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Capital Chat ◆WWhm8QVzK6




「ひいふうみい……七人もいるんですか。よくこれだけ固めましたねぇ。……おや、八人でしたか」

視線の先には、黒髪の少女が。
ときちくは少女に向かって下がれ、と合図する。
彼女は、おとなしく従った。

こいつか、とドナルドは理解する。
グラハムはチルノの前に庇うように立つ。
タケモトとバクラは既に5歩程引き下がっていた。
レンはドナルドの陰に隠れながらもナイフを構えている。

「やっぱり、アンタが何か言ったのね」

文はグラハムを睨む。
視線で人を殺すとはこの事か、と思えるほど、それは鋭く刺すような目つきだった。

「仕掛けてきたのは君の方だろう……」

「は、冗談。ただの脅しにビビッてチルノさんを攫って何言ってるんだか」

「アレは君の宣戦布告と受け取って間違いなかった。それとも何もせず座して死ねとでも言うのか?」

「まあ言い分は勝手だけど?あそこで何があったか直接知っているのは私を除けばアンタしかいないわよね。
 チルノさんが気絶しているのをいいことに適当なことを吹き込んで……これだから人間は信用できないのよ」

確かに。
そう言われてしまえばそうなのだ。
あの出来事を知っている者はグラハムと文しかいない。
それは主催者すら与り知らぬ事だった。
つまり、どちらが正しいかを完全に証明することは出来ない。

