「正解」と「理想」 -Killer Queen-(前編) ◆F.EmGSxYug
放送は終わった。
道具屋で食事を取っていたアポロ達にも、それはしっかりと届いている。
アポロは正直なところ、放送の前から落ち着かなかった。
確実に新堂の名前が呼ばれるだろうし……実際、呼ばれた。
だが、放送後終了後……気をつけながらみさおを見ると、意外に落ち込んでいない。
いや、むしろ呆けていると言った方が近かった。
「みさおさん、平気……なのですか?」
「……平気っていうか……うーん、実感が無いって方が正しいかなぁ。
知り合った奴が死んだっていきなり口だけで言われても、
正直、なんか信じられないってヴぁ……」
「……そうですね。確かにそうかもしれません」
みさおの言葉に、アポロは一応頷いた。しかしながら心は揺れ動いている。
何度も命の危機に晒されてきたアポロには、死はよく理解できている。
だが、みさおは違う。平和な社会で暮らす普通の女子学生でしかない。
何より、みさおはこの会場ですら首輪以外で生命の危機に晒されたことがない。
彼女が死を身近なものとして理解できないのは当然だと言えた。
――だが。それを実感させる機会を奪ったのは、紛れもないアポロ自身である。
新堂の遺体を見れば、嫌でもみさおは死を実感する羽目になっただろう。
それを隠した。だからみさおは悲しまなかったが、
その代わりに新堂の死を実感できなかった。
それが正しかったのかどうか、今のアポロには判断が付かない。
しかし……アポロの悩みも、羽入のそれに比べれば軽いものだ。
(死んでしまっていたのですか……ルガール……)
彼女には、ルガールがブロリーに追撃されたことなど知る由も無い。
自分を庇って受けたあの銃撃でルガールは死んだのだと、そう思いこんでいた。
(ボクは……間違っていた……?)
だから、そう思ってしまう。彼女の頭にあるのは、フランとの一戦。
……自分は、甘かったのではないか。
フランが自分の思い通りになったのか、羽入には確認する術がない。
死亡した参加者の数は、減るどころか増えていた。
恐らく……第一放送の時点で生存していた危険人物は相当な数だったのだ。
こうしている間にも、犠牲者が増えているのかもしれない。
そもそもフランの攻撃を受けたのも、油断の占める割合が大きい。
出会ったのが平穏無事に済む相手ばかりで気が抜けていた。それが間違いだった。
ルガールは生きていたと思っていたのが、思い込みに過ぎなかったように。
危険な賭けに出るより、体力が残っているうちに■しておくべきだったのではないか。
そんな思考が、羽入の頭に渦巻く。
「……ヴぁ! ……ヴぁ!」
思考に沈む羽入に、声は届かない。
「ヤられる前にヤれ」。
実際自分はここに呼び出されたときそう思っていたし、だから頭突きをかました。
少なくとも、自分が最低限の警戒心を抱いていればあんなことには……
「羽入ってヴぁ!!!」
「は、はいなのです!」
みさおの言葉に、慌てて意識を現実に引き戻す羽入。
その様子を見て、心配そうにみさおは口を開く。
「まだ体調悪いのかぁ?」
「大丈夫なのです……なにか……?」
「ひとまずみさおさんと話し合って映画館に行ってみようということになったのです。
ただし、羽入さんが動けるようになってから、ですが……
羽入さんは他に行きたいと考えている場所はありますか?」
話し合ったとは言っているものの、決めたのはほとんどアポロである。
みさおを新堂の死体と出会わせまいというのが隠された理由だ。
新堂の死を放送越しに聞き軽い混乱状態にあるみさおは、
ろくに聞くこともなくアポロの提案をあっさり呑んでいた。
「……ボクなら大丈夫なのです。すぐ動けます。
行くなら……」
羽入はとっさにデパートに戻りたいと口走りかけて、止めた。
今の状態で戻っても何の益もない。今更ルガールのことを確認しようとしても無意味。
フランがどうなっているか確認しようとするには危険すぎる。
それなのに、未練と自責からそんなことを言いかけた。つくづく警戒心が足りない。
そう彼女は自戒して、言葉を紡ぎ直す。
「……映画館で、構わないのです」
道具屋で食事を取っていたアポロ達にも、それはしっかりと届いている。
アポロは正直なところ、放送の前から落ち着かなかった。
確実に新堂の名前が呼ばれるだろうし……実際、呼ばれた。
だが、放送後終了後……気をつけながらみさおを見ると、意外に落ち込んでいない。
いや、むしろ呆けていると言った方が近かった。
「みさおさん、平気……なのですか?」
