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それでも僕は死にたくないⅣ ◆jVERyrq1dU





男子トイレから聞こえてきたカイトの声を聞き、アレックスは男子トイレに向かって疾走する。
ハク達がどこに逃げたのか、完全に見失っていたため、ずいぶんと遅れてしまった。
まだ全員無事な事をアレックスは祈った。

男子トイレに飛び込み、そしてアレックスは見た。眼を逸らしたくなるような残酷な光景。
ハクが重傷を負っている。まだかろうじて命を繋いでいるが、すぐに治療してやらないと死んでしまう。
アレックスが目を逸らしたくなったのは、ハクだけが原因ではない。カイトもその一因なのだ。
あまりにも情けないカイトの姿に、アレックスは呆れを通り越して、ただただ悲しくなった。

「なんて、なんて真似をするんだカイトォォ!!!お前はそこまで命が惜しいのか!!」

カイトは、ガクガク震えている。自分が咄嗟にとった行動を漸く理解して、戦慄しているようだ。
カイトの前で、リンが苦痛に顔を歪めている。人生で始めて味わった痛みに苦しみもがいている。
リンはべしゃりと地面に倒れ込んだ。

「痛いぃぃ……痛い痛い……痛いよぉカイト様ぁ……」


「何故だ……何故そんな真似をしたんだ……」

アレックスがトイレに駆け込んで初めて見た光景が今も目に焼き付いている。
カイトはリンの肩を掴み、彼女の体を無理やり自分の前に移動させていた。
そうした理由は、剣埼のパンチを防ぐため。パンチを食らうのが恐ろしかったから。自分の命が惜しかったら。

「────どうしてリンを盾にしたんだ!!!カイト!!お前はそんな奴なのか!!本当にお前は、お前は……!!」
溢れる感情を言葉に出来ない。アレックスはカイトのあまりの情けなさに涙する。
ハクも守ってやれず、挙句の果てに妹の体を自分の命惜しさのために盾にして、人間はそこまで卑怯になれるものか?
自分の命とは、そんな卑劣で醜い真似をしてまで守るものなのか?
アレックスには分からない。カイトの気持ちが全く理解出来なかった。

「ちょ、ちょっと待ってくれ」
剣埼が慎重に口を動かし、アレックス達に言った。なんとなくだが、自分の言葉がいまいち相手に通じていない事には気づいていた。
通じていれば、誤解されずに済んだのではないだろうか。今更後悔しても後の祭りだ。
とにかく一刻も早く、慎重に伝える事だけを告げて誤解を解かなければならない。
だが、剣埼の思惑は功を奏さない。最後の役者がトイレに飛び込んできて、強烈な大音量で叫んだからだ。


「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

クラッシャーはトイレに入り込むなり、そう叫んだ。彼もまたアレックスと同じくハク達を見失い、少しの間右往左往していたのだが、
トイレから聞こえる叫び声からここに隠れていると気がついたのだ。勿論、クラッシャーはアレックスの叫び声も聞いている。
リンが今痛みに苦しんでいるのは、カイトが彼女を盾にしたからだという事を知っている。

クラッシャーはカイトを強烈に憎悪した。リンはカイトの事が好きだった。
彼のマフラーを後生大事に持ち歩き、彼の生存を知ると安堵の涙を流すほど、カイトを愛していた。
そんなリンの気持ちを、カイトはこれ以上なく残酷な方法で裏切った。純粋なリンの思いを、あの男は────

今、リンはきっとあまりの悲しみに絶望しているだろう。リンの心境を考えると、クラッシャーは身を切られるような思いがした。
カイトの事を思っている時のリンの顔は本当に綺麗だった。その顔をもう二度と見られないと思うと……

「リイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!!!!!」
クラッシャーは固まっている五人の間を、すり抜け、リンに向かって走り出す。
だが、悲しい事に、クラッシャーがリンの元へ駆け寄る事を許す者はこの場に一人もいなかった。

「あ、あ、あ、アレク!!リンを、リンを守ってやってくれえ!もうこれ以上リンを……!」
「どの口がそうほざく!!」
泣き喚くカイトに対してきつく返答しながら、アレックスはクラッシャーに掴みかかる。


