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スレ2>>803 白衣'sのケミストリー


 化学担当の跳月(はづき)先生と生物担当の白倉先生が、実験道具室兼理系科目担当教師用
職員室で駄弁っていた。試薬棚やら実験道具やら生物標本やら私物のゲーム機やらが雑然
と並べてあり、非常にカオスな場所となっている。
「ノーベル賞って本当に恣意的ですよねぇ。欧州のハドロン衝突型加速器の宣伝見えみえ
ですよ」
 最近マグネシウムリボンがやけに減るなぁ、とか考えつつ、跳月先生は薬品棚の在庫を
確認しながら白倉先生に話しかけた。
「ノーベル賞なんて要するに宣伝っスからねぇ」
 白倉先生はイスの上にデスノートのL座りをして、スチールデスクに広げた英字のネイ
チャー誌をペラペラ捲っていた。
「まーよしんば宣伝でも、存命中に貰えただけましなのかも知れませんねぇ」
「受賞確実なのに寿命が先に来ちゃった人、たくさんいまスもんね」
 おっ、これオモロいっス。
 白倉先生はペン立てに無造作に突っ込んであったメスを取り、雑誌の投稿論文を切り抜
いた。紙片をつまみあげて、目前に翳して読み込む。
「そういや白倉先生は大学でも生物やってたんですよね。やっぱりオワンクラゲのGFP
とかよく使ったんですか?」

──ザクッ

 白倉先生は持っていたメスをネイチャーに突き刺した。
「GFPの話なんてしたくも聞きたくもありませんししないで下さいマジお願いしまス」
 眼が怖い。
 しかし跳月先生は慣れたものである。それ以上何も言わず、試薬の在庫を確認し続ける。
「……」
「……」
 沈黙。
「……」
「……ねぇねぇ跳月先生。僕がなんでGFP嫌いなのか聞かないんスか?」
 本当は喋りたくてたまらないのだ。実は結構おしゃべり。
「喋りたいならなんで一回拒絶したんですか。まったく」
「すみません。ちょっとマッドなサイエンティストの狂気を演出してみたくてでスね……」
 白倉先生はメスと雑誌を片付けて笑顔満面で語り出した。
「蛍光蛋白質ってすっげーもんじゃないスか?青色発行ダイオードが霞んで見えなくなる
くらい」
「ふむふむ」
 跳月先生は試薬棚の整理を終えて、実験道具の数を数えながら適当に相槌を打つ。ガラ
スの器具は壊れやすいのが困りものだ。
「で、GFPは生物の非破壊検査をある程度可能にしちゃう訳ですよ」
 跳月先生の適当な相槌にも気付かず、白倉先生は熱く語る。
「昔はマウスの構成分子の移ろい一つ調べるにも、放射線物質食わせて粉微塵に切り刻ん
で擂り潰して観察してた訳でスよ。それが今は遺伝子にちょいとGFPを組み込んでやれば何の問題もなくたんぱく質の追跡
ができる」
 白倉先生は頭を抱えて身悶える。
「あああ!GFPがなかったらもっと解剖の需要があるのに!のに!」
「はいはい」
 今日も実験道具室兼理系科目担当教師用職員室は平和だった。