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⑨バレットリボルバー -A hero wakes up- ◆F.EmGSxYug





夕暮れ。
だが、周辺の天候は曇り。そのため、大地が赤く染まる度合いは低い。
アポロとタケモト達の出会いもまた、血を流すことはなかった。
豹人間という明らかにまともではない存在とはいえ、
そもそも脇に妖精がいるのだから特段驚くほどのこともない。
バクラも牙を向くことなく終わり、話は穏便に済んだ。
但し。

「……フランドールが参加者を殺害したというのは、間違いないのか?」
「間違いないでしょう。羽入さんが仲間を皆殺しにされたと言っていましたから。
 一応無力化したとは言っていましたが、今後殺しをやめるかどうかは分からないと」
「なるほど。
 美鈴と合流する前に遭遇した場合は、最悪の事態も考えるべきだな」

過去の罪は、長く尾を引く。
アポロの言葉に、タケモトは非情な判断を下した。
実際は羽入の勘違いであり、ルガールの死因はフランではないのだが……
今となってはアポロにそんなことは知る由もない。況してや、タケモトたちには。

「ともかく、今は映画館に向かう」

その言葉に合わせるかのように、放送が始まった。


「……とうとう半分を割ったか」

放送を聞き終えた、グラハムの第一声がそれだった。
その表情に何か勘付いた――何だかんだで半日以上付き合っているので分かる――のか、
文がトーンを抑えつつ口を開く。

「……知ってる人が死にました?」
「ああ、フラッグはその頃寝ていたのだったな。
 ……単独行動を取らせた者が死んだ。それだけだ」
「フラッグはやめて下さい、いい加減に」

いつも通りに茶化すグラハムだが、最初と比べるとやや覇気に欠けていることは否めない。
それでも、この二人は立ち止まらない。最期まで立ち止まることはない。
例え独りになろうとも失った者の遺志を忘れず目的に邁進する武士と、
そもそも計算高く自分の生存のためには優勝さえ考慮している天狗。
――つまりは、普通の人間ではなく、その精神は通常のそれから隔絶している。だから、

「……その……本当に殺し合いをなんとか出来ると思いますか?」

黙り込んでいたキョン子が、我慢できなくなったかのように弱音を吐いた。
ここには三人がいるのではなく、一人と独りと一体がいるだけだ。
仲間を失い、独りガンダムに挑んだフラッグファイターと、違う生態の妖怪がいるだけ。
普通の人間であるキョン子とはどこまでも隔絶している。
だから、耐えられない。

「……努力はしている」

苦い声でグラハムが答える脇で、文は黙り込んでいた。
キョン子の言葉に答える義理はないし、下手に答えても感情を悪化させるだけだと分かっている。
だから、大人しく考えに没頭している。

(……そろそろ、決断しないと駄目なのかも)

そんな、どこまでも利己的な思考に。


橋を渡り、道具屋の外。
消えていく夕日を頼りにメモを追えたアカギは思考する。

(やはり、第二回放送を聞き逃したのは痛いな……)

以前フランドールとの戦いで破れた白シャツを捨て、
道具屋で調達した新たな服に着替えつつ舌打ちする。
能力的にはただの人間でしかないアカギにとって、
武器になりえるものはなんであろうと必要になる。そして、情報もそれに含まれる。
アカギが賭け金に使えるものはあまりにも少ない。
無論、それは命を賭けて補っていくしかないということである。
アカギにとってはむしろ喜ばしいことではあるが……
大きな賭けを打つためには、やはり相応の元手が必要となるのも確かだ。
思考しながら歩を進めていると、ふと前方に集団がいることに気付いた。
まだはっきりとは見えないが、何か騒いでいるらしい。
しかし彼にとって何よりもその中の異形……アポロ。

(確か新堂が豹人間に襲われたと言っていた……
 少なくともその豹人間本人か、或いは関係のある同種と見て間違いはない。
 しかし、奴が新堂の言っていたような行動を取っている様子もないが……)