────どうしよう……誤解が解けない。
剣埼はただ殺し合いに乗っているリンとクラッシャーの悪行を止めようとしているだけだった。
それが不運な事に、剣埼は殺し合いに乗っており、クラッシャーの仲間だと勘違いされている。
さらにこの場に居る全員はリンが殺し合いに乗っているとは思っていない。
銀髪の女が刺されたところを見たであろうカイトという男も、何故かリンの味方をしている。
一刻も早く誤解を解き、クラッシャーとリンを倒したいが、事態はこじれ続けている。
誤解を解こうと思っても、状況に流され解けないという始末。もはや言葉では誤解は解けそうにない。
一番いいのは、行動で示す事だ。剣埼の仲間だと思われているクラッシャーをこの手で倒す。
誤解も解けるし、当初の目的も果たす事が出来る。一石二鳥という奴だ。

剣埼はクラッシャーへと攻撃を仕掛ける。クラッシャーにアレックスと剣埼、二人の男が挟み打ちの形で攻撃を仕掛ける。

「上等だアアアアアアアアアアアアアアアアてめえらあああああああ!!!!運動会プロテインパワー!!!!!」

アレックスは驚愕した。どう見ても重傷を負っているクラッシャーが今まで以上に俊敏なスピードでパンチを放ってきたからだ。
どう考えてもおかしい。ダメージを負う以前よりも、運動能力が遥かに向上している。
アレックスの胸にクラッシャーの拳が突き刺さる。それを必死に耐え、クラッシャーの体を掴みにかかる。
そこに剣埼の蹴りがクラッシャー目がけて飛んで来た。

「お前らにイイイイイイイイィィィィィィィ!!!リンを殺させはしねえええええええええええ!!!」
「……なんだと!?」

クラッシャーの言葉に驚いたアレックスは、ほんの一瞬だけ力を緩めてしまった。
運動会プロテインパワーによってパワーアップしたクラッシャーはその機を見逃さない。
アレックスの拘束から抜け出し、剣埼の蹴りを右腕で受け止める。恐ろしい衝撃がクラッシャーの右腕に走った。

────あの男が少年に攻撃をしかけただと!?
クラッシャーの言葉に続いて、アレックスはまたも衝撃を受けた。
気づいていない何かがある、とアレックスは思考しようとしたが、クラッシャーは考える暇すら与えてくれなかった。

「イスラエルにトルネードスピィィィィィィィィィン!!!!!」

クラッシャーが恐ろしいスピードでスピンした。その回転力によって、剣埼もアレックスも吹き飛ばされる。
トイレはそれほど広くはないから、吹っ飛ばされた先で、それぞれ壁にぶち当たった。
クラッシャーは明らかに強くなっている、アレックスも剣埼もそう確信した。

あっさりと吹っ飛ばされたアレックスを見てカイトは絶叫する。アレックスこそ完璧なヒーローだと信じていた。
色々あったが、彼さえ来てくれれば全てを解決に導いてくれると信じていた。
恐慌状態にとらわれているカイトは、剣埼がクラッシャーに攻撃した事に関して、何も気づく事が出来ない。

剣埼が行った、クラッシャーとは本当は敵通しであるという証明。
カイト、ハク、アレックスの三人の中でこれに気づいたのは、今のところアレックス唯一人。


全ては俺達の早とちりだったのかもしれない。アレックスは起き上がりながら必死に考える。
剣埼とクラッシャーの目的がカイト、ハクと親しいリンであった事から起きた誤解。
確かに剣埼はクラッシャーと共にリンを追いかけた、いや、そう見えた。
だが、共に同じ目的を持ち、リンを追いかけていたというわけではないのかもしれない。

……ハクはいったい誰にやられたのだろうか。俺はリンを殴った剣埼が同じようにハクも痛めつけたものだと思い込んでいた。
本当にそうなのか? そういえばクラッシャーはリンの名前を叫んでいた。苦しむリンを見て怒っていた。
────まさか……剣埼とクラッシャーがコンビを組んでいるのではなく、リンとクラッシャーが!?

