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シンデレラ・ケージ(後編) ◆0RbUzIT0To




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糸色望を殺した月は、図書館へと向かう為にB-4から南へと向かっていた。
歩調は慌ててはおらず、かといって慎重過ぎるという程でもないもの。
一歩一歩確実に大地を踏みしめて歩き、駅を通過した月は既にB-4エリアとB-5エリアの境界辺りまでやってきていた。

『おい月、急がなくていいのか? それに、図書館に行くっていうんならこのまま東へ直進した方が速いだろ』
「慌てるなリューク……東に行けば確かに図書館には速く着くが、市街地を通る分危険も付き纏う。
 ここは一旦南下し、B-5の南端の海で返り血を洗い流した後東に向かい図書館を目指した方が安全だ」
『でもよ、それだとB-6から逃げてくる奴と鉢合わせになるんじゃないのか?』

リュークの疑問は尤もなものだ。
先ほどの放送でB-6は禁止エリアに指定されてしまった為、南西に位置する孤島は袋小路となってしまっている。
そのエリアから逃れてくる者がB-5エリアの南部を通る可能性も高いというのは十分に考えられる話だ。
だが、月はその事に関してはそれほど問題が無いと考えている。

「B-6は十時から禁止エリアになる……後一時間弱といった所だろうな」
『ああ』
「だからこそ、だ。 残り時間がギリギリになった段階で孤島から脱出しようとする者がいる訳がない。
 大抵の者は、ある程度時間の猶予を持って孤島から離れるはずさ……何が起こるかわからないからな。
 放送があった時から孤島から逃げるまでに残された時間は四時間もあったんだ、その間に殆どの参加者は脱出しているはず。
 仮にギリギリで出てこようとも、僕がB-6の最南端に到着するのは十時を過ぎてからになるだろうから接触は無いさ」
『だけどよ、その孤島から逃げてきた奴が北上しないって可能性は無いのか?』
「それは僕も考えた……だが、その可能性は低いだろうな。
 B-5から北上したところで、重要そうな拠点はB-4の駅かA-3の館くらいしか無い。
 だが、東の方へ向かえば病院や市街地、図書館なんていったものがある。
 特に病院はこんな状況だと一番確保しておきたい場所だからな……少しでも頭が回る奴ならば、北上せず東へ向かうだろう」

問題は頭が弱い奴だが、そんな奴の行動原理は幾ら僕でも予想できない……と言いながら、月は足をただ進める。
本音を言えば、途中にあった駅に立ち寄り化粧室で血を洗い流したかったが、あの駅からは黒煙が薄っすらと立ち上っていた。
人が集まる可能性がある以上安易に立ち寄る事は避けたかったので素通りをしたのだが……。

『おい月……』
「ああ、わかってるさ……二人組のようだな」



舌打ちをし、月は前方に見えた人影を観察するように見守る。
月の予想は外れた……B-6から逃げてきた者かどうかは知らないが、その人影はどんどんこちらに近づいてきている――つまり、北上している。
横で含み笑いをしていたリュークを睨みつけ、月はどう対処すべきか考え出す。
二人でチームを組んでいるという事は、人影たちが殺し合いに乗っているという可能性は少ない。
だが、それはあくまでも可能性が少ないというだけで確実に殺し合いの乗っているという訳ではないのだ。
事実、月は言葉やバクラと三人で同盟を組んでおり、優勝する為に力を合わせようとしている。
人影たちが月たちと同じ考えを持っている可能性は、低いものの存在する。

「どうするかな……」

月が人影に気付いている以上、あちらも月の事を認識していると見て間違いは無い。
その証拠に、その人影たちは月に向かってどんどん近づいてくる。
逃げるか……いや、それは危険だ。
身体能力に自信はあるが、それはあくまで一般人としての身体能力。
人影のどちらかがトキやブロリー、ベジータのような規格外な人物である可能性もある以上下手な手は打ちたくない。
ここは、分が悪いかもしれないが話し合いをするより他に無いだろう。
こんな事ならば矢張り駅で血を洗い流しておいた方がよかったかと思ったが……時既に遅し、後の祭りである。
覚悟を決め、クロスボウを構えながら人影達に歩み寄る月。