「ドアを吹き飛ばすとは随分と激しい登場だね。何かいいことでもあったのかい?」

「これからあるんですよ。不気味な道化師の方は少し黙っておいてください」

イラッ。
そんな擬態語が聞こえてきそうなほど、ドナルドの顔は一瞬引きつった。

「とりあえずチルノさんをこちらに渡しなさい。どうせ私の言い分は聞かないんだろうし、それで勘弁してあげるわ」

「待ってよ!!」

チルノが叫ぶ。
真実を確かめるために。

「はい、何でしょうかチルノさん?」

「文は……私を殺さないんだよね?」

「当然じゃないですか。私がチルノさんを殺す理由なんてありませんよ」

「でも、文は、文は…他の皆を殺すの?」

「そんな面倒なことはあまりしたくないんですけどね……邪魔なのは殺すしかないでしょう」

「間違ってるよ!そんなの…あたいが絶対に許さない!」

でしょうね。
と、文はその場で地面を軽く蹴った。

「貴方ならそう言うと思いましたよ。けれど、それは間違っていると私は断言します」

「え・・・?」

「切り捨てるべき者も存在するということですよ」

ジリ、とバクラを睨む。
そこに昏い感情があるのは明らかだ。

「そうか……。なら、目的はなんだい?まさか彼女を取り返しに来たってだけじゃなさそうだけど」

「ええ、よくぞ訊いてくれました。実は皆さんに質問がありまして」

朗らかに話す。
まるでこの状況が愉しくて仕方ないかのように。


「私についてくる気、ありますか?」


「は?」

一同、目が点になった。
質問の意図が読めなかったり。
状況的におかしいだろ、だったり。
そもそも意味が分かってなかったり。

「ええ、詳しくは言えないんですけど面白いことに気づいてしまいましてね」

面白そうに話されても困るのだが。
怪しいにも程がある。
確かにグラハムとの話は信憑性が薄いが、それでも白と言う訳ではない。

「だから知りたい人は教えてあげるから、なーんて……感じなんですが、どうですか?」

ふふん、と息をならす。
いきなりの選択を迫られても応えにくい。
というか、そんな詐欺まがいの妄言に引き寄せられる者が何処にいるというのだろうか。

「ああ、そうだもう一つ」

「何だ」

「断るなら断るのもいいんですが、このまま放っておくと私の根も葉もない噂をばら撒きそうですしね……。
 ええ、単刀直入に言うなら――」

じわり、と。
その場にいる全員が感じ取った。
空気の流れが変わるのを。
それは比喩でも何でもなく、真実、流れるはずの無い場所で、風が吹いていた。


「――拒否した人は要りませんから、死んでくれませんかね?」


轟、と一陣の風が。
文の周りを取り囲むように、渦を巻いている。

ビルの中で暴風が吹き荒れる。
その異様を肌で知覚した者は、速やかに警戒態勢へと入った。

「ダメだよ!文、考え直して!」

「チルノさん、大丈夫ですってば。危ないから下がっててくださいよ。巻き込みたくありませんからね」

「彼女の言うことを信用しないほうがいい!」

そう叫んだのはバクラだった。
それに対し文は眉を顰める。

「彼女は僕達を殺すって言ったんだ!そして生き残れるのは一人しかいない……。
 その時に君は殺されるだろうし、もし優勝しても、君が生き返る保証はないんだよ!」

「で、でも……!」

「下がっておけ。彼の言うことはある意味正しい」

グラハムが前に出る。
チルノの肩に手を置き、後ろへ追いやるように力をかけた。

「チルノ!早くこっちに!」

再び叫ぶ。
バクラは必死だった。

(クソッたれが……!俺が拒否しようがしまいが、結局のところ殺すつもりだろ……!)

先程からの視線の意味はそれだと理解した。
射命丸の言葉が真実かどうかはわからない。
もしかしたら何か見つかったのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
だが、バクラには理解できた。
あの女は、確実に自分だけは殺害するつもりだ、と。

要するに邪魔者とみなされたわけだ。
確かに肉体面でも大きく劣っているし、頭脳面でも特待されるほど高くない。
射命丸ならば、頭脳は自分だけで充分と判断しただろう。
故にバクラは不要である。
今後の行動に差支えが出るから、殺さねばならない。

(そういう魂胆なら、こっちも手を打たせてもらうぜ…)

チルノを呼んだのはこのためだ。
自分への守りにも使えるし、人質としての価値を持つ。
射命丸がどれだけ重きにおいているか、ということは気にかかるのだが。

(実際奴がチルノを重視しているのがポーズだったら話にならねえ。
 でも置いておくに越したことは無いはずだ。さて、ここからどうするか……)

見れば、ときちくと連れの少女は共に隠れている。
バクラはその反対側の通路にいた。
チルノはバクラの方に飛んできている。
レンが階段を昇って向かってきており、ドナルドはそれを追うように退避していた。

今、文と対峙しているのはグラハムだけだ。
グラハムは集中していて、気づいていないように思われる。
しかし代わりに、ときちくが姿を現していた。

「あいつ……向かう気か?」

無謀な馬鹿か、それとも何か策略でもあるのか。
どちらにせよ、ここで力を見極めるのも悪くない。

レンがようやく階段を昇りきり、ドナルドは中段を走っていた。



   ◆◆◆



そしてその数十秒前。


「おやおや、お仲間は大分逃げてしまわれたようですが……」

「構わん。逃げられるものがいたなら、それでお前の敗北は確定する」

「…そうよねぇ。確かに今逃げられたら絶対的に不利になるわ。
 話を聞かなかったあんた達が悪いようなもんだけれど」

「話を聞いて得するような場面があったか?」

「さあ? それは主観に任せるわ。それより今はこっちを優先しないとね」

文は剣を構える。
グラハムはそれに応じ、ガリィを手に携えた。

緊張が走る。まともにやって、勝てる相手ではないことはグラハムも承知している。
だが、相手の慢心を突ければ勝機はある。
こういった武器は得意ではないが、それでもやらねばならない。
元より一度死んだ命。ここで失おうとも覚悟は出来ている。

「せー…」

一瞬、風が弱まる。

「のっ!」

文は、拍子に弾け飛んだ。



   ◆◆◆



そして時は現在に至る。


「な……?」

グラハムは僅かに放心する。
自分の攻撃が避けられ、相手が攻撃をミスしたのかと思った。
しかし違う。避けられることはあっても、避ける事は出来なかったはずだ。
なぜなら、真に彼女の攻撃に対応できていなかったのだから。
突然発生した烈風に目を奪われ、たじろいだ隙に射命丸文はそこから姿を消していた。

(何処だ……!)