クラッシャーが迫る。起きあがったばかりのアレックスは、クラッシャーの攻撃に何の対応も出来ない。
顔面にクラッシャーの蹴りが入る。それによってまた壁に打ち付けられる。どこからこれだけの力を引き出しているんだ?
アレックスは鼻血を流しながら、クラッシャーを睨んだ。ここで負ける訳にはいかない。
剣埼が敵か、リンが味方なのかどうか怪しくても、クラッシャーだけは間違いなく敵だと言いきれる。
こいつだけはなんとしても倒す。

「カイト!! ハクを連れて逃げろ!」

本当はカイトの手なんて借りたくなかった。
妹を盾にしてまで助かろうとする根性無しの力でさえ、借りなければならないこの状況が憎い。
カイトは俺に名前を呼ばれるとびくりと体を震わせて、それからハクの体を起こしにかかる。
あえてリンの名前は出さなかった。もし敵なら、もしハクを刺したのがリンなら、絶対に許しはしない。

「イスラエルにトルネードスピィィィィィィィンンンンンン!!!!」

クラッシャーが十八番の技を使いこちらに向かって疾走してくる。これを喰らったらまずい。
だが、バルバトスとの戦いで受けた傷も癒えていない今では……避ける事が出来ない。

クラッシャーの回転アタックがアレックスの身体に直撃する。アレックスのすぐ後方に壁がある。
壁に押し付けられた形になったが、クラッシャーの勢いは止まらない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!死ィィいいねえええええええええええええええ!!!!」

アレックスが押しつけられている壁が軋みを上げる。クラッシャーは最後に、アレックスに向かって思い切り拳を突き出した。
恐ろしい衝撃がアレックスの腹に突き刺さり、とうとう壁が破れる。アレックスの体は壁を突き破り、向こう側へと消えた。
巨大な音を立てて壁が崩れ、土砂が舞う。アレックスはどうやら崩れた壁に埋まってしまったようだ。
カイトも剣埼も、そして地面で苦しみのた打ち回るリンも、アレックスをとうとう倒してしまったクラッシャーの強さに驚愕した。

「あ、アレクゥゥ!!!」
カイトはハクを抱え、どうしようかと視線を右往左往させる。アレクがやられてしまった。
もう自分の味方は誰もいない。リンもハクもこんな化け物たちと渡り合える力なんて持っていない。
本当にどうすればいいのかわからない。

「あはははははははは……次はてめえの番だぜ、卑怯者」
クラッシャーが疲弊した顔でこちらを睨んで来た。一歩、また一歩こちらに近づいてくる。
カイトは逃げようとしたが、ハクを抱えたままでは思うように逃げられない。ハクを捨ててしまえば逃げられるが……
「よくもリンの気持ちを裏切りやがったな……」
「なんだよ……お前はさっきからリンの何なんだよ!お前みたいなクズ野郎とリンが知り合いなわけないだろうが!!」
「うるせええええ!!俺とリンは仲間だ!この殺し合いを乗り切るためのな!!!」
「ふ……ふざけんなよ」
クラッシャーがカイトのマフラーを掴む。やばい、殺される!


「クラッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

剣埼が意識を取り戻し、クラッシャーの後方から奇襲を仕掛けてきた。
さすがのクラッシャーも後方からの攻撃には対応出来ない。蹴り飛ばされ、クラッシャーの目の前にいたカイト共々バランスを崩して倒れる。
アレックスを倒したクラッシャーだったが、運動会プロテインパワーは確実に彼の体を蝕んでいた。
視界はぼやけるし、手足に思うように力が入らない。そろそろ副作用が耐えられないレベルまで悪化して来ている。
「決着付けてやるぜこの日本語崩壊野郎が!!」
それでも自分の体に鞭を打ち、剣埼へと果敢に立ち向かう。


カイトは何故クラッシャーの仲間であるはずの剣埼がクラッシャーに攻撃を仕掛けたのか理解出来なかった。
だが今はそんな事はどうでもいい。とにかく逃げる事が先決だった。
涙目でハクを背中に背負い、さっきからずっと地面に横たわり泣いているリンに呼びかける。
その際にクラッシャーによって引っ張られた彼のマフラーが首から外れて地面に落ちたが、そんな事を気にする余裕はない。

「リン!は、早く立て!殺されるぞ……!遊びじゃないんだから俺の言う事を聞くんだ……!」
「痛い……痛いぃ……」
リンが苦しむ姿を見て、カイトは心を痛めた。リンは他でもないカイトのせいでこんなに苦しんでいる。
辛くて辛くて仕方がない。自分のとった行動を後悔してもしきれない。だが、今はそんな事で心を痛めている場合ではない。
カイトは右腕を必死にリンの方へ伸ばす。

