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生酔い本性違わず


……如何して、こんな事になったのだろう?

ヨハン先生は、ふと、胸中でぼんやりと考えた。 
しかし、考えた所で何も代わりはしないし、今の状況の打開策が思い浮かぶ筈も無いだろう。
だが、それでも彼は考えてしまう。何せ……

「うう、私は、私はなんて駄目教師なんだぁぁぁ……」
「ああもう、何時までもめそめそ泣いて見苦しいんだよ、しゃきっとしろよ怜子!」
「一番、帆崎 尚武! 獅子宮先生と泊瀬谷先生の様子を見守ります!」
「あはははははははははははははは、あはははははははははははは」

今、自分の目の前で、ネコ族の同僚達が酔っ払いまくっているのだから。


それは放課後、既に授業を終わらせた教師達が今日の報告書を仕上げている最中、
小さなビンを片手にしたサン先生が尻尾を振りながら職員室に入ってきた所から始まった。
早速、隣の席のヨハン先生がそれに気付き、サン先生へ問いかける。

「あれ? サン先生、その小ビンは何です?」
「ああ、これ? ナイショ♪」

言って、ニシシと笑うサン先生。それは明らかに良い悪巧みを考え付いた顔をしていた。

「……また何かの悪戯に使うんですか? 止めてくださいよ?」
「大丈夫大丈夫、少なくともヨハン先生には影響ないから」

自分へ影響はないと言われても、それでもヨハン先生は少し不安を感じる。
何せ、サン先生のイタズラは偶にイタズラの度を越えた物になる事もあるのだ。
少なくとも彼にとっては、それのとばっちりだけは勘弁したい所であった。

「……で、本当の所は何なんです? 教えてくださいよ、サン先生」
「んー、其処まで聞くならちょっとだけ教えても良いかな?」

小声で問うヨハン先生に、サン先生は何処かもったいぶった感じで話し始める。
どうやら、サン先生は元より話す気満万だった様だ。

「実は言うとね、これは、はづきちに頼んで作ってもらったマタタビの濃縮エキスなんだ。
ボクはこれを布に染み込ませた物を獅子宮先生に嗅がせて、酔っ払った所を映像に残してやろうと企んでるんだよね」
「……この前の復讐、と言った所ですか? サン先生、それは本当に止めた方が良いですよ? 
前の時でもかなり酷い目に遭わされたと言うのに、それで今度は何をされるか……」

無論、ヨハン先生はサン先生を止めるべく説得を始めるが、
その言葉を遮って、サン先生はぱちりとウインク一つして言う。

「あのね、ヨハン先生? ボクにとって、やられっぱなしってのは性に合わないんだよ。
だから、やられた以上はそれ相応のお礼を返すのがボクの流儀なんだ、ヨハン先生は其処を分かって欲しいな?」
「ハァ……」

訳の分からない持論を返され、生返事を返すしかないヨハン先生。
そして、サン先生はビンを手に取り、手の中で弄びながら楽しげに漏らす。

「さぁて、これを嗅がせた時、獅子宮先生は如何言う反応を見せるのかなー?
やっぱり、床に寝っ転がってゴロニャーンとなっちゃ――…あ」

つるっ、カシャーン!

何かの拍子でサン先生の手からビンが零れ落ち、床に落ちて真っ二つに割れ、内容物が床へ飛び散る。
それと同時に、ビンの内容物の物であろう何とも言えない香りが職員室中へ広がる。


「…………」
「…………」

そして、割れたビンを前に、二人の間に気まずい空気が流れる。
そんな気まずい空気を振り払い、先に動いたのはサン先生だった。

「あ、そう言えばボク、これから用事があったんだ! ヨハン先生、後片付けヨロシク!」
「ちょっ!? サン先生!? 僕に全てを押し付けて―――ってなんですか?」

そそくさと逃げ出すサン先生を追おうとした所で、ヨハン先生は不意に肩を叩かれ、思わず足を止める。
振りかえってみてみれば、其処に居たのは如何言う訳か隻眼の瞳に涙を浮かべた獅子宮先生。

「あの、獅子宮先生……ボクに何の用でしょうか?」
「ヨハン先生……私の事、如何思っているのですか?」
「は?……ハァ、先生はワイルドで危ない香りはしますけど、
それがかえって魅力的でカッコイイと、僕は思ってますが……それが、何か?」

彼女にいきなり問い掛けられ、訳の分からぬまま答えるヨハン先生。
しかし、獅子宮先生は如何言う訳かどっと涙を流し始めて言う。

「嘘だ! どうせヨハン先生も私の事を悪ぶっているダメ教師だと思ってるんでしょ?
私は分かってるんです! 皆は私の事を暴力的で生徒の指導もろくに出来ないダメ教師だって!」

