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 千喜の呼んだ名前を理解するまで、プシュケにはほんの少しだけ、時間が必要だった。
「……ジル?」
「ほら、お兄ちゃんとこの」
 千喜には兄がいる。それは、プシュケもよく知っていた。
 大して密な付き合いではないし、名字は離婚した父親の側になってもいるが……兄妹の仲がそれほど悪いものでは無いことも。
「いえ、あの、千喜………」
 それはちゃんと知っているのだが……。
「大丈夫ですか?」
 プシュケはあえて、そう問うた。
「何がよ」
「具体的に言えば、脳?」
「脳言うな!」
 耳元から少女の怒鳴り声が聞こえてくるが、むしろそれは相手のお脳が残念なことになっていない証拠でもある。
 若干、うるさくはあるが……判断力は、まだ正常な域にあるらしい。
「けれど、十貴さまの神姫はストラーフでしょう?」
 プシュケの目の前にいる神姫は、シスター型神姫。多少手が入ってはいるようだが、ライトアーマータイプのハーモニーグレイスがベースになっている事は間違いない。
 確かに名前はジルだったが、二文字のシンプルな名だ。被ったところで、不思議でも何でもない。
「それとも私の知らない間にアブダクションでもされてお脳の中身を差し替えられましたの?」
 なら、ついでにバカも少し直しておいてくれたなら、万々歳だったのだが……。
「だから、脳から離れなさいよ」
 そう言われても、目の前の神姫はどこからどう見てもハーモニーグレイスだ。
 緑色のショートヘアに、特徴的な腰のバインダーとヘッドセット。背中のハードポイントに繋げた十字架型のランチャーまで、どこからどう見てもハーモニーグレイスである。
「……………?」
 こちらに飛ばしてきたはずのウェスペリオーの行方を捜しているのか、その彼女はきょろきょろと辺りを見回している。
「なあ、お前ら。ここにさっき、ウェスペリオー飛んでこなかったか? コウモリの奴」
 けれど。
「…………はい?」
 目の前のハーモニーグレイスの第一声は、随分と乱暴なものだった。
 声だけを聞けば、確かに誰もがストラーフを思い浮かべるだろう、そんな口調。
「だから言ったでしょ。お兄ちゃんの所のジルなんだってば。あんだけ派手なカタチの子、見間違えたりしないって」
 外観。声紋。固有ID。
 プシュケの知るジルの情報の全てが、目の前のハーモニーグレイスとストラーフのジルが同一存在ではないと告げている。
「ああ。あれは我輩が打ち返してやったのだ。撃墜数1、ごちそうさまでした」
「ちょっ! おま、いつまで経っても撃墜数増えないなぁと思ったら……人の獲物横取りしやがって! 何てことしやがる!」
 けれど目の前のハーモニーグレイスはシスター型とも思えないほどの荒っぽい口調で叫び、ポモックに向けて喚いている。
 その品のない所作は確かに、シスター型ではなくストラーフのそれに近いもので……。
「我輩の華麗な六十ヤードマグナムが決まった瞬間だったのだ!」
「……さっきと技の名前、変わってますわよ」
 そもそも六十ヤードマグナムはバットで打つ技ではない。
「なら44マグナム?」
「……マグナムしか合ってないじゃありませんの」
 ジルの問題をそっちのけにするほどツッコミどころ満載なポモックに、プシュケは色々と溜息をつく。
「ま、いいや」
 だが、そんな余裕のある時間もそこまでだった。
「なら……お前ら二人倒しゃ、撃墜数2、だよな」
 ハーモニーグレイスの浮かべた表情は、不敵な笑み。
 それは誰もが認める、悪魔型の戦姫の微笑みだった。


マイナスから始める初めての武装神姫

その14 後編



「でぇぇぇぇぇぇいっ!」
 アッパー気味にかち上げられたメイスの一撃は、ポモックのバットの比ではない。肘まで伝わる重い衝撃に、プシュケは大太刀を取り落としそうになりながらも慌てて間合を取り退がる。
 武器を落とせば、一巻の終わり。防御できるかどうかではない。これだけの相手となれば、隙を見せない事がまず一番にやってくる。
 追撃は来ない。
 ジルが標的と選んだのは、引いた相手ではなく、攻めてくる相手。
 ポモックだ。