と……近づくにつれ、月はその選択が間違いであった事に気付いた。
距離が縮むにつれて次第にはっきりとする人影の正体。
ピンクのワンピースに人参型のペンダント、黒い髪に特徴的な兎の耳。
隣に屈強そうな男を引き連れ、溢れんばかりの憎悪を剥き出しにした表情でこちらを見ているその少女は――。

「案外、アッサリ会えたわねぇ……月」

つい数時間前、自分達が罠に嵌めた少女――因幡てゐだった。


いつの間に手に入れたのか……武器と思しき木槌を振り回し風を切る音を鳴らしながら、月を睨みつけるてゐ。
その視線に一瞬気後れをしながらも、月は冷静に考える。
これはマズい事になってしまった。
思いがけず、別れてからたった数時間でてゐと出会ってしまったが為に月は横にいる男性よりも先にてゐの方へと視線を集中させ、反応してしまったのだ。
これでは、月とてゐが互いに見知った仲であると言っているようなものである。

ただ反応を示しただけだというのなら、まだ言い逃れは出来る。
てゐは木槌を振り回しており、こちらに敵意をむき出しにしているのだからそちらに注意が向いてしまったと言えば事は済む。
だが、それはこの場合説得力に欠ける苦しい言い訳にしかならない。
何故なら……てゐの隣にいる男性は、明らかに人目を引く衣装を着ているのだ。
幾らてゐが敵意を剥き出しにした視線をこちらに向けているとはいえ、てゐの隣にいる男性に反応をしなかったのは不自然に過ぎる。
故に言い訳など今更出来るはずも無く……月はてゐに言葉を返すしかない。

「ああ、久しぶりだね、てゐ……相変わらず、誰かを騙そうとしているようだね」
「ふん……そういうあんたは一人でどうしたのかしら?
 バクラと言葉は? もしかして、見捨てられたりしたの?」
「…………」
「…………」

二人の間を風が通り過ぎ、沈黙が辺りを支配する。
あちらが積極的にこちらを殺しに来ない所を見ると、どうやら隣にいる男は完全にてゐを信頼した訳でも無いらしい。
男はあくまでも傍観者……。
この場は月とてゐの言葉だけが二人の勝敗を左右する。

てゐを観察しながら、月はてゐの狙いを分析する。
首輪の色は白……つまり、まだ誰も殺してはいない状態だ。
だとするならば、あの木槌は誰かを殺して奪ったものではなく拾ったものか隣にいる男から譲ってもらったものと考えていいだろう。
男とてゐが出会ったのは放送が終わってからと考えるのが妥当。
てゐの様子からして、既に首輪の秘密―― 一回放送までは爆発しない、という設定は既に知っていると見た方がいい。
ならば、その後すぐに冷静となり男と手を組んだと考えるのが自然だ。

問題は男がてゐにどこまで自分達の事を聞いたか、である。
男の月を見る疑惑の眼差しから考えて、まず話していないという可能性は消える。
だが、一体どこまでの事を話しているのだろうか?
まさか全てというはずもない、てゐは当初はバクラと手を組んでいたのだ。
自分から態々殺し合いに乗る者と手を組んでいたと説明するとは考えにくい。


だとすれば、全てを話しはしたが……そこに嘘を混ぜたと見るべきか。
あくまでも自分は殺し合いには乗っておらず、しかし首輪を嵌められてしまったが為に殺し合いをせざるを得なくなった。
全てはバクラ、月、言葉のせいであり、そいつらを殺す為に力を貸して欲しい……。
なるほど……妥当な線だ。
なら、ここはその全てを否定する事を前提に話を進めるべきであろう。
自分達はてゐに"襲われた"側である、と主張すべきだ。

「夜神月……で、合っているな?」
「ええ……あなたは?」
「俺はソリッド・スネーク……こんな姿で申し訳ないな、何分他に着る物が無かったんだ」
「いえ、それは構いません。 ただ……それとは別に、警告をしておきますスネークさん。
 そこにいる彼女――因幡てゐからは、即刻離れた方がいい。
 そいつは天使の顔をした悪魔だ……僕達はそいつに襲われたんですよ」
「ふんっ……よく言うわ」

