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ねここの飼い方・劇場版 ~七章~ - (2006/11/04 (土) 16:57:15) のソース
「……敵多数、尚も増加中」 強烈な抜き手で目の前のマオチャオの腹部を貫きながら、アリアが呟く。 「そうですね……でも、ここで引くわけには行きませんっ!」 その華麗なエアリアル技の一撃で、複数の神姫をまとめて屠りながらリンが切り返す。 二人の周囲には既に夥しい程の神姫の残骸が出来ている。 システムの意図的暴走により、戦闘不能神姫のデリート機能が働いていないのだ。 普通の思考ならば、君子危うきに近寄らずといった感じで二人に近づく者は少ないだろう。 だが暴走し、自分たちにとってのイレギュラーを排除することのみを命令として植え付けられている者にその思考はありえない。 彼女たちは無数の神姫に包囲されていた。 しかし引くわけには行かないのが現状。 彼女たちの背後にはハッキングにより侵入中のジェニー、いやジェネシスの姿があるのだった。 *ねここの飼い方・劇場版~七章~ 『二人ともすまない! 思った以上にハックしての侵入が難しい。ホイホイさんの数が予測よりかなり多いんだ。 だがこちらも全力でやっている……ジェネシスが完全に起動するまであと5分、何とか持ちこたえてくれ!』 必死にキーボードを叩きながらそう二人に告げる店長。 侵入に思ったより手間取っているのだ。 現在見えているジェネシスは半透明であり、その顔にも表情が抜けている。 結果として、一部のデータのみが先行してこのフィールド内に存在してしまうという、イレギュラーな事態になっていた。 「了解」 暴走神姫をその強力なサブアームで天高くかざしたかと思うと、今度は一気に落下。 そのまま膝でそのボディを真っ二つに圧し折るアリア。 リンと同じストラーフの装備パーツを基本としながらも、その動きはリンとは別物の直線的で大胆な一撃必殺の動きをしている。 ジェネシスを狙った砲撃に対して自ら射線に飛び込み、その左手に装備したシールドでガード。 至近距離だったため、ジェネシスも爆風に巻き込まれながらも、本体へのダメージはない。 「!? アリアさん後ろっ!」 リンが叫ぶ。 次の瞬間、アリアの背後には光学迷彩を解除し、今にもその腕のドリルでアリアを抉らんばかりとしているマオチャオの姿が。 通常ならばそれで終了だったろう。だがリンの素早い喚起によって、一瞬ではあるが通常より素早く反応出来た。 素早く反転、サブアームのリーチ差を生かし相手のマオチャオの頭を鷲掴みにするアリア。 そのまま力任せに鋭く振り回す。するとマオチャオの首がその負荷に耐え切れず、ブチィと嫌悪感を覚える音を立て千切れ飛ぶ。 吹き飛んだ身体は他の暴走神姫と衝突し、派手な音を立ててさらに吹き飛んでゆく。 その手に残った頭部を無表情のまま、ぐしゃっと握りつぶすアリア。 「助けられたな、感謝する」 「それはいいのですけれど……ちょっとやりすぎです」 「そうか? アメリカではこの程度普通だったのだが」 等とやり取りを行ううちにも、暴走神姫は津波の様に押し寄せてくる。 そもそも二人とも1on1の格闘戦をメインにした武装であるため、 (普通のバトルではこのような対多数戦は殆どありえないため、通常この選択は間違いではないのだが) このような防御的戦闘における状況下での対多数戦は不利であった。 二人は格闘戦に置いて物凄いスピードで敵を屠り続けているが、あくまで1on1の延長線上であるため限界があったのである。 そのため包囲網が薄くなる様子は殆どなく、それどころか敵の数は緩やかにだが増大しつつあった。 『くそ、店長っジェニーの起動はまだなのか!?』 藤堂が思わず声を荒げる。 「マスター、心配しないでください。私は……大丈夫です」 暴走神姫に圧され、ジリジリと後退しつつも気丈にマスターを気遣うリン。 「アリアさん、此処はお願いします。私は……愛するマスターの元へ、必ず無事で帰りますから!」 『!?』 同時に前を見据え、敵の懐へと飛び込んでゆく。 それまでの後退から一転しての急激な攻めに、暴走神姫たちは瞬時に対応できず若干のタイムラグが生まれていた。 