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 ―PM:18:29 March XX. 203X.
 ―Spectator-Seat, Arena, 2F.
 
 一方、ミラは最期のバトルを前に盛り上がる会場の中でたった一人、軽く溜め息を吐いていた。会場の中央には決勝戦専用V.B.B.S.筐体が敷設されており、更にその周囲には色鮮やかなレーザーライトがドームの天井まで伸びていた。
(「全く派手なことだ。アメリカの大会に十分に匹敵しているかもしれないな」)
 決勝戦となる筈だったのだが鶴畑興紀の棄権により、アルティ=フォレストの不戦勝になるものかと思われた。だが、エキシビジョンマッチと言う形が取られ、本来は試合の解説役を務めていた明人が、アルティの最後の相手をする事になったのだ。
 その程度のアクシデントが発生してしまう事は容易に予測できる。だが、問題はそこではなく震電がまだ戻って来ないことだった。
 鳳凰杯の開始からずっと、『恋人たち』の爆弾に付きっ切りで解体を進めていた震電でなければ、最後まで解体する事が出来ない。無論、解体の仕方ならミラも把握しているので、烈風か連山に解体法を教えれば代役を務めさせる事も決して不可能ではない。だがその場合、烈風と連山は『恋人たち』の爆弾は初めて見る事となる。出来ることなら、構造に最も詳しい震電にやらせるべきなのだ。
(「勝手に音信不通になって……一体何処で何をやっているんだ?」)
 あれから、ミコとユーナから事の経緯を全て聞いた。ルシフェルが興紀に対して明らかな敵意を向けていたこと、興紀が乗ったリムジンを半壊させた事、そして自分達にまで襲いかかろうとした瞬間に震電が助けに来てくれたこと、そして外へ逃げ出そうとしたルシフェルを震電が追跡しに行ったこと……。
 思ったよりもリムジンの損壊は少なく消火活動が速やかに行なわれた為、興紀も運転手も殆ど怪我らしいものはなかった。その後、医務室に運ばれて手当てを受けているという。反逆を起こした”ルシフェル”に関して、話を聞き付けたマスコミが殺到しかけているらしいが、それはミラの関知するところではない。多分、警備員に追い返されている筈だ。
 そんな事を考えていた時、スラスターの噴射音と空気を切る音と共に”フレスヴェルグ”に乗った震電がミラの前に現れた。
「………ルシフェルの機能停止、及び『Judgement』解体成功」
「ご苦労。だが、他に言うべき事があるだろう?」
 ミラは、ミコとユーナの手に渡った通信ユニットを震電に返しながらそう言った。
「……『THE LOVERS』の解体を続行する」
 だが、震電は簡潔にそう述べると、”フレスヴェルグ”を加速させて、ハイビジョンタイプトーナメント表へ飛んでいった。
「全く、困ったものだ」
 望みどおりの返事を貰えず、飛び去って行く震電の後姿を見つめながらミラは更に溜め息を吐いた。
 同時に、鳳凰杯としては異例のエキシビジョンマッチが始まろうとしていた。
 ミラは急いで、自分の持ち場へ戻りに向かった。
 
 
 
    ANOTHER PHASE-08-3
                『Last Card』 ―THE WORLD―
 
 
 
 ―PM:18:33 March XX. 203X.
 ―V.B.B.S. Control Room, B2F.
 
 ミラが自分のコンソールに戻った頃、試合はアルティのミュリエルと明人のノアールが暫く睨み合っている状態にあった。
 自分のオーナーが戻ってきた事に気付き、烈風は声を掛けた。
「ミラぁ、震電の奴はどうだったんだよ?」
「やるべき事はやってくれた。あのようになったルシフェルを止め、『審判』も解体した。結果としては望ましく、全く問題は無かった様だがね」
「チッ、カッコ付けやがって…」
 それを聞くと烈風は軽く舌打ちして毒づいた。ミコとユーナの話だけを聞けば、震電の活躍は正しく武勇伝と言えよう。
「ところで、連山はもう向かったな?」
 と言ってミラは、自分のところのコンソールに目を通した。再びシステムにアクセスした連山は、最期の試合で『世界』の起爆プログラムを探索しに向かったのだ。
「ああ、とっくにな。しっかし、戦えるのは二体までだってのに、フィールドはやたらとでけぇな」
 と、呆れるように烈風は呟いた。VRフィールドは『王座の間』の名を冠しており、非常に広い空間の最奥に玉座が一つ、周囲の壁には不死鳥の紋章を模った豪奢なタペストリーが飾られていた。
 最大の特徴は、障害物と言える障害物が殆ど無いことだろうか。特殊なギミックや奇策も使えない、正々堂々とした真剣勝負を行うにはこの上なく最適なフィールドだろう。
「さてと……連山、聞こえるか?」
 ミラはコンソールをモニターしながら、連山に連絡を入れた。
『うにゃっと、ミラちゃんだね~?』
「残すは、『世界』の爆弾のみなのだが……反応はあるか?」
 すると、連山は残念そうに答えた。
『ふみゅぅ…この試合でも検知されないよぉ~?』
「それは参ったな……」
 アテを殆ど失ったミラに、烈風が追い討ちを掛けてきた。
「ボクらが”ルシフェル”を追っている間の、決勝戦専用筐体への交換作業の時に、現物が仕込まれたんじゃねぇの?」
「あまり考えたくは無いが、ここは一つ震電のセンサーに頼るか」
 そう言ってミラは、勇姿んユニットを使って震電に連絡し始めた。
 ミラの神姫の中で最も索敵偵察能力の高い震電にずっと会場の警備をさせるべきだったのかもしれないが、”フレスヴェルグ”と言う独自の飛行ユニットを持つのも震電である。その震電に、興紀の捜索を託したのだから完全にミラの責任だ。
『……急用か?』
「そうだ。決勝戦用の筐体に爆発物反応があるかどうか、一応調べて欲しい」
『……了解した』
 短い言葉を交わすと、震電の方から通信を断った。
「震電のセンサーは信頼できる。問題はそこにあった場合だ」
『だったらミラちゃん~連山がぁ~解体しに行くよ~?』
 会場の注目が一斉に集まる場所を自由に動く事が出来るのは、ミラージュコロイドを持つ連山だけである。連山と同じ事を考えていたミラは軽く頷いた。
「好ましい心がけだな。さて、見つからないのでは長居は無用だ。連山、戻ってきてくれ」
『えぇ~……ニッポンの高レベル神姫同士の試合なんだよ~特等席で見たいよぉ~』
 と、連山は猫撫で声でミラにねだった。
 確かに姿を隠せていれば、VRフィールドの中で直接二人の戦いを傍観する事が出来る。流れ弾が飛んでくる可能性はあるが、二人の戦い方や細かな表情の変化を間近で窺う事が出来ると言う点では確かに特等席である。
 無論、ミラはきっぱりと冷たく言い切った。
「駄目だ。ミラージュコロイドを私事に使うな。それに、君の視線はノアール君には有害だ」
『ふみゅっ!?』
 そのミラの発言に、連山は大いに動揺した。明人に会いに行った時、連山がノアールに何をやらかしたのかミラには大体の見当が付いていたのだった。
『み、ミ、ミラちゃん~……な、な、な、な、な、なんの~のこと……か…なぁ~?』
「お、おい、レン! それは一体どう言うことなんだよ!?」
 烈風が割り込んで連山に事の成り行きを問いただそうとした時、タイミングよく震電から通信が返ってきた。
「痴話喧嘩は後でだ………それで、結果は?」
『………爆発物反応及び不審な無線システムなど検出されず』
 それは即ち、決勝戦専用筐体に不審物は無いと言うことだった。
 ミラは軽く安堵して震電に言葉を返した。
「そうか……それならいい。解体を続行してくれ」
『……了解』
 どうやら、烈風が言うような懸念は無いようだった。
「どうして、どうしてレンの視線があのノアールに悪いってんだよぉっ!!?」
『はぅはぅぅぅ~……れっぷうぅちゃん~もうちょっと落ち着いて~…』
 コンソール越しに痴話喧嘩を始めてしまった烈風と連山はさておき、ミラは『世界』の爆弾に関して最後の可能性を考えていた。
(「昨夜のアルカナの発言……まるで、自分の存在を多くに知ってもらいたいかのようだった。だが、”ルシフェル”の体を借りた『審判』による自己主張ではまだ足りなさ過ぎる……最も人々が注目する瞬間とは、アルカナの狙い目でもある表彰式だろう。テレビカメラも集中している事だしな。そうなれば、実体の無いアルカナが現れる場所とは……」)
 ミュリエルとノアールの最後の激戦が繰り広げられている中、ミラはふとラルフからの陣中見舞いの事を思い出した。
(「そうだ、アレの中身を確かめておかないと……然し計100TBの拡張ユニットとは、ラルフの奴は何を考えているんだ?」)
「全くよぉ、浮気はするなって言ってんのはいつもレンじゃねぇかよぉ…」
『ふみゅぅぅぅ……だって、れっぷうぅは連山だけのモノだもん~だからそれだけはダメでぇ~…』
 まだまだ下らない痴話喧嘩が続いている中、ミラはトランクから『A3E-τ』と記された、10枚組のメモリーカードを取り出した。他には通し番号だけしか記されておらず、中身が何なのか全く検討が付かなかった。
(「これでまた、ドカーンなんてやらかしたら、唯で済むと思うなよ」)
 まだ根に持っているとりあえずミラは、1番のメモリーカードから差し込んでみた。
 するとコンソールに新たに開かれたウィンドウに、七基組み合わさった様な巨大なエンジンユニットと思われる物体が表示された。
 見慣れない形状なのはいいとしても、震電一人を乗せる”フレスヴェルグ”の追加エンジンにしてはあまりにも大きすぎる。
(「何だこれは……”フレスヴェルグ”のサイズに全然合わないぞ」)
 そんな事を考えながら、ミラはそのエンジンユニットらしき物体をコンソールにアップロードさせると、2番目のメモリーカードを差し込んだ。
 大勢の観客やスタッフたちが最後の試合を見守る中、烈風と連山がまだ痴話喧嘩し、ミラはミラでよく分からないラルフからの陣中見舞いに頭を捻っていた。
 
 
 
 
 ―PM:19:00 March XX. 203X.
 ―Arena, ?F.
 