離れて様子を窺うことを考えたアカギだったが、それはすぐに打ち切りとなった。
しばらくあと、一人……バクラが周囲を警戒し、アカギがいる側に視線を移したのだ。
言うまでもなく、コメント一覧の機能による副産物である。

(……どうやらこっちに気付けるような何かを持ってるらしいな。
 どのみち聞き逃した第二回放送の内容を確認する必要がある……接触してみるか。
 俺が殺し合いに乗っていることを奴らが既に知っているのなら、
 それは俺のツキが尽きただけの話だ……)

覚悟を決め、アカギは再び足を動かし始めた。


放送の内容は、タケモトたちにとって驚くべき内容であった。
ドナルドと行動を共にしているはずのビリーを始めとして、
トキなど一応面識を持っていた相手が相当数死んでいる。
何か事件が起きたのは疑いようもない。

「で、どうするんだ? 戻るのか?」
「……図書館に戻って状況を確認するべきなのは事実だな」

重く響くタケモトの返答。
アポロの言葉から図書館に他の参加者がいることを突き止めたとはいえ、
一刻を争うような情勢と化したことは十二分に推測できる。
それに、人数が減ったということもまずい。タケモトはバクラへの警戒を怠ってはいない。
この調子だと6時間後にはバクラへの対応をする必要が出てくる。

「じゃあさっさと戻ればいいじゃないのさ」
「アポロ、悪いが一旦映画館に戻ってお前の仲間に伝言を……」
「ちょっと待った、そこまでだ。どうやらお客さんらしいぜ?」

チルノの言葉を完全に無視して放たれたタケモトの言葉を、当のバクラが制止する。
全員が(チルノはふくれっ面で)指差す方を見やると、青年が観察していることに気付いた。
言うまでもなく、アカギである。
アポロが弓を構える。しかし、アカギは両手を上げたまま堂々と足を進める。
ほとんど夕日が落ちた中、一人だけ血に染まっているように赤く照らされながら。

「おい貴様。とりあえず、殺し合いに乗ってないって言うならそこで立ち止まりな」
「……クッ」

バクラの言葉に、ようやくアカギは立ち止まる。
とりあえず自分の行動を知っているものはいないようだ、と判断して。
……この時。アカギが服を着替えていたのは最大の幸運であり、
アポロにとっては最大の不幸であった。
彼の知る危険人物とは「白いワイシャツを来た」白髪の青年。
しかし、今アカギが来ているシャツはグレー。故に、判断を保留せざるを得ない。
顎の鋭い男、とキョン子が言っていれば一発で判断できただろうが。

「まず、名前を言え」
「アカギ――赤木しげるだ」

闇にくすんだ返答。だからこそ無意味。
アポロもキョン子も、アカギの名を聞いてはいないのだから。
そうであるがために、アポロは確かめるために口を開く。

「すみませんが……その服は支給品か何かで、着替えたりしたものですか?」
「どういう意味だ、アポロ?」
「住んでいた場所の知り合いに、それと似た服を着ている者を知っているのです」

タケモトへの返答は、言うまでもなく嘘である。
アポロが知りたいのは「着替えたか否か」の一点。
即ち、元々白いワイシャツを着ていたかどうかということだ。

「いや、こいつは元々俺が着ていた服だ」
「……そうですか」

だが、それを読めないアカギではない。意図を素早く読み取り、煙に巻いた。
ある程度の距離を保ちながら受け答えは続く。
数分後。その過程で、アカギは二つの情報を得た。

(こいつらはバカというわけじゃない……相応にこの場について把握し警戒をしている。
 ……だが、だからこそ仲間も信じてあってはいない)

アカギは直感的に、チルノ以外はそれぞれお互いをどこか警戒しているように感じた。
故に出会ってから時間が浅いか、或いはほとんどが互いを牽制し合っていると踏んだのだ。
言うまでもなくどちらも正解であり、アポロは前者、タケモトとバクラは後者にあたる。
そうでないチルノは、ほとんどバクラとタケモトにまともな相手をされていない。
だからこそ、白でも黒でもないグレーは闇に隠れながら相手へ迫る。

