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コレッタと…


「コレッタが行くにゃよね!」
「やだやだ。あたしはやだニャ。ミケの言うことなんか聞くもんか。クロが言い出したんだから、クロが行くニャ」
「コレッタも、はじめ『いやだ』って言ってなかったにゃ!」
「行くとも言ってなかったニャ!!」

初等部の三人娘、ミケ・クロ・コレッタが学園中央の大廊下ですったもんだのなすりあいをしている。
傍から見るとかわいいものだが、話を聞いてみるとそうでもないらしい。愛らしい花にはとげがあるのか。

「このままだと、塚本のヤツは癖になるのだ!付け上がっちゃうのにゃ!」
「でも、そんなことしてもしょうがないニャ」
「もー!!行くんだったらクロもコレッタもさっさと歩く!このわからんちん!!」
「そんな塚本がやってるような悪者さんがやること、あたしはしたくないニャね。
『ガン飛ばし』ニャんか。シロ先生にでも見つかってしまえニャ!
シロ先生に怒られて、オキシドールで二人とも真っ白けにしてもらうがいいニャ!」

コレッタがクロ、ミケの後ろ三歩遅れて付いて歩く。
テクテクと歩いていくさまは愛くるしいが、考えている心は裏腹である。
歩く度に目の前で揺れる尻尾に途中気になったのか、コレッタは前を歩くクロの尻尾にネコパンチ。
不意打ちにお月様のように目を丸くしたクロはコレッタの方にきっと踵を回す。

「ご、ごめんニャ!!つい…」
「だからコレッタはお子ちゃまなのだ」

ミケは肘を手に置いて、コレッタの様子を見ながら爪を噛んで笑っていた。
高等部の塚本から泣かされたクラスメイトの竜崎の敵討ちときめこんで、三人の子ネコ廊下を歩く。
コレッタも以前、塚本からの被害を受けて、クロとミケが敵討ちに行ったのだがこれといっても効き目がない。
やめればいいのに、クロはもはや意地になっている。コレッタもどうでもいいと思っていることだろう。

時はお昼休み。初等部、中等部、高等部と生徒が各々の休みをくつろぐ、うららかな昼下がり。
柔らかな鉄筋の音に続いた校内放送は、風紀委員からの乾いたお知らせが響いていた。

『角を持った生徒のみなさん、廊下を走ると大変危険です。また、角研ぎを忘れないようにしましょう……』

アナウンスをまるでないがしろにするように、三人の子ネコはぱたぱたと走りだす。
しばし走ると、先頭を張り切って走るクロが立ち止まる。周りの者は既にまばら。
道に迷った捨て猫のように、クロは廊下に吸い込まれていく感覚に陥っていた。

「高等部は…どうやって行く…にゃ?」
「ミ、ミケは…しらないにゃ!」
「つ、疲れたニャ…」

しんがりを走るコレッタがようやく追いついて、息を切らしながら一言呟いた。


クロは迷い、コレッタは疲れ、ミケは苛立ちを隠せない。
ミケは手首の毛繕いをしたあと、名案をひらめきポンと手を打つ。

「いきなり高等部に行っても、塚本たちに舐められるだけにゃ。
いくらあいつらでも仕返しの方法を考えてるだろうしね。
ならば、高等部より小さい子から『ガン飛ばし』の練習をするのがいいというお話にゃ」

「れんしゅう?高等部より小さい子ニャらサン先生かニャ?」
「そう。サン先生なら…ってバカ!たとえば…ほら、あのヒツジの二人にガン飛ばすにゃよ!
ほら、塚本よりかは弱そうにゃ!」

まばらになった廊下には男女二人のヒツジが仲睦まじく寄り添って歩いている。
制服のエンブレムから見ると中等部の生徒であることはこの学園の者ならすぐに分ること。
ワルガキ三人から狙われていることを知らずに、
ヒツジの女子は男子の方にしばし構ってちゃんのちょっかいを繰り出している。

