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金曜日のネコたちへ

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金曜日のネコたちへ


白い毛並みの猫がいる。
彼女は玄関の鍵を開け、部屋に入る。
「ただいま」とは言わない。「お帰り」ってこだまが期待できない以上、言うだけ虚しい。
バッグをソファに放り、賃貸マンションを選ぶ際にちょっと重視したバスルームに入る。
セーターを脱ぎスカートを降ろし下着を外す。
押し付けられていた毛並みがくたびれている。
白い猫は鏡に写るくたびれに眉をひそめ、くしゅくしゅ、と撫でて掻き混ぜてみる。
直らない毛並みに、ふぅ、とため息をつき、タオルを持って洗い場に入る。
シャワーを浴びて、ちょっと良いシャンプーで全身を洗う。
ちょっと重視したバスルームなのに、浴槽に湯を張るのが億劫でもっぱらシャワーしか活動していない。
濡れそぼった毛並みの下にはそれなりに魅力的な曲線と隆起が見られるが、それを見せつけて誘惑するべき殿方は今の所彼女にはいない。
寝間着に着替えたらすぐさま冷蔵庫から麦酒を取り出す。
ぷしゅっ、シュワー。
くっくっくっくっ……。喉がシアワセの音を奏でる。

「あー、しあわせ」

ただいまは言わないのに麦酒に対する感想は口から零れる。
習慣が家や家族から遠ざかり酒に近づいている証拠のようでもあるが、今の所注意してくれる人はいない。
カレンダーを見る。
2011年11月11日。時刻は既に22時を回っている。
彼女はふと思う。

──2011年11月11日11時11分11秒、私は何をしてたっけ。

稀に見るポッキー日和にいったい自分は何をしていたのかしらと考えてみれば、当然の答えが閃く。

──間違いなく仕事だなぁ。

味も素っ気もない答え。
ルーティンに囚われざるを得ない社会人には仕方のないこととは言え、彼女は無味乾燥な自分の日々が少し恨めしくなる。
金曜日のその時間だと、たぶん保健室でコーヒーをいれてたりしたに違いない、と彼女は考える。

──そうして、初等部の体育があって……そうだ、クロが、転んで膝を擦りむいたコレッタを連れてきたっけ。

保健委員がやたらに包帯を巻いて、コレッタはまだしもクロまでまきこんで包帯の繭にしたのが、ちょうどそのころ。


「ぷ」と吹き出し、「あははは」と、白い毛並みの猫は笑う。
子供達との賑やかな日々が、単なるルーティンで済むはずがない。
何処までも続くルーティンに眩んで、ディティールを忘れていたのだ。
残ったビールを飲み干し、洗面所で口を濯いで、特注の猫ベッドに丸まる。

「おやすみなさい」

返事はないけど、月曜日に会う子供達に夜の挨拶をし、彼女は眠りについた。
おわり

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