「俺は新堂という男と行動を一時共にしていた。
 そいつから、豹人間に襲われたという話を聞いたが……」

暗闇の中、周囲の視線に晒されるアポロ。
彼は慌てて弁明をせざるを得ない状況に追い込まれた。

「アポロって兄弟がいるの?」
「え……ああいえ、そういうことではなく、確かにそれは私でしょう。
 ですがそういうことではなく、私はこのような出で立ちですし、
 新堂さんに誤解を与えてしまったのです。私がその気でなかったということは、
 映画館にいる人たちと合流すれば分かって貰えると思いますが……」

チルノのボケを修正しつつ説明するアポロ。だが、ただの返答ではない。
「映画館にいる者と合流しアカギの正体を見極める」という意図も含まれた言葉だ。
流石のアカギもここまでは読めない……というより、想像しようも無かった。

「それより、新堂さんを殺した者に心当たりはありますか?」

今度はアポロから言葉を返し、タケモトとバクラの視線がアカギに戻る。
依然、チルノ以外の面子による探りあいは続く。

「さぁてな……共に吸血鬼と戦っていたが、途中ではぐれた。
 そいつに殺されたんじゃあないのか?」
「……まさか、フランドール・スカーレットのことですか?」
「……知っているのか?」

思わず反射的に口を開くアカギ。
実際のところ、新堂の末路は適当に予想して言っただけだったのだが、それがツイていた。
アポロは彼女を知っている。
羽入からの伝聞で、羽入からの視点だけで確かめられた彼女の一面を知っている。
それを聞かせてもらううちに、思わずアカギは心中で笑みを浮かべていた。

(なるほど……クク、俺と出会ってようやくブレーキを踏み外したか。
 そして、あの吸血鬼に仲間を殺された奴と共にこの豹男が行動している……
 更に、こいつは新堂を知っていて、敵対心を持っていたわけじゃない……
 まさしく天佑……!)

この様子だと、恐らく確実にフランドールは生きている。
そして、彼女が危険人物だと思わせればそれだけ自分は全うな人間だと思わせられる。
人間は往々にして二極化して物事を考えたがるものだ。
それを、わざわざアポロの論が補強する、故に天佑。

アカギはフランドールとの戦いについて、一部だけを掻い摘んで話し始めた。


「……そろそろいいかな?」

一瞬聞き逃しかけた放送が終わってからしばらく後。
夕日が山に隠れたのを確認したフランドールは、抜き足差し足で外に出る。
まずちょっと手を出して灰にならないか確認したあと、ちょこんと足を踏み出す。

「うん、もういいよね」

夜闇の中を軽やかにステップ。
久々の闇。月は雲に隠れているが、別に彼女が気にすることではない。
慣らし運転も兼ねて、ゆっくり空を飛ぶつつ目的地に向かう。
しばらくすると、あっさり橋が見えてきた。もちろん、川も。

「……意外と、外って面倒なんだ」

ぶつくさ言いつつ、軌道修正して橋の上を飛ぶようにする。
架かっている橋の上を通らないと流水の上は渡れないのだ、空を飛んでいても。
もし帰ったら流水を壊してみようかなぁ、などと呟くフラン。
外に出れるようにならないと駄目と思ったところで、ふと彼女は思い当たった。

「美鈴はどうしてるかなぁ……」

生きていることは分かっている。分かっているけど、それだけだ。
自分みたいに、約束を守れないような状況になっていたりしたら、困るかもしれない。
そんなことを考えていると、ふと、前方に人影が集まっているのに気付いた。


話は終わった。
それぞれが考え込む中、一番最初に口を開いたのはチルノだった。

「ま、フランの相手はあたいに任せてよ。
 さいきょーのあたいがちゃんと部下にして美鈴に会わせてあげるから!」
「……その羽といい、こいつはなんだ?」
「ガキの言うことだ、気にすんな」
「なんでよ!」

ブーブー文句を言うチルノを無視して、アカギは現状を整理する。
情報交換は終わった。聞き逃した第二回放送の内容も聞いた。
とりあえず、アカギとしては及第点と言える……だが。