復讐の炎を瞳に湛えたてゐを横目で見ながら、月は考える。
襲われた側であるとこちらが主張すれば、首輪を嵌められた側であるとあちらは主張するだろう。
これでは平行線……男――スネークを説得する事は出来そうも無い。
ならば、平行線にならぬよう……自身の言葉の説得力を、信憑性を上げるしか無い。

「襲われた、という割に意外に冷静そうだが?」
「冷静? まさか。 ……内心、腸は煮えくり返ってますよ。
 今すぐここでそいつを撃ち抜いてやりたいくらいにね。
 ですが、それだとあなたが納得出来そうも無い……違いますか?」
「ああ、その通りだ。 それで? お前はそれを証明する事は出来るか?」
「……証拠を出せ、というのなら無理です。 そんな証拠などあるはずも無い。
 ただ、証人なら……その時僕と一緒に襲われた仲間がいます」
「バクラと言葉という奴か」

月の言葉に対し、渋い顔をしながら返答するスネーク。
それも当然といえば当然だろう、仲間の証言で月の言葉が証明される訳も無い。



「すまないが詳しく話を聞かせてくれ……。
 こいつと出会った時、お前はどこで誰と一緒に居たんだ。
 そして、その後どこに向かい何をしていた? 何故、今お前は一人でここにいる?」
「……わかりました」

スネークに問われ、月は思い出したくも無い……いった表情で話し始める。

まず、月は言葉と合流し共に殺し合いに乗っていないという事を確認しあい行動を共にする事になった。
それからしばらくして、バクラとてゐに出会い四人組を結成する。
そして四人で今後の事を話し合おうとしたその時、突如てゐが牙を剥き月達に襲い掛かった。
命からがら、どうにかてゐを気絶させ逃げ出した月達は一旦北上し、放送を聞いた。
その後、他の殺し合いに乗っていない者達に出会ったのだが、再び殺し合いに乗った者に襲撃を受けて撤退。
しかし、その途中で仲間が殺されてしまい月は一人で南下していた……という事だった。

「……その殺された仲間というのは?」
「糸色望さんです……」
「なるほど……確かに、名簿には載っている。 では、そいつが殺された場所は?」

その言葉を受け、月は心の中で待ってましたと小さく呟き笑みを浮かべる。
ブロリーに襲われたという事実はもう一度彼に出会わなければ証明は出来ない。
その他の事象も全て、嘘を交えているものである為明らかにする事が出来ないがこの糸色望の死に関する事だけは違う。
彼は本当に殺されており、その事実は揺るぎ無いものなのだ。
加えて言うならば、糸色望の死に関してはてゐは関わっていない部分での出来事。
つまり、この件に関してはてゐが口出しをする事は出来ず月の口先一つで説明が可能である。
月の言葉に信憑を伴わせる機会はここしかない。
……とはいえ、今更糸色望の死体を彼らに見せるというのは不可能だ。
彼の身体には月が持つクロスボウの矢が多量に突き刺さっている。
そんなものを見せては月が殺した、と言っているようなものだ……それだけは避けなくてはならない。
ならば……月が取れる手段はたった一つ。

「あそこに見える駅ですよ。 ほら、まだ黒煙が上っているでしょう。
 僕は本当は寄りたくは無かったのですが……彼がどうしても、あそこの手洗いに寄りたいと言いまして」
「駅……?」
「そうです。 そこで、列車から降りてきた者と鉢合わせしてしまい……彼は、そいつに殺されてしまいました。
 この返り血は、糸色さんが殺された時に浴びたものです」
「なるほどな……すると、あの黒煙もその列車から降りてきた者によって引き起こされたものなのか?」
「ええ。 奴は手榴弾か何か……僕も駅の中で糸色さんと別行動をしていた為、よくわかってはいないんですが。
 とにかく爆弾の類をあの駅で使って僕達を混乱に陥れようとしていたんです」
「そして、その策にまんまと嵌り糸色望は死に……お前は命からがら逃げ延びた、という訳か」



月の言葉を聞きながら、駅の方を見つめるスネーク。
そのスネークの横顔を見つめながら、月は内心安堵しつつ……しかし糸色望の死を悲しむかのように頭を垂れて憂鬱な表情を繕った。
スネークとてゐはB-5の南部から北上をしてきた。
そこから考えるに、スネークは……少なくとも、B-4にはいなかったのだと月は読んでいる。
そうでないのだとしたら、スネークは一々B-4を離れて再び戻ってきたという事になるのだから当然の推察だ。
そして、その推察があったからこそ月は駅での惨劇をでっち上げてスネークに語った。
目に見える黒煙という事実は、それだけで月の言葉に信頼性を与える。
少なくとも、あの駅で何かがあったという事実は疑う事無い現実なのだから。

