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良薬口に苦し?



「昨日は大変だったぜ、ったく……。
あの時、用務員の人がリアカー貸してくれなかったら、俺、眠り込んだお前を前に途方に暮れる所だったぞ?」

「すまなかったなー、家まで送ってくれてありがとうなー」
「礼はいいって。……それより、お前、そろそろ寒さ対策を始めないと行けないと思うぜ?
次、お前が眠り込んだ時に用務員の人がリアカーをまた貸してくれるとは限らないんだしな」

「そうだなー……そろそろあのドリンクの出番かなー?」
「う、あのドリンクか……」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

その日の昼休み、授業を終わらせた泊瀬谷教師は、
たまには職員室ではなく外で弁当を食べようと、自作の弁当の入った包みを片手に屋上へやって来ていた。

高台に位置するこの学校の屋上の眺めはすばらしく、晴れた日には遠くの山々まで見渡せるとの評判であり、
景色を肴に弁当を食べれば何時もより美味しく感じるだろう、
と言う他愛のない考えで屋上で弁当を食う事にしたのだ。

「あれ……? あそこに居るのは……」

座る場所を探そうと、適当なベンチを探している最中。
一人でベンチに座り、弁当を脇において水筒に入った何かの飲み物を飲んでいる、
赤褐色の鱗のリザードマンの姿が目に入った。

確か、彼は自分の担当しているクラスの子だった筈。と、彼女は彼のことを思い出してみた。
そう言えば、何時もは同級生であり親友である人間の子と一緒なのだが、この日に限っては珍しく彼一人だけで居る。
ひょっとしたら、何か喧嘩するような事でもあったのだろうか?

そう思うと、なんだか一人で飲み物を飲んでいる彼の丸まった背中は何処か寂しく見え、
刺々しい印象である彼の尻尾も、心なしか何処かうなだれている様にも思える。

「担任として、こう言うのは放って置けないわよね」

彼女にとって、彼は顔が怖くて何処か近寄りがたい存在であったのだが、
生徒が一人寂しく昼休みを過ごす姿と言うのは、流石に担任として見過ごす事の出来ない事であり。
担任として何とか彼の力にならないと、と彼女は意を決すると、ベンチに座る彼へ歩み寄る。

実の所、彼は別に親友と喧嘩したわけではなく、ただ単に親友が来るのが遅れていただけなのだが。
彼女はそんな事はつゆ知らず、彼へ声をかける。

「如何したのかな? こんな所で一人で」
「んあー? 誰かと思ったら先生かー、こんな所に何の用なんだ―?」
「ここは景色が良いって聞いたから、弁当を食べにちょっとね」
「そうなのかー、俺も弁当食べてるところなんだ―」

良かった、彼の様子を見る限り、どうやら事はさほど深刻ではなさそうだ。
いや、爬虫類系の人は感情を余り表に出さないとか言うし、もう少し話を聞いたほうが良いかも?
彼女はそう思うと、今の状況を聞き出すべく、彼の座っている横に座り適当な話題を考え始める。

そう言えば、先ほどから彼が飲んでいる飲み物は何だろう?
見たところ、中身は紅茶よりも赤みが濃い澄んだ紅色だけれど、お茶にしては匂いもないのが気になる。
よし、まずはこの飲み物の事から話を始めて、そこから親友とは今、どうなってるのかを聞き出そう。

そう思い立った彼女は弁当を広げつつ、彼に言う

「所で、さっきから君が飲んでるそれ、何なのかな?」
「んー、これかー? これからの季節にとっても必要な飲み物なんだー。
これを飲むとな、身体がぽかぽか暖かくなるんだぞー」

ぽかぽか暖かくなる……ホットミルクみたいなものかな?
言われてみれば、この時期はそろそろ空気が寒くなるから、彼のような爬虫類の人は身体を温める物が必要なのね。
彼女がそう思っていると、彼はコップに飲料を注いで彼女に差出し、