(本番はここからだ……)

ここに来ての倍プッシュ。
演出に気を遣いながら、アカギは敢えてカードを切ることに決定した。

「ところであんたら……『支給品の』デュエルモンスターズを持ってるか?」
「ああ――確かにあるけどよ、そいつがどうした?」
「そいつは重畳……
 俺が持っているカードのほとんどは使用したばかりの状態にある……
 出来れば二枚ほど交換して欲しいんだがな……」

そう告げて、グレーに染まる曇天の下カードを二枚を持ち出すアカギ。
言うまでもなく、「誰得の部屋」で回収したただのカードである。支給品ではない。
タケモトがやや警戒の色を見せ、バクラの眉が露骨に顰められた。

「藪から棒に、何のつもりだ?」
「ククク……なぁに、少なくとも悪い交換条件じゃないと思うがな……!」

同時に、アカギがカードを持っていた指をずらす。微かに生まれたその隙間……
アカギが提示した二枚のカードに、何かを書いた紙が挟まっている。
盗撮も盗聴もできないであろう、絶妙な角度と方法で提示された情報。
……タケモトの目が、興味深げに縫い止められた。

「そこまで言うなら貰っておこう。バクラ」
「ったく、しょうがねぇ。
 ただし、俺が出すのは使用出来る一枚だけだ。1:2交換だが文句は言わねえな?」
「まぁ……妥当なラインだな」

悪態をつきながら、バクラはカードを指に挟んで手を伸ばす。
しょうがない、というのはバクラの本心である。
明らかにアカギの行動は盗聴と監視、両方に備えたもの。重要さも伝わっては来るが……
あまり脱出要素が揃ってしまうのはバクラにとって愉快なことではない。
万全な脱出計画を立てられると、へし折るのも困難だ。それに、何より。

(俺様にはよぉく分かるぜ。
 この二枚には精霊や魔物が宿っていやしねえ。
 恐らくただのカード……こいつ、俺たちを騙す気満々じゃねぇか)

カードを交換しながらも、心の中で舌打ちする。
元々バクラはデュエルどころか古代エジプトにおけるディアハも知っている身だ。
カードに宿る精霊について感じ取ることなど造作もない……もっとも、言う気はないが。

(ま、いいけどよ。てめぇがそういう奴っていうならせいぜい利用させてもらう。
 挟まっていたメモ……カードは偽者だったが、こっちはどうなのかねぇ?)

僅かに見えたメモの内容を思い返した、その瞬間。
虹色の星が、降り注いだ。

「……先に行ってて!」

声が響く。
それを誰一人確認する余裕もなく、爆音が響く。
巻き散らかされる爆発と、水蒸気。熱に溶かされた氷の弾。
止められた弾幕は、霧の残滓を残して視界を遮断する。
その中を振わすのは、ガラスが割れるような異様な音。

「これはいったい……」
「――どうやら、噂のフランドール・スカーレット嬢のお出ましらしいぜ?」

アポロの言葉に、皮肉げな笑みを浮かべてバクラが言う。
現状を言ってしまえば、アカギを視認したフランが即座に復讐をしようとした。
その先制攻撃をチルノがとっさに迎撃した、シンプルと言えばシンプルだ。
だから、いつの間にかチルノの姿は消えている。
響いている音は、チルノとフランが撃ち合っている戦いの音。
明らかに切羽詰ったいきなりの状況。そこで、元凶が状況を操作するべく動いた。

「ヤツの能力上、固まっていると蜂の巣……人数が多いだけでは無駄に犠牲者が出る」

アカギの言葉に、続いてバクラを口を開く。
狙いを読んだ上で、更に体よく厄介払いするために。

「一旦別れようぜ。少人数で動いたほうが生き残れる確率は恐らく高い。
 俺とタケモトは予定通り映画館を目指して、そこにいる奴に援軍を頼む。
 アポロはアカギと一緒に図書館へ行って、そっちの確認をしてくれよ」
「しかし……」
「得意とする弓も、残っている矢が少ないと聞いたが……?」