正面にはいないために、振り向く。
そして驚愕した。

「う、うわあああああああっ!」

レンが絶叫する。
そう、文はあの数秒で彼の近くまで移動していた。
身体の軸にブレを起こすことも無く。
彼が怯えるのも無理はない。

「ドナルドッ!逃げて!!!」

文は、階段の途中にいるドナルドに向いていた。

「全く、困ったものですねぇ。これでもブロリーより遅いんですよ。自信なくしちゃいます」

剣を、構えながら。

「けれど、此処で私より早い存在はいませんよね」

殺気を放った。
が、刹那。


ごしゃり。
ナニカが叩き潰される音が響く。

レンや、チルノにはその出来事がスローモーションのように見えた。
極度の集中で、見ることしか出来ない。止めることはできない。
声が上がったのは、真実音の後だった。

「文ぁっっっ!!!!!」

「叫ばなくても大丈夫ですよ。言ったでしょう?」

文は、ドナルドの上空3m程で羽ばたいていた。
その表情は余裕そのものである。

「なるほど、速いね。ドナルドは感心しちゃったよ」

「大理石破壊するほどの威力で殴っておいて何言ってるんですか」

どちらの表情もまったく焦りはない。
むしろにこやかでさえある。
ドナルドは長さ1mものポテトフライをくるくると回した。

「一体その鈍器は何なんですかね?是非とも材質を知りたいものですが……」

「外国輸入のポテトさぁ♪……ところで、なんでドナルドを狙ったのかな?」

「ほぉ、外国のジャガイモはそんなに硬いんですか。……ええ、流石に聡いですね。
 けれどその理由は、貴方も分かってるんじゃないですか?」

「どういう事だい…?」

ドナルドは上を見上げる。
浴衣の中は見えない。ドナルドに見る気はないが。

「第一印象ってありますよね。まあそんなのは職業柄あまり気にしないんですが……
 魔力の雰囲気が読み取れるんですよね。妖怪ならだいたい出来るんですけどね。ええ」

「……」

つまるところ何が言いたいかといえば。

「貴方の魔力は禍々しすぎるんですよ」

空気が変わった、気がした。
風はないというのに、肌にひりつくような圧力がある。
無論錯覚であり、無風状態であることに変化は無い。

「八雲紫のような胡散臭さでもなく、鬼のような畏ろしさでもない。
 ただ純粋に禍々しいんですよ。どんなに表面を取り繕っても、それが感じ取れますから」

一階の階段手前に降り立つ。
そして、今度は文が見上げる形で、


「この中で一番危険なのは、貴方ですね」


大きく振りかぶる。
一閃と同時に放たれたのは、数発の風の弾だった。
光を歪めるほどの高密度の空気は、ドナルド目掛けて殺到する。

「レン、ここからは大人の世界だから、よい子は見ちゃダメだよ」

言葉と同時に、ドナルドはその全弾をポテトフライで叩き潰した。
直線的な弾道だったとはいえ、そのスピードは到達するまでにおよそ1秒にも満たない。
それに対しすべて反応するドナルドの力量を、文はどう見たか。

(戦力としては申し分ないけどね……でもそれだけじゃとても仲間に入れることはできないわ)

彼女は、見極めようとしていた。
真に首輪を無効化するに足る存在を。
主催を妥当できるほどの、力と知能を持ち合わせている者を。
細々とした心理戦を持ちかけている暇は無い。
そこまで時間は余っていないし、主催側に発覚される前にも行動は速やかに行わねばならない。
盗聴機能もあるが故に余計な会話も出来ない。筆談も程々にしないと、監視カメラで解析される恐れがある。

ならば、敵を演じよう。
自分の不手際が招いたことではあるが、都合よく自分は疑いをかけられている。
ならばそれを利用し、敵に対しての反応を見ることで相手の本質を見極める。
味方であっても打ち解けられないというなら、敵側に立ち相手を全て曝け出してやる。
命のかかった時にこそ、人間の本質が見えてくるのだ。

(もうちょっと泳がせましょうか……っと!)

