、大丈夫、ですけど」
「そう」
チルノはそっけなく言うと、地面に落ちたドナルドの荷物を集め始めた。
無言で、凍りついた空気。彼女にとっては気にならないのかもしれない。
けれど、何もかもに押しつぶされそうなリンは、言葉を搾り出して風穴を開けないとやっていけない。
「なんで……ドナルドを許そう、と……」
「そうやって殺し合い続けてたら、最後の一人にまるまで永遠に終わらないじゃないのさ。
なら、我慢できるのが我慢して止めたほうがいいでしょ」
「そんなこと、できるわけ……」
「あんたには求めないわ。あたいがするだけ」
そう言ってカメラを大切そうに仕舞うチルノに、リンは言葉を続けることができない。
分からないことだらけだった彼女も、一つだけ分かったことが出来た。
きっと、どうやっても自分にはチルノの考えなんて分からない――
そんなリンの思考を知ってか知らずか、チルノはそう言えば、と付け足した。
「なんであんた、ドナルドと一緒にここにいたの?」
「え? あ……」
口ごもりながらも、リンは話し始める。
ドナルドの出会い、病院で咲夜に出会ったこと……そして、
「塚モールから、ロボットが出てきた?」
「確か、ドナルドはそう……」
新たに現れた、謎の体の存在を。
話を聞くこと数分、チルノは短く明確に答えを出した。
「リンの言い方、あいまいすぎてわかんない」
「…………」
返せる言葉はない。
リンをあてにしなかったドナルドが詳細に話しているはずがないので、
彼女がちゃんと話せないのは当たり前なのだが。
またしても止まる会話に、横から声が入り込む。
「……仇は討ったのか?」
「グラハム? 討った……ことに、なるのかな」
現れたのは、グラハム・エーカー。
ランサーアサルトを拾い上げながら放たれた問いに、チルノはそう答えた。
そうか、と短く返し……彼は視線をリンへと向ける。
「彼女はどうする」
「連れてくわよ。放っておける状況じゃないかもしれないし」
「というと?」
「後で話す。たぶん、タケモトとかに聞かないとあたいにはよくわかんないし。
それよりA-10は……」
「あれか?
恐らく、軽い調整でもう一度の戦闘には耐えられる」
「一回しか使えないって言ってたじゃないのさ」
「先程の戦いで、私は一度もガトリング砲を使わなかった。
撃ったのはロケットランチャーのみ……
すなわちガトリングの方は消耗していない、ということだ。
ロケットランチャーを外せば、片手落ちながらも万全で使用できる」
「……意外と考えてたのね」
「ま、攻撃を受けていたのならこうもいかなかっただろうが……
相手が対空攻撃に欠ける存在で助かった、というべきか」
「わかった、とりあえずデパートに戻ろう。行くよ、リン」
「あ…………」
歩き始めるチルノに、リンは何か言い返そうとしたものの……言葉が浮かばない。
生き残るためには、ついて行くほうがいいと分かっている。
それでも根本的な部分にある何かが、彼女について行くことを拒否していて……
グラハムが、リンにだけ聞こえるように言葉を発した。
「付いて行きたくない、という権利はこの私は与えない。
私は君の不幸を知らない。知っているのはチルノの不幸だけだ。
そちらの不幸をなんとかしようとすることはできても、君の不幸はできない。
故に、知っている不幸をなんとかするだけだ。
拒むというのなら引き摺ってでも連れて行く」
そう言って歩き出したグラハムの言葉には、有無を言わせない迫力がある。
渋々、リンも歩き出した。
依然として、太陽は雲から出ようとはしない。
【B-4 /2日目・日中】
【チルノ@東方project】
[状態]疲労(大)
[装備]バスタードチルノソード@東方project派生、養由基の弓@三国志Ⅸ(矢残り5本)
リボルバーナックル&マッハキャリバー@リリカルなのはStS(残弾0/6、予備18)
プレミアム首輪改
[道具]支給品一式、エクスカリバー@遊戯王DM、方天画戟@三国志Ⅸ
葉団扇@東方project、射命丸文のカメラ@東方project
[文のデイバッグ]
支給品一式(食糧一食、水二食消費)、BF-疾風のゲイル@遊戯王5D's
BFデッキ@現実、デュエルディスク@遊戯王GX、サバイバルナイフ@現実
至高のコッペパン@ニコニコRPG、拳銃(0/6予備弾24)@デスノート
[思考・状況]
基本思考:英雄として殺し合いに乗った者を倒し皆を守る、主催を倒す
1:敵は倒すだけで殺すべきじゃないのが理想、けれど現実は――
2:デパートに戻る
【備考】
※空は飛べますが体力を余計に消費します
※氷符 アイシクルフォールは制限対象に入っていないようです。
弱体化してはいますが、支障なく使えます。
但しイージーモード限定です。自機狙い5way弾は出せません
※バスタードチルノソード越しに並行世界の情報を得ることで、その世界の自分の能力を使えます。
ただし並行世界の自分の情報と混濁するため記憶障害などの負担が掛かります。
※並行世界の知識を得ました。自分が必要とする能力を完全に再現できます。
※だいぶ知的になりました。以前に勝手に部下にしたことも意味はないと思っています。
※会場のループを知りました。