援護しようとする意図を含んだアポロの言葉は、アカギに封殺される。
同時にほんの一瞬、アカギとバクラの視線が交錯し火花を散らしたが、それに気付いたのは本人達のみ。
こうしているうちにも煙は晴れつつある。決断の余裕もないのもまた事実。

「アポロはアカギに付いて行ってくれ」
「……分かりました」

アカギのメモ――誰得の部屋について記したものを確認したタケモトにも後押しされ、しぶしぶアポロは同意する。
それに、もしアカギが危険人物ならば自分が見張らなくてはいけない、と思ったのだ。
……そこに、フランが危険人物ではないかもしれないという思考は欠片もない。

かくして、チルノを残し幻想的とは言い難い霧の中、四人は撤退を開始した。
バクラにせよタケモトにせよ、正直チルノの扱いに手を焼いていた。
彼女が率先して殿を引き受けてくれるならば、別段止める気はない。

正真正銘、一対一の戦いが幕を上げた。


空を舞う。
手を翳して氷を放つ。
幸い、呂布にやられた傷はほぼ全快している。全力を出すのには問題ない。
けどそれは、

「……楽しくない」

相手が放った弾幕に、あっさりと消し飛ばされた。
それどころか押し返された分を、とっさに斬り捨てないといけない始末。
そんなあたいを見て、ふん、と相手――フランはため息を吐いた。

「妖精じゃすぐ壊れちゃうからつまんない。邪魔だし、さっさとどっか言ってよ。
 それに、私が用があるのは貴女じゃないし」
「……やだ。悪いけど人殺しなんてさせないよ。
 はにゅーとか言う奴の仲間もあんたが殺したって聞いたわ」

そう言って、あっかんべーしてやる。
……どうやら、凄く気に食わなかったらしい。フランは異様に顔を歪めていた。

「……うるさい、このバカ。
 別にいいよ、遊んでくれるって言うなら。けど」 

フランの掌がこっちを向く。条件反射で
ぶつかりあった弾幕が、再びあたいたちの視界を覆い隠して。

「あんたが、コンティニューできないのさ!」

目の前に、フランドールが現れていた。
消えかけている霧の中を奔る左腕と爪。とっさに反射で剣を振るう。
剣と腕。明らかに有利なはずなのに、止めた筈の一撃が、止められない。
分離させていた左のスイカソードに沿って爪は走り、横殴りにあたいの体を一閃した。
身をひねって躱して……それでも避けきれない。
夜闇の中を奔る血痕。脇腹に刻まれる爪痕。
重傷じゃないけど、かすり傷ってわけでもない。

「こ――の……!」

我慢して剣を振るう。
踏み込んだ敵に、右の当たり剣を振りぬく……!

「な――」

鈍い金属音。素早く引き戻された右手でそれも止められた。
まるで寒さに凍える人間のように、震える右腕。
魔力の桁が違う。筋力の桁が違う。存在そのものの桁が違う。
剣と素手だっていうのに、露骨なまでに埋められない壁がある。

「なぁんだ、もうおしまいなの? 剣を持ってるからそっちが得意だと思ったのにさ。
 もっと氷見せてよ、チルノちゃん……?」

吸血鬼がワラう。
右手で剣を掴んだまま相手の脚が動く。
脳天目掛けて繰り出される蹴りを、

「……これ、くらいで!」

とっさに残りの剣を抜刀して弾き飛ばす……!