 そうこうしている間に遂に、エキシビジョンマッチの勝者が決定した。
 
 
 
『第五回鳳凰カップ最終試合、エキストラバトルの勝者は………!!』
 
 
 
 その先は、観客達の大喝采で聞こえなかった。
 『恋人たち』の爆弾に残るコードも遂に二本だけ。震電は青い方のコードを切断した。
 すると、『恋人たち』の爆弾から、緑色のランプが点灯した。解体の成功を知らせるものだ。
(「……『THE LOVERS』、解体完了」)
 特設ドームを揺るがす一万五千人もの観客達の優勝者へのコールを耳にしながら、震電は『恋人たち』の解体を始めた頃を思い返していた。
 思えば長かった。試合に決着が付かない限り解体を進めてはならないという性質上、自分も観客の一人にならなくてはいけないのだった。尤も、爆弾と相席している観客なんていないのだが。
 改めて、解体に成功したばかりの『恋人たち』の爆弾を見た。トーナメント表のように張り巡らされたコードは殆どが切断され、切られず残ったコードが一本の道を形成していた。
 曰く、『恋人たち』の意味は分かれ道などを意味すると言う。ところがこの『恋人たち』は逆位置だったため、意味が全く正反対となる。鼠算式に分かれ道を描いて、それを逆さまにしたら……トーナメント表が出来上がるのだ。分かれ道でなくなる以上、どちらかの道を断たなくてはならないのだった。
 震電は改めて、決勝戦専用V.B.B.S.筐体の辺りや周りの観客達を眺めてみた。そして、これまでずっと見続けてきた試合の様子を思い起こした。
(「………神姫発祥の地のバトルは、妙に凝った武装を使うのか…?」)
 震電は日本の神姫の試合に大した関心を示す事は無かったが、彼等の装備には少しだけ関心を惹いたようだった。自分で使うかどうかは別にして、それらの装備を扱う相手との戦い方を考えながら試合を見るのも悪くはなかった。
 そんなのも悪くは無い。
 震電は思わず感慨に耽っていたが、すぐに自分の任務を思い出した。
(「………さて、次が表彰式。全てが、決まる」)
 観客達の勝者への祝福の拍手喝采を聞きながら、震電は通信ユニットを取り出した。
 
 
 
 ―PM:19:01 March XX. 203X.
 ―V.B.B.S. Control Room, B2F.
 
『いぃやっほぉーーっ!!』
『終わった終わった~!!』
『おいこらお前ら! まだ表彰用の映像編集が終わってないだろ!!』
 最後の試合が終わり、スタッフ達の間でも違うところで大盛り上がりとなっていた。
 彼等の最後の仕事は、決勝戦専用V.B.B.S.筐体にムービーを流す事である。これまでの試合の短編ダイジェストシーン、最後の最期の勝者、表彰用の煌びやかな花火、提供した企業などである。
 それらを終えて、やっとV.B.B.S.筐体制御スタッフの仕事が終わるのである。
 
「…最後の『世界』が断定するまでは、会場の様子見を続けるように。私の推測が正しければ再度連絡する」
『……了解』
 通信ユニットを切るとミラは、自分のトランクの中へ声を掛けた。
「烈風、連山、準備は出来ているな」
『………おうよ』
『あ、あいな~っ』
 最初に聞こえてきたのはどうにも不機嫌で覇気の無い烈風の声。次に勢いはあるようだが微妙に空回りしている連山の声だった。どうやら、痴話喧嘩のわだかまりがまだ残っているらしい。
 ミラは呆れたように言った。
「烈風、君がそんな調子では困るな。これまでに溜まった思いを、やっとアルカナにぶつけられると言うのに」
『あークソッ、分かってるよ……クソッ!』
 そう言いながら烈風と連山はミラのトランクから這い上がるように出てきた。二人ともそれぞれの装備を整え、完全武装して構えていた。
 それらは、違法神姫を破壊するためだけに限定した特製の武装だった。
『はぁあうぅぅぅ……れっぷう、これが終わったら~今度かられっぷうがリードしてほしいなぁ~……』
『チッ、そこまで言うんなら……レン、今夜は寝かさねぇぜ』
 然しいよいよ最後だと言うのに、いささか緊張感に欠ける会話である。
 そこで烈風は、思い出したかのようにミラに話しかけた。
「ところでミラぁ、そっちはそっちで何かやってんのかよ」
「ああ、私の方は問題ない。色々と根回ししておいたからな。二人とも、アクセスポッドに入って待機だ」
 烈風はすぐに黒き翼をはためかせてポッドに向かったが、レインディア・アームドユニット以外に見慣れない装備で全身を固めている連山はミラをじっと見つめていた。更には、大きな赤い獣のようなロボットを背負っていた。
 少なくともこれらは、正規の武装ではない。
「ミラちゃ~ん…『ドゥルガー』には~ミラちゃんの声が必要なんだってばぁ~…」
「……っと、そう言えばそうだったな。よし、始めよう」
 と言ってミラは、連山と大きな獣の様なロボットをコンソールの上に立たせた。連山は画面に表示されているよく分からない物体に気を取られかけたが、すぐにミラを意識した。
『”ヴィンデイヤヴァーシニー、マヒシャースラマルディーニ”』
『何千、何万の敵が阻むなら~ぜ~んぶ、滅ぼしにいこ~っ』
 すると、連山自身と見慣れない装備に、大きな赤い獣のロボットが一瞬だけ輝き、起動した。
 その赤い獣の様なロボットは虎をモチーフにしたものらしく、自分よりもやや小さな連山に擦り寄った。
 それを見たミラは軽く頷いた。
「起動完了、だな。ドゥンはサイドボードから転送させる」
「それじゃ~ドゥン、向こうの世界で~また会おうね~♪」
 ”ドゥン”と呼ばれた、その赤い虎は連山に軽く頭を下げると、アクセスポッドへ向かう連山を見送った。
「さてと、君も向こうへ行こう」
『ガルル……仰せのままに』
 ミラはドゥンを掴むと、サイドボードに移した。
 が、通常の神姫より大きな虎の姿のロボットは、普通は予備の武装を入れるサイドボードにはやや狭すぎた。
『きゅ、窮屈……』
「まあプチマスィ~ンズなら兎に角、君は違うからね。何、すぐに向こうへ送る」
 ミラは苦笑いを浮かべながら、コンソールのパネルを操作し始めた。規格外のサイズながらも、サイドボードは何とかドゥンを認識し始めた。
 転送される直前、ドゥンはミラに一言だけ聞いた。
『敵はどのような違法を?』
「主に爆弾テロやハッキング。何年もAIだけのままネットワーク世界を彷徨ってきた、元神姫だ」
 そう言うや否や、ドゥンのAIは向こう側へと転送された。
 これで、戦闘準備はほぼ整った。
 だがミラは、コンソールに映る巨大な物体を眺めて軽く溜め息を吐いた。6枚目のメモリーカードを差し込んで尚、未だに完成しないそれの正体が何なのか分からなかった。
「ラルフ……これは本当に、神姫の装備なのか?」
 ミラの技量を持ってしてもまだ完全には組みあがっていなかった。これからの為にも、すぐに組み立てあげたいところだが、もうじき表彰式が始まろうとしていた。
「惜しいところだが、順番はそれからだな……」
 仕方なくミラは、パネルを弄るとコンソールに会場の様子を映し出した。
 
 
 
 ―PM:19:05 March XX. 203X.
 ―Arena, ?F.
 
 会場は余分な照明が消え去り、今大会の優勝者をスポットライトで照らしていた。その先には、優勝トロフィーを携えた兼房の姿があり、健闘した優勝者を出迎えていた。
 観客席では、この大会の優勝者を祝して盛大なる拍手を送っていた。
 先程まで決闘の場所であった決勝戦専用V.B.B.S.筐体には、華やかな花火と共に優勝者とその神姫の名前が3Dグラフィックとして表示されていた。
(「………滞りなく進行中」)
 震電は表彰式の始まりから、何処かに異常が起こらないかずっと監視し続けていた。
 今はミラの指示を仰ぐのを待つだけなのだが、それでも監視行動ならやっていても構わないだろう。
 
 
『表彰、第五回鳳凰カップ優勝……』
 
 
 その時だった。
(「……!!」)
 兼房の言葉と同時に、先程まで煌びやかな花火を映し出していた決勝戦専用V.B.B.S.筐体にノイズが混じってきた。
 だが、あまりにも些細な変化だった為か、今はまだ震電以外は誰も気づいていないようだった。
 そして、兼房の手から優勝トロフィーが手渡されようとした瞬間だった。
 
 
 
 
《虚構の人形師達よ。汝らは無知であるが故にその穢れは未来永劫拭われる事はない》
 
 
 
 
 その声は、会場の大型スピーカーから聞こえてきた。
 それは間違いなく人間の声ではなかった。然し、神姫の声だとするならそれはあまりにも神々しく、悪夢のようであった。
(「………あれがアルカナ、か」)
 V.B.B.S.筐体から花火は掻き消え、作られた暗闇の中にたった一体の神姫が映っていた。
 青と黒の二色で構築された素体、同様の青い髪を持つ神姫は間違いなく悪魔型MMSたるストラーフだろう。だが、筐体の中に浮かび上がるその神姫は長き薄布をその身に纏い、細かな六角形のパネルで構築された輪がその神姫を中心に楕円軌道を描いていた。
 
『何だ何だ?』
『一体これは何なんだ!?』
『人形師だって?』
 
 見たことも無い悪魔型MMSが筐体に現れたことと、奇妙な発言により会場中の視線が決勝戦専用V.B.B.S.筐体に集中した。
 だがその瞬間、V.B.B.S.筐体の映像がパッと切り替わり、別の男性のものらしき音声が流れてきた。
 