「ミケもクロもやめるニャよ」
「コレッタさあ!またコレッタがいじめられてもいいにゃね?!」

そしり顔で、知ったかぶりのお説教をコレッタにミケは始めた。コレッタこそ迷惑千万である。
そんなコレッタはさておき、ミケが目に付けた二人のヒツジ。
それは中等部ではちょっとした有名人・夏目兄妹であった。
二人そろってのんびり屋さんでおっとり者という、人畜無害を人名事典に載せたような兄妹。
夫婦ならば比翼連理の理想な二人。

「ねえ、お兄ちゃん。お昼、なに食べる?」
「う-ん…」
「もう、お昼も半分過ぎちゃうよ」
「えっと…大根サラダ…がいいな」

兄の葵はライトノベル片手に首をかしげる。妹の茜は兄の袖を引っ張る。
寄り添うように二人のヒツジは往来で立ち止まると、その部分を切り取ったように時間をとめる。

「お兄ちゃん、この本……。面白い?」
「うん」
「じゃあ、後で貸してね」
「まだ…、半分も読んでないんだよ」
「ふーん」

そんな二人の時間の時計の針を鷲掴みするように、三人の子ネコがわらわら近寄ってきた。

「お、おい!おまえらにガン飛ばしにきたにゃよ!」
「は…?なに飛ばし?」
「えっと……。にゃ……」
話半分に聞いていた夏目兄妹はそのまま立ち去ろうとしていた。そんな想定外の出来事に、ミケは対処できない。


沈黙こそ時間を長く体感させる絶好の秘薬。ミケは人生最長の時間に突き落とされる。
ミケはまるで星に手が届くほどの高さからスカイダイビングをしているような気分だった。
先陣を切ったミケは、この後どうしていいのか分らず石のように固まってしまう。
地上はまだか、それより早くパラシュートを。
しかし、いちばん困っていたのは夏目兄妹の方。一体なにを考えているのか、とつぐんだ口が語っていた。

「ほら!ミケ!なめんなよゴラァ、って言うんだにゃ!」
「にゃんだって?」

小声でクロが後方支援。コレッタは相変わらずミケの尻尾にネコパンチ。
クロの後方支援も空しく、ミケの瞳は潤んで今にも一雨降らしそうな顔をしている。

しかし、ミケが口火を切る前に草食動物の本能が察知したのか、妹の茜が走り出してしまった。
ちょっと考えた後、取り残された葵は妹を追う。

「に、逃げるなんて……こうなるんだったら、教えといてにゃ!!」
「誰もわかんないにゃ!こんなあらすじ!!」

『風紀委員からです。角を持った生徒のみなさん、廊下を走ると大変危険です。
また、角研ぎを忘れないようにしましょう……』
空気を呼んでか読まないでなのか、再び乾いた校内放送。しかし、彼らには塚本のように全スルー。

靴音を叩きながら、茜が逃げ出した先は図書館前の廊下であった。
丁度、図書館前にはヒカルと保健委員の二人が、とりとめのない世間話をしている。
もともと口数の少ないヒカルは保健委員の子には少しながら心を開いているようだ。

それも、以前帆図書館前で出会ってからいらいの仲。うんうんと保健委員の話にイヌミミを傾けるヒカル。
聞き上手は話し上手のはずなのだが、ヒカルにとっては当てはまらないらしい。
そのヒカルに茜が飛び込んできた。茜の羊毛のような頭がぶち当たり、ヒカルはしりもちをついた。

「ヒ、ヒカルくん!大丈夫ッスか?!ああ…ヒツジのきみも…」
「……うん」

幸い、角の湾曲した部分がわき腹に当ったのでヒカルには怪我はなかったが、
保健委員が騒ぎ立てているのは言うまでもないことなので、ここでは省略させていただこう。
ばたばたと保健委員はどこかに駆け出す。
何処へ行ったか言うまでもないことなので、ここでは省略させていただこう。