 獲物はバットが一本だけ。そして装備は限りなく素体。運動性と持ち前の無軌道なパワーだけを武器に、ポモックの軌道は思考そのままの一直線。
 構え、打つ。
 極限にシンプルな動作は圧倒的なサイクルの短小化をもたらし、次の動作までの発動時間を限りなくゼロへと近付ける。
 要するに。
「わーははははははは!」
 殴りまくった。
 殴って、殴って、殴りまくった。
 その動きはシンプルが故に止まることなく。
 呼吸をする必要もない神姫なら、殴る意志とバッテリーさえあるならば、気を吐く事無く殴り続けられる。
 それを、体現した。
 相手が攻める隙はなく。
 相手の動く隙さえもなく。
 殴り。
 殴り。
 殴り続ける。
「…………勝負、ありましたわね」
 あまりに一方的な攻撃に、プシュケはぽつりとそう口にした。
「そうなの?」
「本来ライトアーマーは、入門モデルとして作られた軽武装タイプですわ」
 武装数も少なく、装甲もそれほど厚くない。その少ない武装点数を補うために、複数の使い方を備えた多目的武装が採用される事が多いが……そこから生まれ出る戦闘パターンの複雑さと戦術の多様さは、入門モデルと言いながら使いこなすには高い経験を必要とすると言う、一種の逆転現象を生む事となっていた。
「……まあ、そうだよね」
「それに、フルセットモデルに比べても、攻撃力も防御力もそこまで特化されていませんの」
 実際、ハーモニーグレイスもそれほど重装甲と言えるモデルではない。
 そこにあの猛烈な乱打だ。防御力に優れたジュビジーやムルメルティアあたりならともかく、あのハーモニーグレイスが全力で防御していたとして、腰のバインダーや僅かな追加装甲だけでどれだけダメージを軽減出来るものか。
「追加武装とか、付けてなさそうだったよね。あのシスター型」
 相手もライトアーマーのポモックとはいえ、そのバットの威力はウェスペリオーを吹き飛ばした事でも実証済み。確かに防戦一方になっている今、ハーモニーグレイスの勝機は薄い。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
 ポモックのラッシュは止まらない。
 振り回すバットは風を呼び、砂を巻き上げ、まさに嵐を起こすかの如く。
 最後の一撃はバットを天高く掲げ。
「オラァーッ!!」
 全身全霊をもって、大地へと叩きつけた。


「そこのあなた、終わりましたの!」
「………や。まだ、撃墜数が増えないのだ」
 立ちこめた砂塵を、吹く風がゆっくりと洗い流し。
「………プシュケ」
 そこに立つのは、今までと変わらぬハーモニーグレイスの姿。
 否。
 変わった点が、一つだけあった。
「……そんな、バカな……」
 ダメージではない。
 それどころか、シスター本体は全くの無傷。
「ンだよ……」
 背中から伸びたバインダーをそっと撫で、ジルは呆れたようにそうひと言。
「…………こんなもんか?」
 普段は腰から伸びるはずのバインダーを肩部装甲とし、あれだけのラッシュを受け止めたのか。
「……バリア!?」
 バインダーの表面にちりりと時折紫電が走るのは、時折触れる砂塵が防御フィールドに触れているからだろう。
 防御フィールド自体は珍しい防御手段ではない。公式に装備している神姫はベルン系列のごく一部くらいだが、一般流通品としてはよく見るものだ。
 どうやら目の前のシスター型も、バインダーにそういった防御手段を仕込んでいたらしい。
「無改造ってワケじゃ、ないみたいね……」
「なら、次はあたしから行って良いか?」
 シスター型にあるまじき凶暴な笑みを浮かべ、シスターが引き抜いたのはやはり公式装備ではない戦棍だ。
 軽装機らしい素早い踏み込みで一気に加速。あっという間に距離を詰め、下から振り上げるようにメイスの一撃を叩き付ける。
「プシュケ!」
 そこから続く、牽制混じりの数発を慌てて回避。千喜とのやりとりにまともに答える暇もない。後ろへのジャンプで大きく距離を取れば、暴れ狂うシスターの標的はバットを振り上げたポモックへ。
「むむむ!」
「なにがむむむだ!」
 ポモックもライトアーマーで、装甲は見るからに少ない。