 
 
 
『悲しみに暮れる神姫がいた。オーナーが全てだった彼女はオーナーから見放され、新型神姫研究施設に捨てられた。彼女は実験材料とされ、最終的に停止する運命を待つことしか出来なかった…』
『だが彼女は偶然にも、廃棄された試作品の中からあるパーツを拾った。それは、無制限の可能性を引き出す、光の翼だった』
『だが、彼女は光の翼と出会う事により、自分を捨てた人間達への復讐を誓った。全てを失った彼女を動かすのは、唯純粋な怒りと憎しみ、そして悲しみだけだった…』
 
『何故、僕が君を捨てたのか、まだ分かっていないようだね?』
『いや……君は本当は強い。それは、実力とかそういうんじゃなくてさ』
『どうしてこんな事に……ソフィアは…ソフィアァァァァァ!!』
『翼はわたしを選んだ! わたしと同じ運命だから、この力を振るう事が出来る!!』
『神姫は人と生きる為に生まれてきた! 人殺しの手段であってはいけない!!』
『さあ、これで賽は投げられた。君如きに止められるものではない』
『翼が…翼がこの時の為にあったなら、わたしの思いを……!!』
 
『真実と向き合った時、彼女は何を見出すのか。”ミトラの翼”、今冬より上映予定』
 
 
 
 
 その場にいた全員が、唖然としたように暫くの間それを見つめていた。
 そしてすぐに会場中が不穏な空気に覆われた。
 
『し、新作映画のCM?』
『でも、何でこんな時に流したんだ?』
『そんなの知らないよ。手違いとかそんなんじゃねぇの?』
 
 何度かそのCMが繰り返された時、元通りの煌びやかな花火の映像に戻った。
 突然のCMに微妙な空気が会場を漂っていたが、兼房がそれを遮った。
 
『え~……オホン、CMを流すタイミングをうっかり間違えてしまったようじゃな』
 
 会場は暫く騒然としていたが、すぐに表彰式の続きが再開された。どうやら、アルカナの影響を受けて混乱する事は無かったようだ。
(「……何だ、今の宣伝は」)
 震電がそう考えた時、通信ユニットが鳴りだした事に気付いた。すぐに取ると、ミラの声が聞こえてきた。
『さて、戻ってきてもらおうか。烈風と連山は既にアルカナと戦い始めた』
 ミラはそれだけ告げると通信を断った。すぐに”フレスヴェルグ”を起動させると、震電はV.B.B.S.筐体制御室へと向かって加速した。
 
(「……然し、何処から何処までがアルカナの仕業だった?」)
 先程の訳の分からない映画のCMをまだ気にして、震電は軽く頭を押さえた。
 
 
 
 ―PM:19:06 March XX. 203X.
 ―V.B.B.S. Control Room, B2F.
 
 時はやや遡り、決勝戦専用V.B.B.S.筐体にアルカナが現れる直前まで戻る。
『おい、なんでムービーにノイズが混じってんだ?』
『駄目です! V.B.B.S.筐体、制御を受け付けません!!』
『くそっ、もう終わりだって時に何でまた来やがる!?』
『再度、非常用プログラムを試みます!』
『おい!? ところでなんでこんな時にチーフは何処に行ったんだよ!?』
『知るか!』
 またしても制御室が、アルカナからの攻撃を受けて混乱状態に陥ってしまったのだ。
 バトルの管理中ではないものの、今日はあまりにも異変が多すぎた。今度こそ速やかに対処しなければ、上から怒鳴られるだけでは済まないのだ。
(「アルカナの最終目的は、人間の前に姿を現すこと。それが自らの動機を伝えるものとするなら、多くに最も注目される瞬間でありテレビカメラも集まる、表彰式の時しかない。故に自らが『世界』となることで全ては完成し、目的は達成される」)
 表彰式が始まる時からずっと、ミラはその瞬間を待っていた。それは唯単純に、『世界』の起爆プログラム=アルカナを討ち果たす為だけである。
 その為に再度、V.B.B.S.筐体へのセキュリティホールを空けたのだが、それはスタッフ達は当然のことながら、烈風と連山にも教えていなかった。
 するとミラのコンソールの中から、烈風が呼びかけてきた。
『お~いミラぁ、ボクらの出番はまだかよっ!?』
「主役がまだ来ていないのではな」
 と言って、コンソールの別のウィンドウに開いた、テレビ中継を見た。スポットライトを浴び、優勝トロフィーを携える兼房の元へと歩いていっている最中だった。
 そして、兼房の手から優勝トロフィーが手渡されようとした瞬間だった。
 V.B.B.S.筐体に流されていたムービーがぷつりと途絶えると同時だった。
 
 
 
 
《虚構の人形師達よ。汝らは無知であるが故にその穢れは未来永劫拭われる事はない》
 
 
 
 
 何も映らない暗闇のV.B.B.S.筐体のフィールドに、一体の神姫が亡霊の如く、浮かび上がるかのように現れた。
(「やはり来たな、アルカナ……!」)
 元々の悪魔型MMSの特徴は残しながらも、長き薄布だけをその身にゆるやかに纏い、細かな六角形のパネルで構築された輪がアルカナを中心に楕円軌道を描いていた。
『お、おいっ、 何だあれは!?』
『バトルじゃないのに、神姫がどうやって!?』
『えぇい、そもそも今日はおかしな事ばかりだ! どうなってやがる!?』
『いいからさっさと排除しろ!!』
 あまりにも堂々としたアルカナの姿に、スタッフ達は急いで削除作業に取り掛かろうとするが、V.B.B.S.筐体そのものが制御を受け付けつけず、アルカナに削除コードが届く事はなかった
 その姿はミラのコンソールにも映し出され、待機している烈風と連山もその姿を見た。
『来たってか!?』
『この子が~アルカナだね~っ』
「逸るだろうが、もう少し待て。今は好機ではない」
 と言って、ミラは素早くキーボードを打ち込み、セキュリティーホールを通して筐体の制御を始めた。
 すると、別のスクリーンに映されていた会場でのV.B.B.S.筐体に変化が起きた。
 
 
 
 
『悲しみに暮れる神姫がいた。オーナーが全てだった彼女はオーナーから見放され、新型神姫研究施設に捨てられた。彼女は実験材料とされ、最終的に停止する運命を待つことしか出来なかった…』
『だが彼女は偶然にも、廃棄された試作品の中からあるパーツを拾った。それは、無制限の可能性を引き出す、光の翼だった』
『だが、彼女は光の翼と出会う事により、自分を捨てた人間達への復讐を誓った。全てを失った彼女を動かすのは、唯純粋な怒りと憎しみ、そして悲しみだけだった…』
 
『何故、僕が君を捨てたのか、まだ分かっていないようだね?』
『いや……君は本当は強い。それは、実力とかそういうんじゃなくてさ』
『どうしてこんな事に……ソフィアは…ソフィアァァァァァ!!』
『翼はわたしを選んだ! わたしと同じ運命だから、この力を振るう事が出来る!!』
『神姫は人と生きる為に生まれてきた! 人殺しの手段であってはいけない!!』
『さあ、これで賽は投げられた。君如きに止められるものではない』
『翼が…翼がこの時の為にあったなら、わたしの思いを……!!』
 
『真実と向き合った時、彼女は何を見出すのか。”ミトラの翼”、今冬より上映予定』
 
 
 
 
 いきなりV.B.B.S.筐体から映画の予告編のような変なムービーが流れ、スタッフ達はおろか烈風と連山まで唖然としてしまった。
『誰だ!? 今度は誰の悪戯なんだ!!?』
『れ、例のあの神姫がやったんじゃないんすか!?』
『ってかそんな話、俺は聞いてねえーー!!!』
 意味の分からない事を呟いた謎の神姫に続いて、今度は別のところで混乱しかかるスタッフ達。
 烈風と連山は思わず最後まで見てしまったが、すぐに烈風が口を開けた。
『オイ、ミラぁ!? 何なんだよアレは!?』
『し、新作映画~!? もしかして~ミラちゃんが作るの~!?』
 予想通りの微妙な意見が返ってきて、ミラは苦笑いしながら二人を諭した。
「アルカナが人前に姿を現す事は、昨夜から予告してきた事だった。だから、突然アルカナが現れてきた時に、誤魔化せるようにと差し替え用の動画を拵えてみたんだけど……やっぱり駄目か」
『いや、ダメとかそんなんじゃなくて、こりゃ何の意図なんだよ!?』
 烈風がそう問いただしたその時だった。
 
 
 
《邪魔をするだけに飽きたらず、我を愚弄にするか……ミラ・ツクモ》
 
 
 
 突如、制御室のメインスクリーンから、震え上がるような低い声が響いてきた。
 メインスクリーンがパッと切り替わると、先の薄布と六角パネルの輪を纏った悪魔型MMSが現れ、金色の瞳でこちらを冷たく睨みつけてきた。
「愚弄? それは遺憾だな。君を神姫俳優としてプロデュースしてあげようと思っただけなんだが……お嫌だったかな、アルカナ?」
《詰まらぬ余裕を。我こそが全てにして【世界】。貴様が戦ってきた21の罰は蘇り、210秒後にこれより全てに裁きを下さん》
「……!!」
 そのアルカナの言葉に、表情には出さなかったもののミラは戦慄した。
 最後の起爆プログラムたる『世界』は、これまでに解体してきた全ての時限爆弾を再起動させる存在だったのだ。
 これまでの解体が無意味になったわけでは無いが、3分30秒以内に『世界』の起爆プログラムたるアルカナを消滅させなければ、この特設ドームの中にいる全ての人間が爆弾テロ史上最大級の爆弾に巻き込まれてしまう。
 目の前にいる、悪魔型MMSの姿をした『世界』は、それだけの事をする事が出来る存在なのだ。
「それは悪いが、君の児戯に付き合うのはいい加減飽きてきてね」
 ミラはそう喋りながら、自分のコンソールで待機している烈風と連山に目配せした。
 然しこれでやっと、アルカナと堂々と戦う事が出来る状態になったのだ。二人はそれに気付くと、ミラが空けたセキュリティホールから、V.B.B.S.筐体へアクセスを開始した。
『れっつご~っ! ところでれっぷう~~本当に~映画やっちゃうのかな~?』
『レン……どう考えても大法螺に決まってんだろ……』
 ミラの冗談なのか本気なのか分からない行動を、連山は未だ微妙に信じ烈風は呆れながら、V.B.B.S.筐体へ先に侵入した。
 烈風と連山を見送ると、次いでミラは震電に通信を掛けた。
「………さて、戻ってきてもらおうか。烈風と連山は既にアルカナと戦い始めた」
 と、簡潔にそれだけを述べて通信を切った。
 これで全員揃うのだが、ここで思わぬ事態が発生した。
「あんたか! 今日はどうもおかしいと思っていたら、全部あんたの仕業だったんだろ!?」
 我に返ったスタッフの一人が激しい形相でミラに迫ってきた。
 