「ごめんなさい」
「茜…」

葵は深々とヒカルに頭を下げる。ヒカルはゆっくりと立ち上がり、葵と同じようにうんうんと頷き返していた。
ふと、ヒカルは葵の持っていた本に興味を示す。

「その本…、たしか」
「……」

茜は葵の陰に隠れている。隠れたつもりだが、角がここにいるぞと自己主張。
葵は急に話を振られたのであわあわとしていたが、ヒカルは悪気のない目だということが分ると静かに話し出した。


「知ってるんですか。先輩」
「……うん。『若頭:』シリーズだね。始めは表紙の印象で軽い本かと思っていたけどね、読んでみたら
他の一般書に負けないぐらいの読み応えでさ、
この手の本を読んでいなかったぼくはいくらか損をした気持ちだったよ。
うん。この間…風紀委員長が図書館でこの本棚前にじっと立っていたから、気になっただけだけどね。ふっ」

「そうなんですか。先輩」
「本にはまっちゃうと、人様が読んでいる本まで気になっちゃうんだよ…」
「そうですね。先輩」
生まれて初めて『先輩』と呼ばれたヒカルは、照れくさそうに尻尾をゆっくりと揺らす。

ぱたぱたと軽い足音がする。子ネコの三人組であった。しかし、夏目兄妹はすっかりそのことを忘れていた。

「見つけた!ガン飛ばしてやるにゃあ!!」
「覚悟するにゃよ!!」

ミケとクロは、息を切らしながら夏目兄妹につっかかる。
後からコレッタが二人以上息を切らしながらやって来た。肩で息をしているコレッタには、二人のやっていることなんぞ、
今更どうでもよくなっていた。ヒカルはじっとコレッタを見つめていた。保健委員は…戻っていない。

「と、ところで…塚本が言ってた『ガンを飛ばす』ってどうするにゃ?ミケ」
「わ、わたしに聞かにゃいでよ!」
「コレッタ知ってるにゃ?」

無論、コレッタは首を横に振る。ヒカルはついつい噴き出してしまった。
ヒカルはコレッタの目線までしゃがみこみ、じっと瞳を合わせて優しく諭す。

そういうのは、本の中だけにしようね
長く伸ばした金色の髪をブンと揺らして、コレッタはお辞儀をしていた。
夏目兄弟にも同じようにコレッタはお辞儀を繰り返す。ヒカルはミケとクロにぽんと肩を叩いて諭す。

「塚本のことだろ。アイツは…気にするな」
ヒカルの目を見つめながらうんと頷くミケとクロ。
すると、どこぞへと出かけていた保健委員がシロ先生を引き連れて戻ってきた。

「ヒカルが怪我をしたって?」
救急箱を抱えたシロ先生は髪を振り乱しながら、白衣の裾を揺らす。
しかし、怪我がないのは一目瞭然。ほっと安堵の顔を見せるシロ先生だが、
こんなことでわたしを呼ぶなと保健委員を叱り付ける。
一息ついたのちにふと、シロ先生は夏目葵の角が気になった。つーっとシロ先生は指で葵の角をなぞる。

「お前は角が尖りすぎているぞ。保健室で研いでやるからこっちに来なさい」
「……え」
シロ先生に連行されそうになった兄を引き止めるように、妹の夏目茜は兄の袖を引っ張る。
コレッタたちにはシロ先生に逆らうことが、火中の栗を拾うことなのは重々承知。思わずクロが声を上げる。

「お姉さん!やめて」
「おや…『お姉さん』なんて…クロも随分おべっかが上手くなったな」

もちろんクロは茜を呼んだのに、シロ先生は自分が呼ばれたのかと勘違いしていた。
それでもわざわざクロを押しのけて火中の栗を拾おうと、ミケは茜の方を指差しながらシロ先生に向かって…。
「ちがうにゃ!お姉さんはこっちにゃ!」と、ミケが口にする前にクロはミケをキッと睨み付けた。
「これが『ガンを飛ばす』ニャね!」

「「違うと思う」」

ヒカルと葵は声をそろえてコレッタに突っ込んだ。


おしまい。