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スレ2>>711-718 FORMAT:2章

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lycaon

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スレ2>>711-718 FORMAT:2章


太陽が真上まで昇っている。
もう昼だ。
なかなか陸が見えてこないこと、
そして結局朝飯抜きになって極限の空腹状態に陥っていることもあって、
俺はかなり険しい顔をしていたことだろう。
シンディはというと、鼻歌なんか歌いながら遠くを眺めていたりしていた。
話は既にあらかた聴いた後だったから、もう彼女に用はないが、
何というか、船の上という狭い空間に二人しかいなくて、一人がこうして懸命に働いているのに
もう一人が遊んでいるのを見たら誰だってムカつくだろ?画的にも。
とはいえ船の運転は彼女はできないし、特にやってほしいことなんて無かった。
ぶつけようの無いこの苛立ちのまま、俺はただひたすら船を陸にまで持っていく「作業」に専念するしかなかった。

吹雪が突然ピタリと止んだワケ、それは崩壊の影響によるものだった。
崩壊は全てを消す。まさにあの時、雲が崩壊したのだ。
例のロップ族の男はフォスターとかいうらしい。
ビリアルデ…その怪しい機関は、どうやら話がスムーズに進んでいても対立するはずだった奴らだそうだ。
奴らはバグの正体はこの俺、ザックス・フリーデルだと考えているらしく、
元々敵役なのだから丁度いいと思ったのだろう。
だがシンディの考えは、このゲーム世界そのものは主人公がいる事で成り立って出来ているものであり、
それを消すイコール崩壊に繋がるというものだ。
何故奴らが俺を元凶だと思ったのかは、彼女にもわからないみたいだ。

そして主人公なのに魔法みたいな力どころか、剣の一本すら持っていないのはどういうことだと聞いてみたら
「レベル1だから」
と即答されてしまった。
敢えて聞かなかったのだが、この先俺は本来ならどういう経緯で旅に出ることになるか……。
どうしても知りたいわけじゃないが、少し気になる。
それとその先で出会う愉快な仲間たち様々方も。

「…!シンディ、あれじゃないの?」
九時の方向に陸らしきものが見える。
「あ、ごめーん方角間違えちゃったみたーい。」

あぁ神様どうかコイツをこづく権利を我にお与えくださいませ。


船をつけ、陸に降りた。
はぁ、やっと着いたか。俺は大きく伸びをした。
何やら賑やかな町だ。あちこちに新鮮な野菜や海鮮類を売っている市場が開いている。
目に留まった看板を見ると、ここはフィンという町らしい。
そうか、もうここは大陸ランセル…もとい外国だ。
それほど気温は高くなかったが、年中どこへ行っても真冬であるレードと比べると遥かに暑かった。
汗をかくなんて何年ぶりだろう。
それよりこの空腹をなんとかしたい。これ以上おあずけかまされたら死ぬ。溶けて死ぬ。
「そうね。私もお腹減ったし。」
ここからチラリと覗いているレストランを見て、今すぐにでも走っていきたい気分になった。
・・・お、ちょっと待てよ。
この展開は、二人きりで食事フラg

「んじゃお金ちょうだい」

は?

「私財布ないの。ザックスはあの店行きたいんでしょ?私別のもの食べたいし。」
図々しく奢らせられる上に自分は他行きたいだと?
わがままってレベルじゃねーぞ。
それに、とシンディは続けた。