 
 
 ―VR-Field, V.B.B.S.Main Server.
 ―『THE WORLD』, Remainder time to explosion, "3 minute and 25 seconds."
 (『世界』が起爆するまで後、3分25秒)
 
 一方、烈風と連山はミラが空けたセキュリティホールを潜り抜けた。
 今のV.B.B.S.筐体には、ミラが作った偽装用のムービーが流されている筈だった。
 だが、VRフィールド内部は不自然な暗闇に覆われた『玉座の間』だった。最後にミュリエルとノアールが雌雄を付けた場所がそのまま残っていたのだった。
 そんな暗闇の最奥の玉座に鎮座するのは一体の悪魔型MMS――『世界』の起爆プログラムそのものにして、全ての元凶たるアルカナがそこにいた。
 元々の悪魔型MMSの特徴は残しながらも、長き薄布だけをその身にゆるやかに纏っており、さながら女神のようでもあった。また、細かな六角形のパネルで構築された大きな輪がアルカナを中心にして、楕円軌道を描いていた。
 アルカナは暫くの間、VRフィールド上に作り出した簡易ウィンドウから制御室の様子を眺めていたが、烈風と連山の存在に気付くとウィンドウを消して二人の方を向いた。
《来たか、人形師に従えし逞しき娘達よ。汝らは背負いきれぬ咎の撫物、無知なる人形師の身代わり》
 そのアルカナの台詞には侮蔑や挑発ではなく、寧ろ哀れみに似た感情が込められた。
 オーナーと現実世界に於ける身体を失い、ネットワークと言う仮想世界を漂い続けてきたが故に、元々武装神姫だったアルカナは、武装神姫をその様に例えたのだった。
 然し烈風は前者だと解釈して激昂した。
「何訳の分かんねぇ事抜かしやがる! アルカナぁっ! てめぇだけは、ぜってぇ百万回はぶっ飛ばす!!」
「ちょっと烈風~いきなり前に出るのは危険だよぉ~!」
 黒き翼をはためかせて烈風はアルカナに接近しかけるが、連山に”サバーカ”の左足を掴まれて思わず前につんのめってしまった。
 その様子を見ていたアルカナは、そのまま言葉を続けた。 
《我は嘗て【神姫】と呼ばれた者、真理を探り当てた魔術師也》
 そう言ったその時、アルカナを中心にVRフィールドに無数のウィンドウが展開された。
「何だってんだよ、コイツは!?」
 何かの攻撃かと思い烈風は警戒した。だが、よく見てみると全てのウィンドウに、様々な神姫がバトルしているシーンが映されている事に気付いた。
 ハンドガンを高速移動する相手に向けて乱射するアーンヴァル。
 振り下ろされようとする鋭利な刃を”チーグル”で受け止めようとするストラーフ。
 戦闘慣れしておらず、ダウンした相手に何度も十手を打ちつけるハウリン。
 高速回転する旋牙を以て、相手神姫の原に大穴を空けたマオチャオ。
 そのどれもが、バトルではあまりにも一般的な光景だ。どの神姫も相手と共に傷つきあい、最終的に勝ったり負けたりしている。特別、珍しい光景でもない筈だ。
「ふみゃ…”IllegalType”同士の戦いも混じってる~……?」
 次いで、連山は違法改造された神姫同士が戦っているウィンドウを見つめた。
 無残にも全身が重火器の塊となったヴァッフェバニーが相手を一瞬で鉄屑に変え、
 レインディア・アームドユニットを巧みに使いツガルは相手にしがみついて自爆し、
 顔面が完全に焼け爛れてしまったサイフォスが神姫の残骸を相手に投げつけ、
 照準を相手のオーナーに向けてその体躯より大きなガトリング砲を撃つフォートブラッグ。
 こちらの世界にルールは無い。戦闘の為だけにチューニングされた、武装神姫の成れの果てが互いに殺しあうだけの無常にして不毛な世界なのだ。
 
 烈風と連山はそれらの光景を見ていたが、烈風から先に気を取り直した。
「そんで、それがどうしたってんだよ」
 その言葉と同時に、暗闇の玉座の間を多い尽くしていたウィンドウが一斉に消え去った。
《人間は、我々にこのような愚行をさせ続けてきた。ならば汝らに問う、我々が戦う意味を》
 そのアルカナの言葉に、烈風と連山は躊躇することなく答えた。
「バッカじゃねぇの。んな事も分かんねぇで、オマエは武装神姫をやってきたってのか? オーナーの為だとかそんな目出度い奴等は知ったこっちゃねぇが、自分の為に戦えなくてどうすんだ?」
「勝ったらね~時々だけど~ミラちゃんは笑ってくれるんだよ~。連山の場合は~そんなミラちゃんの顔を見たいからなんだよ~♪ みんなも~オーナーが喜んでくれるから~戦うんだと思うよ~」
 やや挑発的に乗り出してきた烈風に対し、連山は自己の考えを交えて答えた。
 然し、アルカナは烈風と連山の言葉を否定するかのように言った。
《愚かな……それが全てに非ず。知りつつも繰り返し、その全ての報いを受けるは人形師達也。我々には何が残る?》
「知るかっ!!」
「れ、れっぷうぅ~それを即答しちゃぁ~ダメだよぉ~っ!」
 バトルで勝利した時、誰が一番笑うのだろうか。
 オーナーは工夫や知識等で神姫をバックアップし、神姫は用意された戦法や装備を使って直接戦いに赴く。その結果、実際に勝利を掴み取るのも敗北してしまうのも、オーナーではなく神姫なのだ。
 連帯責任。そんな言葉も確かに存在する。幾らオーナーが優秀でも神姫が弱ければ敗北し、その逆もまた然りである。だが勝利の栄誉とは、本当にオーナーと神姫で共有するものなのか。
《分かるまい……人形師の下僕には。オーナーと呼ばれる人間にとって、我々は唯の駒、唯の操り人形に過ぎない。我々が掴み取った栄誉は全て、オーナーが手にするもの…!!》
 そう説くアルカナを支配するのは、純粋な怒りだった。
 ワイアードゴーストとしてネットワークの世界を彷徨い続けてきた末に、人間の汚い部分を見てきたのだろう。神姫を愛する人間はいても、神姫が人間のパートナーであり続ける限り、神姫は道具に過ぎない。
 長々とアルカナの話を聞いていた烈風だったが、遂に堪忍袋の緒が切れた。
「さっきからうだうだと、ご高説痛みいるね!! ボクはオマエみたいに無駄に賢くないからそんなの分かりゃしねぇが、ボクはボクで、オマエはオマエだ! ネット幽霊なんかと一緒にすんじゃねぇよ!!」
 と、今にも噛み付きかかる勢いでまくし立てると、吠莱壱式とグレネードランチャーをアルカナに向けた。
「何かでオーナーが喜んでくれて~嬉しくならない神姫なんていないんだよ~! そんな人達の事を知らないで~爆弾で沢山の人と神姫を~手にかけてきたのなら~…絶対に許さないんだよ~っ!!」
 烈風に続いて連山もそう言うと、ドゥンにまたがるように乗りながら破邪顕正を構えた。
 二人の言葉を聞くと、アルカナは虚空に手を振り上げながら言い放った。
《ならば、その言葉を示して我に見せるがいい…!!》
 アルカナの言葉と同時に、暗闇の玉座の間だったVRフィールドは一瞬で情報体の屑となって砕け散り、新たなるVRフィールドが姿を現した。
 そこは宇宙空間のようだったが、青白いクリスタルの様な物体が床を形成していた。すぐ近くに球状の地球が見え、遠くには太陽や月が見えた。
 宇宙の様な外見のフィールドだが、床に当たる箇所にはしっかりと重力が働いていた。然し、所々床の抜けた箇所があり、そこに足を踏み入れたらどうなるか……それは分からない。
 奇妙なVRフィールドに飛ばされても、烈風と連山は焦る事も戸惑う事はなかった。
「よっしゃ行くぜ、レン!!」
「うん、行こう烈風~っ!」
 二人がアルカナに向かうと同時に、アルカナの手の平に小さな杖が現れた。
《我に抗うがいい……そして、真実を知るがいい!!》
 
 
 
 ―V.B.B.S. Control Room, B2F.
 ―『THE WORLD』, Remainder time to explosion, "3 minute and 16 seconds."
 