「は、早くしろ……兄ちゃんと一緒に逃げるぞ」
「もう嫌……カイト様どうして私を……」
リンは肩を押さえて泣いている。もしかしたら骨折しているのかもしれない。
大国の王女であったリンは今までにこれほどの痛みを感じた事がない。今まで他人に強いてきた痛みが自らに帰って来たのだ。
────殴られるという事がこれほど痛いとは思わなかった。
初めてその身に感じた激痛は、リンの人生全てを揺さぶるほどに大きな意味を持っていた。

カイトはハクを背負ったまま必死に手を伸ばして、リンの手を掴んだ。
そして無理やり引き起こす。早くしないとクラッシャーと剣埼の戦いが終わってしまう。
「痛い痛い痛いよぉ!!」
「が、我慢しろ!」
手を引っ張られて、負傷した個所が痛むのだろう。リンは大声で泣き喚いた。
それに構わず、カイトはリンを引っ張りトイレの外へと走り出した。なんとかして逃げなければならない。
アレックスがいない今、クラッシャーと剣埼どちらに襲われても勝ち目はない。ただ殺されるのを待つだけだ。

────もっとも、誰か一人を犠牲にすれば、他の誰かは助かるだろうが……

▼ ▼ ▼

全身がだるい。眩暈も吐き気もしてきた。頭もガンガンと痛む。運動会プロテインパワーを使う以前に受けた傷も相変わらず痛む。
だが、だがここで頑張らなければクラッシャーとリンは殺される。
現実を見ずに殺し合いを打倒するとぬかしている頭の弱い連中に引導を渡されてしまう。

クラッシャーはリンが落とした無限刃を拾った。全身全霊の力をもって、今度こそ剣埼に勝利する。
────三度目の正直だ。今度こそ


あの筋肉質な男は自分が味方である事に気付いてくれただろうか。剣埼は不安を抑え考える。
カイトはほぼ恐慌状態にあるため、おそらく剣埼が何を言っても聞いてすらくれないだろう。
だから剣埼のメッセージがアレックスに伝わってくれていると嬉しいのだが……

全ては今目の前に居るクラッシャーを倒せば解決する。剣埼への誤解も解けるし、カイト達の安全も確保できる。
まだリンが残っているが、彼女の心は折れているように見えた。おそらくクラッシャーよりもずっと容易い相手に違いない。

だが、クラッシャーは突然強くなっている。彼にはたして何があったのだろうか。間違いなく過去の二度の勝負のようにはいかない。
それでも剣埼は負ける訳にはいかない。────二度ある事は三度あるという奴だ。絶対に負けない。


「悪党め……こんな馬鹿げたゲームに乗ったお前を、俺は許さない」
「うほほ……それって筋が通ってないぜ。このゲームは殺さなければ生き残れないんだぜ?俺の行動は全部正当防衛だろ?
 本当に悪い奴は右上と左上だぜ。お前正義の味方なんだろ?」
クラッシャーがにやりと笑う。

「だったら俺やリンが悪人じゃねえって事くらい正確に見抜け馬鹿野郎!!!!
 イスラエルにトルネードスピィィィィィィンンンンンンンンンンンンンッッッ!!!!!!!1」


今度はただのスピンアタックではない。刀を持っている。回転斬りだ。剣埼目がけて刃が迫る。
剣埼は一瞬だけ反応が遅れる。クラッシャーに言われた事に対して反論が出来ない。
今までクラッシャーとリンは万人に害をなす悪人だと思っていたが、真の悪人は別にいる。
右上と左上こそが────

クラッシャーと、少しだけ遅れた剣埼が交錯する。それでも勝ったのは────剣埼だ。クラッシャーにはもう力が残っていない。
剣埼の拳が適格にクラッシャーの頬を捕らえた。クラッシャーは訳の分からない悲鳴を上げ、刀を落として剣埼の目の前で倒れた。
剣埼は倒れたクラッシャーに馬乗りになり、拳を打ち続ける。

また負ける────もう嫌だ。負けたくない。このままでは死んでしまう。
嫌だ。死にたくない。帰って家族に会いたい。日本に行きたい。天皇陛下を万歳したい。
こんな訳の分からない所で死ぬなんて俺は嫌だ。

クラッシャーは、最後の切り札を隠し持っていた。運動会プロテインパワーを超えるドーピング技。
絶対の禁忌として封印されていたその技に頼る以外、この窮地を切り抜ける術は残されていない。
ぼこぼこに殴られながらも、剣埼を睨み、そして叫んだ。いつものように、破壊的な大音量で────


「三倍アイスクリイイイイイイイィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーームッッッッ!!!!!!!!!」


「うほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほほ!!!!!!!!」
力が漲る。剣埼のラッシュに対してラッシュで返す。再び力を取り戻したクラッシャーに剣埼は驚きを隠せない。
剣埼の拳の弾幕を通り抜け、クラッシャーの拳のラッシュが剣埼の胸に突き刺さった。
馬乗りにしてなおこの威力。クラッシャーの耐久力と底力はいったいどこまで……?

