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人間耳萌え?


「風間部長! 一つお願いしたい事があるのだが……良いか?」

ある日の放課後。我が飛行機同好会部室兼作業小屋で、
部品の買出しに出かけた白頭を待ちながら、俺が機器のハンダ付けをしていた時の事。
向かいの席で何やら考え事をしていた鈴鹿さんが、唐突に此方へ向き直り妙に改まった様子で話しかけて来た。

お願い……はて? 彼女は俺に一体何をお願いしようとしているのだろうか?
飛行機に乗せて欲しい……ってな訳ではないだろう。そんな事、わざわざ改まってお願いする程でもない筈だ。
何せ、彼女は重量物の運搬試験と言う名目で、今の今まで何度も飛行機に搭乗しているからだ。
(女性を荷物役にするのはちと酷いような気もするのだが、それは彼女自身が荷物役を名乗り出てきたからである)
なら、誰か知り合いを乗せて欲しい、とでも言うのだろうか?……いやいや、それも有り得ない話だ。 
と言うのも、我が飛行機同好会は今、部員募集を兼ねた体験飛行希望者を募集中である。
用紙に氏名とクラスを記入して予約すれば誰にでも体験飛行が味わえる、
飛行機同好会だからこそ出来るサービスがあるのだ。
(ただし、体重と体格、そして体質によってはご希望に添えない場合がありますのでご了承ください)
よって、わざわざ誰かを乗せて欲しいと俺に頼む必要もない筈だ。申し込めば済む話だし。
ならば、鈴鹿さんは俺に何を頼むつもりなのだろうか……?
様々な想像が脳内をグルグルと渦巻くが、結局納得できる結論が思い浮かぶ筈もなく。
俺は仕方なしに鈴鹿さんに聞く事にした。

「俺にお願いしたい事って……何さ? 内容によっては出来る事と出来ない事があるぞ?」
「いやいや、風間部長、勘違いしないで欲しい。
私の言うお願いと言うのは、部長に何かをして欲しいという意味でのお願いではないのだ」
「……?」

鈴鹿さんの否定に、俺の頭に思わず浮かぶ疑問符。
そんな俺の様子に気に掛ける事無く、鈴鹿さんは何処か恥かしそうに、そっと俺へ耳打ちをする。

「…私の頼みと言うのはな…その…部長の、耳を触らせて欲しいんだ」

…………。

「……は?」

余りの意味不明なお願いに一瞬思考停止してしまった。ひょっとすると目が点になっていたのかもしれない。
んで、俺の聴覚が確かなら、鈴鹿さんは耳を触らせて欲しいって言ったよな?
……何で? 何故に? 如何して? 理由が全然思い当たらない。

「いや、そのな、少し小耳に挟んだ話なのだが、
人間の耳朶と言うものは、何も他のケモノには無い至高の触り心地だと言う話があるのだ。
それで、その…その話に私は興味を持ってしまってな…そう、その触り心地は如何言う感じなのかなって…」
「あー…そうなんだ…」

なるほど、要するに鈴鹿さんは人間である俺の耳の触り心地を、その手で確かめてみたいんだな。
まあ、言ってしまえば俺達人間種がケモノの肉球や尻尾を触りたがるのと同じって訳かな?……多分。

「いや、まあ、部長が嫌だと言うなら私は無理には頼まない。
流石にこれは余りにも身勝手なお願いだからな、部長に断られるのも……」
「良いぜ」
「――え? 本当か!?」

勝手に遠慮して話を切り上げようとした所で出た俺の許可に、
驚きの余り、思わず耳と尻尾をピンと立てて聞き返す鈴鹿さん。

「ま、なんだかんだ言って、鈴鹿さんには作業の手伝いとかの形で色々と部に貢献してもらっているからな。
それを考えて見りゃ、俺の耳を触らせる事くらいなんてお安いご用だよ」
「ぶ、部長……ありがt」

俺の言葉に感極まってか、思わず立ちあがって両手を広げた鈴鹿さんを俺は片手で制し、

「おっと、抱き締めるのはストップだ。これで俺が気絶しよう物なら耳を触る所じゃないだろ?」
「う、済まん……つい感極まってやってしまいそうになった」

……危ない危ない、止めるのが一瞬でも遅れていたら保健室送り間違い無しだった。
乳房の柔かさを味わう天国と全身を締めつけられる地獄を一瞬で味わうのはあの時だけで充分だ。

「ほらよ、爪とか立てたりしないでくれよ?」
「じゃ、じゃあ、失礼して……」

早速、席を立った俺が鈴鹿さんの側に立ち、少し冗談めかしつつ頭を傾けて片耳を差し出す。
鈴鹿さんは緊張に虎縞の体毛を逆立てながら、大きな身体を丸めてそっと俺の耳朶へ手を伸ばす。
初めて人間の耳を触れる行為に余程緊張しているのだろう、彼女の鼻息がここまで感じ取れる。

「……何と……これは……」

興奮混じりにぶつぶつと呟きながら、一心不乱に俺の耳朶を触りつづける鈴鹿さん。
他人に耳を触られる経験がない所為か(まあ、それも当然だが)、なんだかこそばゆくて堪らない。
だが、折角の鈴鹿さんのお願いだ。ここはひたすら我慢の子だ。

