逆襲のサン
獅子宮先生のちょっとしたイタズラから始まったブームで、校長教頭に弱みを握られ、
将棋に付き合わされたり洗車させられたり踏んだり蹴ったりのサン先生。
ケモ学のトリックスター・サンスーシがイタズラの借りをイタズラで返すのは至極当然の事であった。
将棋に付き合わされたり洗車させられたり踏んだり蹴ったりのサン先生。
ケモ学のトリックスター・サンスーシがイタズラの借りをイタズラで返すのは至極当然の事であった。
図書館に入ったサン先生は真っ先にカウンターへ向かった。ぴょんぴょん、と跳ねてみるが、
カウンターが高くて全然織田さんに気付いて貰えない。
図書委員の三人中一番デカい象の子を呼び、鼻を借りる。
豆の木を昇るマリオの如く鼻をよじ登り、織田さんに声をかけた。
カウンターが高くて全然織田さんに気付いて貰えない。
図書委員の三人中一番デカい象の子を呼び、鼻を借りる。
豆の木を昇るマリオの如く鼻をよじ登り、織田さんに声をかけた。
「織田さん!お願いしたもの持って来てくれた?」
「あら、サン先生。ちゃんと持ってきましたよ」
「ありがとう!それじゃあしばらくお借りするね」
「あら、サン先生。ちゃんと持ってきましたよ」
「ありがとう!それじゃあしばらくお借りするね」
サン先生は織田さんから、何かが入った封筒と本のようなものを受け取った。
「ふふ、楽しみにしてます」と織田さん。
「まっかせなさ~い!」
「まっかせなさ~い!」
サン先生は喜々として鼻の上を滑り降り、渡された物を頭上に掲げてトテトテ走って行った。
サン先生が駆け去るのを見届け、図書委員の三人は織田さんに聞く。
「織田さん。サン先生に何渡したんですか?」
「んー? 内緒。ふふふ」
「?」
「んー? 内緒。ふふふ」
「?」
織田さんの微妙な反応に、図書委員の三人は顔を見合わせるばかりだった。
サン先生は警察署を訪れた。別に切符を切られたわけではない。
「こんにちは!ウルフとジョー居る?」
「ああ、アイツらなら駐車場で昼飯食ってるんじゃないかな」
「ありがとう!」
駐車場に行き、メットにずんぐり腰掛けている柄の悪い警官に、元気一杯話しかける。
「ああ、アイツらなら駐車場で昼飯食ってるんじゃないかな」
「ありがとう!」
駐車場に行き、メットにずんぐり腰掛けている柄の悪い警官に、元気一杯話しかける。
「やあやあ、ウルフ、ジョー! 今日もカップ麺かい?」
「うっせぇ、交通課のペーペーがランチ食って車のカスタム代払えるか」
「ははは、それもそうだ! 公務員って安月給で困るよね!」
「うっせぇ、交通課のペーペーがランチ食って車のカスタム代払えるか」
「ははは、それもそうだ! 公務員って安月給で困るよね!」
サン先生は苛立たしげな警官を前にしても全く動じず、なお馴々しく肩に寄り掛かった。
「で、さ。例の物持って来てくれたかな?かな?」
「ああ、持って来たぜ。パトに放りこんである」
「ディード(良し)!!」
「ああ、持って来たぜ。パトに放りこんである」
「ディード(良し)!!」
サン先生はいそいそとパトカーに潜り込み、目的の物を手に取った。何か古雑誌らしい。
パラパラとめくり──ニヤリ。
警官も──ニヤリ。
警官も──ニヤリ。
「ウルフ&ジョー、ありがとう! 今度美味い飯奢るよ!」
「獅子宮に4649な」
「OK! 夜露死苦言っておくよ!」
「獅子宮に4649な」
「OK! 夜露死苦言っておくよ!」
サン先生は古雑誌を抱き締めるように抱え持ち、ニシシとイタズラっ子のような笑顔を
湛えて、警察署を後にした。
湛えて、警察署を後にした。
「うわ、ちょ! 見て跳月先生! パソコンが歩いてるっス?! ゆゆゆ、UMA?!」
「……白倉先生、ムーの読み過ぎです」
「重いよ~!二人共見てないで手伝ってよ~!」
「……白倉先生、ムーの読み過ぎです」
「重いよ~!二人共見てないで手伝ってよ~!」
サン先生は物置──理系科目担当教師用職員室兼理科準備室に自分のパソコンを持ち込んだ。
UMAでは無いと気付いた白倉先生が、サン先生からPCを受け取って机に置く。
白倉先生の机には未だ強力磁石(メス付き)ががっつり接着しているので、跳月先生の机に置いた。
UMAでは無いと気付いた白倉先生が、サン先生からPCを受け取って机に置く。
白倉先生の机には未だ強力磁石(メス付き)ががっつり接着しているので、跳月先生の机に置いた。
冷静なツッコミを、不自然な理由で当然の様に撥ね付けられ、跳月先生は言葉を失った。
白倉先生が話しかける。
白倉先生が話しかける。
「サン先生、この部屋磁石だらけだからPC置いておくのには向かないっスよ?」