「ただ……確かめると言っても、あの場に戻るのは今はやめておいた方がいいでしょう。
 まだ殺人鬼がいる可能性が高い」
「同感だな……」
「ッ! スネーク! 騙されちゃ駄目ウサッ!! どうせその糸色望って奴もそいつが殺したんだウサ!!」

唐突に横槍を入れてきたてゐに、しかし月は余裕の表情を浮かべる。
てゐの言っている事が真実である事には違いない……が、それを証明する手段をてゐは持ってなどいないのだ。
月が先手を打ち、駅に戻るのはまだ危険であると警告した時点で駅に行ってその事実を確認するという事も不可能。
つまり、てゐの吐く言葉は全てが後だしの負け惜しみでしかなく。
その言葉が月の言葉をやや信じるに値するものへと昇華させる。
情報戦は先手必勝である。
先に出された情報がそれなりに信じられるものならば、後から出された情報はそれを根底から覆すような決定的な何かが無い限り信じられる事は無い。
それがわかっているのか、スネークもただ困った顔をてゐに向けるのみだ。

「スネーク、思い出して! そいつらは私にこの首輪を取り付けたのよ!?
 そんな奴が殺し合いに乗ってないなんて嘘、信じる方がどうかしてるウサ!」
「……何の事だい?」
「ウサッ!?」

案の定、焦ったてゐは首輪の事を持ち出して月の事を責めてくる。
だが、それはあらかじめ予想がついていた事。
月は極めて冷静にそれについて知らぬ存ぜぬで通していく。

てゐがその事に指摘をするのは、圧倒的なまでにタイミングが悪かった。
月が理路整然と自分の身に起こった事を説明する最中、負け惜しみに言ったと取られてもおかしくないタイミング。
そんな時に叫ばれても、スネークは到底てゐの事を信じる事は出来ないだろう。
ただの負け犬の遠吠え……苦し紛れに月に罪を擦り付けるようにしか見えない。

事実、スネークは溜息をつきながら尚もマシンガントークを続けるてゐを哀れな目で見ていた。
喋れば喋るほど、てゐの信頼は地に落ちていく。
だが、かといってそれを止めてしまえばてゐに反撃をする機会はもう二度と来ない。
反撃をするが為に絶えず喋り続け……しかし、それが仇となり自分の首を絞める結果となる。
正に泥沼……ここから起死回生の手など、打てるはずも無い。

『ククク……月、どうやらお前の勝ちらしいな』
「当然さ……僕があんな小娘に負けるはずが無い」
『でもよ、少し様子がおかしくないか? あいつ、もう少し頭は切れる方だと思っていたんだがな』
「それは過大評価だリューク。 見ろよ、あの無様な姿を。 ……だ、駄目だ、まだ笑うな……堪えるんだ……!」

二人に聞こえない程度の声量でそう呟き、思わずニヤける口元に手を当てわざとらしく咳をして誤魔化す。
てゐの姿は月から見てとてつもなく滑稽なものだった。
どう足掻いても助かるはずが無いのに、尚も必死にスネークに語りかけているてゐ。
既にスネークがてゐに向けている視線の中に、疑いのそれが混じっている事に気付いていないのだろうか?
……いや、気付いていても語りかけているのかもしれない。
彼女が頼るべき存在はスネークしかいない、ならばここでスネークが月の言う事を信じ、てゐを裏切ればてゐの身は破滅なのだ。

「し、信じてスネークッ! 本当にアイツが首輪を私に付けたのっ! 本当なのに――!!」
「煩い、少し黙っていろ」
『ウホッ!』


とうとう、と言うべきか……てゐの苦し紛れの戯言を断ち切り、スネークは右手に持った銃を少女に向け冷たい視線を送る。
一方のてゐは絶望したかの様子で、信じられないものを見るかのようにびくびくと震えている。
その光景を見ながら、月はてゐに向け哀れみと侮蔑、そして歓喜の入り混じった複雑な視線を向け――。