 打ち付けられるメイスに対して慌てて回避運動を取るポモックを横目に、プシュケは展開し終わったシステムを端から起動。全身を駆けるプログラムの奔流に軽く息を吐けば、その力が背中を抜け、腰のユニットから接続される背部ユニットへ一斉に流れ込んでいくのが分かる。
 重力の枷が端から千切れる浮遊感と、視界が広がっていく開放感。
 起動完了までは一瞬だ。
 直線に来るシスターをひと飛びで縦にかわし、取ったのは彼女の頭上。
「お行きなさい!」
 叫んだときには背中から伸びる翼を模したユニットは、半数がリングから切り離された後。自在に三次元を翔けるそれは、プシュケの心の赴くままに槍となり、砲となり、剣となって敵を討つ。
 今この瞬間もジルの前後左右と上方を囲むそれは、防御フィールドをかいくぐって粒子の奔流を叩き込まんと宙を舞い。
「シュート!」
 放たれるのは、全方位からの同時攻撃。
 いかにフィールドの防御が鉄壁とはいえ、四方と上方から迫る遠近の関係すらない無差別攻撃を防ぐ事は不可能だろう。
「オラオラがだめなら…………っ!」
 そして、粒子砲の洗礼をかいくぐり。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」
 それに加わるポモックの打撃が、横殴りに叩きつけられて。
「無………」
 最後の一撃は、天高く掲げられる金属バット。
「無………!」
 プシュケもその最後の一撃に追撃すべく、フィールドシュナイダーのトリガーを引き絞った。
 鈍い射出音と共に銀の刃に金色の輝きが燃え上がり、物理装甲とエネルギーフィールドを同時に裁ち斬る力の刃を顕現させる。
「駄ぁっ!」
「駄ぁっ!」
 叫びと共に振り下ろされた、二発の必殺が。


「十貴。三秒」
「……やるの?」
「三秒!」
 二度重ねられたジルの言葉に、十貴の呆れたような溜息が続く。
-ExSEED Charge-
 無機質な電子音声が響き、シスター型神姫の白いパターンを赤いラインが駆け抜けて。
-Start Up-
 両肩を覆う大型のバインダーが、一瞬大きく膨れあがったように、見えた。


「………え?」
 プシュケの太刀が空を切る。
「嘘………」
 ポモックのバットも、空を切った。
「消えた………?」
 ありえないはず。
「どこに行ったのだ!」
 ありえない、はず。
 フローラルリングからの砲撃は、手応えがあった。
 ポモックの打撃も、ちゃんと打撃音が響いていた。ダメージがあったかは別にして、少なくともその瞬間まで、ハーモニーグレイスの姿はそこにあったのだ。
「…………案外、やるじゃねえか」
「っ!」
「にゃっ!」
 耳元に聞こえた声は、ほんのひと声。
「とはいえ、二勝いただきだ」
 二人の瞳に映るのは、シスターの腕を覆う鋏状に構えられたバインダーと。
「……バビロン!」
 砂煙の中から伸びた、二本の巨大な腕だった。


「何ですの! あれは!」
 バーチャルポッドから姿を見せるなり、プシュケは千喜にそう声を上げた。
「何なのだ! あれは!」
 それと同時に隣のコンソールからも、似たような声が聞こえてくる。
「……あら。お隣だったのね」
「みたいですね。さっきは、ども」
 隣の席のマスターも、女の子。それもどうやら、千喜と同じ高校生くらいのようだった。
「こちらこそ。ほらねこ丸、挨拶」
 少女の声に、ねこ丸と呼ばれたポモックはひょいと少女の手の上に乗ってくる。
「よ!」
 フレッシュ素体に戦闘用のシャツとスカート。片手にはバットを持ったまま。やる気があるのかないのか分からない格好で、ねこ丸は緊迫感のない挨拶を投げてきた。
「ねこ丸………?」
「でも、確かポモックってタヌキ……」
「リスである!」
「ねこ丸は……前に飼ってた、ねこの名前」
 以前飼っていたペットの名前を神姫に付けるマスターは、そう珍しいものではない。
 だが、猫型のマオチャオならともかく、それ以外の神姫にその名前はいささかどうだろうと二人は思うが……さすがに口には出せずにいる。
「何であるか。長門の付けてくれた名前に文句でもあるのか? ぬっこぬこにしてやるのだ!」
「や、別に文句があるわけじゃないけど……」
