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レッツゴー三匹


「え…! 嘘…」

冬の休日、自宅でのんびりしていた芹沢モエのもとに届いた、一通のメール。
佳望学園とは別の隣町に住む仲間から送られてきたそれを見て、彼女はつい声を上げてしまった。

すごいものを見た。コウモリの女の子と人間男子が火事のマンションから子供を救助して
途中で墜落、病院に運ばれた。そんな内容の、軽いノリのメール。

一般的な犬や猫に比べると、コウモリは数が少ない。それが人間男子とつるんでいて
そんな無茶をする女の子なんて、あのコ以外に考えられない。

即座に電話そしたが、どこの病院に運ばれたかまではわからないようだ。
そこで得意の高速タイピングで、数人いる隣町の仲間のアドレスに詳細求むメールを一括送信。
いつものギャル文字は使わない。真剣なメールであることは伝わるだろう。
それが功を奏して返信は早く、すぐにその病院を突き止めることができた。隣町で距離はあるが、電車に乗ればすぐだ。
行き先を尋ねる弟を無視して、身支度もそこそこにモエは家を飛び出した。

病院にたどり着くと、小さな体で踏み台に乗って受付と会話する、よく知る教師の姿があった。

「サン先生!」
「おぉ!モエじゃん」
「あのっ朱美がっ!」
「うん、ぼくもそれ知って急いで来たんだ。まさかあの2人がねえ」
「それでっ2人はっ!?」
「うーん…それがねぇ…」

サン先生が腕を組んで難しそうにうなる。
手に汗を握るモエをじっと見つめて…そしてニコリと笑った。

「2人とも元気だってさ!大きな怪我はないんだって」

張り詰めていた緊張の糸が切れて、モエは大きく息を吐いた。

「もー!やめてよ先生!」

すぱーん!

ほっとした勢いで、つい弟にやるように教師の頭をどついてしまった。

「…痛い」
「あっごめんサン先生!」
「いやいーよ、さっきのはぼくが悪かった。さすがに冗談やってる場合じゃないね」
「そっか、2人とも無事なんだ…よかった…」
「ホント無事でよかったよ。同じ病室にいるってさ」

病室は3階の一番奥。少し遠いその距離を、まるで姉弟のように見える教師と生徒は並んで歩く。
先に来ていたこともあるだろうが、サン先生は2人の状況を驚くほど把握していた。

「え…サン先生現場にいたの?」
「いないよ。ぼくも人から聞いた話」
「なんでそんなに詳しく知ってるわけ?」
「ふふ…それは企業秘密さ」

サン先生は悪戯っぽくニシシと笑った。
モエのギャル仲間によるネットワークは広いが、彼はそれ以上に広い。相変わらず謎の多い先生だ。

3階の、最後の廊下を歩いているとき、サン先生がポツリと声を出した。

「あいつらさ、どうしてこの隣町にいたんだろうね…2人で」

モエはぴたりと足を止めた。サン先生も止まる。

2人。現場にいたのは2人だ。
あいつらは仲良し3人組だったはず。休日にこの隣町で、2人で、何をしていた?

「わかる? っていうか同年代だと2人のそういう話聞く?」
「…聞かない。たぶん、一緒にいたのは偶然だと思う」

誰と誰がどうだ、という話は、若い女子高生にとって話題の中心だ。
ことモエにいたっては、同学年のそういう情報なら全て把握している、と言っても過言ではない。
そしてあの2人については…親友レベル。どこまでも親友レベルの話しか出てこない。
そういう事実はたぶんないのだ。そう、今はまだ。

「吊り橋効果って知ってる?」
「えっと…何だっけ?」
「危険な状況を共にした2人は恋愛に発展しやすい。危険によるドキドキが恋愛感情によるドキドキだと勘違いするんだ。
 ハリウッド映画で主人公とヒロインが絶対にくっつくあれだね」

サン先生の眼鏡がきらりと光る。

「で、あの2人も今かなりそれに近い状況だと思うんだよね」
「うん、あるある」

なんだか楽しくなってきた。この先生が大人気な理由はここなのだ。

「…若く健全な関係が生まれるのは素晴らしいことだ。他人が邪魔しちゃいけない」
「…え?」
「好きな人と一緒にいられる時間が、ずっと続くとは限らないんだから。僕は…」
「あのサン…先生…?」

「よしっ!行こうか。2人を邪魔しちゃいけないけど、ぼくは教師として見守らなきゃね」

一瞬、いつものサン先生とは違う、別人のような顔が見えた気がしたのだが…
いつもの調子でズンズンと歩き出したサン先生の後を、モエは慌てて追った。

病室の前にたどり着き、かかった名札を確認する。

飛澤朱美 御堂卓

あとは空欄になっていた。8人入りの病室に2人きり。完璧ではないか。
音を立てないように少しだけ引き戸を開き、モエは上、サン先生は下と並んで中を覗き込んだ。
いた。奥から二番目のベッドに眠る卓と、ベッド脇のイスに座る朱美。
視界は良好だ。覗く2人は小さくガッツポーズをした。

しかし、問題もあった。

「あれっ朱美なんかしゃべった!?」
「あっちくしょー聞こえなかった!」

卓君…と、朱美の呟く声はなんとか聞こえた。続けて何かをしゃべったように見えたのだが、少々距離が遠い。
耳に意識を集中して、サン先生は耳をくいと持ち上げて聞いているのだが、2人の犬耳ではその小さな声を聞き取ることができなかった。
声が小さいと聞こえないのだ。これでは下手をすると重要な部分を聞き逃してしまうではないか。