瞬間、銃声が辺り一面に静かに鳴り響いた。

「…………」
『あーあ……結局月の勝ちか、つまらねぇな』

スネークの放った銃弾は、迷う事なく突き進みてゐの胸へと吸い込まれていった。
てゐはもんどりうち、尚も足掻こうと無様な醜態を晒していたが……すぐにそれも止め、地に倒れ伏し動かなくなる。
スネークが銃弾を撃ち込んだ場所は心臓、生きているはずも無い。
正直言って、ここでてゐを殺してしまったのは当初の予定とは異なるが……それも仕方が無い。
まさか予定を優先させるあまりに自分が死ぬ訳にはいかなかったのだから、この場ではこれがベストな結果だ。

銃口から立ち上る硝煙を見つめたまま、無言でその場で佇んでいるスネーク。
そのスネークに近寄りながら、月は少しだけ緊張した面持ちを浮かべながら問いかける。

「……僕の言葉を信用してくれた、と思っていいんですね?」
「でなければ、あいつを撃つと思うか?」
「いえ……そうですね」

万物を射抜くようなスネークの鋭い視線に、一瞬本気でたじろきながらも……。
月はすぐに気を取り直して、取り繕いスネークに話しかける。

「改めて自己紹介を……僕は夜神月、月―つき―と書いて、ライトと読みます。
 よければ、後の為にスネークさんが今までこの場に連れてこられて起こした行動や、見たものなどを話してはくれませんか?」
「いいだろう……だが、その前にこちらからも一つだけ質問をさせてくれ」
「……僕に答えられる範囲ならば」
「お前はバクラ、桂言葉という者達と二手に別れたと言っていたが……。
 そいつらと合流する手立てはあるのか?」
「それは……」

さて、どう話したものだろうか……バクラ達とは図書館で合流をする事になってはいるが……。
スネークに話し、もしも彼が月についていくと言えば月はそれを無碍に断る事は出来ない。
スネークは見た目こそ変態ではあるが、銃の腕前、そして体つきから考えて軍隊出身の者か何かであろうと予想がつく。
月も人並み以上の身体能力は有しているという自負はあるが、だからといって拳銃を持った軍人相手に勝てるとは到底思っていない。
バクラ達と合流した後、三人がかりでも殺せるかどうか自信は無いが……。
しかし、もしも彼を従える事が出来たのなら、使える手駒として自分達の戦力になってくれる事は間違いない。
トキがブロリーと戦う為に離れ、実力者に守られるという事が出来なくなった以上は利用出来るなら利用したい所だ。
そう結論付けた月は、スネークにバクラ達と合流は出来るという事を話す。


「なるほど……図書館か。 確かにあそこは周りのホテル、病院と比べてあまり役に立ちそうにない拠点。
 他の場所と比べて目立たない分、合流場所としては申し分ないだろう……いいセンスだ」
「それで……スネークさんはその合流場所を聞いてどうするんです?
 僕と共に、来てくれるんですか?」
「そうだな……それもいい」

そう呟きながら、スネークは倒れ伏したままのてゐを見守っている。
その視線に、月は何か不自然なものを感じたが……。
あえて何も言わず、スネークの次の言葉を待った。

「ところで月……お前は駅で誰かに襲撃を受け、それが原因であの黒煙が上がっていると言っていたな」
「? ええ……」
「それは奇遇だな……。 俺も、お前と同じだ」

スネークのその言葉に、何かとてつもなく嫌な予感を覚える。
第六感……とでも言うべきだろうか、脳内の何かがこのままでは危険だという事を知らせ――。
しかし、月はそれを察知しても動かない――否、動けない。
スネークの背中から発せられる異常なまでの殺意の波動が月に纏わりつき、身動きが取れないのだ。
何かがおかしい――全ては、計画通りだったはずである。
てゐを再び陥れ、スネークの信頼を勝ち取り、てゐをスネークに殺害させる事が出来た。
そう、全ては計画通りのはずだが――。