上方から4個の茶色の物体が飛来してくる。
それをはっきりと視認する前に、文は大きく後方へと退いた。

正体はドナルドが創り出したハンバーガー。
魔力を込められて極限まで硬度を上げられたハンバーガーはさながら砲弾の如き勢いで床を破砕する。
必殺とはいかないものの、当たれば文とて無事では済まない。
だが、当たらなければどうという事はない。

「遅すぎますよ。私に当てたいならば音より速くしなさい」

そう言い放って、文はグラハムの後ろからの奇襲を受け止めた。

「馬鹿な…っ」

ギチギチと金属音が染み渡る。

「私は風を操れるのよ?貴方が後ろから来ていたことぐらい把握済み。言ってしまえば……私に奇襲は通用しない」

「ガッ……!」

グラハムは文の一振りで、大きく後方に弾き飛ばされた。
その身体はそのまま床を滑り、自動ドアの近くまで運ばれる。

「人間風情が大概にして欲しいものね……」

「余所見はいけないなぁ♪」

ドナルドが構えたのはアサルトライフル。
銃に関しての知識の無い文にとっては、それが『銃』という外の世界の武器だということくらいしかわからない。
その危険度は重々把握しているつもりだ。だが、

「っあ!!」

その速度までは計れなかった。

目にも止まらぬ速さで射出された金属の嵐の内の一つが文の左脚の肉を抉る。
回避行動を取っていたためにそれだけで済んだのだが、慮外の攻撃は躱せなかったようだ。

「これもある意味奇襲のうちに入るかもね?」

「言っときなさいよ……」

すぐさま文はドナルドの死角となる近くの柱に逃げ込んだ。
そこでドナルドは射出を停止する。
彼は無駄弾を撃つような思考ではない。
引き金から指を離し、柱を凝視する。

「どうしたんだい?もう打つ手無しかな?」

「そうだと思う?」

突如、数十発もの風の弾がドナルドに向かって襲い掛かった。
度肝を抜かれる以前に回避不可能。
正面230度を覆った弾幕は、一発たりとも逃すことなくドナルドを殴打した。

「・・・・・・・・!!!」

「風が直線にしか吹かないと思った?残念、私にとっては気弾となんら変わりないのよ。
 距離も遠い分、威力も弱まるけど……中々に効くでしょう」

ドナルドは応えられず、そのまま階段を滑り落ちた。

「ドナルド!!」

レンが駆け寄ろうとするが、バクラがそれを制止する。
無駄に近づかせる意味はない。まだ利用価値があると思っての事だった。
しかし、真に止めるべきはもう一人だったとバクラはすぐに後悔する。

「文!もう止めて!」

「行っちゃダメだ!君が行ったら危ないことになる!」

「そんなの分かんないわ!それに……何もしないで言いワケが無いじゃない!」

「それでもダメなんだよ!」

(テメエが出たら俺達の……いや、俺の命が危ねえ。テメエが近くにいるから抑止力になってんだよ!)

真意を言葉に出すことは出来ない。
それでも、チルノは繋ぎ止めなければならない。
ふと、バクラは思う。

(そういやタケモトとあの男……何処に行きやがった?)

視界には見当たらない…と思ったが、タケモトはカウンターの中に隠れている。
残念ながら上からでは頭が見えているようだ。
では、ときちくの方は……?

「……まだ足りないのかしら。もっと暴れてくれないと困るんだけど…――」

文は歩いて距離を詰める。
ドナルドは一階で床にへばったまま動かない。
間合いは8mほどになっただろうか。

唐突に、文の視界が反転した。

「あれ?」

腕を掴まれて足を刈られている。
そのまま風車のように回転し、彼女の身体は地面に打ち付けられた。
衝撃が全身に渡る。僅かに呼吸が鈍り、咄嗟に反撃を試みようとしたその時。

「サイコキネシス」

ぐしゃりと、文の全身はとてつもない重力がかけられたかのように床に押し付けられた。

肺から空気が押し出される。
上げようとした頭が再び押さえ込まれたことで、激しく叩きつけられる。
たった数秒の出来事だったが、この時だけ文は動きを封じられた。

「な……に…」

またしても腕を掴まれた。
腕だけではなく、足や胴も体重を掛けられてもがくことしか出来ない。
いわゆる固め技を喰らっているのだ。
そして、それをかけている張本人は、