「俺はアアアアアアアアアアアアアア生き残ってええええええ!!!!!天皇陛下を万歳するッッ!!!」

剣埼はクラッシャーの拳に耐え懸命に、反撃する。互いにノーガードの殴り合い。
────負けてたまるか!!負けてたまるかぁッッ!!! 剣埼は訳の分からない言語でそう吠える。
────ここで俺が負けたらッッ!!!越前さんにもガサイさんにも申し訳が立たないッッ!!
俺は殺し合いを打倒するッッ!!死んでもだ!!負けてたまるかァァーーーーーーーーー!!!


────死にたくねえええええええええええええ!!!!!リンも死なせたくねぇえええええええええええええ!!!!


「お前が悪かどうかなんて俺には分からない!!!だが、お前を殺す事で誰かが助かるのなら────」

「タピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピ
 タピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピ
 タピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピ
 タピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピ
 タピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピタピ────────


 ────タピオカァァパアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァンチ!!!!!!!!!!!!」


クラッシャーの超必殺技、タピオカパンチが馬乗りになった剣埼の体に直撃する。
なおも攻撃を止めようとはしない。タピオカパンチの連打、すなわちタピオカラッシュは、とうとう剣埼の体を宙に浮かす。

剣埼の脳裏に、過去の情景がフラッシュバックされる。目の前で死んだ両親の事、アンデットとの戦い、ライダーの仲間達……
そして越前や賀斉という、ここで出会った仲間達。彼らは、クラッシャーを悪とみなすのだろうか。
俺のように、答えを出せないままクラッシャーと戦う事を選ぶのだろうか。


マシンガンの如く打ち出される拳の弾幕に剣埼は無抵抗に痛めつけられている。
そして────


「死ィィィィネエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!
 タピオカパッパカパアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!」


タピオカパッパカパーンの声と共に、今まで一番威力のある拳が打ち出された。
剣埼の胸に突き刺さり、上空へと吹き飛ばす。トイレの天井を突き破り剣埼は血反吐を撒き散らしながら上空へと飛ばされていく。
心臓を潰され、顔面はもはや原型を留めていない。数秒後に、剣埼はトイレ跡に落下する。

────勝った……!勝った……!アレックスにも剣埼にも俺は勝った……!
これでもう俺達の命を脅かす敵はいなくなった……!勝ったぞ……!

「勝ったぞリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンン!!!!!!!」

すでに絶命している剣埼を確認して、クラッシャーは吠えた。

▼ ▼ ▼

俺は瀕死のハクを背負い、負傷したリンを引っ張り、必死になってトイレから離れる。
後方のトイレから馬鹿みたいにでかい破壊音が聞こえてくる。どいつもこいつも人間じゃない。
こんな馬鹿げた連中が集う殺し合いにどうして自分達一般人が招待されたのか理解に苦しむ。

「痛いよ……カイト様……お願いだから休ませて……」

リンを盾にした事を、アレックスに責められた。確かに俺だって信じられない。
まさか俺が、土壇場の状況だったとはいえ、妹を盾にするなんて鬼畜な所業を平気で出来るとは思ってもみなかった。
だがそれでも俺は悪くない……いや、仕方なかったというべきか……

「ねぇお願いだから……お願いだからそんなに強く引っ張らないで……痛いぃ」

確かに俺がした事は後味の悪い行動だ。だけどああでもしないと俺が死んでいた。
死んだ後から後悔しても遅いんだ。だから仕方ない。俺はあの時、生きるために最良の選択をした。
誰にだって自己の生存を優先する権利はあるはずだろ?他人の命よりも自分の命を優先する事のどこが罪なんだ?
アレックスは一方的に俺を悪者扱いした。だが冷静に考えてみると俺は全然悪い事はしていない。
アレックスのような超人には、俺の気持ちは永遠に分からないんだ。