「俺も、あの駅で女に襲われたんだ。
 そのせいで二人が死に……一人は、"手洗い"で"爆弾"の爆発を受けて死んだんだ」

その言葉を呟くと同時、スネークは月へと向き直り……。
パン、と乾いた音が鳴ると同時に月の身体に激痛が走り、月はただ……静かに倒れこんだ。


「……なんだ、これは?」

焦点の定まらない目を動かし、地に倒れ伏した月は腹部に触れるとそれを翳して見やる。
ぬるりと少しだけ粘着性を伴ったそれは、太陽の光に照らされて赤く光っている。
ぼんやりとそれを見つめながら……それが血であるという事に、月は三十秒もの時間を要してようやく気付いた。
血……血……? 何故、血が自分の腹部から出ているのだろう。
再び視線を動かすと、既に右手に持っていた拳銃を下ろし、侮蔑するかのような目をこちらに向けているスネークと目が合った。
そこからまた数秒……何故血が出たのか、それを理解した月は呆けていた表情を憎悪に染まったそれへと一変させて力の限り叫ぶ。

「ぶァッッッッッか野郎ゥゥゥゥ!!スネークゥゥ! 誰を撃ってるゥゥゥゥ!!?ふざけるなァァァァァァァァァアアアアア!!」

唾を吐き散らしながら、先ほどまでの人畜無害を装っていた形相とはまるで違う表情で叫ぶ月。
しかし、スネークはまるで怖気づいた様子を見せず、ただ淡々と語る。

「お前のミスは二つだ、夜神月。
 まず一つは駅で糸色望が殺されたと嘘をついた事。
 糸色望は手洗いを借りたいが為にあの駅に行ったとお前は言っていたが……。
 たった一つしかない手洗いが既に爆破されている為にそもそも手洗いを借りる事は出来ない。
 それに全く触れなかったお前の発言、並びにあの黒煙がお前達が行ってから爆破されたが為に出来たものと言った事がお前のミスだ。
 もう一つのミスは、てゐの首輪を知らないと言った事。
 お前の話を信じるとするならば、てゐがお前達を襲ってそれからすぐに放送があったという事になる。
 だが、それだと話は矛盾する……何故なら、お前とてゐが別れた後、放送の前に俺とてゐは会っているからだ。
 その短時間の間に、てゐがそのプレミアム首輪をつけるというのは不可能。
 てゐがメリットも無い内から首輪を取り付けるとは考えにくいし、また、その僅かな時間の間にてゐが誰かに襲撃されて無理矢理首輪をつけられたというのもありえない話だ。
 そもそも、後者ならばてゐがお前達を恨む理由が存在しなくなる。
 お前はどうせ俺とてゐが放送後に出会い、てゐが放送後に自分から首輪を取り付けたのだと言い逃れするつもりだったのだろうが……。
 そこを読み違えた事が、二つ目のお前のミスだ」
「……あ、ぁ?」

スネークの言葉を聞き、月は何も言い返せずただ白痴のように呆けた声を出すのみ。
自分がミスをした? 違う、おかしい、そんなはずは無い、何故だ。
全ては計画通りだったはずだ……全ては順調に行っていたはず。
てゐは死んだ、だからスネークは自分を信頼していた……そのはずだというのに。

「何故だ……何故……!?」
「あーあー、情けない。 涎足らして手足バタつかせて……やっぱ、人間なんてこんなもんよね」
「!?」

ありえない……その声は二度と聞こえるはずは無い。
だが、確かに聞こえた――幻聴では無く、確かに聞こえた。
目だけを動かし、その声がした方向へと視線を向ける。
そこには、自分と同じようにスネークに撃たれ、地に倒れ伏していたはずの少女――因幡てゐが満面の笑みを浮かべて立っていた。



「ふん、どうして私が生きてるのか不思議でならない、って顔してるわね。
 いいわ、冥土の土産に教えてあげる」

そう言いながら、てゐは手に持っていた木槌を下ろし、着ているワンピースを脱ぎ始める。
その光景を呆然と見ながら、月はそのワンピースの下に着込まれていたそれを見つけその目を大きく見開いた。

「防弾チョッキ……って言うらしいわね、これ。
 ダサいけど、性能は上々らしいわ。 スネークの撃った弾も、これこの通りちゃんと食い止めてくれてるウサ」

心臓部に食い込んだ銃弾を指差しながら、月に向けて言い放つてゐ。
その言葉を聞き、月は自分が因幡てゐの手の平で踊らされていただけであった事を悟る。
てゐが取り乱した様子を見せていたのも、スネークがてゐを撃った事も、全てはてゐの思惑通り。
取り返しのつかないミスを犯し、失態を見せてしまった事も全ては彼女の計算通りだ。