「動くなよ。動くと余計に絞まるから」

ときちくだった。
翼までもが腕に絡められており、文は首だけしか動かせない。

「どうし…て……」

「うん?そうか、これで本当に奇襲成功だな。まあ気にすんなよ。人生長く生きてると奇襲の一つや二つかけられることはあるさ」

「どんな人生ですか……」

「甘いな。平凡な日常にこそ、危険は潜んでるもんなんだぜ」

口調とは裏腹に淡々と応える。
白い外套の男は、なんでもないといった風だった。

「まあそんなことはどうでもいい。それより大多数がビビッて隠れたりお寝んねしてる間に訊きたい事があるんだが」

「……なんでしょうか」

「お前を生かすことで何か利点があるのか?」

「直入ですね」

「細かいことは嫌いだからな」

両者、目を見合わせる。
腹の内を探っているようだが、実際そんなことは出来ない。
何を考えているかなど、実際は本人しか知らないのだから。

「ありますが、今はまだ言えませんね」

「そうかよ」

ときちくがそう言うと、文は視線を逸らし別方向に向けた。
誰かが走って階段を上っている。

「ところでどいてくれません?少しやらなければならないことがあるので」

へ?と、ときちくが聞く前に彼の身体は宙を舞った。
そして文の姿は、ない。

「ちょ…………うおおおおおおおおっ!??」

ときちく、現在高度4mを滞空中。
地面衝突まで、あと2秒。

「っ拙っ!」

大理石の床に衝突して全身の骨をバキバキに折ることは避けたい。
視界に入ったソファに狙いを定めて(と言っても落下地点は人の力では変えられない)ダメージを軽減しようとした。
幸運にもちょうどソファは彼の身体を受け止め、その拍子にときちくの体はワンバウンドして地面に思い切りキスした。

「ぐおっ!!っおおおおおおお……」

痛みに思わず悶絶する。
しかし状況確認が先だ。衝撃を堪え、何とか辺りを見回す。
さっきあいつが向いていた方向はどっちだったか。
確か階段を上る誰かを見ていたに違いない。
そして、焦点をアップさせる。1Fから2Fに向かって。

するとそこには、射命丸の餌食になって弾幕の雨に晒される哀れなタケモトの姿があった。



   ◆◆◆



時間を少しだけ遡る。
バクラは即座に駆け出した。

ときちくが文を薙ぎ倒したのを好機と見たのだろう。
向かった先は対にある通路、つまり黒髪の少女が逃げた方向だった。
未だに実態を把握していないのはあの少女だけ。
おまけにときちくがやたら出し渋っていたから、何か隠していることでもあるのだろう。
そう思い走ったのだが、彼が通路に辿り着くかつかないかくらいのときにタケモトもこちらに向かってきているのが見えた。

(あいつも来るか……まあいいさ。二人で徹底的にあの女から情報を搾り出すまでだ)

そして観察する。
女が入ったのはどの部屋か。
見れば、ドアが僅かに開いている箇所がある。
その部屋の名は、『管理室』。

「なるほど……ここか」

そして彼は中に入った。
幸か不幸か、バクラは数秒後に起こる惨劇を見ずに済むことになるのだが、それはもう彼には関係のない話だ。

バタンとドアを閉める。
同時に轟音が聞こえたようだがここは安全だ。
部屋の中には複数の大きなモニターと数台のパソコンが並んでいる。
そこに映っているのは、全ての階の監視カメラの映像だと理解した。
一部消えているのがあるが、これは一階と二階部分だろうか。

「スイッチが消してあるだけか……何のために?いや、それより…」

少女がいない。
この部屋にいると踏んだのは見当違いだったか。
まあ、いなければいないで問題は無い。
バクラは内側から鍵をかけると、椅子の一つに腰掛けた。

「成程…ここでビルの全体が把握できるってワケか。篭城なんかにはさぞ便利だろうなぁ」

切られていたスイッチをつける。
映った映像にはカードの精霊と文が戦っている様子がわかる。
やはりレンにカードを渡しておいて正解だったとバクラは感じた。
グラハムとドナルドはのびたまま。ときちくは立ち上がろうとしている。
で、レンとチルノは何かを囲んで、呼びかけているようだ。
あの姿は――