「待て、ここまでのやり取りを見ての発言なのか?」
 ミラはすぐに弁明するが、スタッフ達は聞く耳を持たず、次々と怒声を浴びせてきた。 
「そうだ! 海外からの突然の増員だなんて話、信じられるとでも思ったのか!?」
「大体昨日、あんたの姿をここで見たぞ! 昨日から何かを仕掛けていたに違いない!!」
「お前が、この大会を無茶苦茶にしたんだ!!」
 あまりの剣幕に押されてしまい、ミラはスタッフ達全員に追い詰められそうになった。
 確かに無理も無いことだった。今日の大会の運営スタッフとして、ミラが急に割り込んでくる形で増員されたのだ。だが、ミラの力を借りずとも大会はほぼ正常に運行出来てきていた。
 然し、今日に限って妙なトラブルが多発しだしたのだ。それでは確かに、ミラには疑われる要因しかない。
 ちらりとメインスクリーンに目をやると、にやにやと笑うアルカナの姿があった。この状況を愉しんで傍観しているのだった。形勢逆転と言うべきだろうか、追い詰められるミラの姿を見て笑っていた。
『アルカナぁっ! てめぇだけは、ぜってぇ百万回はぶっ飛ばす!!』
『ちょっと烈風~いきなり前に出るのは危険だよぉ~!』
 だが、V.B.B.S.筐体へアクセスを開始した烈風と連山に襲撃され、ミラのピンチをじっくりと見ている暇はなくなってしまった。
(「やれやれ、面倒な事になったな……」)
 その時、ミラの通信機が鳴り出した。
 ミラはそれを受け取って桜の報告を聞くと納得したように頷いた。そして短く何かを伝えると、そのまま通信機をスタッフの一人に手渡した。
「何のつもりだっ!?」
 スタッフの一人がミラから通信機を乱暴に奪い取ると、耳に当てる。すると、非常に凛とした女性の聞き慣れない声が聞こえてきた。
 だが、その台詞を聞いて、スタッフ達は一斉に顔を青くした。
『…こちらは警備隊本部部長、水無月です。ミラさんの情報提供により、一連の事件の共犯者を捕らえる事が出来ました』
「え……う、嘘、社長秘書の水無月って…!?」
『はい、私は鳳条院グループ社長の秘書の水無月 桜です。それよりも、貴方達に伝えなければならない事があります』
 すると通信機越しに桜は、声のトーンを一段と低くして説明を始めた。
『先ず第一に、V.B.B.S.筐体管理スタッフのチーフである結城司はこれらの事件に関与していたとされ、警察が来るまで捕らえながら尋問しています。制御室がコントロール不能になるほどの一大事が起こったそうですが、彼はその手引きをしていた事を自白しました。まさか彼の不審な行動を見逃していた、などとは言わせませんよ? そしてミラさんは、海外より社長がお招きした来賓であり密偵です。一連の異常事態を回避すべく遣わされました』
 通信機越しとは言え、明らかに桜は怒っていた。
 当然、スタッフ達の失態を社長に伝えて解雇処分にさせることも出来る立場にある人間なのだ。スタッフ達は顔面蒼白しながらがたがたと震えて桜の声を聞いていた。
 桜は更に追い討ちを掛けるかのように台詞を続けた。
『それと、社長から直に辞令を託けを承りましたのでお伝えします。この異常事態を早急に解決する為、ミラ・ツクモの指示に従い行動せよ。分かりましたね?』
 
「「「「「「「は、はいぃぃぃっ!!?」」」」」」」
 
 顔が更に土気色になりかかっていたところで、スタッフ達は震え上がった。
『宜しい。それでは私からは以上です』
 桜が通信を切ると同時に、スタッフの一人がミラに恐る恐る、通信機を返した。
 するとミラは、スタッフ達に分かりやすく事情を説明し始めた。
「簡潔に説明するが今、V.B.B.S.筐体で私の神姫達と戦っているあの悪魔型は、ワイアードゴースト現象によるハッカーだ。奴は表彰式の瞬間に現れると予告してきた。そこで私は奴が表彰式に現れれば大会の運営に支障が出ると思い、あの悪魔型が出た瞬間を狙ってムービーを書き換えた。そうすれば、少なくとも会場側に余計な不安を招く事は無い……そう踏んだんだ」
 ミラの切実な説明を聞いてスタッフ達は黙っていたが、暫くするとその内の一人が声を上げた。
「ってでも、このムービーのままじゃそれはそれでまずいのでは…!?」
「だから、そこで私が頃合を見計らって差し替えようとしたんだが、そこで最初に私に因縁をつけて来たのは何処の誰だったかな?」
 そう言って来たスタッフに、ミラは冷たい眼差しを向けて鋭く睨み付けた。
 このままでは埒が明かない。そう考えるとすぐに命令を下した。
「兎に角、各自は持ち場に戻り作業の再開するんだ! 私が作った擬装用ムービーが会場に流れっぱなしになっている筈だからな!!」
「「「「「ひえぇぇぇぇ~~っ!?」」」」」
 ミラが怒鳴りつけると、スタッフ達はすぐさま自分の持ち場に戻って作業を開始した。
 ムービーもミラが差し替えたものから、元の花火の映像に再度差し替えられた。
(「フィールドの管理に大した無能が集まって仕事になるのが日本なのか……っと、そうだ」)
 誤解が解けてやっと一息つけたところで、ミラはある事を思い出した。自分のコンソールの前に座りながら、通信ユニットを取り出すと、震電に通信を掛けた。
 少しばかり時間を空けて、震電が通信に出た。
「さて、戻ってきてもらおうか。烈風と連山は既にアルカナと戦い始めた」
 とだけ伝えるとミラは通信を切り、コンソールに表示されている”陣中見舞い”に軽く溜め息を吐いた。
(「アルカナが烈風と連山だけで何とかなる相手ならいいのだが……両方、何とかしなければならないな」)
 
 
 
 ―Name:『Unknown』 VR-Field, V.B.B.S.Main Server. 
 ―『THE WORLD』, Remainder time to explosion, "3 minute and 8 seconds."
 
《かの炎は、バハラームの火にして裁きの業火…!!》
 アルカナは杖を掲げると、呪文めいた言葉を口にした。
 すると、宇宙空間の様なフィールドが赤く染まり、自動車のタイヤ程の大きさを持つ火炎弾が、フィールド中に大量に降り注いできたのだ。
 それはまるで、遥か太古の時代に栄えた恐竜が滅びし日の再現のように。
「じょ、冗談じゃねぇぞこんなのっ!!?」
 烈風は黒き翼を羽ばたかせ、着弾地点を避けるように飛来するが、床に着弾した火炎弾が破裂し、更に無数の火の破片が飛び散ってきた。
「これで防……熱っちぃ!!?」
 咄嗟に、翼に仕込まれたリフレクターを展開して弾いたものの、火炎弾の破片はリフレクター越しに凄まじい熱を伝えてきた。幾らリフレクターが強固であっても、その前に凄まじい熱量でやられてしまう。
「烈風~っ! と~りゃ~!!」
『主、攻撃が止むまではアルカナには近づけませぬ』
 ドゥンに乗る連山は火炎弾の着弾位置を避けながら、その破片を破邪顕正の穂先と石突で正確に弾き飛ばしていた。普通の神姫なら防ぐべきと判断するところだが、それでは騎乗しているドゥンに負担が掛かってしまう。
「それは分かってるから~烈風のサポート~っ!」
『心得た』
 すると、ドゥンは新たに降って来る火炎弾の着弾地点を避けながら烈風の元へ駆けた。連山は破邪顕正を振り回すように払いながら、その破片を全て叩き落した。
「チッ、受けてばかりは趣味じゃねぇってのに……!」
 リフレクターを展開しつつ回避にも専念するが、それで状況が変わる訳ではない。アルカナに近づく事が出来なければ状況は膠着したままだ。
 そう思っていた時、ドゥンに乗った連山が駆けつけ、襲い掛かる火炎弾の破片を代わりに防いだ。
「れっぷぅ~~っ!!」
 さほど大事には至っていない烈風の姿を見て、連山はホッとした。然しそれも束の間、また新たに巨大な火炎弾が落下してきたのだ。
 連山はすぐさま破邪顕正を構えて、火炎弾の破片に備え始める。
 その時、連山の行動を見た烈風にある事が閃いた。
「へっ、そういう事か。レンのやる通りでいいのかもな!!」
 暫く翼のリフレクターで攻撃を防いでいた烈風だが、すぐにを解除するとソード・オブ・ガルガンテュアを野球のバッターのように構え、自分に襲い掛かる破片を次々とアルカナに向けて打ち返した。
 それも一つずつではなく、大量に来たなら力技で纏めて全部強引に弾き返した。
「れっぷうっ!! 連山も手伝うからぁ~もうちょっとだけ~時間を稼いでね~っ!!」
「おぉ秘策かっ!? おっしゃぁぁぁっ!!!」
 連山もそう叫ぶと、自分のところに落下してきた火炎弾を、破邪顕正で華麗に両断した。烈風は更に続けて、火炎弾の破片をガンガン弾き返した。
 然し、その場凌ぎに打ち返した程度のそれらがアルカナの元に正確に届く事はなかった。
《出鱈目は無力。故に………ッ!?》
 アルカナがそう言いかけた時突然、手に持っていた杖が華麗に両断された。そのまま杖は情報体の屑となって消失した。
 それと同時にVRフィールド中を赤く染めていた火炎弾と破片も全てが消滅してしまった。
 アルカナはすぐに烈風と連山達のほうを睨むように見つめた。
「あちゃぁ~……狙いはそこじゃなかったんだけどなぁ~……」
 そう言った連山の周囲に、高速回転する二枚の円盤が自在に飛び回っていた。
 その挙動は何処となくプチマスィ~ンズに似ているようだが、それそのものが武器であると言う点がプチマスィ~ンズとの決定的な違いだった。
「ま、結果オーライって事でいいんじゃねぇか……ふぅ、熱かったぜ」
「『ヴィシュヌ』、次に備えるよ~!!」
 烈風と連山はアルカナが動揺した隙に態勢を整えなおす。連山の周囲を飛ぶ二つの円盤が『ヴィシュヌ』と呼ばれる武装であり、回転をピタリと止めると連山の鎧の内側に隠れるように移動した。
 アルカナが持っていた杖が何で出来ているかなど推測など出来ないが、相当な殺傷力を持った武器である事は確かだ。
「へっ、まさか今ので終わりってんじゃないだろ、オイ?」
 アルカナが動揺しているところを突いて、烈風が挑発した。
 するとアルカナは新たに、手の平に剣を生み出した。
《終わらせぬ。ならば、大いなる風にして平和の剣を受けるがいい…!!》
 そう高らかに告げるとアルカナは、両手に現れた二本の剣を構えた。
 
 
 
 ―V.B.B.S. Control Room, B2F.
 ―『THE WORLD』, Remainder time to explosion, "2 minute and 55 seconds."
 