「痛っ……!?」

吹き飛ばされるフラン――但し無傷で――を確認した途端、痛みが走った。
割れるような頭痛。相手から受けた傷のせいじゃない。
直感的に、この剣を直に持った時のあの頭痛だと気付いた。
ふと見ると――緒戦の熱で柄を覆わせていた氷が溶けて薄くなってるのに、気付いて。

「えいっ」
「――ッ!?」

それを元に戻す、余裕なんてなかった。
二度三度四度五度、繰り出される相手の攻撃を弾く。
相手の右腕は露骨に動きが悪い、だから両方ちゃんと使えるこっちはなんとか対応できる。
防戦一方、それでも今度はなんとか剣技を駆使して凌ぎきる。

――だから、それが、おかしい。

堪えきれずに、相手の力の流れのまま後退して落ちた。
衝撃で吹き飛ばされて地面に叩きつけられそうになるのを、なんとか抑えつつ着地。
頭痛は止まない。止める余裕がない。
別にそれほど痛いわけじゃない。フランにやられた傷の方がよっぽど痛い。
ただ、この頭痛は、何か……

「おっかしいなぁ。
 段々強くなってるような……もしかして、手加減してたの? ずいぶん余裕なんだ」

続いて地面に降り立ちながら、疲労も見せないでむっとした表情でフランは言う。
まさか、と思う。あたいは手加減なんてしない。答える余裕はないけど。
流れ込んでくる何かが、強引にアタイを押し上げているだけ。

なぜか剣が使えるようになった自分。
なぜかどんどん剣が上手くなっていく自分。
その元凶は、間違いなく……

「――じゃあ、幻想郷らしく遊んでみよっか?」

フランの言葉に、荒れていた呼吸を慌てて整える。あっちは息を荒げてさえいない。
そして、彼女の右手から闇夜に浮かび上がるは遠大な炎の剣――!

「レーヴァテイン!」
「ッ、ダイヤモンドブリザード!」

またも激突する氷と炎。けど結果は見え透いている。
氷は飲まれて消え、炎は少しも減衰せずにこっちへ迫る。
体勢を気遣う余裕なんてない、転がり落ちるように急いで後退した。
それでも腕を僅かに炎が舐めていく。そして、それを気遣う余裕はない。
戻ってくる返しの剣を避けるために、息を切って跳ぶ。
地面に残った炎は消えない。
草花を燃やしたまま残留し、あたいの動きを束縛する。

「こん、のお!」

左手で弾幕を放ちながら、右腕でバスタードチルノソードをバラした。
あいかわらず、頭痛がひどい。けど右腕は独立した機械のように剣を外す。
そのまま、六剣のうち二剣を飛ばして投げつけた。
巨大な剣が戻ってくるにはまだ時間が掛かる。
氷に紛れて飛ぶ剣は、何にも邪魔されずに飛び――

「なぁんだ、これくらいか」

剣も、氷もフランにあっさりと叩き落された。
着地に失敗して膝を付く。疲れきって、氷を放っていた手も地面に突きつけた。
そんなあたいを、フランはあざ笑って、

「あれ? 弾幕撃つのもやめちゃって……諦めたの?
 ふーん、それならそれでいいけど――!?」

そこまで言ったところで、慌てて振り向いた。
その先にあるのは、弾き飛ばしていたはずの剣が戻ってくる様だ。
吹き飛ばした二つには、アタイの魔力が込めてある。
その軌道を操作することくらい、そっちに集中してればなんとかやれる――!
素早く腕を振って戻ってきた剣を叩き落すフラン。
その隙に……

「――コールドディヴィニティー!」

ありったけの氷を、叩きこんだ。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

残っていた炎と炎剣が消える。残っているのは氷が生んだ水蒸気だけ。
息を吐きながら、剣から手を離す。それで、ようやく頭痛は止んだ。
少なくとも、フランが回避した様子はない。なら、十分な威力なはず。
殺したつもりも無いけど、十分効いた、はずだ。
そう、思って。

「……あ……」

声が震える。
晴れていく霧の向こう。しっかりと立っている影を、見た。
ノーガードで耐え切ったのか、それとも全部近距離で叩き落したのか。
どっちにせよ限界だ。これ以上はどうしようもない。
手元を見る。
――もう、なんであたいが剣技を使えるようになったかなんて分かっている。
その元凶であるドーピング剤が、今か今かと解放を待っていた。

「……わかって、る、けど」

恐怖を振り払うように息を吐く。それでも怖い。消えない。
だから柄を凍らせた。握っただけで意識が飛んだのは忘れていない。
でも、このままじゃ負ける。だから恐怖ごと、唾を飲み込んだ。