そこに付け入り、先頭の暴走神姫にSRGRをゼロ距離で叩き込む。 頭部が爆散し動作不能になる神姫。近くにいた暴走神姫が一斉に撃ってくるものの、その時点でリンの姿はそこにはない。 穴だらけになったのは、最初に頭部を吹き飛ばされた神姫のみであった。 その間リンは素早く集団の中に入り込み、次から次へとその柔軟な技展開で敵を屠ってゆく。 技の勢いと加速を殺すことなく次のエアリアル技へと繋げ、まるで華麗なダンスを踊るかのよう。 さらにはわざと一瞬の隙を作り出す事により敵の迂闊な射撃を誘い、同士討ちへと導く。 いわば強烈な杭を打ち込まれた敵はその足を止め、何とかその杭を抜きにかかる。 が、ソレは変幻自在に高速移動するため、個々人レベルで大局的思考の出来ない暴走神姫たちでは全く対処が出来ない。 しかし、変化はすぐにやってきた。 殲滅優先度を上げたのか、リンの周りに先刻までとは比べ物にならない程の分厚い包囲網が完成していた。 リンが格闘で周辺の敵を屠っている間に、その外周に多数の神姫が展開したのだ。 『リン、もういい離脱してジェネシスと合流するんだ!』 「了解です……けどちょっとだけ難しそうですね。それでも諦めませんけどっ」 覚悟を決め、再び敵の懐へと飛び込もうとしたその時 「リンさん伏せてください、いきますっ!!!」 「あ、はいっ!」 反射的に身を伏せるリン。 その瞬間前方の暴走神姫たちを巨大なエネルギーの束が薙ぎ倒してゆく。その圧倒的高出力に跡形も残さず消えてゆく神姫たち。 そして斜め前方に着弾。閃光とともに巨大な爆発を引き起こし、周辺にいた神姫を呑みこんでゆく。 「どうやら間に合いましたね。大丈夫でしたか」 着弾と反対の方向から声が掛けられる、その声に反応して振り向いたリンが見たのは 「雪乃ちゃん!」 自らの身長の2倍はあるであろう巨大なバスターランチャーを構え、既に次弾発射シークエンスへと入っている雪乃の姿だった。 「チャージャー開放……ターゲット・ロック、発射っ!」 轟音と共に、再び強烈なエネルギーの牙が暴走神姫たちへと襲い掛かかる! その直線状にある物全てを、まるで草でも刈り取るかのように消滅させてゆく。 射線はリンに被害の及ばないギリギリのライン。絶妙な支援射撃だった。 「私もいます。……本当にやるんですか静香 」 『当然でしょ、お友達のピンチを頬っておく気?』 今度は反対側からココの声が。木の枝に佇む我らがドキドキ☆ハウリン。。 でも何か焦れているような感じで。 やがて諦めたかのように、中央に星マークのついた巨大な鍵らしき物をかざしながら、呪文を唱えるドキドキ☆ハウリン。 「……星の力を秘めし鍵よ 真の力を我の前に示せ 契約の元 ココが命じる……」 「レリーズ!」 その言葉と共に鍵がモーフィングのように変形してたちまち両手持ちサイズのステッキになる。 『今回のための特製ステッキよ♪ これ作るのに3日も徹夜したんだからぁ』 「毎日あれだけエルゴでお手伝いしてたのに、まだ他にも作ってたんですか……」 有難いやら呆れるやら体が心配やらで複雑な心情になるココ。 でも気を取り直したかと思うと、フリフリの魔法少女服の懐から何やらカードを取り出し、前方に抛ったかと思うとそれをステッキで軽くノックする。 「雷よ、我が敵を撃ち貫け サンダー!」 呪文の詠唱と共に、カードから膨大な電流が溢れ出し、周辺の暴走神姫たちをことごとく撃ち貫く。 その高圧電流によるオーバーフローにより、次々と行動不能に陥る暴走神姫。 このステッキは、カード内に溜め込まれたエネルギーや格納武装を開放、制御するためのシステム。通称C・C・S。 しかしその最大の特徴は音声入力式であり、マジカル☆ハウリンが恥ずかしい決めセリフを言わない限り発動しないのであった! 「外野うるさい!」 ションボリ…… 「まだ行きます! 凍てつく刃よ、我が敵を永遠の氷雪へと導け フリーズ!」 今度はステッキでノックした後、カードを敵の集団めがけて投擲。 地面に激突した瞬間、謎の霧が一気に激しく噴出を始め、辺り一面を真っ白な霧が覆い尽くしてゆく。 やがて霧が晴れるとカードの周囲は完全な白銀の世界へと染まっていた。 カードに内臓されていたのは圧縮された液体窒素、それにより暴走神姫たちは氷像へと姿を変貌させている。 