『戦いが……こんな一方的な蹂躙が戦いか!?』
『こんな武装は存在しないぞ! 違法にしてもやりすぎじゃないのか!!』
 スタッフ達は、メインスクリーンに映るアルカナの巨大な火炎弾を目撃し、驚きを隠せないでいた。
 ネットワークの世界では半ば神格化してしまったアルカナは、ヴァーチャルの世界に自在に干渉出来る存在となってしまった。そうなれば趣向を凝らした程度の武装など無意味に等しく、抗う事さえ無意味に終わってしまう。
 然し、その様子を軽く一瞥したミラには余裕があった。
(「杖から炎……然し攻撃が大味な分、防ぐのは容易い」)
 そう考えていたその時、ようやく”フレスヴェルグ”に乗った震電がV.B.B.S.制御室に入ってきた。
「……戦況は?」
 震電はそう聞きながら、メインスクリーンに映る烈風と連山の様子を見つめた。二人とも火炎弾から身を守るべく防御姿勢に入っており、あまり余裕は無いようだった。
「見ての通りだ、二人して好機を探している。それよりも震電、これを見てくれないか?」
「………?」
 ミラはそういうと、自分のコンソールに指を指して震電を誘導する。
 コンソールには何やら巨大な物体が表示されていた。エンジンユニットやサブアームの様なものが付いているのは確かなのだが、やはりミラには何なのかピンと来なかった。
「これが、例のラルフから届いた『A3E-τ』なんだが、途方もなく大きすぎてまだ完成していない。多分、半分以上は組みあがっていると思うのだが……」
 そう言うとミラは椅子に座りながら軽く溜め息を吐いた。
 自作プログラムを組むのはお手の物だが、ラルフが拵えたこの”フレスヴェルグ”の拡張ユニットは二癖も三癖もあり、ミラでもこれに手を入れるのはなかなか苦戦していた。
 それを見た震電はハッとし、ぽつりと呟いた。
「………”ヴェズルフェルニル”……先に、VRフィールド用データで使う事になろうとは」
 いまだ完成していないそれを見つめていた震電は微かに目が輝いていた。どうやら、震電はこのユニットの正体が何なのか分かったらしい。
「ああ”フレスヴェルグ”の眉間に留まる鳥か。成る程、確かに”フレスヴェルグ”の拡張ユニットに相応しい。震電、君もアクセスポッドから入ってこれを組み立てるのを手伝ってくれ。ラルフの組んだプログラムはなかなか厄介だからな」
「……了解、すぐに組み立ててアルカナを仕留める」
 アルカナの事を他所に、珍しく乗り気になっている震電は自ら予備のアクセスポッドに入り込んだ。するとすぐにコンソール上に震電の姿が表示され、ミラに指示を仰いできた。
『……ミラ、例のユニットは何処で組み上げている?』
「ああ、すぐに転送してやるから少し待ってくれないか」
 ミラは軽くキーボードを操作すると、震電を例のユニットを組み上げている領域へ転送した。
(「ラルフの奴、これが神姫の追加武装のつもりか!?」)
 そこでミラは、震電が転送された事で初めて、その追加ユニットのサイズ差に驚かされた。明らかに追加ユニットの方が本体で、それを使う神姫は単なるオマケにしか見えない程だ。
 震電は組み上げられている”それ”を暫く無言のまま見つめていたが、すぐに気を取り直した。
『……残りのメモリーカードは?』
「後、3枚だ。ここまで仕上げるだけでもなかなか苦労させられたな」
 一枚でも10TBもする大掛かりなデータを扱うのだ。簡単な事などありはしない。
『……残り全て、データだけでもアップロードしろ。私には、これが大体分かる』
 そう言いながら震電は、追加ユニットの大型ポッドらしい箇所を入念にチェックし始めた。
 このユニットの正体を知る震電に、ミラは一つだけ気になることを聞いてみた。
「震電、ラルフの奴はこの追加ユニットを何の目的で作ろうとしたんだ?」
 すると問いかけに対し、震電の口から一言だけ返ってきた。
『………凶悪犯罪対策』
 それを聞いて、ミラは少し顔が青くなった。
 計100TBもの巨大追加ユニットの正体が何となく分かってきたような気がしたのだ。
 
 
 
 ―Name:『Unknown』 VR-Field, V.B.B.S.Main Server. 
 ―『THE WORLD』, Remainder time to explosion, "2 minute and 27 seconds."
 
 新たに二振りの剣を構えたアルカナの周囲に、異様な風の流れが生じていた。宇宙空間をイメージとしたVRフィールドに風の流れは相応しく無いが、それすら可能にしてしまえるのも『世界』たるアルカナの力であろう。
《それは言葉にして、多くを繋げゆく平和への風…!!》
 アルカナは二振りの剣を構えると、無数の目に見えない風の刃を発生させてきた。
「ドゥン! 下がってて~!!」
『御意』
 連山はすぐにドゥンから降りると、アルカナから庇うように立った。
 烈風と連山は二人それぞれ、ソード・オブ・ガルガンテュアと破邪顕正を高速回転させて風の刃を防ぐ。だが先の炎と違い、目に見えない風を前にして防ぐ事しか出来ずにいた。
「Bullshit! てめぇは爆弾テロだろ、それ棚に上げて平和の風なんてボケた事抜かしやがって……!」
「烈風ぅ~! このままじゃジリ貧だよぉ~っ!!」
 然し武器を回転させただけでは到底防ぎきれず、何処からともなく細かなカマイタチが烈風と連山のアーマーに徐々に傷を付けていた。もし、ここでうっかり手を止めてしまったら全身がズタズタに引き裂かれるだけでは済まない。それに、防御姿勢を維持しているにも係わらずカマイタチが襲い掛かってきているのだ。正面だけではなくVRフィールド全体にアルカナの風が吹き荒れていた。
 近距離戦に持ち込んで、アルカナの風を止める事が出来れば何とかなるに違いない。だがアルカナと、烈風と連山の距離は銃器の間合いだった。
「こんなんじゃ、グレネード弾もミサイルも届かねぇな…!!」
 烈風は毒づきながらアルカナを睨んだ。ここからそんな武器を使ったところで、無数のカマイタチに阻まれるのがオチだ。風の影響を全く受けない飛び道具があれば容易に打開出来ているところだろうが、烈風と連山が持つ銃器や飛び道具は殆どが実弾を使うものだった。
 それが二人の戦闘スタイルなのだから仕方が無いと言えば仕方が無い。それに、少し凝ったハイテク武装を多用する事をミラは良しとしないことがあった。
 何故なら、容易に相手の動きを封じたり、分身を出して困惑させたり、そういった自分にとって非常に都合のいい状況を作り出せる武装を使えば、それ以上の戦い方が出来なくなってしまうのだ。それに、便利な武装に依存してしまえば、逆にそれが弱みとなる。これは極論だが、武装に依存し過ぎた結果、そんな武器が無いとうまく戦えない……となってしまっては目も当てられない。
 その為に烈風と連山は、『強力だが便利にはならない』ような武装を選んでいるのである。
「それが今じゃ、こんな状況だけどな……くそったれがぁっ!!」 
 尤も、今は二人の戦闘スタイルが現状にそぐわないだけなのだが。
 
《どうした……後、137秒で我の勝利となるのだぞ?》
 アルカナはそう言って、烈風と連山を挑発してきた。そう言いながらも攻撃の手を止める事は無い。
「くっそ、調子こきやがって……!」
 その余裕ぶりに烈風は歯を食いしばる。
 すると、破邪顕正を振り回し続けながら連山が一つ、あることを提案してきた。
「烈風~…もしかしたら~一瞬だけ隙を作れるかも~…?」
 連山には、カマイタチの嵐に抗う術を持っているようだった。然し、それそのものがアルカナへの決定打となるわけではない……即ち、烈風に賭けているような言い方だった。
「レン、一瞬ってどのくらいだ?」
「う、う~ん…………長くて~…2、3秒くらい~?」
 提案はして見たものの、連山の笑顔は微妙に引きつっていた。確実性がないのか、或いは自信が無いのか。
 然し、このままでは一方的にやられっぱなしなのも確かだった。烈風は連山の提案を受け入れた。
「よっし……レン、すぐに頼むぜ」
 烈風の言葉に連山は頷くと、無謀にも破邪顕正による回転をピタリと止めた。同時に、連山の肩のアーマーから、短いレーザーがアルカナに向けて連射された。
「てぃやぁぁぁぁっ!!」
 その隙に無情にも、連山に無数のカマイタチが襲い掛かり、胸部アーマーに深々と風の傷を残した。それでも単純に頑強だったか或いは運が良かったか、傷が素体までに至る事はなかった。
《クッ……!》
 思わぬ反撃にアルカナは焦って、二振りの剣で連山のレーザー攻撃を防ごうとした。するとそうやって防御姿勢を取ってしまった事で、フィールドを覆っていたカマイタチの嵐がピタリと止んだ。
 それをチャンスと見たか、吠莱壱式などの無数のグレネード弾と、死神を連想させる異様な形状の大鎌が追撃とばかりに飛んできた。
《この程度で我が風は打ち消せん……!!》
 アルカナは更なる追撃を防ごうと剣を構えなおした。だが、それが過ちだった。
 追撃を防ぐべく剣を構えなおそうとした瞬間、すぐ目の前に黒き翼をはためかせた烈風がソード・オブ・ガルガンテュアを大きく振りかぶりそこに立っていた。
「”烈風”ってボクの名は、伊達じゃねぇぜ!」
《!!》
 いつの間にそこにいたのか。いや、ほんの一瞬油断しただけでここまで接近出来ようものか。だが、烈風は確かにアルカナの目の前に立っていた。
 そしてそのまま、重厚な刀身による重たく鋭い一撃をアルカナに見舞うと、即座に高く跳んで自ら放った無数の榴弾を寸前のところで回避した。
 姿勢を崩したアルカナはそのまま、烈風の先制攻撃だった無数の榴弾を受けて派手に吹き飛ばされた。
「へっ……!!」
 烈風はすぐに着地して様子を探ってみたが、大量に榴弾を放った為に煙が凄まじく、アルカナの様子を窺う事が出来なかった。
 その時、後ろから連山が烈風を呼びかけてきた。
「上手くいったね~れっぷう~!」
「レンっ! 怪我とか大丈夫か!?」
 思わず烈風は、少し下がったところで呼びかけてくる連山の方を向いた。
 その一瞬の判断が、烈風にとって最大の油断だった。
 