「……平気っていうか……うーん、実感が無いって方が正しいかなぁ。
知り合った奴が死んだっていきなり口だけで言われても、
正直、なんか信じられないってヴぁ……」
「……そうですね。確かにそうかもしれません」
みさおの言葉に、アポロは一応頷いた。しかしながら心は揺れ動いている。
何度も命の危機に晒されてきたアポロには、死はよく理解できている。
だが、みさおは違う。平和な社会で暮らす普通の女子学生でしかない。
何より、みさおはこの会場ですら首輪以外で生命の危機に晒されたことがない。
彼女が死を身近なものとして理解できないのは当然だと言えた。
――だが。それを実感させる機会を奪ったのは、紛れもないアポロ自身である。
新堂の遺体を見れば、嫌でもみさおは死を実感する羽目になっただろう。
それを隠した。だからみさおは悲しまなかったが、
その代わりに新堂の死を実感できなかった。
それが正しかったのかどうか、今のアポロには判断が付かない。
しかし……アポロの悩みも、羽入のそれに比べれば軽いものだ。
(死んでしまっていたのですか……ルガール……)
彼女には、ルガールがブロリーに追撃されたことなど知る由も無い。
自分を庇って受けたあの銃撃でルガールは死んだのだと、そう思いこんでいた。
(ボクは……間違っていた……?)
だから、そう思ってしまう。彼女の頭にあるのは、フランとの一戦。
……自分は、甘かったのではないか。
フランが自分の思い通りになったのか、羽入には確認する術がない。
死亡した参加者の数は、減るどころか増えていた。
恐らく……第一放送の時点で生存していた危険人物は相当な数だったのだ。
こうしている間にも、犠牲者が増えているのかもしれない。
そもそもフランの攻撃を受けたのも、油断の占める割合が大きい。
出会ったのが平穏無事に済む相手ばかりで気が抜けていた。それが間違いだった。
ルガールは生きていたと思っていたのが、思い込みに過ぎなかったように。
危険な賭けに出るより、体力が残っているうちに■しておくべきだったのではないか。
そんな思考が、羽入の頭に渦巻く。
「……ヴぁ! ……ヴぁ!」
思考に沈む羽入に、声は届かない。
「ヤられる前にヤれ」。
実際自分はここに呼び出されたときそう思っていたし、だから頭突きをかました。
少なくとも、自分が最低限の警戒心を抱いていればあんなことには……
「羽入ってヴぁ!!!」
「は、はいなのです!」
みさおの言葉に、慌てて意識を現実に引き戻す羽入。
その様子を見て、心配そうにみさおは口を開く。
「まだ体調悪いのかぁ?」
「大丈夫なのです……なにか……?」
「ひとまずみさおさんと話し合って映画館に行ってみようということになったのです。
ただし、羽入さんが動けるようになってから、ですが……
羽入さんは他に行きたいと考えている場所はありますか?」
話し合ったとは言っているものの、決めたのはほとんどアポロである。
みさおを新堂の死体と出会わせまいというのが隠された理由だ。
新堂の死を放送越しに聞き軽い混乱状態にあるみさおは、
ろくに聞くこともなくアポロの提案をあっさり呑んでいた。
「……ボクなら大丈夫なのです。すぐ動けます。
行くなら……」
羽入はとっさにデパートに戻りたいと口走りかけて、止めた。
今の状態で戻っても何の益もない。今更ルガールのことを確認しようとしても無意味。
フランがどうなっているか確認しようとするには危険すぎる。
それなのに、未練と自責からそんなことを言いかけた。つくづく警戒心が足りない。
そう彼女は自戒して、言葉を紡ぎ直す。
「……映画館で、構わないのです」
■
一方、その頃……映画館では。
「チルノさん……くぁいいよぉ……お持ち帰りぃ……」
「……文さんはどんな夢を見ているんですか?」
「知らないな。だが分かったことがある」
「?」
「塔で射命丸と情報交換したとき、彼女はチルノについて悪く言っていなかった。
どうやら私の恋敵のようだな……!」
「…………」
依然のんびりと惰眠を貪る文を脇に寝かせて、
放送を聞き終えたキョン子とグラハムはぐだぐだな様子で映画を鑑賞していた。
その画像の中では、西洋人とおぼしき男が何かを語っている。
放送終了と共に、しばらくして映画が始まっていたのだ。
『やあオレだうp主だよ。
この八雲藍奮闘記を最期の最後まで見てくれて本当にありがとう』
「……いきなり最終回?」
映画の内容にまで律儀に突っ込みを入れるキョン子は、ツッコミ役の鑑。
『今回はこの八雲藍奮闘記と一緒に歩み続けるうp主を、
ダイジェストでお送りしようと思う。