「ああ痛いィ!!」
リンが叫んだ。俺ははっとなって足を止め、振り返る。どうやらリンの手を強く引っ張りすぎたらしい。
相変わらず、リンは泣いている。真っ赤に目をはらしていて、痛々しい。
「あ……悪い」
考え事をしていた所為でリンが苦しむのに気付かなかった。
「どうして……どうしてですかカイト様……どうして私を盾にしたんですか?」

俺はその質問に言葉を失う。ついさっきまで心の中で、自分の正当性を構築していたというのに、
いざこうして「何故?」と問われると何も言えなくなる。「命が惜しかったからだ」と言えばそれですむのに。
その返答で何も間違いはないし、きっとリンも納得してくれる。駄々をこねられても何度も謝ればきっと許してくれる。
それでも俺の口は一向に開かない。何も言う事が出来ない。

「私はカイト様を愛しているのに……カイト様は私の事を奴隷のように思っているのですか?
 私の命なんてちりみたいなものだと思っているの……?」
リンがさめざめと泣く。悲しそうなリンの顔は、俺の心を打った。
「お、俺だってリンの事は……好きだよ」
気恥ずかしくて、俺は愛しているという表現を避けた。

「それならどうして……?」
沈黙。命が惜しいからと言えばいいのに、どうしてもそれを言う事が出来ない。
それを言ってしまえば、それを認めてしまえば俺はさらに惨めに、情けなくなってしまう。

何と答えようかと考えていると、俺はとある事を思い出した。思い出した事をそのまま言葉にしてリンに返した。

「お前、ハクを刺しただろ? だからお仕置きだ」

言い終わってから、ああ俺はなんて卑怯なんだ、と思った。
リンがハクを刺した事は、アレックスにも誰にも言わず俺の心の中に封印していた。
リンがアレックスに殺されるのが嫌だから、アレックスにハクを守れなかった自分を責められるのが嫌だったから、事実を隠蔽していた。
それなのに俺はこの隠していた事実を、俺がリンを盾にした行動の正当性を裏付ける証拠の一つとして、リンの前に曝け出している。
表面上は否定しているが、俺はどうも常に保身を意識して行動しているらしい。
情けなくて情けなくて仕方がない。いったいどの口がハクをヘタレ、卑怯者だと罵っていたのだろうか。

「こ、この女は……カイト様にとって邪魔だったから私が始末したまでですわ」
「やっぱりお前、リンじゃないな?」
「……え?」

自らを卑怯者と罵る俺の心とは裏腹に、俺の口は勝手に動いて、俺の正当性を固めていく。

「会った頃から疑問に思っていた。お前はリンの口調とは少し違う。態度も色々とおかしい」
「そ、そんな……私はいつも通りですわ!」
「極めつけに、『カイト様』なんて言いやがる」
「……様付けが気に入らないのなら……そう言ってくだされば……」

リンが絶望している。不思議だ。俺の頭は目の前に居るこいつを完璧に鏡音リンだと認識しているのに、
俺の口はこいつをリンではないとほざいている。罪から逃れられるなら、俺はどんな嘘でも平気で言えるようだ。

「お前を盾にした理由の一つに、お前がリンではないって考えていた事もあるんだ。
 俺は大切な大切なリンを盾にするような卑怯者なんかじゃない」
俺の言ってる事は屁理屈だ。言い訳だ。そんな事は理解できてるのに……
リンは固まっている。俺の言葉にショックを受けたからだろう。

「今のお前はリンじゃない……誰かに、何かされて、きっと人格に障害が出来たんだ。
 だから時間をかければ元のリンに戻れるだろう。だから俺の言葉なんて気にせず早く一緒に逃げよう」
「言ってる事……滅茶苦茶ですね」
俺ははっとし、自分の背中の方に目を向けた。ハクが意識を取り戻していた。
俺の顔のすぐ横にハクの顔がある。ハクは、酷く複雑な表情をしていた。

「カイトさん……私は本当に……心から貴方に失望しました」
「……ッ! 黙れぇ!!瀕死の癖に俺を馬鹿にするな!」
俺は叫んだ。今の言葉には心からイライラさせられる。
「貴方はこの殺し合いが始まってから一度でも、他人の気持ちを考えた事がありますか?
 アレクさんから聞きました。最初に出会ったはっぱの人を見捨てて、そして次に私を見捨てて、最後にリンちゃんの気持ちまで裏切って……
 生きるっていうのは、ただ我武者羅に保身に走る事を指すのでしょうか。私は違うと思います」
ハクが涙ながらに喋る。瀕死の癖に喋りすぎだ。今すぐ口を塞いでやりたい衝動に駆られる。