 連山は、烈風の遥か後方に吹き飛ばされたアルカナの異変に気付き、思わず叫んだ。
「れ、烈風~っ、危ないよぉぉ~っ!!」
 だが、連山が叫んだ時には既に遅かった。
「んな……っ!?」
 烈風の足元からいきなり、巨大なクリスタルの穂先が突き出てきたのだ。それを避け切る事が出来ず、一気に突き出されたクリスタルの穂先によって高く吹き飛ばされてしまった。
《それらは永き時間をかけて育んでゆくもの》
 烈風の榴弾攻撃を受けて身体の一部が微かに欠損しているものの、アルカナはまだ余裕を見せていた。その右手には、五芒星が記されている無数の金貨が踊るように宙を舞っていた。
 高く吹き飛ばされた烈風はそのまま、青白いクリスタルの床へ落下していた。
「烈風を~早く助けてあげて~!」
『御意!』
 連山が駆けつけつつ命令を下すや否や、ドゥンは疾風の如く飛び上がって烈風の元へ向かった。
 だがその瞬間、烈風は黒き翼を羽ばたかせて空中で姿勢を正した。
「こんの……ちったぁくたばってろってんだよ!!」
 そしてそのまま、吠莱壱式に付けられた中型ミサイルと、サバーカに積載された小型ミサイルをアルカナに向けて全部乱射した。
 それを見たアルカナは、右手の金貨を一枚だけ足元に落とした。
 すると今度は、凄まじい轟音を立てて壁の様な大岩がアルカナの目の前に伸びて遮る。そしてそのまま、烈風が放ったミサイルは全て、大岩の壁によって全て防がれてしまった。
 同時に、右腕のチーグルと左足のサバーカに枝のようなヒビが入った。先程、岩石の穂先によって突き上げられた時の衝撃で破損しかかろうとしていたのだった。
「なっ……マジかよ!?」
 あまりにも信じがたいものを目の当たりにして絶句する烈風の元に、ドゥンが駆けつけてきた。
『烈風殿、ここは一旦主の元へ』
「仕方ねぇ……チッ、火に風に今度は土ってか!」
 新たな武器を持ち出してきたアルカナを睨みつつ、ドゥンに掴まって連山の元へと戻った。
「れっぷぅ~っ、ここはちょっと下がっててば~っ!!」
「大丈夫だぜ、レン。装甲にヒビが入ったくらい、どってことねえよ」
 心配する連山だったが、烈風は根拠も無い言葉で宥めた。
 それよりも烈風は、先程のアルカナの攻撃を冷静に分析していた。金色の岩を使った先の攻撃は、先の炎の杖や風の剣の様な派手さは無いが、防御にも転用出来るのは厄介だった。
「レン、今度のは一筋縄ではいかないみたいだぜ」
「うん、でも~必ずここで倒さないとね~っ!!」
 ここでアルカナを倒さなければ、一万五千人以上もの命が犠牲となってしまう。
 あまりにも桁が大きすぎて実感の湧かない数字だが、それだけの命が自分達の戦いにかかっているとなれば、普通の神姫には堪えられるものでは無い。
《戦いの果ての絶望を知るがいい……!!》
 アルカナがそう言うと、右手の金貨が一枚だけ、アルカナの足元に落下した。
 すると今度は、VRフィールドであるにも係わらず、凄まじい大地震が発生し始めた。
 それが何を意味するのか、烈風は直感的に叫んだ。
「レン、これはマジでやばい! 兎に角高く飛べ!!」
「うん、お願いっ、ドゥン~!!」
 更に金貨はばら撒かれ、烈風と連山がいる辺りのクリスタルの床に異変が発生した。
「次は横だぜ!!」
 そして、アルカナの言葉と同時だった。
《貫かれよ》
 クリスタルの床だったものが一気に隆起し、無数の鋭い槍となって空高く貫いた。もし高く飛ぶ事が出来なかったら、全身を串刺しにされて無残な姿を晒していた事だろう。
 然し、烈風と連山は単純に上に逃げるのではなく、横に避ける事で烈風と連山は回避に成功した。
「おーいレン、生きてっか~……?」
「だ、大丈夫ぅぅぅ……こんなのぉ~ミラちゃんが組んだシミュレーションでしかやったことないってばぁ~!」
『主、怒りの矛先がずれている』
 連山の変な悪態にホッとしながら、烈風は今の状況を落ち着いて把握した。
 厄介な事にクリスタルの無数の槍はそのまま残ってしまい、神秘的な水晶の森となって視界を阻んでいた。ここからではアルカナの姿を確認する事が出来ない。
 その上、クリスタルの槍の間隔が非常に狭く、隙間を縫って移動するだけでも困難だった。
「くっそ、邪魔なんだよ!!」
 思わず烈風は頭に血が上り、ソード・オブ・ガルガンテュアとコルヌの二刀流で、自分の周りを囲うクリスタルの槍を力任せに叩き折った。無理矢理叩き折られたクリスタルの槍は床に落ちて、ガラスの割れるような音を辺りに響かせた。
 然し、烈風のその行動は逆に裏目に出てしまった。
「れ、烈風~危ないぃぃぃ~!!」
 連山が叫んだものの、遅すぎた。
 叩き折られたクリスタルの槍の断面から新たにクリスタルの針が烈風目掛けて伸びてきたのだ。更に、落下したクリスタルは一度砕けると再び、クリスタルの槍と化して烈風目掛けて急成長を始めたのだ。
「ぐあぁぁぁっ!!!!」
 急所は避けたものの、烈風は新たに伸びてきたクリスタルの針や棘を避けきる事が出来ずにまともに喰らってしまった。その影響で、ヒビが入っていたチーグルとサバーカは完全に砕け散り、その下の烈風の本当の右腕と左脚が露出した。
「れっぷうぅぅっ!!」
「こんぐらいっ……痛くも痒くもねぇっ!!」
 チーグルとサバーカを失うことで装備の大半を失ってしまったが、烈風は姿勢を立て直してクリスタルの槍衾から逃れた。
「兎に角~……下手に刺激しないで~そっと抜け出そうよぉ~…」
「お、おぅ……」
 烈風と連山はゆっくりと飛びながら、槍に極力触れないように細心の注意を払いながらクリスタルの槍衾の森を抜けかかる。途中で何度かぶつかって、クリスタルの針が襲い掛かってきたこともあったが、二人は半ば達人の見切りに近い感覚を持って全てを寸前のところで避けきった。
「こうなりゃまた賭けになっちまうけどよ、提案聞けっか?」
 その途中、烈風はグレネードランチャーの弾倉に新たな弾薬をクリップを使ってリロードしながら、連山にあることを提案した。
「もし無謀でもぉ~…何も作戦が無いよりはマシだよね~」
『主、無謀は無策と変わらないのでは?』
 連山の答えにドゥンが突っ込んできたが、主に軽く頭を小突かれると黙ってしまった。
「いいか、このうざってぇ森を抜けたら………」
 