今回のこのうp主の行動のダイジェストを見ることで、
私をもっともっと好きになってくれると嬉しいな♪って関 羽が言ってた』
「なんか嫌な予感が……」
「チルノさん……くぁいいよぉ……お持ち帰りぃ……」
「……文さんはどんな夢を見ているんですか?」
「知らないな。だが分かったことがある」
「?」
「塔で射命丸と情報交換したとき、彼女はチルノについて悪く言っていなかった。
どうやら私の恋敵のようだな……!」
「…………」
依然のんびりと惰眠を貪る文を脇に寝かせて、
放送を聞き終えたキョン子とグラハムはぐだぐだな様子で映画を鑑賞していた。
その画像の中では、西洋人とおぼしき男が何かを語っている。
放送終了と共に、しばらくして映画が始まっていたのだ。
『やあオレだうp主だよ。
この八雲藍奮闘記を最期の最後まで見てくれて本当にありがとう』
「……いきなり最終回?」
映画の内容にまで律儀に突っ込みを入れるキョン子は、ツッコミ役の鑑。
『今回はこの八雲藍奮闘記と一緒に歩み続けるうp主を、
ダイジェストでお送りしようと思う。
今回のこのうp主の行動のダイジェストを見ることで、
私をもっともっと好きになってくれると嬉しいな♪って関 羽が言ってた』
「なんか嫌な予感が……」
思わず震えるキョン子。彼女の勘は当たっていた。
『あと無いと思うけど、絶対に引くなよ?』
そんな警告めいた言葉と共に、映画は本編へと移り変わり始め。
~動画製作前(←字幕)~
教授「また君は課題を提出しないつもりですか」
うp主「すまんこ(と書いてジャック・バウアーと読む)」
教授「また君は課題を提出しないつもりですか」
うp主「すまんこ(と書いてジャック・バウアーと読む)」
~教授との無謀なケンカ THEY CAN ATTACK HIM~
教授「なぁ君は何のために大学に来ているんだ?」
教授「なぁ君は何のために大学に来ているんだ?」
~まさに正論な教授 THEY CAN JUGDE HIM~
うp主「それは幻想郷に行く前に外の世界の知識をたくさん覚えていけば、
幻想郷のみんなのためになれると思ったからです」
教授「あまり馬鹿を言っていると留年させるぞ」
うp主「それは幻想郷に行く前に外の世界の知識をたくさん覚えていけば、
幻想郷のみんなのためになれると思ったからです」
教授「あまり馬鹿を言っていると留年させるぞ」
~教授も俺もツンデレ同士 BUT THEY CAN NEVER BREAK HIM~
うp主「教授の方こそ私を留年にしたら藍さまが黙っていませんよ」
教授(うんざりとした表情)
うp主「藍さまなら――アンタなんか1秒でピチューンだ」
うp主「教授の方こそ私を留年にしたら藍さまが黙っていませんよ」
教授(うんざりとした表情)
うp主「藍さまなら――アンタなんか1秒でピチューンだ」
「な……なんですかこれ? いったいなんのために流してるんですか?」
あまりの電波っぷりに、キョン子は朝比奈と化した。
もっとも、当然の反応と言えばそうだと言える。
あんな尻アス動画のネタをいきなり見させられれば誰だって混乱する。普通なら。
「射命丸が住むという幻想郷に行く方法を、彼は知っているというのか……?」
「駄目だこのストーカー! 早く何とかしないと!」
普通じゃない男は、キョン子のすぐ脇にいた。
そんな状況でも、映画は続いていく……
あまりの電波っぷりに、キョン子は朝比奈と化した。
もっとも、当然の反応と言えばそうだと言える。
あんな尻アス動画のネタをいきなり見させられれば誰だって混乱する。普通なら。
「射命丸が住むという幻想郷に行く方法を、彼は知っているというのか……?」
「駄目だこのストーカー! 早く何とかしないと!」
普通じゃない男は、キョン子のすぐ脇にいた。
そんな状況でも、映画は続いていく……
■
埋葬を終わらせた後、すぐに渚とブロントさんは酒場へと出発していた。
出発したのは時間にして午前9時半と言ったところ。
そのため、放送前には既に酒場に到着していた。もっとも。
「……食料があんまり無い」
「先に誰かが来て色々と持っていったのは確定的に明らか」
食べられそうな食料は、大河があらかた持っていった後だったのだが。
残った食料で食事を取ったりしながら過ごすこと数十分。
酒場にいた二人にも、放送が届いた。
どちらも、特別な反応を見せない。ただ、黙り込んで考え込む。
考えていることは、正反対だったが。
(……本能的に短命タイプなやつが多すぎうr
おれが思うにバルばトスのような奴がまだたくさんいるのではないか?