「まさか、タケモト…!?」

さっきの音はあれだったのか。
しかしあの様子では、タケモトはピクリとも動いていない。
レンとチルノの表情も悲痛そのものである。
そこから容易に、あることが連想されるのは仕方の無い事だった。

「クソッ!!!馬鹿な……首輪無効化の要だぞ……?それをよくも安易に…!」

ということは、あの女――射命丸文は。
もはやブロリーも死に、完全な脅威はなくなった。
故に、優勝狙いに走ったのか。
確かにタケモトが確実に首輪を無効化できるとは限らないが、それでもまだ猶予はあった筈だ。
この事実は、バクラを驚愕させるに至った。

「そうかよ……俺もいい加減腹を括らねえとならねえか……」

優勝を、狙うか。
しかしそれには生き残ることが先決だ。残りの精霊カードを使ってでも、この場を切り抜けねばならない。

(全体の電気を一斉に消して、目晦ましにするか…?いや、それはオレにとっても危険だ。
 とにかくドナルドとグラハムの安否を確認できて、脱出できる方策は……)

焦りがあった。
急展開の事態にあり、思考が上手くまとまらない。
よもやタケモトが殺されるとは思わなかった。
その焦りの所為で、正確に事態が把握できていなかった。
主に、ドアの目の前で起こっていることが。

ガキン、と。
金属の割れる音がした。



   ◆◆◆



逃げられる。
そう思っていた。

あくまでも一時的ではあるが、あんな危険な場所にいるよりはマシなところで隠れられる。
そう思って移動していたのに。
いや、なにより、自分は殺されないと高をくくっていたのだろう。
自分が脱出の要と思われている以上は、殺されないと。


でも、その認識は変えなければならなかったようだ。


「自分だけ逃げようだなんてずるいですね」


あっという間だった。
目の前に、さっきまでときちくという男に押さえ込まれていた女がいた。
そのときちくは、空中に浮いている、というより落下している。
まるでスロー再生で見ているようだ。凄く面白い。
そんな事を思っている暇はないんだって、自分でも理解していたのだけれど。

がしりと胸ぐらを掴まれる。
そして肌を直接何かが滑ったような感触がして、

わけもわからぬまま、俺の身体は無数の弾幕に叩き潰された――――


「た……」

レンは、それを真正面で見ていた。

「タケモトおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

あらん限りの声で絶叫する。
無理も無い。ある意味で、タケモトは彼の希望だったのだから。

チルノが飛び出す。
文を攻撃するためでなく、タケモトの安否を確かめるために。
レンはそれを尻目に、一つのカードを取り出した。

「『翻弄するエルフの剣士』、召喚!」

淡い光と共にヒトガタのモンスターが現れる。
それを見ると文は、一端距離を置いた。

「面倒なのが出てきましたね……でも手加減しなくていい分、楽ですが…っと!」

剣に風を纏わせる。
渦巻く風はもはや小規模の竜巻を呈している。

「――『風神一扇』!!」

繰り出されたソレはとてつもない勢いでモンスターに直進する。
岩を砕きかねないその威力は、おおよそ耐えられそうに無いものだ。

爆音と共に激突する。
その一撃で、剣士はいとも容易く沈められたかに見えた。

「えっ!?」

未だ健在だった。
あれだけの衝撃を受けても猶、傷一つ見当たらない。
ダメージがないという証拠でも見せ付けるかのように、エルフの剣士は文に斬りかかった。

その一撃を往なしながら、文は疑問に思う。

「よく分かりませんね……何かの特殊効果でしょうか?」

『クァ、クァクァウ!』

「え?一定以上のダメージを無効化?それは厄介ですね……しかも相手の攻撃力より高くないといけないなんて」

さらに繰り出される袈裟斬りを真芯で受け止める。

「でも、どの程度かは把握できましたよ」

剣を弾く。
そうすれば、胴ががら空きだ。
そこに爪先で蹴りを入れる。

「……!」

鳩尾に入った。
まあモンスター相手に関係あるのかはよく分からないが。
そのまま上方に弾き出された剣士に追い討ちをかけるように弾幕を放つ。
計5発の風弾はモンスターを更に上に押し上げた。