「お前が俺に説教なんて……していいと思ってるのか!? 日影者でヘタレで……情けないお前が!」
俺は叫んだ。アレックスに説教されるならまだ納得できる。だがハクにされるのは納得出来ない。
しかも俺は悪くない。俺がリンを盾にした正当な理由はさっき話した。ハクも聞いていたはずだ。
話を理解出来ないのだろうか。日本語が理解できていないのだろうか。そこまで馬鹿なのかこいつは。

「カイト様……私は鏡音リンです!別人なんかじゃありません!人格に障害なんてありません!」
「お前は、今は黙ってろ!今はハクと話しているんだ!」
突然話の腰を折ってきたリンに虫唾が走り、怒鳴ってやった。だがリンは口を閉じようとはしなかった。



「私は別人じゃないわ……別人なのは、カイト様の方よ!私が知っているカイト様は貴方みたいに卑怯な人じゃない!!
 私を……私を盾にするなんて……」

リンの知っているカイトは、勇猛果敢で、頭が切れて優しくて、理想の王子様のような人だった。
万人から愛されるヒーローだった。勿論リンに対してもどこまでも優しくて……だから彼の事を好きになった。
だけど、今目の前に居るカイトは違う。このカイトは、度胸もないし力もないし言い訳ばかりする。
挙句の果てに、保身のためリンを盾に使った。

盾にされて初めて味わった痛みは絶大なものだった。あれほどの苦痛を、リンはカイトによって与えられた。
リンが知るカイト様なら、きっとリンを守るために逆に盾になってくれただろう。

「だから言ってるだろ!?お前はハクを刺したし、そもそもお前はリンじゃない!
 お前なんて俺が盾に使おうが、文句を言える立場じゃないんだよ!」
「さっきカイトさんはリンちゃんがリンちゃんではないという理由に、人格に障害があって別人になっていると言いました。
 でも、人格に障害が出来たとしても、リンちゃんはカイトさんと今まで一緒に暮らしてきたリンちゃんです。
 カイトさんは人格が変わったくらいで、今までのリンちゃんとの付き合い全てを放棄できるんですか?」
「お……お前はこの、紛い物のリンに刺されたんだろうが!どうしてリンの肩を持つんだ!」

カイトの意見はもっともだった。どうしてリンの肩を持つのだろうか。
ハク自身よく分からない。多分、あれが現実の事だとは信じられないからだろう。
妹のように可愛がってきたリンが自分を刺すなんて、悪い夢としか思えない。

「自分でもよく分かりません。きっとリンちゃんには何か理由があったはずです。
 それか、カイトさんの言うように誰かに人格を変えられて、私を刺すように命じられたのかも……
 でも、別にリンちゃんに特に理由がないと分かっても、多分私はリンちゃんの肩を持つと思います」
カイトが怪訝そうにハクを見た。

「リンちゃんは私の妹分です。そしてリンちゃんは、音痴な私にレン君と一緒に歌を教えてくれる先生です。ずっとずっと仲良くしてきました。
 私はリンちゃんの事を愛しています。一度刺されたくらいでは、嫌いにはなれません」
ハクは微笑んだ。カイトは唖然としている。
「きっと……理由があったんだよね? リンちゃん?」
「やめろよ……俺を差し置いてそんな事言うなよ……ふざけんなよ……」
こんな台詞を堂々と言うハクを、カイトはどうしても認めたくなかった。

「私、貴方の事は知りませんわ。ハク……初めて聞いた名前……だから刺す時にも何の感傷もなかった」
リンがぽつりと漏らした言葉に、ハクは目の色を変える。
「お前、やっぱり人格とか記憶とかを誰かに弄られて……」
「それはカイト様……貴方の方です……」

「あいつか……あのクラッシャーとかいう奴だな!俺のリンを変えやがったクソ野郎は!」
「クラッシャーは関係ない……あれは私の奴隷……いえ、仲間です。
 私は私の意志でハクを刺して、そして私の思うままに貴方に話しかけているんです」
そう言ってリンは、おもむろに背中に背負っていたデイパックを降ろして、中を弄った。
取り出したのは────鉈だった。