 ジルダリアで言えば、花子と言ったところか。プシュケがそんな名前を付けられたら間違いなくぶち切れて訂正を要求してくるだろうな……などと思いつつ、千喜は苦笑いするしかない。
「そっちのパツキンねーちゃんは何て名前であるか。我輩にだけ名乗らせておいて名乗らないなんて、不届き千万である」
 ねこ丸は大声でそう叫びながらバットをぶんぶんと振り回している。
「あーっ! 長門、我輩の粉砕バットー!」
 もちろん少女に速攻で取り上げられた。
「……危ないから」
 テーブルの上に置けば、それはごとりと重い音。
 どうやら、塗装や表面処理だけでなく、本当に金属製のバットだったらしい。
「パツキンって…………プシュケですわ。こちらは、私のマスターの千喜」
「よろしくね。長門さん」
 長門が名字か名前かはよく分からなかったが。とりあえず長門と呼ばれた少女は軽く頭を下げてくれた。
「なに……? 何で長門は名を名乗ってないのに名前を知ってるのか! まさか………超能力者!?」
「いや、違…………そうじゃないけど」
 違わなくはない。違わなくはないのだが……触れていない以上、千喜に相手の心を読む術はない。だから、長門という名が名字か名前かも分からないわけで。
「……あなたがそう呼んだではありませんの」
「我輩は呼んでないのである!」
 ねこ丸はプシュケの言葉を速攻否定。
「いや、呼んだわよ」
「……………そうか?」
「うん」
 だが、長門の言葉には疑問形。
「…………呼んだ?」
 首を傾げ、再度確認。
「呼んだ」
 さらなる肯定に、うーと唸って。
「長門がそう言うなら、そういう事にしておくのだ」
 ポモックにしては難しい顔をして、がくりと頭を垂れ、折れた。
「やれやれ……」
 どうやら千喜よりもバカらしい。
 そんな事を考えながら主の方を見上げると、千喜は明らかに嫌そうな表情を浮かべている。そういえば主の手の上に乗っていたなと、プシュケは今更ながらに思い出した。
「だが黄色いの、テメェはダメだ!」
「なんですってぇ!」
 この無軌道な振りっぷり、バカさ加減で言えばやっぱり千喜よりタチが悪い。
 そう考えてもう一度上を見上げると、主は諦めたのか、溜息をはぁと吐くだけだ。
「けど、さっきの最後……何だったのかしらね」
 さりげなく話題を戻した長門の呟きに、一同は顔を見合わせた。
「……そうなのだ。黄色いの、見てないのか?」
 名前を覚えられないのもバカだからだろうと割り切って、いちいちそこまで突っ込まないことにする。
「一瞬しか……。そちらはどうですの?」
 近接戦での反応速度はジルダリアよりポモックの方が上だろう。相手の姿は、おそらくねこ丸の方が正確に捉えているはずだった。
「速すぎて、なんか灰色なのしか見えなかったのだ。今日の長門のぱんつと同じむぐー!」
「………それ以上は、黙ってて」
 その彼女でも、捕らえきれない動きと加速。
 まともなハーモニーグレイスの動きではない。
「今は……普通のシスター型よね」
 コンソールに映る千喜達の予選バトルロイヤルも、終了まであとわずか。相変わらず健在なジルは、長刀を構えたラプティアスと殴り合いの真っ最中だ。
「バインダーも、普通だよね……」
 長刀を弾くメイスも、肩から伸びたバインダーも、それほど変わった所はない。時折攻撃をバインダーが紫電と共に弾いているから、防御フィールドが張られているのは間違いないだろうが……せいぜいその程度だ。
 そしてそれは、プシュケもねこ丸もとうに理解していた。
 あの最後の一瞬、二人を一撃の下に打ち砕いた巨大な腕と、大鋏ではない。
「見間違いだったのか?」
「けど、視覚データにもちゃんと残っていますわ」
 だからこそ、プシュケもねこ丸も首を傾げざるを得ないわけで……。
「やっぱり、締め上げるしかないか……」
 予選バトルロイヤルはセンターの各フロアにある筐体全てを使って行われている。入場ギリギリだった千喜は一階だが、見渡す限りそれらしき姿がないということは、別の階の筐体から参戦しているのだろう。
 逆を言えば、下から見ていけば、十貴に逃げ場はないわけで。
「千喜さん。あのシスター型のマスター、知ってるの?」
「まあね。バトルも終わったし、行ってみようよ。ボコボコにしたら、きっと教えてくれるよ」