「ぅ……ぁ……わ、罠、だ……!!
 こ、これは罠だ!! てゐが僕を陥れる為に仕組んだ罠だ!!!」
「往生際が悪いわね、月」

月の発言は、ただの妄言でしかない。それは月自身もよくわかっている。
わかっているが……それでも叫ばずにはいられない。 まだ、死にたくは無いのだから。
だが、当然ながらスネークはそんな妄言を真に受けて動いたりはしない。
彼はただてゐが再びワンピースを着、木槌を手に月に近づくのを黙って見守るのみである。
月はもう助からないと思いながらも、今度は手足を動かしてその場を逃れようと移動を試みる。
しかし、既に腹部から大量の血が噴出し、出血多量によって手足の自由が利かなくなっている月に逃げ切れるはずなど無い。
傍から見ればその光景は、血の海を懸命にクロールで泳ぎ渡ろうとするように見えてある種滑稽なものである。

「さて……それじゃ、あんたが取り付けてくれたこの首輪の料金。
 あんたの命で、支払ってもらいましょうか」

背後からそんな言葉を掛けられ……何か巨大で重たいものが自分の頭部を打ち付けたと感じた直後。
鈍く、重い音が脳内を一瞬にして駆け巡り――。

『……こんなもんか』

いつも隣にいた、死神の声を聞いた後。
すぐさま意識を失った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ふぅ……黒くなった黒くなった。 これで一安心ね」

血に濡れた木槌を肩から下げながら、てゐは自身の首に巻きつけられた二つ目の首輪を見下ろしそう呟く。
もしも二人がかりで殺した場合は無効になります、とでも言われたらどうしようかと思っていたが。
どうやら、最終的にトドメを刺したのが自分であるならいいらしい。
黒くなった首輪に触れながら、てゐは月の支給品を回収していたスネークに声をかける。

「ありがとうウサ、スネーク。 スネークが協力してくれたお陰で月を殺せたウサ」
「礼を言われる謂れは無い。 俺はただ……あいつよりもお前の方がまだ信じられる、と思ったまでだ」

てゐが上手く月を誘導し、殺す事が出来たのは偏にスネークの力が大きかった。
如何なてゐといえど、クロスボウを持っている月に単身で挑むのはやはりリスクが多少伴う。
だが、スネークがいてくれたお陰で月はてゐをすぐさま攻撃の標的とする事なく弁論で勝負を挑んできたのだ。
そして、この弁論でもスネークの力――この殺し合いに連れてこられてから今までの経験が役立った。
彼がもし駅で十六夜咲夜に襲われていなければ、月の一つ目のミスには気付いていなかった。
彼がもしてゐに襲われても殺す事なく話を聞こうとしていなければ、月の二つ目のミスには気付いていなかった。
やはり、この男は力はもとより人柄も利用する事が出来る――。
内心そう思いながら、てゐはスネークの腕に自らの腕を絡ませて甘えた声を出し問いかける。

「ねぇスネーク、これからどうするつもりウサ?
 当初のスネークの予定通り、月達に会ってどっちが本当の事を言っているかは結構アッサリわかったウサけど……。
 ここで……お別れウサ?」
「…………」

スネークは、さりげなくてゐの腕を払いのけながら、顔をそっぽへ向け……ぶっきらぼうに呟く。



「お前はどうせ、バクラや言葉という奴に復讐をするつもりなのだろう。
 俺も、そういった輩は放っておくべきではないと見ている……何も離れる事は無い。
 それに、次に十六夜咲夜らお前の知り合いに会った時……奴らの事を知るお前が居てくれた方が遥かに戦いやすい」
「ウサ……一緒に、いてくれるウサ?」
「女だろうが子供だろうが、足手まといになるようなら放っておくぞ。
 ここは戦場だ。 そんなものの保護を一々出来る程、俺は自分の力を過信してはいない。
 それでいいなら、勝手にするんだな」

てゐの言葉にそう答え、スネークは振り返らずに歩み進める。
向かう先は東……月の言っていたバクラ達との合流地点、図書館のある方角。
その後姿を見ながら、てゐは静かに笑みを浮かべ……。
やがて軽やかな足取りで、その後を追う。