駆動系が、電子頭脳が凍りつき、例え溶けてもその極寒を体験したボディは再起動することもない。 「ありがとうございます、お二人とも」 「今は謝礼より、早くジェネシスの元へ」 「ええ」 二人のハウリンの強力な範囲攻撃によりリンの退路は確保され、合流した三人はジェネシスの元へと急ぐ。 「皆さんご無事でしたか~」 ジェネシスが何時もの様に優しい声で、今合流した三人にそう声を掛けている。 隣には既に、ねここ、十兵衛、アリアと他のメンバーが合流していた。 「はい。でもすみません、思った以上に離れてしまって……」 と、リンちゃんが申し訳なさそうに謝る。他の二人も遅れてしまったせいでどことなく気まずそう。 「いえ、大丈夫です。皆さんが敵の主力を引き付けてくれたおかげで侵入に成功しました」 「それを聞いて安心しました。所で、突入ポイントは判明したんですか?」 ジェネシスが頷きながら続ける。 「えぇ、最適突入点は判明しています。第四エリアのほぼ中央部、ソコからならばホストコンピュータの中駆部に一気に潜れます。 それと先程の放送電波、どうやらあれにHOSの起動コードが添えつけられていた模様なのですが、その発信源と同一地点でもあります」 「つまり、そこに敵の罠があるってことですか?」 十兵衛ちゃんが確認する。 「罠、あるいはそれに類する防御システム等が在ると考えるのが妥当でしょう、でも私たちには時間の余裕がありません。 第三エリアを一気に突破して、そこを突きます!」 全員が頷き合う。 「それでは……行きましょう!」 その声の元、一斉に駆け出す彼女たち。 一筋の希望を信じて。 同時刻、警視庁公安MMS犯罪担当3課に一通のメールが届いていた。 その内容はHOSの解析データと、ホストコンピュータの所在地、その他今回の犯罪に関する資料及び証拠の数々が送付されている。 そのメールを受け取った男は無表情にそれを読み流していたが、全てを読み終えると自分のデスクを立ち、傍らにいた若手の刑事に 「おい、出るぞ」 と一言だけ告げると、自らは既に歩き出していた。 この犯罪を止めるために、男は現場へと向かう。 さらに同時刻、同じメールがサポートセンターにも届けられていた。 そのメールを読み終えた今米主幹は、電話でとある人物に連絡を取る。 今回の事態はバトルサービス本部としても出来るだけ揉み消したい事態のため、ある人物が雇われて出動待ちの状態にあった。 連絡は直ちに伝わり、彼女たちの出番となる。 都内のとある場所に佇む、一人の少女と一人の神姫。 任務は警察が到着するまでの間に現地にある暴走神姫全ての回収。及び犯人の捕縛と主導権を握ったままでの警察への引渡し。 「全く……全てって一体何体いるんだか。ボクらがいくら強くっても限界だってあるんだよ?」 連絡を受け取り、その内容を改めて確認した神姫……マルコが、その困難なミッションに思わずそう溢す。 すると少女は、自身に満ち溢れた声で。 「大丈夫よ、今回は増援もあるって話ですしね。それに報酬も今までで最高額なんだから。さて、神姫ハンター、出動ですよっ!!」 「全小隊、準備完了しているな?」 『イェス、マスター!』 ここは都内にるバトルサービス本部直営施設の一つ。彼らがいるのは一般には存在が秘匿されている地下施設内である。 ホールに整列した数十体の神姫が一糸の乱れもなく、一斉に敬礼する。 その確認をした男、黒淵は満足げに頷くと、彼の傍らにいる部隊長のミーシャが作戦の最終確認を始める。 「今回の任務は敵アジトに突入。敵勢力を排除しつつ、暴走神姫全ての回収を行います。尚他部隊も展開予定のため同士討ちに注意を。 必要ならば殺傷も止むを得ませんが、コアの破壊だけは絶対に禁止します。敵がすなわち救出対象なのです!」 部下が一斉に頷く。 「総員時計合わせ、3…2…1、今。……皆、いくよ! 」 その言葉とともに全員が車へ搭乗を開始する、出撃の時は来た。 暴走を善しとしない、神姫に関わる者達が、ある者は正義のために ある者は自らの利益のために、己の事情による最悪の事態を回避するために、躍動を開始する。 [[続く>ねここの飼い方・劇場版 ~八章~]] [[トップへ戻る>ねここの飼い方]]