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イメージアップ作戦!?


ある朝、彼が学校へ登校中、
前を歩いている中等部だと思われる猫の少女のポケットからハンカチが落ちるのが見えた。
見たところ、かなり上質な生地を使った高級品のハンカチの様だ。

「あー、これは拾ってやらないと、あの子は後で困るだろうなー」

彼はほんの親切心で落ちているハンカチを拾い、
それを少女へ手渡すべく、少女にそっと近づき、声をかける。

「あのー、これ、落し物だぞー?」
「ふぇ?……ひっ!!」

背に掛かった声に何気に振り向き、ハンカチを手にしている彼の顔を見た途端、おびえた表情で硬直する猫少女。
それが何故かも分からず、彼は更に少女へ近寄る。

「く、く……」
「……く? 九九?」

遂にはがたがたと震え始め、謎の言葉を漏らし始めた少女に彼が首を傾げた矢先。

「食われちゃうニャ―! 助けてニャー!」

少女は悲鳴を上げながら、彼の前から脱兎の如く逃げ出していった。

……そして後に残されたのは、
彼に冷たい視線を投げかけながらヒソヒソ話を始めた通りすがりの生徒達と、
何が起きたのかも分からず、ハンカチ片手に呆然と立ち尽くす彼の姿。

そして、少女が逃げ出した理由を彼が知ったのは、
色々な意味で勘違いをした生活指導の教師に生活指導室まで強制連行された後の事である。

                                 * * *

「――てな事があってなー。俺が下級生から恐がられてるのを初めて知ったよー……」
「あー、そりゃ見た目がそれだからなぁ……聞いた話だと、お前は不良からも恐れられてるって言うしなぁ……」
「うー、道理で何時も不良の人達から「オハヨウゴザイマス!」と挨拶される訳かー
……ハァ……俺の顔って、そんなに恐いのかなー?」

昼休み、何時もの校舎の屋上で彼はがっくりと頭を項垂れ、ついでに尻尾も項垂れさせて溜息を漏らす。
彼がそうなるのも無理もない、生活指導の教師に無実の罪でこってりと絞られた上、
生活指導の教師の話から、自分が下級生から恐れられている事実を初めて知ったのである。
人懐っこい性格の彼にとって、他人に嫌われると言うのは何よりも堪えたのだ。
そんな落胆する彼を横目に、同級生も如何したものかといった感じに呟く、

「まあ、お前の事を良く知らない奴から見りゃ充分に恐ろしいんだろうな、お前の顔って……
でも、その見た目とはちがってさ、お前は明るくて気さくでいて、その上人懐っこく平和主義だってのになぁ……」

そう漏らす同級生の言葉とは実際に、リザードマンの彼の評判はと言うと、
二メートル近い大柄な体躯と、その全身を覆う鋭角的な鱗、
睨むだけで鼠系の獣人を気絶に追いやれる凶悪な目つき、屈強な両手両足の指先に生えた凶悪な鋭さをもった爪、
口腔に並ぶ何でも噛み砕けそうな肉食獣そのものな鋭い牙、
そして先端部に三対の鋭く強靭な棘を有した長い尻尾、と
彼は校内で強面で知られる”いのりん”こと猪田教師に並ぶ程、否、それ以上の強面で知られており、
その上、

『睨んだだけで飛んでいるスズメが落ちた』
『尻尾の一撃で鉄筋コンクリートの壁を粉砕した』
『口から凄まじい火炎を吐き、隣町の不良達を焼き尽くした』
『町から野良猫、野良犬が居なくなったのは彼が全部食べ尽くした為』etsets

……等の、何処の誰が流したのかも一切不明な、根も葉もない上に無責任な噂が流れている事もあって、
彼の事を良く知らない下級生にとっては、それこそ畏怖の象徴であった。

「やっぱ見た目は大事なのかなー……そうだ、良い事を思いついた!」
「ん? 何だ、良い事って?」

暫く考えた後、やおら手をポンと叩いて言った彼の唐突な思いつきに、同級生は思わず首を傾げ、疑問の声を上げる。
その疑問に応える様に、彼はがばぁっと立ちあがり、宣言する。

「それは俺のイメージアップ作戦だ! 学校の皆に俺は恐くないぞーって事をアピールするんだー!」
「……イメージアップって……お前は如何するつもりだよ……?」
「それは後のお楽しみって奴だー」

そう、明るく言う彼を前に、同級生は何故か不安を覚えるのだった。

……そして翌日

「お前な……それはどう考えても駄目だと思うんだが」
「えー? 何でだー? 俺としては良い考えだったのになー?」

通学中、呆れながら言う同級生に、彼は何処か不思議そうに疑問を口にする。
先ほどから、通りかかる人が彼の姿を見た途端に、一様におびえた表情を浮かべ、道をさっと開ける姿が目立つ。
それも無理もない。今の彼の頭の角状の突起には、女子生徒がつけるようなレース付きのリボンが巻かれており、
今までの見た目の恐さに加えて、ある種の恐さがプラスされていたのだからである。

「良いから、それ、取った方が懸命だぞ……」
「うー、イメージアップって難しいものだなー……」

同級生に促されるがまま、頭のリボンを取った彼はトボトボと学校へ向かう。
項垂れる彼のその背は、何処までも小さく見えたのだった。

……彼がイメージアップが出来る日は、まだまだ先の様である。