※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

母への手紙


『拝啓 天国の母さん。
そちらでは如何お過ごしでしょうか? ここはもう春も過ぎて少し汗ばむ位の陽気になりました。
不安と期待を入り混じらせながら始まった高校生活も既に一年が過ぎ、楽しく学園生活を満喫しています。
多分、母さんは俺の事が心配かと思いますが、俺は大丈夫です。
恐い顔だけど気が優しく友達想いな利里。
天真爛漫で場を明るくしてくれる朱美。
小学生の頃からの長い付き合いの二人と一緒なら、
これからどんなに辛い事や苦しい事があっても、俺は笑って乗り越えていけると思ってます。

血の繋がらない俺の事を、実の子の様に育ててくれている御堂夫婦。
少しそそっかしい所があるけど、何時もにこやかな笑顔で時には優しく時には厳しく俺に接してくれる利枝義母さん。
言葉数が少なく、感情を表に出さないけど俺の事を優しく見守り、時にはそっと手助けをしてくれる謙太郎義父さん。
俺はこの二人の深い愛情を常に感じ、本当に幸せだと思っています。

つい先日の母の日、俺はその愛情に何かで返してあげようと利枝義母さんにカーネーションの花を贈りました。
花を受け取った利枝義母さんは余程嬉しかったのか、
しばらく小躍りをした後、終始嬉しそうに尻尾を揺らしながら花の匂いを嗅いでいました。
今頃は花瓶に生けたその花を自分の枕元に飾って、宝物の様に眺めている事だろうと思います。

少しだけ遅れましたが、そちらへもカーネーションを贈ります。
俺が初めてアルバイトして溜めた金で買う花です。
まあ、利枝さんにはバイトした事は内緒していますが…。

最後に、俺を生んでくれてありがとう。
母へ 息子の卓より』


「……こんな物で良いか」

そう、ポツリと漏らした後、卓は自ら綴った手紙を封筒へ入れ、ベランダへと出る。
そして、ベランダに出た卓は何を思ったか、ライターでその手紙を燃やし始めた。

「こうやれば天国へ手紙が届くって聞いたけど……本当かな?」

たなびく煙を見上げながら、卓は誰に向けるまでも無く独り呟く。
その視線の先、空高く上ってゆく煙は満天の星空へ吸い込まれる様に消えていった。
それはまるで、煙と言う形になった手紙が、遥か遠くの天国まで届いてゆくかのように。

「さて、と。明日は義母さん親父と一緒に花屋行った後で墓参りに行かないとな」

手紙が燃え尽きるまで見届けた後、卓は燃え滓を片付けて自分の部屋へと戻る。
その後姿を、空に輝く無限の星々が優しく見守っていた。

――――――――――――――――短いけど了――――――――――――――――――――