と、不意に立ち止まり、その視線を月の死体の近くに向け――こちらを見つめている死神の姿を確認した。
死神は一体何だろうかと、戸惑うというよりはむしろワクワクした様子でこちらを見ている。
その様子に、てゐは少しだけ呆れながら……しかし、すぐさま右手を突き出し中指だけを立てて死神にそれを向けた。
口元には不適な笑み、目には復讐に燃える炎……勝ち誇った笑顔で、死神を見つめ返す。
それを見て死神はいいものを見せてもらったかと言うかのように笑みを浮かべ、すぐにその場を立ち去った。

因幡てゐの復讐劇は、夜神月の死を皮切りにここに始まった。
満身創痍の身でありながら、屈強な傭兵を口先で上手く騙し利用し。
籠に詰められたシンデレラは、十二時の鐘が鳴る前に魔法が解けないよう復讐を果たしたのだ。
そうして、シンデレラの籠―ケージ―は、見事に破壊された。
しかし、再び鐘が鳴ればシンデレラはまた魔法をかけられ強制的に復讐鬼にならざるを得なくなる。
だが……それでいい、それでもいい。
魔法をかけられたシンデレラは、意地悪な姉二人と継母に復讐を果たして最終的にはハッピーエンドを迎えるのだ。

扱いなれた武器を片手に、兎は平原を跳ね回る。
跳ねて跳ねて、月まで届いたその兎――月の果てに、何を見つけるのだろうか。



【夜神月@ひぐらしがなくですの 死亡】

【残り 52名】

【B-5 平原・東/1日目・午前】
【ソリッド・スネーク@メタルギアソリッド】
[状態]:疲労度中
[装備]:コルトパイソン(弾数2/6、予備弾36/36)@現実、TDNスーツ@ガチムチパンツレスリング
[道具]:支給品一式、馬鹿の世界地図@【バカ世界地図】~全世界のバカが考えた脳内ワールドマップ~
愛犬ロボ「てつ」@日本直販テレフォンショッピング、やる夫の首輪、アポロのクロスボウと矢筒(16/20)@チーターマン、ハイポーション@ハイポーションを作ってみた
咲夜のナイフ@東方Project(18/18)、さのすけ@さよなら絶望先生
[思考・状況]
0:情報集めを優先
1:オフィスビルに行く前に図書館に向かい、バクラ・言葉を本当に危険人物か否かを確認した上で危険人物なら排除する。
2:自分からは攻撃はしない。見つかった場合も出来れば攻撃はしたくないが
明らかに十六夜咲夜のような奴居れば、仲間になろうと呼びかけ、情報を手に入れたら倒す。
3:てつを使って、偵察、囮を通じて情報を手に入れる。
4:まともな服が欲しい。
5:因幡てゐは、邪魔にならないのならば連れて行く。 てゐの首輪が白くなったら、殺し合いに乗っている者を殺させ延命させる。
6:十六夜咲夜、紅美鈴、フランドール・スカーレットを強く警戒。
7:専門の奴に首輪を見てもらう必要があるな。
※参戦時期はオセロットに拷問された直後からです。
※馬鹿の世界地図の裏に何か書いてあります。
※初音ミクが危険人物であるという情報を得ましたが、その情報を完全には信用はしていません。
※盗聴されてる可能性に気づきました。また首輪に電波が送られてるか、意思が有ると考えています
※チャフグレネードを作るか、電波塔のようなものを破壊すれば首輪を安全に外せると思っています。


【因幡てゐ@東方Project】
[状態]:頭にたんこぶ(出血は止まりました)
[装備]:プレミアム会員専用首輪(黒色)、てゐの木槌@東方Project、防弾チョッキ
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
0:スネークを利用し、首輪が白になれば誰かを殺す。スネークに疑われたくないので、出来れば弱いマーダーを優先。
1:図書館へ向かい、バクラ・言葉を殺害する
2:バクラ、言葉を強く憎悪。特にバクラは絶対に許さない
3:何をしてでも生き残る
4:ベジータを警戒
※桂言葉に伊藤誠を蘇生させてと頼まれました。
※弾幕に制限を掛けられているのを知りません。



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