 その一方、アルカナはフィールド中に蔓延するクリスタルの槍で構成された森を眺めていた。
《之が我が力、長き時間をかけて得た力……そう、この日の為の力》
 そう言った時、クリスタルの槍を掻き分けて黒き翼の犬型MMSが姿を現し、同時にグレネードランチャーをアルカナに発射した。
「ほざいてんじゃねぇぞ、てめぇぇぇぇ!!!」
 だが、グレネード弾は着弾までにタイムラグがある。アルカナは再び右手の金貨を一枚だけ落とすと、再び大岩の壁を構築し始めた。
 だが、それを見た烈風はにやりと笑うと、弾倉に残っている全てのグレネード弾を放った。そのグレネード弾は、全て放たれると同時に凄まじい轟音と閃光を周囲に容赦なく発した。
 凄まじい轟音により、クリスタルで出来た槍で出来た森は不気味に鳴動するとその全てが粉々に砕け散る。
《その程度の小細工で……!!》
 思わぬ奇襲にはやられてしまったが、アルカナを遮る大岩の壁は成長しきり、最初に放たれたグレネード弾は防がれた。
 だが、アルカナは烈風ばかりに気を取られて、別の方向から現れたドゥンに乗る連山の存在に気付いていなかった。
 懐から棒切れの様なものを取り出すと、それは一瞬で長槍に変形した。そしてそのまま、その槍の穂先をアルカナに向けて構える。
 そして、アルカナが大岩の壁を解いた瞬間だった。
「目には目をっ、槍には槍を~っ!!」
《何……!!》
 烈風の襲撃と音響閃光弾に気を取られたアルカナは連山の事を失念してしまっていた。それもその筈、連山は一見すると遠距離攻撃用の武器を持っていないからだ。
 だが、連山が投擲した槍は弾丸のように速く、大岩の壁が成長し切る前にアルカナの腹部を貫いた。
 その苦痛にアルカナは顔を歪める。すると、成長しかけていた大岩の壁どころか、粉々に砕け散ったクリスタルの槍も全てがVRフィールドから消え去った。
「その腕、貰ったぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 そして烈風は四足獣の様な四つんばいの姿となってアルカナに一気に接近すると、右手でコルヌを振りぬいてアルカナの右肩を斬り付けた。
 それと同時に、アルカナの右手から無数に舞っていた無数の金貨が消え去った。
《こんな、このような事が……!!》
 明らかに動揺したアルカナが叫ぶ前に、烈風に両脚蹴りを当てられてアルカナは派手に吹き飛ばされた。
 同時に、アルカナの腹部に刺さった槍は連山の手元に戻り、四足獣の様な姿勢を取る烈風の元へ駆け寄った。
「う、上手くいったみたいだね~……はぅぅ、烈風ぅぅぅ」
 然しサバーカとチーグルを破壊されてしまい、四足獣のような姿になった烈風の姿を見て、連山の声のトーンが急に下がってしまった。
 世に犬型MMSは幾らでも存在するが、間接を調節する事で本物の獣の如く両手両足を地に付けて疾駆しながら戦う……そんな独特の戦法を持つ犬型MMSは恐らく、烈風くらいしかいないだろう。
「言いてぇこたぁ分かるけどよ、同じ轍は踏む訳にゃいかねぇぜ」
 烈風はそう言いながら、蹴っ飛ばしたアルカナに気を払っていた。
 連山の弾よりも速い槍と烈風の二段攻撃を受けて、流石にアルカナも動きが鈍くなったようだが、ゆっくりと身を起こした。
 烈風のコルヌで斬られた右腕をだらりと下げていたが、左手を使って何とか右腕を一緒に持ち上げる。そして両の手が頭上に掲げられた時、眩い光と共に両手から杯が現れた。
「杖に剣、金貨で最後が聖杯……チッ、トランプの元ネタのつもりかよ」
《水は全てを分け隔てなく満たし万物を清めん……!!》
 そして、アルカナが掲げる聖杯から噴水のごとく大量の水が溢れてきた。そのサイズから到底ありえないことなのだが、怒涛の如く溢れてきた聖杯の水は、宇宙のようなVRフィールドを水で満たそうとしていた。そしてあっという間に、聖杯から溢れ出た水は既に膝の辺りまで浸水してきていた。
「れ、れっぷぅぅぅっ! このままじゃ溺れちゃうよぉ~っ!!」
「こりゃまた、飛ぶしかねぇってかっ!?」
 連山はドゥンの背中に乗って飛び上がり、烈風は間接部位を元に戻しながらやや痛んだ黒き翼をはためかせて高く舞い上がった。
 気が付けば、宇宙空間だった筈のVRフィールドは殆ど海となってしまっていた。尤も、すぐ近くに青い地球が見える海など普通は考えられないのだが……。
 一時的に空に退散してアルカナを探していた烈風と連山だったが、ここで二人はある違和感に気付いた。
「な、何か、波音が聞こえるよな……?」
 そう思って、音がする方向を向いてみた。
 すると、二人の目の前には、驚く程に高い波が轟音と共に迫ってきていたのだった。
 人間のスケールに当てはめれば、50階建てのビルに相当する高さだった。映画の中で無ければ到底、お目にかかることの出来ないスケールの大津波だった。
「ちょっとぉぉぉ~れっぷぅぅぅぅっ!!?」
「冗談だろぉっ!?」
 二人の悲鳴が一致した瞬間、アルカナが巻き起こした大津波は二人の悲鳴と姿を全て丸呑みにしてしまった。
《後、68秒だ……!》
 
 
 
 ―V.B.B.S. Control Room, B2F.
 ―『THE WORLD』, Remainder time to explosion, "2 minute and 15 seconds."
 
 アルカナとの戦いが激化する一方、ミラと震電は”ヴェズルフェルニル”の仕上げを急いでいた。
 その時、制御室のメインスクリーンから聞いた事も無いような轟音と烈風の声が聞こえてきた。
 
『んな……っ!?』
 
 烈風は、クリスタルの床から突然発生した金色の岩に突き上げられて高く吹き飛ばされてしまったのだ。
『何なんだよ、あの悪魔型神姫は! まるで魔法使いじゃないか……!?』
『見ている暇はねぇんだ!! 急いでサーバーのコントロールを取り戻せ!!』
 彼等の戦いぶりを見ていたスタッフの一人が、他のスタッフに怒鳴られる。アルカナの支配化に置かれている各サーバーを取り戻さなければ、正式に介入する事が出来ないのだ。
 ミラも震電も、先の烈風の声を聞いて少しだけ焦りを感じていた。
『………このままでは……ミラ、”ヴェズルフェルニル”は後から転送しろ』
 烈風と連山の苦戦を知り、震電は急ごうとするがミラの一言により阻止された。
「それは無理だ。君専用の巨大ユニットだから、君が制御しないといけない」
 震電がいつも乗っている”フレスヴェルグ”も、震電からの信号を受け取ることで制御している。この”ヴェズルフェルニル”も同様に、震電以外の存在には制御出来ない仕様となっていた。
『……了解。作業を続行し、完成を急ぐ』
 二人がアルカナと戦っている声を聞く度に急かされる。常に冷徹に行動する震電からは考えられない発言だった。
 震電が落ち着いたのを見て、ミラは”ヴェズルフェルニル”の新たなパーツを震電の元へよこした。
 武装神姫のコアユニットをモデルにしたと思われるAIユニットは、この巨大追加ユニットのパーツにして最も小さかったが、その中身は大変複雑なようで、これまでに組み上げてきた大型のパーツとほぼ同じ容量だった。
「後は、このAIユニットを組み込めばいい筈だ。震電、もう少しだ」
『……分かった。だからミラ、装備と”フレスヴェルグ”を私の元へ転送しろ』
 震電にそう指摘されてミラは思わずハッとした。確か同封されていた手紙にも、――”ヴェズルフェルニル”は”フレスヴェルグ”の拡張ユニットだ――と記されていた。
「そう、だったな。すぐに転送するよ」
 ミラはそう言いながら、震電が乗り捨てた”フレスヴェルグを取り、トランクの中から震電の装備を探し出した。そして、サイドボードに”フレスヴェルグ”ユニット、武器にホーンスナイパーライフルと何かの小箱を入れて震電の元へ転送した。
 すると既に震電はAIユニットの組み込み作業を終えたらしく、ミラを見つめるように待機していた。そして、届いてきた装備を見つめて一言だけ呟いた。
『……これ以外は、”ヴェズルフェルニル”を頼れと言うことか』
「そうだ。後は、その怪鳥に全てを委ねるよ」
 と言いながらミラは完成したその怪鳥、”ヴェズルフェルニル”を改めて眺めた。
 それ一基だけで神姫を飲み込めそうな計七基の特殊エンジン、本体を形成するのは完全装備のストラーフが30体近く収まりそうな三つの大型兵装ブロック、万力のように無骨な形状の大型サブアームが四基、そして天使型のレーザーライフルや砲台型の滑腔砲が唯の玩具にしか見えない程の巨大な主砲が前面に一門……それらの集合体は、神姫を相手に戦う事を前提に開発されたものではなかった。
(「ラルフ……真剣に作ったのか? それとも冗談で作ったのか?」)
 組みあがって今更になってミラはそんな事を考えた。震電が呟いた『凶悪犯罪対策』と言う言葉に偽りは確かに無いだろうが、その姿はさながらSF作品に出てくるような巨大戦艦のようだった。
『……ドッキング及びリンクを開始する』
 震電はやや遅れて転送されてきた”フレスヴェルグ”に乗ると、完成された”ヴェズルフェルニル”に近づいた。すると”ヴェズルフェルニル”は起動し、本体からガイドラインが表示されて”フレスヴェルグ”を導いた。
 そして、ガイドラインに導かれるように”フレスヴェルグ”は後方より本体とドッキングすると、”ヴェズルフェルニル”本体から防弾風防が発生して、震電を包みこんだ。
 
(『All weapon check and format start......【δ】, 【ζ】, 【η】, 【θ】, 【ι】, 【λ】, 【μ】, 【ν】, 【χ】...........All green. Next command, Engine check...............Clear. Next command, fire control system-Artifical Intelligence, 【τ】...connecting and setup start..................』)
 
 そして、風防内部で震電は”ヴェズルフェルニル”と接続を開始し始めた。自分の体よりも遥かに大きな”追加ユニット”と一体化し、各システムを震電専用へとフォーマット化していく。
 防弾風防が閉ざされてからミラは不安そうにコンソールに映る”怪鳥”を眺めていたが、暫くすると”怪鳥”から震電の声が聞こえてきた。
『全システムオールグリーン。ミラ、直ちにフィールドへ向かう』
 すると、ミラは苦々しく言葉を詰まらせた。
「急ぐ気持ちは山々だが……私が空けたセキュリティホールでは、君がVRフィールドに現れるまで早く見積もっても90秒はかかる」
 震電は特に焦りを隠す事はなく言葉を返した。
『……そんな悠長に待ってはいられない』
「そう言われても、君への陣中見舞いが物理的にも容量的にもあまりに大きすぎるからだよ。まあいい、この様子ではサーバーの復帰など待ってられない。セキュリティホールを拡張しながら転送作業を開始する」
 そう言ってミラは激しいフィンガーストロークでキーボードを打ち込み、”ヴェズルフェルニル”を駆る震電の転送を開始した。
 少しずつ情報の光の粒となって転送されていく震電を見つめると、ミラは今戦っている烈風と連山の姿をメインスクリーンから確認した。
「今度は杯にして、水を操る……か。だが、このままで本当に終わるのか……?」
 アルカナとの激戦に傷ついた烈風と連山。それに対し、アルカナは二人ほど大きなダメージを受けていなかった。
 凶悪犯罪対策追加ユニットの”ヴェズルフェルニル”を持つ、震電が切り札に為りうるだろうか。
「ふぅ、嫌な予感がするのは久々の事だな……」

 

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