言って、彼女は両手で顔を抑えてわぁっ泣き出す。

「もう私はダメダメなんだぁぁぁぁ、うわぁあぁぁぁぁん!」
「え? ちょ、なんで泣き出すんです? 獅子宮先生。 ちょっと、泣き止んで――って、また今度は何?」

何時もの獅子宮先生とは全く違う様子に、ヨハン先生はただ困惑し、慌てるしか出来ない。
と、再び肩を叩かれ、ヨハン先生は思わず振りかえる。

「え? は、泊瀬谷…先生?」

其処に居たのは、つい先ほどまで獅子宮先生の隣の席でPCに掛かりきりだった泊瀬谷先生。
しかし、今の彼女は如何言う訳か思いっきり目が据わっており、かなり恐い。

「おい、ナルシスト……てめぇ、何を怜子を泣かせてやがるンだ?
てめぇは女にモーションを掛けるばかりか泣かせるようになるとはなぁ? 良い根性しているじゃねえか!」
「い、いや、その、あれは僕が泣かせたと言うより、彼女が勝手に泣き出して……」

険悪な表情を浮かべ、巻き舌で詰め寄る泊瀬谷先生に、尻尾を巻いたヨハン先生は身振り手振り弁明する。
しかし、完全に勘違いしまくった泊瀬谷先生はそもそも聞く耳を持っていなかったらしく、

「男がつべこべ言い訳してるんじゃねえ! てめぇのその目障りなさらさらの髪、全部引っこ抜いてやる!」
「ちょ、泊瀬谷先生、髪を引っ張らないで! 髪が痛むっ! セットが乱れる! ぎゃいんぎゃいん!」

自慢のさらさらストレートヘアーを思いっきり引っ張られ、ヨハン先生は悲鳴混じりに声を上げる。


そんな時、其こちらへ近付いて来る帆崎先生の姿が目に入り。
ヨハン先生はすかさず助けを求める。

「ほ、帆崎先生、早く泊瀬谷先生を止めてください! このままだと僕の髪が……」
「一番、帆崎 尚武!」
「……へ?」

助けを求めた所でいきなり名乗り上げられ、訳が分からず思わず目を点にするヨハン先生。
そして、唖然とする彼の前で帆崎先生はやおらその場に座りこみ。

「こっそり泊瀬谷先生を応援します!」
「ちょwwwww! 帆崎先生!? 何やってるんですか!?」

助けるどころかフレーフレーと泊瀬谷先生を応援し始めた帆崎先生に、ヨハン先生は思わず抗議の声を上げる。
無論、こうやってる間にも彼の髪を泊瀬谷先生がブチブチと引っこ抜き続けている。当然、かなり痛い。
ヨハン先生は帆崎先生が助けにならないと痛感し、他に助けてくれそうなケモノが居ないかと視線を巡らせる。
と、其処で職員室の隅でジッと立ち尽くす白先生の姿が目に入った。

「し、白先生! そんな所で見てないで早く僕を助けて……」
「うふふ……」
「……え?」

早速、彼が助けを求めた所で、いきなり笑い出す白先生。
そう言えば、白先生もネコ族だった。……と言う事は、当然、彼女もマタタビの影響を受けて……。

「うふふふふ、あはははははっははははははは、世界が回ってるー! あはははははっ、たーのすぃー!」
「だぁぁぁっ、やっぱりかぁぁぁぁっ!」

馬鹿笑いしながらくるくると回り始めた白先生を前に、ヨハン先生は思わず頭を抱えたくなった。
だが、その抱える頭は今、目の据わった泊瀬谷先生によってブチブチと髪の毛を引っこ抜かれ続けている。
しかし、ヨハン先生がそれを止めようにも、下手に手を出せば余計に酷い事をされそうで何も出来なかった。

そして、話は冒頭へと戻り、

「あーくそ、男の癖にさらさらとした髪しやがって、むかつくんだよ、クソっ! クソっ!」
「うあぁぁぁん! 何時もの優しい泊瀬谷先生じゃないよぉぉぉぉぉ!」
「一番、帆崎 尚武! 事態を机の上で生暖かく見守ります!」
「くるくるまわーる、くるくるまわーる。 あはははははっははははは」
「……な、何でこんな事になったんだろう……」

未だにマタタビの影響が続く中、
ヨハン先生は涙を流しながら自分がネコ族でなかった事を恨み、同時に事態の一刻も早い収拾を願った。
だがしかし、こういう時に限って、事態の収拾ができそうな英先生や佐藤先生、山野先生の姿は職員室には無く、
マタタビによって暴走したネコ達の狂乱はもう暫く続きそうだった。


……それから数分経って、マタタビの影響が完全に抜けきった後。

「あれ……? 俺は何で机の上に座ってるんだ?」
「むぅ、泣いた訳でもないのに何だか目が腫れぼったい……何故だ?」
「あの、何時の間にか私の手に誰かの髪の毛が一杯……何で? 凄く恐いんですけど?」
「……所でヨハン、何故こんな所で倒れてるんだ?」
「……それは、自分の胸に…聞いて、ください……」

酔っ払っていた間の記憶をすっかり無くしたネコ達の横で、
頭髪をヨレヨレにし、ぐったりと床へ横たわるヨハン先生の姿があったという。


尚、この事件の原因となったサン先生は当然、英先生によってみっちりと説教をされる事となり。
以来、校内へのマタタビの持ちこみは禁止になったのは言うまでも無い事だろう。

――――――――――――――――――終われ――――――――――――――――――