 コンソールには、予選バトルロイヤル終了の表示がされている。予選突破した名前が表示されていく中に、もちろん十貴とジルの名前も記されていた。
「ほ……ほどほどにね」





「お疲れ様、ジル」
 マスターの出迎えの言葉に応じるより先に、バーチャルフィールドから帰還したシスター型神姫が確かめたのは、コンソールに表示されている順位表。
「………三位か。やっぱ、プシュケ辺りで遊びすぎたな」
 今回の予選での撃墜スコアは、上から三番目。少なくともジルより勤勉に敵神姫を倒していた奴が、二人はいるということだ。
「だからバビロンまで使うのって聞いたじゃない。セカンド上位に行くまで、今の装備で何とかするって言ってたのに」
 サードランクを一瞬で駆け抜けて、現在のジル達の所属ランクはセカンドの半分から下辺り。
 ジル曰く、この辺りで基本装備以上の新兵器や装備に頼るようでは、上で戦えるワケがない。それが、かつて初期装備だけでアーンヴァルと戦い抜いた、神姫バトル最古参プレイヤーの誇り………だったはずなのだが。
「や、なんかあんだけ殴られてると、腹立ってさぁ。三秒ルールって言うじゃんか」
 その三秒はどう考えても違う三秒だったが、あえて言わないことにする。
「……まあ、ジルがいいんならいいけどね」
 ジルは戦う係。
 そして十貴は、それをサポートする係。
 実戦で新武装を使おうとしないジルの実働データが取れたとなれば、十貴にとっては喜びこそすれ、困る理由はどこにもない。
 後は相棒がのびのび戦えるよう、装備の調整をするだけだ。
「や、十貴君。大活躍だったねぇ」
 装備一式を片付けて。撤収できるようになった彼らに声を掛けてきたのは、長身の青年だった。
「あれ……倉太さん。来てたんですか?」
 ストラーフのジルの命の恩人にして、シスター型のジルの生みの親。正確にはその橋渡しをした人物であるのだが、恩人である事には変わりない。
「ちょっと野暮用でね。ジル君の様子はどうだい?」
「勝ったぜ!」
「……そりゃ、キミなら勝って当たり前だろうさ」
 本来のジルは、神姫バトル黎明期から最前線で戦い抜いてきた歴戦の猛者だ。
 ホームグラウンドのショップならともかく、サードからセカンド中位のプレイヤーが中心の東条神姫センターでは、その実力は限りなく反則に近い。
「そっちじゃなくて、装備のほうだよ。隆芳先輩から素体の研究資料、もらったんだろう?」
「はい。基本の構造は分かりましたけど、パワーの調整が難しくて……」
 実のところ、今の新装備の耐用時間は最大出力で連続十秒ほど。三十秒を超える耐用試験は、まだしていない。
「リミッターを付ければ簡単ですけど、それじゃ意味がないですし……」
 セカンド中位を超えるまで、実戦はデフォルト装備のままで戦う。
 そのジルの誇りが、自身の熟練度を上げるだけでなく、装備の実用性も理由の一つだということは……もちろん、十貴にも分かっていた。
 彼女の実力ならば、あっという間にセカンドの上位に乗り込んでしまうだろう。それまでに何としてでも、実戦投入出来るだけの目処を立てておかなければならない。
「それであそこまで形にしてるのか……」
 その時、倉太の肩から響いたのは、鈴の鳴るような澄んだ声。
「十貴さん。今度来たときにでも、あたしの武装、見てみます?」
 倉太の神姫。両耳に小さなユニットを備えた、ポニーテールの少女だ。
「あたしの身体、ジルさんとは同じ系列ですから。何か参考になるかも」
「いいんですか?」
 十貴の言葉は少女ではなく、主の倉太へ向けて。
 ポニーテールの少女は倉太の神姫ではあるが、同時に彼の所属する研究室の備品でもある。中にどんな機密が潜んでいるか、予測も付かない。
「スライガーならいいよね? 倉太」
「エリがいいなら、任せるよ」
 話がまとまったところで、席を立とうとして。
 筐体の並ぶ通路の向こうに姿を見せたのは、一人の少女。
「あ、長門さん! あそこの席っ!」
 遠くからでもひと目で分かる。そして、この状況下で彼女が何をしてくるのかも。
「……やばっ。ジル!」
 十貴は彼女の異能のことを知らない。
 けれど、彼女の暴力性は十分以上に熟知していた。
「お、おう!」