「いやー、ボクもここが磁気嵐の渦中だってのは分かってんだけどね。職員室では出来ない仕事があるんだ」
「“職員室では出来ない仕事”と言いますと?」と跳月先生。
「見たい?」サン先生はニヤリとほくそ笑み、PCのスイッチを入れた。
「いやー、ボクもここが磁気嵐の渦中だってのは分かってんだけどね。職員室では出来ない仕事があるんだ」
「“職員室では出来ない仕事”と言いますと?」と跳月先生。
「見たい?」サン先生はニヤリとほくそ笑み、PCのスイッチを入れた。
手慣れた様子でマウスを繰り、画像のフォルダをダブルクリック。
「ぶはっ!」「ぷっ!」
白倉先生と跳月先生、両氏が同時に吹き出す。
サン先生が次々画像をクリックし、新たな画像が開く度に二人は改めて吹き出した。
サン先生が次々画像をクリックし、新たな画像が開く度に二人は改めて吹き出した。
「ハハハ、これを編集するのは確かに職員室じゃあ無理っスね」
「アハハハ、僕、逆に親近感沸きました」
「アハハハ、僕、逆に親近感沸きました」
二人の反応に満足し、大人の行動力を持ったイタズラっ子の眼鏡がギラギラと輝く。
サン先生は作業を開始した。
サン先生は作業を開始した。
獅子宮先生は、くぁ、とひとつ欠伸をして職員室に入った。
「おはよう皆」
職員室の全視線が獅子宮先生に集まり、そして逸らされた。笑いを堪えているような節がチラホラ。
なんだか妙な違和感を覚えた獅子宮先生は、皆と同じく自分から目を逸らしている泊瀬谷先生に詰め寄った。
なんだか妙な違和感を覚えた獅子宮先生は、皆と同じく自分から目を逸らしている泊瀬谷先生に詰め寄った。
「おい、泊瀬谷。皆して何を企んでいるんだ?」
「あ、その、ええっとぉ……」口ごもる泊瀬谷先生。
「クフフ、廊下の掲示板見て来れば分かりますよ」と親指で廊下を示しながら帆崎先生。
「獅子宮先生、ボクは危険な香りのする女性って、カッコいいと思います」と慰めるような調子のヨハン先生。
「あ、その、ええっとぉ……」口ごもる泊瀬谷先生。
「クフフ、廊下の掲示板見て来れば分かりますよ」と親指で廊下を示しながら帆崎先生。
「獅子宮先生、ボクは危険な香りのする女性って、カッコいいと思います」と慰めるような調子のヨハン先生。
獅子宮先生は怪訝に彼らを一瞥し、廊下に駆けた。
掲示板の前には人だかり。
だが獅子宮先生が来た途端にワーワーキャーキャー言いながら生徒達が散って行く。
残ったのはコーヒーを飲みながら掲示板を見ていた白先生だけ。
だが獅子宮先生が来た途端にワーワーキャーキャー言いながら生徒達が散って行く。
残ったのはコーヒーを飲みながら掲示板を見ていた白先生だけ。
一体何が……?
獅子宮先生は掲示板を見て──眼を剥いた。
掲示板に張り出されて居たのは新聞部主催の週報であり、先生紹介コーナーなるものがあった。
それだけならば問題は無いのだが、そこにズラズラと張り出された写真が問題であった。
掲示板に張り出されて居たのは新聞部主催の週報であり、先生紹介コーナーなるものがあった。
それだけならば問題は無いのだが、そこにズラズラと張り出された写真が問題であった。
獅子宮先生がケモ学学生だった頃の、初等部から高等部までのクラス写真全部と卒業写真。
そして獅子宮先生が特集されている古雑誌の1ページ。
そして獅子宮先生が特集されている古雑誌の1ページ。
中学2年あたりから獅子宮先生はグレ始めたらしく、中3からは全て右上(撮影日欠席者枠)の住人と化している。
4枚も縦長の楕円に写っている写真が並ぶと笑うしかない。
卒業写真だけ中学も高校もちゃんと出席して写っているのがなんだか微笑ましい。
卒アルに書いた将来の夢もキッチリ載せられている。
4枚も縦長の楕円に写っている写真が並ぶと笑うしかない。
卒業写真だけ中学も高校もちゃんと出席して写っているのがなんだか微笑ましい。
卒アルに書いた将来の夢もキッチリ載せられている。
初等部の時の夢:お嫁さん
中等部の時の夢:バイクレーサー
高等部の時の夢:天下無双
中等部の時の夢:バイクレーサー
高等部の時の夢:天下無双
もうそれだけで死にそうな獅子宮先生だったが、古雑誌がトドメ級の大ダメージだった。
特攻服を来てゴテゴテに装飾を付けたバイクに跨がった獅子宮先生が、
“チャンプロード”の投稿コーナーにでかでかと掲載されていた。
特攻服を来てゴテゴテに装飾を付けたバイクに跨がった獅子宮先生が、
“チャンプロード”の投稿コーナーにでかでかと掲載されていた。
「まぁ気を落とすな獅子宮。サンの怨みを買ったのが運の尽きだったのさ」
白先生は口からエクトプラズムをはみ出させて放心している獅子宮先生を保健室に搬送した。
終