「勘違いされたくないしね。」

これがマンガなら、今俺の頭上にはガガガガーンという文字が(ry
シンディは金を受け取るとニッコリと笑って軽く会釈し、あのレストランとは反対の方へ行ってしまった。

あぁ神様俺は一体何の罪の代償を受けているのでありますか。


100シルバー増しで大盛にしたペペロンチーノを、ものの10分でペロリと平らげ、店を後にした。
はぁ、生き返った。
なるほどこういう時に使うものなのだな、これは。
…さて、これからどうすればいいんだろうか。
「バグ」を探すったってなぁ。手がかりなんて何もない。
いや、それよりも自分の身を守れるだけの腕っぷしが俺には無いことが不安の種である。
足腰だけが取り柄の一般市民が主人公とはよく言ったものだ。
地味で目立たない人が主人公であることが多いと聞くが…。
でもやはり主人公なのだから、いずれあの男のような魔法も使えるとは思う。
何気なく目に入った武器屋を覗くと、包丁のような短剣からゴツい巨大な機関銃までズラリと並んでいた。
どの武器も目玉が飛び出るくらい高価。
あのペペロンチーノを百皿注文しても釣りがくる。
とてもなけなしの金で買えるようなものではなかった。
しばらくガラス越しに武器を眺めていると
「あ、いたいた。行くわよーザックスー。」
シンディが少し離れたところで手招きしている。
…この状況はおもちゃを物欲しそうに眺める子を呼ぶ母親の図だ。
「で、どこに行くんだ?」
彼女にアテはあるんだろうか。
こんなこと言うのは何だが、シンディは頭より体が先に動くタイプなんじゃないだろうか。
コラット族だから―という偏見でなく、パッと見そんな感じに見えるだけだ。
まぁこれはアクマでも予測であって
「とりあえず適当に歩きましょ。」
…正解おめでとう俺。
はてさてクリア時間は一体どうなることやら。

その後、一通りフィンを見て回ったが、特におかしい所は無かった。
シンディも崩壊の前兆は見られないと言う。もうここに用はないな。
町の人に尋ねると、このすぐ近くに小さな農村があるらしい。
有力な情報は期待できないが、とりあえずそこへ向かうことにした。


町を後にしてしばらく歩くと、広大な畑が両脇に広がる。
「見たことない野菜ばかりだな。」
「あ、これキャベツの類じゃない?」
シンディが指差した野菜は確かにキャベツの形だったが、明るいオレンジ色をしていた。
「酸っぱそうね。」
確かに。
まぁこれだけ環境が違うんだ。
育てることの出来る作物も違うだろう。
しかしこの畑は無駄にだだっ広い。
村自体は小さいのだろうけど。
そうこうしている内に、村の入口に着いた。

「ん?何だろ、あの人だかり。」
村の向こう側の出入口に、村人が規則正しく並んで向こうを見ている。
どの人もクワやスキなどの農具を持っている。
「あの、どうかしたんですか?」
その人だかりに近づき、内一人のテリア族の男に声をかけてみる。
「あ?あんたら旅のモンかい?だったら危険だ。下がってな。」
随分と恰幅の良いオッサンだ。
話し声に気づき隣のオッサンもこちらを向く。
「ヨソモンってやつさ。あいつら、金と代わりの土地をやるから、この村を明け渡せとぬかしやがったのさ。」
「毎日のようにここに来てしつこいんさ。」
周りをざっと見渡すと、なるほど皆が皆険しい表情でピリピリしているご様子。
きっと「この村には云百年の伝統が―」などの理由で今日まで何度も追い返してきたのだろう。
「何べん言っても来やがる聞かん坊だ。今日こそは…。」
「力ずく、で?」
シンディが俺と村人の間に割って入り、そういう。
暴力はよくないよ!と言わんばかりな風貌だったが、
朝に問答無用で人一人光の彼方に吹っ飛ばしたのは誰だよ。
「あーこれは威嚇さ。俺だって暴力なんかで解決するつもりなぞないさ。」
「まあ、相手の出方によっては使うことになるかもしれんがな。」
男二人は農具を肩にかけながらそう言った。

俺はシンディの服の袖を引っ張り、二、三歩下がる。
「なぁ、素直に下がっていた方がよくないか?」
正直そのヨソモンとやらに関わりたくない。
そんな一心でシンディに物申す。
だが残念なことに…いや、わかってたんだけどさ。
彼女は笑顔で、しかし凄みのある声で
「逃げるの?」
と言った。この時の俺は多分涙目だっただろう。