だとしたらこんなところでグズぐズしているのは愚かしさ)
ソフトドリンクを喉に流し込みながらも、ブロントさんは現状をそう考えていた。
超一級のナイトである彼にとって、弱い参加者とは守るべき者である。
こうしている間にも参加者が減っているというなら、動かない理由はない。
だが。
(よかった、ゴミ蟲どもがさっさと殺しあってくれて。
どいつもこいつも早く死ねば私ががんばらなくてもなんとかなるもん。
この気色悪いコスプレクズに頼る必要もなくなるし。
早くゴミ蟲がお掃除されてどんどん死んでいかないかな……)
その脇で渚はただ、参加者が減っていくことを願っていた。
二人の考えはどこまでも、噛み合わない。
出発したのは時間にして午前9時半と言ったところ。
そのため、放送前には既に酒場に到着していた。もっとも。
「……食料があんまり無い」
「先に誰かが来て色々と持っていったのは確定的に明らか」
食べられそうな食料は、大河があらかた持っていった後だったのだが。
残った食料で食事を取ったりしながら過ごすこと数十分。
酒場にいた二人にも、放送が届いた。
どちらも、特別な反応を見せない。ただ、黙り込んで考え込む。
考えていることは、正反対だったが。
(……本能的に短命タイプなやつが多すぎうr
おれが思うにバルばトスのような奴がまだたくさんいるのではないか?
だとしたらこんなところでグズぐズしているのは愚かしさ)
ソフトドリンクを喉に流し込みながらも、ブロントさんは現状をそう考えていた。
超一級のナイトである彼にとって、弱い参加者とは守るべき者である。
こうしている間にも参加者が減っているというなら、動かない理由はない。
だが。
(よかった、ゴミ蟲どもがさっさと殺しあってくれて。
どいつもこいつも早く死ねば私ががんばらなくてもなんとかなるもん。
この気色悪いコスプレクズに頼る必要もなくなるし。
早くゴミ蟲がお掃除されてどんどん死んでいかないかな……)
その脇で渚はただ、参加者が減っていくことを願っていた。
二人の考えはどこまでも、噛み合わない。
■
相変わらず、電波な内容の映画は続く。
八雲藍奮闘記予告編とかいうのが終わっても、次に流されたのは意味不明な電波ソング。
しかもメドレー。
『かっぱ巻き♪ かっぱ巻き♪ きゅ~う・りを巻~いて♪』
『あしな~め~な~さい~!』
正直、頭痛がする。
これならまだ朝比奈さんが歌わされた曲のほうがマシだった。
……ちなみに、グラハムさんはたじろくこともなく平然と画面を眺めている。
どんな精神構造してるんだろこの人?