「ヒィッ!」
カイトが短い悲鳴を上げる。リンはそれに構わず、折れてない方の腕で、しっかりと鉈を握りしめて立つ。
「ハク……私は貴方の事を何も知りません。記憶にないのです。本来、貴方は存在しない人なんです」
リンがカイトの方へと迫る。

「私とカイト様の話がこうも噛み合わないのは、カイト様の記憶や人格が何者かに改変されたからなのかもしれません。
 もしそうだとしたら、その何者かは、カイト様とは知り合いなのに私とは知り合いではない、ハク、貴方が最も怪しいですわ」
リンの双眸がカイトに背負われているハクに向く。
「カイト様、ハクを降ろして下さい。今、ハクを殺して貴方を元のカイト様に戻してみせます」
「ふざ……けんな……」
カイトは怯えきった目でリンを凝視した。ハクを殺されたくない。だけどこのままでは自分まで危ないかもしれない。
このリンは常軌を逸している。

「あのカブトムシの男に殴られた時痛かっただろ!?そんな刃物で切られたらもっと痛いんだぞ!?
 分かって言ってるのかお前は!」
「全て承知の上で、です。私は何度も何度も民に死刑を宣告してきました。さぞ痛かったことでしょう。
 不思議なものですわ。初めて苦痛というものがどれだけ辛いか知った今は、民衆や奴隷たちの気持ちがよく分かります」
奴隷とか死刑とか、洗脳されているのは完全にリンの方じゃないか、カイトは思ったが、怯えて言葉に出来なかった。

「ですが、そのハクは別です。私は貴方のためなら何でもしてみせる……ハク、痛いですが我慢して下さいね。
 私も背に腹は変えられないの。カイト様を元に戻すために、仕方ない事なのよ……。さあ、ハクを降ろして下さい」
リンがまた一歩こちらに迫ってきた。ハクの顔を見る。妙に清々しい表情だ。恐らくもう助からないと諦めているのだろう。

「さて、困りました。助けて下さい、カイトさん」
「ぬかせよ……俺に、出来るわけないだろうが……」
「でも相手は片腕を骨折した女の子ですよ。いくら鉈を持っているとはいえ、逃げ続けたおかげで未だに無傷なカイトさんなら」
「だから無理だって言ってるだろ!!俺はお前の言うとおり卑怯者なんだよ!戦えるか!」

カイトは叫んだ。もういい加減にして欲しい。
どうしてただの歌手であるはずの自分がこんな事に巻き込まれなくてはならないのか。

「今度は自分は卑怯者だから助けないと言い訳するですか?確かに貴方は本物の卑怯者です。
 公言すると同時に証明していますね。見事ですね」
ハクはカイトに冷やかな視線を送る。ハクの言葉も視線もカイトにとって耐えがたいものだったが、
それでも自分の事を卑怯だと叫んだことによって、感情のタガが外れる。
全ての思いを開放して一気にまくしたてた。

「そうだよ!俺は卑怯者だよ!だがこれが俺なんだ!殺し合いなんて馬鹿なゲームに巻き込まれたから、
 卑怯者っていう俺の一部分が殊更目立っているだけで、俺は生来こんな人間なんだよ!日常ではこんな卑怯な真似をする機会なんてねぇ!
 俺は俺だ!リンは俺の事を洗脳されているって言うけど、洗脳なんかされてねぇ!洗脳されているのはリンだろうが!
 奴隷だの死刑だの訳の分かんねえ事を言いやがって畜生!!」

カイトは無造作に背負っていたハクから手を放して、地面に落とす。
ハクが地面に落ちて、痛そうに苦悶の声を上げる。

「ここまでやったからには認めてやるよ!俺は卑怯者だ!だがな、これだけは言わせて貰うが……」
カイトはまた涙を流し始める。


「俺は何も悪くない!全ては仕方ない事、そして正当防え────」


言い終わる直前に、リンが片手で思い切り鉈を振るった。もうこれ以上痛々しいほどに情けないカイトを見たくなかった。
だから一刻も早くハクを殺したかった。非力なリンが振るった鉈はハクの頭に当たる。
非力なために鉈はぶれてしまい、刃の部分が上手く当たらなかったが、それでもハクの頭から血が吹き出す。

カイトは子犬のような悲鳴を上げて、一目散に逃げて行ってしまった。



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