村の事に赤の他人である俺達が口を挟むのはおこがましい行為だし、
それ以前に、もう前も言ったけどさ、魔法も使えない装備もない、
そんなヤツがどうしろというんだ。
やるならお前一人でやれ。
といった感じの反論をしてみたが、

「困っている人を見過ごす行為こそ主人公としておこがましいんじゃないの?」

と彼女らしくない正論をかまされ、泣く泣く村人に加勢する羽目になって
今、俺は何故か先陣をきっている。

あぁ神様そろそろお許しください。
ていうか勘弁してください。


「おい!来やがったぞ!」
遠くからスーツを着たベンガル族の男、そしてマントで全身を覆っている奴が4人、
並んでこちらに向かって歩いてくる。
超怪しいじゃねーか。マジヤバランクSだ。
下がるどころか本当に逃げ出したいよ。助けてエロい人。

3メートルほど手前で立ち止まり、男が何か言いかけたが、
「さっさと出ていけヨソモンが!」
「何べん来ようとこの土地を渡すつもりはねぇぞ!」
村人は即ブーイングの嵐。
話し合う気は無いらしい。

つーかそんなに刺激しないでくれ…怖いってマジで。

「…やれやれ、今日こそはご理解頂けると思っていたのですが。」
スーツの男はため息をつきながら首をゆっくりと振る。
そして俺とシンディを一見して続ける。
「今回は子供を使って情につけこむ作戦ですか?」
…確かにまだ成人一歩手前だが、そんなに俺は童顔なのか?
「貴様らがそんな事言える立場か!?」
「真夜中にブルドーザー引き連れてきた野蛮人が!」

なんと物騒な。無理矢理村を壊そうとしたこともあるのか。
それも怒りの理由の一つなのだろう。
だが口振りからして、その作戦は失敗したようだ。

「フ…そんな昔の事は忘れましたね。…武器を持っているようですが。」
「っ!そ、そうさ!今日こそは力ずくででも諦めてもらうぞ!」
村人は身構えた。
「ええ、ええ。分かりますよ。


私もそのつもりで来たのですからね。」


「!」
男の黒い微笑に、殺気を感じた。

同時に後ろのマントマン達が、巨大な鉤爪で斬りかかる…!


ガキィィン!
シンディは素早くナイフを抜き、4人の爪を全て受け止めた。
「シンディ!」
マントマンはすぐ後ろに下がり、間合いを取る。
「おやおや、これまた元気な子だこと。」
「黙りなさい!」

シンディはナイフを構え直し、俺に話しかける。
「ザックス!協力して!」
「協力ったって俺は…!」
「最後まで聞きなさい!いい!?アイツら4人相手にするのは流石に無理だけど、
2人ずつ相手なら余裕で片付くわ!言いたいこと、わかるわよね!?」
「…時間稼げってことか?」
「ご名答!あんたの足腰ならイケるでしょ!」

嫌だ、ていうか正直無理
でもこの窮地を切り抜けるにはそれしかないかもしれない。
まだ力のない俺は、ないなりに彼女のサポートをすべきなのかもしれない。
「…わかった。やってみる。」
シンディは親指を立てた。

「なるべく早く頼むぞ!」
「わかってるって!」
シンディは右側2人のマントマンに向かって跳び、手をかざした。
「オスティルエール!」
黒い翼が現れ、マントマンを遠くに押し飛ばした。
あいつらを引きつけていればいいんだな?
彼女に続き、俺も地面を蹴った。

「こい!豚野郎ども!」
マントマンを踏みつけ、林の中に入る。
多少の障害がある方が逃げるのに有利だ。
マントマンはすぐに起き上がり、俺の後を追いかけてきた。

分断は成功、後は時間を稼ぐだけだ!