『どうしたんだい? 顔色が悪いよ?』
「…………」
ユベル、お前もか。まあ人間じゃないから平気なのかもしれないけど。
訳わかんないものばっかり見せられてため息を吐いていると、
いきなり後ろのほうで鈴が鳴る音がした。
振り返るといつの間に取り付けてあったのか、入場口の手前に鈴が落ちている。
同時に、グラハムさんがやれやれと言った様子で立ち上がった。
「誰か来たようだ」
「……え?」
「映画館の売店に、たこ糸と鈴があったのでね。
大河が出立した後、仕掛けさせて貰った。
映画館の入り口である自動ドアが動けば糸が切れ、鈴が落ちる仕組みだ」
『意外と単純な罠だね』
「ま、そう言えばそうだな……さて」
冷静に話すグラハムさん。
こういう所を見ると確かにこの人、頭がいいんだろうなとは思う。
いやまぁ、根本的な性格に問題あると思うけど。
ともかく、映画の上映はまだ続いてる。今流れてるのは曲と変な画像だけど。
入場用の扉が防音仕様だとは言え、外に映画音声が漏れてないとは限らない。
その音に引かれて、入ってきた人たちが真っ先にここを目指すかも……
「……文さん、起こしますか?」
「いや、その前にまず隠れる。
普通の頭なら、糸が切れた時点で何らかの意図を感じ取るだろう。
頭を巡らす殺人者なら、奇襲の不可能を知りその場で退く。
その上でここへ向かってくるものは仲間を求めるものか、
ただ本能のままで戦う狂戦士、この二つだ。
後者なら私達が姿を晒していることは危険極まりない」
「はあ……」
わかったような、わからないような。
とりあえず、ここに古泉がいたら嬉々としてグラハムさんの言葉を解説しそう。
こうしている間にもグラハムさんは文さんを持ち上げて周りを見渡している。
……文さんを抱きしめたかっただけなんじゃないかと思ったけど言わないことにする。
ともかく一緒にカーテンの後ろに潜り込むと、同時に入場口の扉が開いた。
そこにいたのは……
「……なんとも奇抜な組み合わせだな」
「…………」
今回ばかりは、グラハムさんに同意。
視界に入ってきたのが、普通の女の子に角を生やした女の子に虎男という、
よくわかんない組み合わせだったからだ。特に虎男。
自称天狗の文さんの方がよっぽど人間っぽい。ユベルといい勝負だ。
三人(二人と一匹?)は首を動かして周りを見渡している。
私達はまだ見つかってないだけど、時間の問題のはずだ。
『モンスターかな。
個人的には、むしろ角が生えた小娘のほうが危険な感じがするんだけどね』
「危険な感じって?」
『勘だよ。
ただ、少なくとも何か特異な能力があるのは間違いない』
「……グラハムさん、どうしますか?」
「徒党を組んでいるということは、少なくとも無差別な殺戮者ではない。接触を図る。
君はここに隠れ、いざとなったら君の判断で射命丸を起こしてくれ。
彼女の戦闘能力は現状では切り札だ。できるだけ隠しておきたい」
てきぱきと告げて、グラハムさんは身を乗り出して懐中電灯を付けた。
三人の視線が集まる。けど、それは私には向けられてない。
堂々と歩いていくグラハムさんの姿は、しっかり注目を集めていた。
映画が上映中で真っ暗なのも、功を奏していると思う。
「私の名はグラハム・エーカー。
少なくとも、現状ではそちらと争うつもりはない。
そちらも似たような状況にあると判断するが?」
「アポロと言います。少なくとも、私はこのゲームを潰そうと考えています。
羽入さんやみさおさんも、無闇に人を害そうという気はありません」
豹男がものすごい礼儀正しく返してきた……見かけによらないなぁ。
ハルヒコがハッスルしそうだ。
「私は日下部みさお。
ま、ただの高校生だからいまいち役に立てないと思うけどさ。
グラハムは何かやってそうだけど……」
「これでも一端の軍人でね。誇りあるフラッグファイターの一人だった……
いや、こういっても君にはわからない可能性があるんだったな」
「え? どういうことだってヴぁ?」
「みさおさん、羽入さんの自己紹介を先に」
「あ、わり」
「……古手羽入なのです」
みさおとかいう普通の女子学生が一歩引くとともに、角が生えた子が挨拶する。
なんか、微妙に暗い。
ともかく私が隠れた状態のまま、グラハムさんは話を進めていく。