文は、既に同じ高さにまで移動していた。
相手の中心に照準を定める。
ダメージを与えるならどこでも構わないだろうが、やはり締めは気持ちいい方がいい。
右拳をぐっと握り締める。

「これで決めますよっ!」

一閃。
文句なしのストレート。
柱に罅が入るほどの衝撃を受けた剣士は、ピクリとも動かなくなった。

「まあこんなもんですか。ゲイル君ありがとう」

『クアッ!(どういたしまして)』

「とてもいい正拳突きだね。そんなものをドナルドに見せられたら……」


「は……?」

今まで床に倒れていたはずのドナルドが、現在、文の目の前にいる。
その事態を理解する前に、

「自然に身体が、疼いちゃうんだ♪」

文の身体は、激しく地面に蹴り落とされた。



   ◆◆◆



場面は変わって、管理室。

「お前は…」

「荻原雪歩です」

開いたドアを閉める。
鍵は、さっきの一瞬で壊されたようだ。

「…何の用だ?」

「何の用……ですか。そんなこと普通に考えればわかるでしょう」

少女は続ける。

「『貴方はこんなところで何をしているんですか』って…訊きに来たんですよ」

「ご苦労なことだな……そんなことどうでもいいだろうよ」

本性を隠すつもりも無いらしい。
その必要はないと判断したからだろうか。
バクラはくるりとモニターに向き直った。


「まだ話は終わっていませんよ」

その言葉だけなら振り向きもしなかっただろう。
バクラはそのまま余裕を持って対応できていたに違いない。
とある異様を、確認するまでは。

カチャリ、という音。
その金属音が何であるかを知るために首を傾け、

「な……!」

雪歩が、手に銃を構えているのをはっきりと確認してしまった。

「何のつもりだ…」

「単に貴方のしようとしたことを聞きたいだけですよ」

応えなければ命はない。
その黒い目が、そう告げていた。

「別に……動向を見極めて、何か手助けになればいいなと思ったから此処に来たんだよ。
 見ての通り俺は非力でね。管理室に行けば何かあるんじゃないか、と思ったんだ」

「嘘ですね」

「何?」

疑われているのは分かっていたから、信用されたとは思わなかったが、
まさかそこまで断定されるとは思わなかったので、バクラは少したじろいだ。

ガタ、と椅子から腰を上げる。
そして、一歩後ずさった。
それに対して雪歩も一歩詰める。

「おい、ところで訊いていいか?」

「何ですか?」

「何でお前は俺が此処にいるって分かったんだ?お前は何処にもいなかったのに」

気を逸らすために話題を変える。

「簡単ですよ。向かいの部屋にいたからじゃないですか。
 耳を欹てれば向かいの状況くらい把握できます。このドア結構薄いですし…ドアを閉めた音と轟音がほぼ同時
 だったのは少しびっくりしましたが、そういうわけです」

「随分とまあ正直に喋るじゃねえか…」

「別に喋っても問題ないと思いましたから」

「そうかよ、だけどそんな物騒なもん引っ込めてくれねえか?お前だって俺を殺すメリットはねえだろ。
 そうだ。いい事を教えてやるよ。俺と行動してたタケモトって奴がさっきので死んじまったみたいでな。
 そいつがもしかしたら首輪をどうにかできるかもしれなかったんだ。つまり、首輪に関しては打つ手なしって事だ…」

「…それが何か?」

「つまり優勝するしかなくなったってことだよ。だがそうなると一人しか生き残れないのは分かってるよな?
 ……だから俺と取引しねえか?俺はお前と協力関係を結びたいんだよ」

「……それは、どういう」

(ふん、食いついてきやがったか……どうやらあまりいい待遇に置かれてなかったみたいだな)

「生き残ったどちらかが願いを叶えて、もう片方を生き残らせる。勿論信頼の置ける奴しかこれは結べねえが、
 なんならお前が優勝してもいいぜ。俺を生き返らせてくれるならな。こんな話を持ちかけるのも、お前となら
 協力できると思ったからだ。それにこの状況はどう見ても危ない。今すぐ俺と逃げるべきだと思わねえか?
 お前の連れの男だって、あの鴉女には太刀打ちできなかった。考えればすぐにわかるよな。どっちが得かは」