※バリアジャケットはいわゆるアドベントチルノと同じデザインです。
※エクスカリバー@遊戯王DMが使用可能になるのは12時間後です。
【グラハム・エーカー@機動戦士ガンダム00】
[状態]:疲労(中)、ほっぺたにビンタ痕、頭部にダメージ、思考異常
[装備]:緋想の剣@東方project、プレミアム首輪改、ランサーアサルトライフル(41/350)@Gears of War2
[道具]:支給品一式×2(一食分食糧と水消費)、DMカード(悪魔のサイコロ)@遊戯王シリーズ
キッチリスコップ@さよなら絶望先生、不明支給品1
A-10のマニュアル(英語)及びキー@現実?(おじいちゃんのエースコンバット6)
[思考・状況]
1.文の分までチルノを守る+チルノの暴走を止めたい
2. デパートへ移動。ロボットとやらが気になる
※参戦時期は一期終了後(刹那のエクシアと相討ちになった後)。
※自分を取り戻しましたが、また戻ってしまいました。
※会場のループを知りました
※ヒテンミツルギ極意書を見ましたが、正しい理解をしてるかどうかは不明です
※A-10はB-3にキーを抜いて放置しています。燃料の残量は問題有りません。
火器に関しては、ロケットランチャーを外せば万全に戦闘可能です。
【鏡音リン@VOCALOID2(悪ノ娘仕様)】
【状態】顔がぼこぼこ(行動には痛み以外での支障なし)、軽度の疲労、
右腕骨折(応急手当済み)、 精神疲労
【装備】なし
【持物】なし
【思考・行動】
基本思考:最後まで生き残る。
1:チルノ達と行動……する?
2:バトルロワイアルに恐怖。元の世界に帰りたい
※色々と現実逃避しています
※タケモトらの話を聞きました。
【ドナルド・マクドナルド@ドナルド動画(現実) 死亡】
※ドナルドの以下の荷物は、回収されずに放置されています。
支給品一式×4(三食分水・食料消費)、工作に使った道具の余り、魔法の石@Heart Of Darkness
三国志大戦カード(UC董白)@三国志大戦、イージス@FF11
スナック菓子×3、飴×3袋、時計型麻酔銃の予備針(残り2発)@名探偵コナン、果物ナイフ
【ミラクル・コンタクト@遊戯王GX】
OCG化されていない通常魔法カード。効果は
『自分のフィールド上・墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをデッキに戻し、
「E・HERO ネオス」を融合素材とする「E・HERO」と名のついた融合モンスター1体を
召喚条件を無視してエクストラデッキから特殊召喚する』
というもの。
さすがにそれだと役に立たないので素材制限は撤廃されているが、
その代わり融合の成果が一ターン(3分)しか持たないようになっている。
なお、発動後にドナルドの放った銃弾が直撃したため、このカードは失われている。
【エクスカリバー@遊戯王DM】
OCG化されていない装備魔法カード。効果は
・装備モンスターの元の攻撃力を2倍にする。
・自分のターンのドローフェイズをスキップする事ができる。
・デッキからカードをドローした時、このカードを破壊する。
というもの。
支給品一式×4(三食分水・食料消費)、工作に使った道具の余り、魔法の石@Heart Of Darkness
三国志大戦カード(UC董白)@三国志大戦、イージス@FF11
スナック菓子×3、飴×3袋、時計型麻酔銃の予備針(残り2発)@名探偵コナン、果物ナイフ
【ミラクル・コンタクト@遊戯王GX】
OCG化されていない通常魔法カード。効果は
『自分のフィールド上・墓地から、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターをデッキに戻し、
「E・HERO ネオス」を融合素材とする「E・HERO」と名のついた融合モンスター1体を
召喚条件を無視してエクストラデッキから特殊召喚する』
というもの。
さすがにそれだと役に立たないので素材制限は撤廃されているが、
その代わり融合の成果が一ターン(3分)しか持たないようになっている。
なお、発動後にドナルドの放った銃弾が直撃したため、このカードは失われている。
【エクスカリバー@遊戯王DM】
OCG化されていない装備魔法カード。効果は
・装備モンスターの元の攻撃力を2倍にする。
・自分のターンのドローフェイズをスキップする事ができる。
・デッキからカードをドローした時、このカードを破壊する。
というもの。
sm243:風雪、士と共に幻想を風靡す(Ⅰ) | 時系列順 | sm244:COUNT DOWN(上) |
sm243:風雪、士と共に幻想を風靡す(Ⅰ) | 投下順 | sm244:COUNT DOWN(上) |
sm243:風雪、士と共に幻想を風靡す(Ⅰ) | チルノ | sm246:十六夜薔薇 |
sm243:風雪、士と共に幻想を風靡す(Ⅰ) | グラハム・エーカー | sm246:十六夜薔薇 |
sm243:風雪、士と共に幻想を風靡す(Ⅰ) | 鏡音リン | sm246:十六夜薔薇 |
sm243:風雪、士と共に幻想を風靡す(Ⅰ) | ドナルド・マクドナルド | 死亡 |