「…柔かい、けど、ただ柔かいだけではなくこの適度なぷにぷにとした弾力、程よいぽってりとした肉厚。
そして、このひんやりとしている様で何処か暖かいという不思議な体温。
更に、毛皮の無い肌特有の指の肉球に吸いつくようで、滑らかな触り心地……
素晴らしい。噂は本当だったんだ……」

……興奮しきりなのは良いんだが、さり気に俺の身体に密着してくるのはどうかと。
興奮して荒くなった彼女の鼻息が、俺の頬に思いっきり当たってかなりこそばゆいし。
おまけに肩に乳房がぐいぐいと圧し付けられてて嬉しいやら苦しいやらな気分だし。
それにもし、万が一この様子を白頭に見られたら彼女に何を言われるか……。
と、そうやっていい加減恥かしくなってきた事もあって、
そろそろ耳を触るのを止めてもらおうと、尚も一心不乱に耳を揉みつづける鈴鹿さんへ一言いおうとしたその矢先。

「あー―――――――――っ!!」

部室兼作業小屋入り口からの素っ頓狂な叫び声が、俺の鼓膜を盛大に震わせまくった!
驚きつつ声の方に振り向いて見れば、其処には今しがた買出しから帰ったであろう買い物袋片手の白頭の姿!

「な、何やってるのよ……」

硬直する俺と鈴鹿さんの方へ、声と肩を震わせながらつかつかと迫ってくる白頭!
ああ、何てこった。この調子からすると俺、怒りのアイアンクローで保健室直行コースかな?
などと俺が頭の中でこれからの事を悲観し始めた所で、不機嫌の尾羽を広げた白頭が更に叫ぶ。

「鈴鹿さん、アンタは何を勝手にソウイチの耳朶を触っちゃってるのよ!! 
何時かはアタシが思う存分触ってやろうと思ってたのに!!」

…………。

「……へ? あの……怒る所は、それ?」
「あったりまえじゃない! アタシはずっと前から狙ってたのよ! この触り心地の良さそうなソウイチの福耳を!
でも、それをあろう事かちょっと目を離した隙に鈴鹿さんに先を越されちゃうなんて、悔しいじゃないのよ!!」

今度こそ完全に目が点になった俺の問い掛けに、白頭は翼をばたつかせて地団駄踏んで独り憤慨する。
えーっと、って事は、白頭も俺の耳を触りたかったって事か? しかも、ずっと前から?
しかも、俺は福耳だったのか? 比較対象が少ないから良く分からん。

「す、済まない。もう空子先輩は触った後だとばかり思って……」
「そ、そんな事出来るならずっと触り続けているわよ! つか、そんなの恥かしくてソウイチに頼める訳が……、
――って、それより! いい加減ソウイチの耳から手を離しなさい!!」
「あ…ああ! 空子先輩、本当に済まない! 余りにも触り心地が良くて手を離すのを忘れてしまったのだ!」

尾羽どころか頭の羽毛まで逆立てて怒る白頭に、尻尾を股の間に折り曲げてひたすら謝り続ける鈴鹿さん。
そんな二人の間で俺はと言うと、ただ呆然とそのやり取りを眺める事しか出来ない。
いや、と言うか、この状況の中で眺める事以外に何が出来るというのだろうか?

「そ、そうだ、ならばこうしよう。これを機会に空子先輩も部長の耳を味わってみると言うのは如何だ?」

余程追い込まれたのだろうか、鈴鹿さんが苦し紛れとばかりにとんでもない提案を言ってのけた。
いや、幾らなんでも怒り狂った白頭がンなアホな提案飲む訳が……

「そ、それも、良さそうね……」

って、おぉぉぉい?! 何を素直に乗っちゃってるんですかこの幼馴染は!?
しかも、なんだか白頭の奴、もう既に俺の耳に『ロックオン☆』しちゃっているみたいだし!?
そんなに俺の耳朶って良いの!? 俺には全然分からないんですけど!?

「じゃ、じゃあ、アタシは右の方を頂くわ。それで良いわね?」
「あ、ああ。片方を譲ってくれるだけでも私としては充分過ぎる程だ」

と、俺が混乱している内に、何だか勝手にどっちの方を触るか決めちゃってるんですけど!?
つーか、そもそも俺に拒否権は無いのか!? いや、まあ、拒否権云々を聞いても無駄だと分かってるけどさ。

「あー…何と言う素晴らしい触り心地だ…このぽってりとした肉厚、まさに触り心地に於ける究極だ」
「本当よね…この福耳の感触を味わってると、アタシはこの為だけに卵から孵ったと思えてくるわ……」
「…………」

この時点で、俺は二人のされるがままになっていた。
俺が思う事は、ただ一つ。『もう、好きにしてください』 と言う、諦めの言葉だけ。

……結局、満足した二人が俺の耳を解放したのは、それから約三時間後の事。
部室を出た俺は沈みゆく夕日を眺めつつ、この世の中には色々な嗜好がある事を実感したのだった。

――――――――――――――――――――終われ――――――――――――――――――――