「……よし」

柄に包ませていた、氷を一部だけ消す。
ちょっとだけ、ちょっとだけだ。この戦闘をする短い間、指一本柄に触れるだけ――

ぱりん、と。
              
自分の大切な何かが、割れて。
                  
その隙間に、何かが無理やり、押し込まれた。
                       
「……考えごとだなんて、まだ余裕あるんだ?」
「!?」

考えるより先に、まるで他人に動かされたみたいに跳ぶ。さっきまでいた場所が爆ぜる。
遠くにいたはずの吸血鬼が、すぐ近くにいた。いつの間にか、霧が消えていた。
分からない。ワケが分からない。いつの間に接近されたのかさえ分からない。
――そもそも、自分に何が起きたのかさえ分からない。
何より、今はこの頭痛をなんとかしたい。
なんとか意識は保てるけど、頭痛は今までの比じゃないほど肥大化している。
いっそヤケになって、痛んでいる頭を破り捨てたくなる。
それでもそんな事情一切合財を無視して、相手は攻撃しようと接近しながら弾を撃つ。
……いや、無視しているのは吸血鬼じゃない。
なぜか自分の思考も瞬時に纏まり、体まで勝手に動く。

どうすべきか、とっくに知っていると言わんばかりに。
相手の攻撃を当然のごとく、アタイは二刀を交差し防ぎきっていた。

「っ、こんの……!」

予想外の反応に吸血鬼は戸惑ったのか、追撃の爪は鈍い。
頭蓋を砕こうと走る右腕を左手の剣でいなし、右手の剣を突く。相手の帽子が落ちる。
見えるのは次々に襲ってくるフランの爪と、それを自分の腕が防ぐ他人事。
更に奔るアタイの左剣。同時に、自分の視界の端に見えた赤い光。
アタイはあたいが今までしたことがない反応で、上空から落ちる弾をバク転して回避した。
追撃の弾幕が走る。それに反応して刃は煌き、体が翻る。
頭が割れそうなほどの頭痛の一方で、今までに無いくらい思考は澄み渡る。
……やれる。根拠の無いはったりじゃなく、冷静に思考した上でそう思える。
フランの体の所々は、どこか動きが鈍い。だから、今のアタイにはやりようがある。
借り物の力、借り物の技術、借り物の知識だろうと、あたいが戦えてることは確か。
だから例えそれが異常を示すランプが真っ赤に染まってるような事態でも、棚に上げる。
相手が手負いである以上、一対一なら今のアタイには勝機が見えてくる……!

「――たあっ!!!」

左剣から手を離し、アイシクルフォールeasyを左手で放つ。
手加減してるはずのスペルは、なぜか弱くなったダイヤモンドブリザード並みの威力を保持してる。
ただし、それは真正面以外の話。もともと真正面が開いてるんだから当たり前だ。
だから予測どおり、正面からバカ正直に来るフラン。
普段のあたいなら追いつけない速度で一気に懐に潜り込んで、腕を突き出してくる。
……だから、それがバカだ。
四刀は既に一刀に戻り、地面に突き刺されてそれを待ち構えているっていうのに。

「剣技――クライムハザード!」
「え……」

姿勢を下げ、フランの攻撃を下から潜り抜けながら地面に突き刺した剣を跳ね上げる。
突き刺さって抑えられていた勢いは、一気に解放されて奔っていく。
それでも、吸血鬼は避けた。それこそ小数点第二位で表現されそうなタイムラグで。
けれど――それで崩れた体勢の不利は否めない。

「取った――!」

振りぬいた勢いのままくるんと回って、すぐさま体勢を戻した。
同時にコンマ数秒で、相手ができることと最良の追撃を予測する。
頭痛に苦しむあたいと、冷静に思考するアタイが心の中で同居している。
振りかぶる追撃の剣。体勢の崩れた相手は、どうやっても回避が間に合わない。
殺す気なんてない。戦闘能力を削ぐだけだ。押さえつけて説得する。
速度も威力も調整は十分、そして攻撃が届くのはどう考えてもこっちの方が、速――