せめてもう少し耳がよければ。もしくは耳のいいメンバーがここにいてくれたら。
そうだ、りんごだ。ウサギのりんごがここに来てくれたら…

「ちょっとあなたたち、何してるのよ!」

背後から突然響いた声に、2人はビクッと振り向いた。
天に伸びる長い耳。腰に当てた手。きらりと光る眼鏡。

「りっ、リオっ!?」

まずいリオはまずい。リオは真面目のまー子だ。覗きなんて認めないに決まっている。

「サン先生まで! 病室の前で何をs」
「リオー! 待ってたんだよリオ!」

最後まで言わせず、サン先生が嬉々としてリオに向かっていった。両手を取ってぐっと握りしめる。
天然…? いや、態度とは裏腹に尻尾がこわばっている。サン先生は必死だ。

「君の才能が必要なんだ!ずっと待ってたんだよ!来てくれると信じてた!!」
「え、あの…」

仮にも教師にそこまで言われて嬉しくない人はいないだろう。戸惑いながらもリオはまんざらでもない様子だ。
だったら私はリオの女の子の部分にかける。話せばリオもきっとわかってくれる…はずだ。

「リオ!今すごく大切な所なの! 朱美にとって正念場なのよ!」
「で、でも」
「ねえわかるでしょ、今邪魔しちゃいけない所なの!」
「そうなんだよ!今は静かに見守らなきゃいけないところなんだ」
「ねっ、ちょっとだけだから!後でかわいいアクセのお店に連れてくから!」

「わ…わかったわよ」

2人の猛烈な説得に圧されて、風紀委員リオはついに折れたのだった。

リオはたまたま用事で近くにいて、話を聞いていち早く駆け付けたとのことだった。何の用事かは聞けなかったが。
リオに簡単に状況を説明し、引き戸の隙間に3人の目が並んだ。上からリオ、モエ、サン先生だ。

「モエもうちょっと頭下げて、よく見えない」

共犯になったリオは割とノリノリだった。



※ここから先は極端に動きが少ないため、音声のみでお送りさせていただきます。



サン「こっちは準備万端なんだけどね…うーん…授業中ならまだしも…」ゴソゴソ

サン「こらそこ! 寝てるんじゃない御堂卓!」バッ
モエ「ちょっ!チョーク投げちゃダメだって!」
リオ「早く目覚ましなさいよ!飛澤さんかわいそうじゃない」
モエ「こら起きろー卓ー!」

リオ「…起きた」
モエ「起きたよ」
サン「想いは届くもんだ」

モエ「へぇー…」
サン「運が良かったんだね」
リオ「(あばらが2本イッたって…)」

リオ「飛澤さん…ホントに無理したんだ…」
モエ「何やってんのさ卓の奴…」
サン「いやあの、卓も頑張ったと思うんだけど」
リオ&モエ「女の子に怪我させてちゃダメ!!」
サン「…はい」

サン「卓起きた…あ」
リオ「…お」
モエ「…! キター!」
リオ「隣キター!」

リオ「宮もっ!!?」
サン「リオどしたの?」
リオ「……なんでもない」
モエ「へぇー、宮本さんってすごい人だね」
リオ「(わたしは落したのに…)」

リオ「飛澤さん…」
モエ「ちょっ卓何やってんのさ!情けないなーもー」
リオ「あーもーその無駄に広い胸は飾りか!」
モエ「今こそ使うとこでしょーが!」
サン「…やっぱり男って胸広くないとダメ…?」
リオ「おおおぉぉイッター!!」
モエ「朱美からイッター!!」
サン「………」

モエ「朱美…」(号泣)
リオ「飛澤さん…」(号泣)
サン「…冷たい」

サン「……ん…?」
モエ「あれっ?卓なんか言ってる?言ってるよね!?」
サン「うーん聞こえない…リオ!聞こえてる!?」
リオ「静かに!!」

リオ「…ぶふっ!!」
モエ「えっちょっ!!」
サン「卓何言った!?」
リオ「ええぇ…何、これ言えって…えええぇぇ」
モエ「教えて!ねえお願いリオ!」
サン「リオ!頼むよリオ!」
リオ「ええっと…ねぇ…」

リオ「…2人一緒なら無敵だ…的な」

モエ「ああああぁぁぁぁ!!」ビシビシビシ
サン「痛い痛い痛い」
モエ「ほとんど告白じゃーーん!」スパーン
サン「痛ったい!」ゴッ
モエ「ふがっ!」
リオ「御堂君も言うわね…」

サン「…お、動いた」
リオ「やっと離れ……!!」
モエ「ちょっ卓っ!! ……///」
サン「うわ…ごめん見てる…」
リオ「ぅあああぁぁ…///」
モエ「やばい…やばいって…///」ギューーー
サン「ふぎゅっ…くっ苦しっ…当たっ…」

リオ「…ふぅ」
モエ「あれ…これは…」
リオ「この雰囲気は…あ…」
モエ「やばい…いくか……」
サン「おおおぉぉ…!」
モエ「いけ…いっけええぇぇぇ!!」
リオ「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

ウオオオオオオオオオオオオオオ!!

ぱこーん


周りの状況などまるで見えないリオレウスの突進の直撃を受け、
三匹のケモノは、まるでボウリングのピンの如く弾き飛ばされたのだった。
それはそれは美しい放物線で、三つの軌跡が描かれたそうな。

<おわり>