「良かったら先生も一杯どうだー?」
「あら、良いの?」

一瞬、彼女は得体の知れない飲み物を飲む事に抵抗を感じたのだが、
ここで受け取らなければ彼の自分に対する心象が悪くなると考え、素直に受け取った。


「ったく、昼飯を食べに行こうとしている人間に職員室まで台車を押させるなよな、サン先生は……
おかげで来るのがだいぶ遅れて……って、あれは……」

その最中、リザードマンの彼の親友が遅れて屋上へ到着する。
どうやら屋上へ向う最中、サン教師に呼び止められ、職員室まで台車押しをさせられていた様だ。
そして、屋上についた親友はベンチに並んで座っている彼と泊瀬谷教師の姿に気付く。

「ちょっと待て、あれってまさか……」

普通ならば『スクープ! 教師と生徒の禁じられた関係!?』だのくだらない勘違いする所だろうが、
あいにく、親友の目に止まったのは、彼女が手に持っている飲み物の入ったコップ。

「お、おい! それを飲むのはやめ――――」
「それじゃ、頂きます……」

慌てて止めに入ろうとするも、時すでに遅し。彼女はコップをグイとひと呷りしてしまった。
―――その途端、

ぴ っ し !

何かが砕ける音が響き、全身の毛をぶわっ、と逆立てて硬直する彼女
その原因は明らかに彼女が飲んだ飲み物にあった。


「――――――――――」
「あれ? 先生? 如何したんだ―!?」

その原因が何か分からなかった彼は、白目むいて硬直する彼女をゆさゆさと揺らす
だが、よほど強烈なショックを受けたらしく、彼女に反応は無い。

「あ~あ……遅かったか……」
「あ、お前さんかー、なあ、先生がドリンク飲んで固まっちゃったよー」

悲劇を止められず、落胆の声を漏らしながら来る親友にようやく彼が気付き、
今だ硬直しつづける彼女を揺さぶりながら声を上げる。

「……そりゃ当然だろ、
激辛唐辛子と多種の漢方薬とその他諸々を詰め込んで煮詰めた激マズエキスをまともに飲んだんだ。
小さい頃から慣れてるお前ならともかく、初めて飲む奴にとっては気絶する程の代物だぞ。
つか、小学生の頃にそれを飲んだ俺がその場でひっくり返ったのを、お前は憶えてないのか?」

彼女が飲んだ飲み物は、爬虫類系の獣人が冬の時期に飲む一種の漢方薬のような物で。
飲めば一日中体が温まる代わりに、その味はそれこそ慣れない人間が一口で気絶する凄まじい味の代物であった。

「うー、あの頃よりもう少し味が改善してると思ったんだー」
「改善、ねぇ……ジョロキア(世界一辛い唐辛子)とサルミアッキ(世界一不味いグミ)と青汁をミキサーで掻き混ぜ、
それを更に数倍に濃縮したような味だぞ? どう考えても改善のしようが無いと思うんだがな……」

何処か申し訳なさそうに後頭部の辺りをぽりぽりと掻く彼に、
何処か呆れるような感じに言いながら、親友は床に転がっているホットドリンク(?)の入った水筒を見やる。

「とりあえず、先生を保健室まで連れて行くぞ。このままにしちゃ行けないからな」
「えー? 俺が先生を運ぶのかー?」
「当然だ。先生に気絶するようなマズい物を飲ませたんだから、お前が責任とって先生を運ぶんだ」
「うー、わかったー」

親友に促されるまま、彼は仕方なしに気を失った彼女を担ぎ上げ、保健室へ向う。

「さて、この事を白先生に如何説明した物か……。
激マズドリンクを飲んで気絶しました、なんて言っても、信じてもらえそうにないからなぁ」

そして、保健室に向う彼を横目に、親友はこれからの事情の説明に頭を悩ませるのであった。


なお、この後。ショックを受けて気を失っただけだった為、泊瀬谷教師は程なく意識を取り戻した物の……

「……えっと、私は何で保健室で寝てるんだろ?
それに、暖房が効いている訳でもないのになんだか身体がぽかぽかと暖かい……なんでだろう?」

どうやらドリンクの余りのマズさの所為か、彼女は気を失う前後の記憶を完全に失っていたのだった。

――――――――――――――――了――――――――――――――――