がくん、と。
世界が、歪んだ。

衝撃。
自分が倒れたんだと気がついたのは、地面に頭をぶつけてからだった。
フランの攻撃は一度も受けてない。それはすぐに分かった。
自分に掛かった過負荷で……限界を越えて何かおかしくなったと気付いた頃には。
フランが、地面に倒れているあたい目掛けて、腕を振り上げていた。

ざくざくざく、と音がする。

「……え?」

理解が追いつかない。出血しながら後退するフラン。
それを追い撃つかのように風が舞い、フランの体を吹き飛ばし……
這い蹲っているあたいを守るように、文が異形の烏と共にその場に降り立っていた。


「はぁ……」

映画館の一室。椅子に座り込んだキョン子は一人ため息を吐いた。
戻ってきて新たな仲間も得たのだが、ここにはほとんど人はいない。
文は映画館の近くで遭遇した人たちからチルノの現状を知って飛び立っていったし、
タケモトとグラハムは外に見回りに出ている最中だ。
つまり、ここにいるのはキョン子と……

「やぁ。退屈だし、ゲームでもしないかい?」

バクラだけ、ということになる。
声を掛けられて、顔を上げるキョン子。
そこには、映画館の売店から盗んできたトランプを持ったバクラがいた。

「いや、色々思いつめてそうだったからさ。気分転換でもしようよ」

タケモト辺りが聞いたら吐きそうな優等生っぷりで、バクラはキョン子に話しかける。
そして、キョン子が色々と精神的に参っているのは確かだ。
弱音を吐こうにも、仲間は意地でも弱音を吐かない人間と弱音に共感しない天狗。
普通の人間である彼女にとって、同じように普通の人間に見える相手は非常に有り難い。
――実際は、悪魔どころか魔神とも言うべき存在なのであるが。

「……あ、うん、ありがとう。了くんだっけ?」
「バクラでいいよ。そっちの方が聞きなれているから」

向かい側の席に座り込むバクラを、キョン子は自然に受け入れてしまう。
……羽入がバクラの危険性についてアポロに伝え忘れたのは、致命的であった。

「バクラくんって高校生? なんか髪が凄いけど」
「いや……まぁ、これは生まれつきだから。
 それに、友達はヒトデみたいな髪型してるし」
「どんな髪型よそれ。よく校則に引っかからないわね」
(……そういや俺は先公に色々言われたが遊戯は何も言われなかったな。
 どんな基準なんだあの学校は?)

駄弁りながら二人が始めたのはブラックジャック。
単純に言えば21に近いほうが勝ちと言うゲームだ。
とりあえず互いにトランプを引く途中、ふとキョン子が気がついた。

「あれ? なんか暗くない?」
「電灯の調子が悪いんじゃないかな」

ふーん、と呟いてあっさりと信じながら、キョン子はカードを提示する。
キョン子が提示したカードの数は17、対してバクラは21。バクラの勝ちだ。

「あっちゃあ、負けちゃった」
「……ああ。罰ゲームだ」

そう呟いて、バクラはキョン子に指を向けた。


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sm179:禁止エリアの抜けた先 射命丸文 sm189:魔法少女十字軍 -Magic girl crusade-
sm179:禁止エリアの抜けた先 チルノ sm189:魔法少女十字軍 -Magic girl crusade-
sm179:禁止エリアの抜けた先 タケモト sm189:魔法少女十字軍 -Magic girl crusade-
sm179:禁止エリアの抜けた先 グラハム・エーカー sm189:魔法少女十字軍 -Magic girl crusade-
sm179:禁止エリアの抜けた先 獏良了 sm189:魔法少女十字軍 -Magic girl crusade-
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sm179:禁止エリアの抜けた先 アポロ sm189:魔法少女十字軍 -Magic girl crusade-
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sm184:黄昏の輝き フランドール・スカーレット sm189:魔法少女十字軍 -Magic girl crusade-






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