あいつら図体のわりに速ぇ。
林の木をバキバキと押しのけながら、差が縮まっていく。
ダメだ。ほぼ全速力に近いダッシュだ。
続けていたら体力が持たない。
ならば手段は一つ。あいつらの攻撃をよけて、よけて、よけまくるほかない。
俺は素早くターンし、とっさに目についた木の棒を手に取る。
マントマンが鉤爪をかまえ、突進してくる。

怖い。足ガクガク。記念すべき戦闘第一回目からラスボスに立ち向かってる気分。

死ねばそこで終わり。
ならば必死に抗ってみよう
ギリギリのところでしゃがみ、攻撃をよける。
ドォン!!
鉤爪は大木に刺さり、見事に折り倒されてしまう。
足も速くパワーも物凄いが、意外と鈍重じゃないか?
とはいえ、二対一はかなり辛い。
360度全方向を気にしつつ、確実に攻撃をよけるのは、戦闘のイロハすら知らない俺にとって無理がある。
安請け合いするんじゃなかった。
「つっ…!」
タイミングが少しばかりズレて、右頬に爪がかすった。糸筋ほどの血が滲む。
だいぶ息があがってきた。
そろそろ限界だ。シンディはまだか…!
「うわっ!?」
湿った木の根で足を滑らせ、膝がついてしまった。
その隙をついて、二人同時に攻撃を仕掛けてきた。
とっさに前回りを三回転ほどしてかわす。危ねぇ、ギリだよ。
だがすぐに奴らは体勢を整え直してまたも飛び掛る。
立ち上がれぬまま、俺は前に転がり横に転がり。
・・・気持ち悪くなってきた・・ていうかヤバい、絶体絶命だ。

ふと前を見ると、青く燃えながら浮遊する球体が目の前にいた。
そういえばこんなヤツが林の中のあちこちにいたような気がする。
「この忙しい時に・・!」
こいつが何なのかはわからないが、凄い勢いでこちらに向かってきたのを理由に
「邪魔だァ!」
と持っていた木の棒でジャストミートしておいた。


球体が飛んでいった方向に、マントマンが2人並んで立っていた。
もう息が、体力が 視界がかすむ
同時に、こちらに向かってくる。
これは死んだ ゲームオーバーだ
シンディめ 化けて出てやる・・

--Notice:ライトニングガン を 覚えた!--


なんだ・・今のは?

・・・・・・・・・・・・もしや?

妄想か気のせいか それはわからない。
だが・・どうせこのままでは死ぬんだ。
「・・・・・ライトニング、ガン・・。」
ゆっくりと、呟いた。

――右手が強く光輝く。
マントマンはそれに驚き、止まった。


いち主人公、爆誕の瞬間だった。
見たことも無い拳銃が、その手に握られていた。


・・・・・・・。



「・・・・・・出番、なかったみたいね。」
後ろから声がした。シンディだ。
「やーっとそれらしい感じになってきたじゃん。うんうん。」
「何がうんうんだ!死ぬとこだったんだぞ!!」
涙目で怒った。
「ゴメンゴメン。思ってたより硬くってさー・・。まぁ生きてたんだから生き得じゃん。ね。」
シンディは高らかに笑う。納得できん。
「しかし・・一体どんな魔法使ったのよ。2人とも黒コゲじゃない。初期に覚えるようなそれじゃないわ・・。」
・・確かに物凄い魔法だ。
あまりの威力に、反動で後頭部を打ってしまったほどだ。
「あ、あの虎男はしょっぴいて村人に引き渡しといたから、安心して。」
そうか・・まぁ、これで良かったのか。
困っている人を助ける・・。口で言うのは恥ずかしいが、行為自体は悪くないかもしれない。
こういうのが主人公・・・・なのか?違うような気もする。

後になって重大な事に気がついた。
もう魔法を身につけてしまった俺は、一般市民うんたらという逃げの口実が言えなくなってしまった。
なんてこったい。
これから先、確かに心強い力ではあるが・・

あぁ神様 これが悪い夢ならどうぞ目を覚まさせてくださいまし。




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