 慌てて相棒を肩に乗せ、武装群の入っているキャリングケースを反対の肩へと担ぎ上げる。
「千喜のことは任せてくれて構わないよ。十貴君たちは、どこかで次の本戦の準備をするといい」
「た、助かります! 倉太さん!」
 長身の青年にそう声を投げておいて、十貴が向くのは千喜が迫る通路の逆方向。確かそちらには、非常階段があったはず。
「気分的に、女装のほうのキミに言って欲しい言葉だけど……って痛い痛いエリ、そんな引っ張らないでよ! 髪が抜ける、抜けるっ!」
「この、見境なし!」
「………倉太さん?」
 自分の神姫に思い切り髪の毛を引っ張られている青年を心配そうに見上げれば。
「ほら。後はあたしたちが何とかしといてあげるから、行った行った!」
 照れたように叫ぶ神姫の言葉に、十貴は通路を今度こそ走り出すのだった。





 赤い色が、空の半分を覆っている。
「あーあ。結局、聞きそびれちゃったなぁ……」
 足下に長い影を曳きながら呟くのは、千喜。
「ま、それは次の楽しみに取っておこうよ。長門君だって、そう言ってくれただろう?」
 そして、彼女の隣を歩くのは、千喜の影よりはるかに長い、青年の影。
「そう……だね。うん、そうする」
 ぽそりと呟き、小さな影は大きな影の内へと重なり合って。
 道路を歩く少女も、青年のコートにそっと頬を埋めている。
 彼女たちの肩や頭に腰掛けた神姫達も、幸せそうな少女の様子を穏やかに眺め、微笑むだけだ。
「久しぶりだね、こういうの」
「そうだね」
 聞こえるのは、烏の声。
 住宅街の、夕暮れ時だ。
 遊ぶ子供の帰宅時間にはやや早く、買い物の帰りには少しだけ遅い。誰か必ずいるはずの時間に生まれた意外な空白の中、二人の影は寄り添い歩く。
 やがて、十字になった角を曲がれば。
「あれ? あそこ歩いてるの……」
 目の前をふらふらと蛇行する、自転車の存在に気が付いた。
 ロードバイクと呼ばれる、見慣れた形の自転車は……。
(道、変えるかい?)
 寄り添う倉太から流れ込んできたのは、そんな思考。
「……ううん。もうすぐ巴荘だし、いいよ」
 千喜からは切り出しにくいと思ったのだろう。その心遣いを嬉しく思いながらも、千喜は静かに首を横に。
「おーい!」
 掛けた声に、ロードはゆっくりと停止。
「ああ……千喜と、倉太さんスか……。二人とも、いま帰り?」
 振り返ったのは、千喜と倉太の予想通り。
 彼女たちの暮らす巴荘102号室の住人、武井峡次だった。
「うん。峡次も?」
「まあな……」
「何だかお疲れだねぇ」
 いつもなら、少年の口数はもう少し多い。それが今日は、珍しく憔悴しきった様子を見せている。
「………まあ、色々ありまして。大会はどうだった?」
「…………」
「残念ながら、予選落ちでしたわ」
 途端に不機嫌そうになった千喜に代わり、彼女の頭に腰掛けていたプシュケが答えてくれた。
「峡次さんのフィールドシュナイダーもちゃんと役に立ってくれましたし………。ノリコは?」
 いつも峡次に寄り添っている砲台型神姫がいない。
 大太刀をプシュケに預けてくれたのは、彼女だ。ノリコにもちゃんと、報告をしておきたかったのだが……。
「ああ、ノリはこの中」
 峡次が指したのは、背負ったバックパックだった。
「調子が悪いんですの? それともバッテリー?」
「や。研修がハードだったみたいでさ。色々覚えた事が整理し切れてないみたいで……」
「大変ですわね」
 通常の動作をシャットアウトしてまで処理に向かうなど、よほどの情報が詰め込まれたのだろう。
 フォートブラッグの情報処理能力は、機動動作や近接戦の処理ルーチンが弱いぶん高いと言われるのだが。それで対処できない情報量となると、プシュケには想像も付かない。
「じゃ、俺、帰って寝るわ。シュナイダーの調整とかあったら、いつでも言ってくれな………」
 そして、峡次の乗ったロードはその名にそぐわぬ鈍い動きで、ゆっくりと道を走り出す。
「いつでもって、そんな死にそうなのに声かけらんないでしょ……」
 転倒寸前の緩やかな動きに、千喜は珍しくそんな言葉を呟くのだった。





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