「そうですね。……」

「早いところ結論した方がいいぜ。何時あいつがこっちに襲ってくるか分からないからな。
 俺だって死にたくないし、お前だって死にたくないだろ」

雪歩にとって、答えを出すのは容易かった。
考える必要も無い。

「わかりました」

返事が来た。
それを聞いてバクラは安堵する。

(案外簡単だったな……それはそれでいいが、後はこの女をどう使っていくかだな。
 外の形勢を見る限り…まだ膠着状態か。でもおそらく射命丸が勝つだろうな。
 疲労度でいえば圧倒的に不利なのはドナルドだ)

「お断りします」

「ああ、わかってるよ。だからお前も荷物をまとめて……」

え?

銃声が鳴る。
バクラは唖然としたまま棒立ちになっている。
頬には一筋の傷が出来、そこから血が流れ出した。

「テメエ……!」

「私がそんなのに乗るとでも思ったんですか?だとしたら随分とお粗末ですね。
 状況を見る限り、逃げた方がいいかもしれませんがそれなら外の人を誘った方がいいでしょう?
 そもそも私なんかを勧誘する方がおかしいんですよ。違いますか?」

「くっ…!」

確かにそうともいえる。
だが、射命丸の視線を潜り抜けるならば此処に来て新たな仲間を作る必要があった。
チルノを連れて行きでもしたら死ぬ気で追いかけられるだろうし、レンはドナルドを見捨てたりはしないだろう。
タケモトはもはや射命丸によって――
だから声を掛けられたのは雪歩くらいしかいなかったのだ。
都合よく盾になってくれそうな、誰かの庇護に置かれたい存在が。

「それに貴方の言うことなんか信用すると思いますか?いや、私だけじゃなくて皆信用しないでしょうね。
 貴方が抜け駆けで逃げようとしていること、全員に知られちゃってますから」

「は?何を言って…」

「マイクのスイッチ、ONになってるんですよね」

「!?」

真実、マイクのスイッチはオンになっていた。
しかもボリューム最大。バクラは目を疑った。
なにしろ、彼は確かにマイクを切っていたはすなのだから。

「一体、何を」

「貴方がそれを知る必要はありませんよね。さて、行き場を失った貴方はどうするんですか?
 おとなしくするか、それとも……」

おとなしく、出来るわけがない。
聞かれてしまった以上はバクラの立場は最悪だろう。
そんな中で置かれても冷遇されるだけだ。
そんなことは、彼のプライドが許さなかった。
それに、まだ生き残る道はある。
逃げようとしたことは、決定打ではないのだから。

バクラはマイクを切る。
これから行われることは、彼らしか知らない。

「こうなりゃテメエらの全滅を狙うさ。殺さなくていいバカとかは保留するけどな。お前は、明らかに邪魔なんだよ」

バクラはカードを取り出す。
相手の拳銃はリボルバー。まだトリガーは下ろされていない。
ならば、その一瞬を狙えば勝機はある。

「そうですか」

そう言うと、雪歩は銃を下ろした。
バクラは疑問に思うが、それはすぐに理解できた。

「は!?……ぎっ・・……ガアッ!!」

彼の身体が、宙に浮いている。
首に掌の痕が浮かび上がり、心底苦しそうな表情だ。
それを雪歩は、冷ややかな表情で見つめている。

「な……ご……ッあ!・・・!?」

わけがわからない。
これは、この女の能力なのか。
それにしては何の雰囲気も感じられないが。
しかしバクラには現状を耐えることで精一杯で、そこにまで気が回らない。

「姿を現してもいいですよ」

バクラは、見た。
自分を片手で持ち上げている、変態的な格好をした人間の姿を。
それは、まるで人間のようでロボットのようだった。

「さ、三人……目・・・・・・・・・・・・・・!」

「正確には違うんですが、どうでもいいことですよね」

そのまま雪歩は、目だけで命令する。

殺せ、と。


「や、め・・・・・・・・・――――――!!」


ごきり、と。
彼の命は、まるで吹けば飛ぶ紙屑のように、あっという間に消え去った。



   ◆◆◆



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