この三人は信用できると私は思うんだけど……いまいち出る機会がない。
ただでさえ真っ暗で、光は上映されてる映画と四つの懐中電灯だけだから尚更。
会話の内容は、情報交換へと移っていた。
「現在残っている危険人物としては、
白いワイシャツを着た白髪の青年と茶色の髪をした少女。
この二人は殺しに躊躇が無い。特に後者は、恐らく既に人を殺している。
見つけたら先手を打つかさっさと退くかのどちらかだろう。
それと、全身を黄金の鎧で身を包んだ騎士にも気をつけたほうがいいかもしれないな。
信頼できるのは逢坂大河という薄茶色の髪をした小さな少女と、
キョン子というポニーテールの少女、そして射命丸文という美少女。
伝聞ではあるがチルノという水色一色の妖精。こんなところか」
私が教えたことと文さんから聞いたらしいことを、
グラハムさんは分かりやすくかいつまんで喋る。
私と文さんはここにいないということになっているので、私たちについても述べてる。
……文さんだけやたら表現方法が違うのは気のせいだろうか。
とはいえそれに突っ込みを入れることなく、羽入が口を開いた。
「現状で私たちが知っているのは、フランドール・スカーレットという吸血鬼だけです。
たぶん、もしかしたら無闇に人を殺すことはなくなってるかもしれないのですけど、
危険なことには変わりないからあまり僕たちとは会わないほうがいいのです」
「……言葉が不明瞭だな。
ところで、会ったのは一人だけ、ということか?」
「いえ。
……その他の人は、みんな死んじゃったのです」
「失礼。気遣いが足りなかったようだ。
それで、そちら側は今後どう動くつもりか、計画を聞きたいのだが」
「特に決まっていないですね。グラハムさんは?」
「仲間との待ち合わせがある。ここからは動けん」
言うまでもなく、仲間とは大河のこと。
グラハムさんの答えに、アポロは手で頭を撫で付けた。悩んでいるみたいだ。
「そうですね……二人はどう思っていますか?」
「うーん、私に聞かれてもよくわかんね~な~……
アポロや羽入に任せるぜ」
「ここはグラハムに任せて、違う施設を見に行きたいのです。
近くが禁止エリアになった以上、ここにはあまり人が来ないと思うのです」
「了解した。ただ今後ここから動く可能性がある。
その場合は塔に向かうつもりだ。ここにいなかった場合はそちらへ頼む」
羽入の言葉にグラハムさんは返事をした後、支給品の交換などを行った。
聞く限りでは、アポロは弓の扱いが得意らしく弓を欲しがっているみたいで、
短剣と交換に彼(?)が弓を受け取るのが見えて。
更に新たな二人がその場に現れたのは、その時だった。
八雲藍奮闘記予告編とかいうのが終わっても、次に流されたのは意味不明な電波ソング。
しかもメドレー。
『かっぱ巻き♪ かっぱ巻き♪ きゅ~う・りを巻~いて♪』
『あしな~め~な~さい~!』
正直、頭痛がする。
これならまだ朝比奈さんが歌わされた曲のほうがマシだった。
……ちなみに、グラハムさんはたじろくこともなく平然と画面を眺めている。
どんな精神構造してるんだろこの人?
『どうしたんだい? 顔色が悪いよ?』
「…………」
ユベル、お前もか。まあ人間じゃないから平気なのかもしれないけど。
訳わかんないものばっかり見せられてため息を吐いていると、
いきなり後ろのほうで鈴が鳴る音がした。
振り返るといつの間に取り付けてあったのか、入場口の手前に鈴が落ちている。
同時に、グラハムさんがやれやれと言った様子で立ち上がった。
「誰か来たようだ」
「……え?」
「映画館の売店に、たこ糸と鈴があったのでね。
大河が出立した後、仕掛けさせて貰った。
映画館の入り口である自動ドアが動けば糸が切れ、鈴が落ちる仕組みだ」
『意外と単純な罠だね』
「ま、そう言えばそうだな……さて」
冷静に話すグラハムさん。
こういう所を見ると確かにこの人、頭がいいんだろうなとは思う。
いやまぁ、根本的な性格に問題あると思うけど。
ともかく、映画の上映はまだ続いてる。今流れてるのは曲と変な画像だけど。
入場用の扉が防音仕様だとは言え、外に映画音声が漏れてないとは限らない。
その音に引かれて、入ってきた人たちが真っ先にここを目指すかも……
「……文さん、起こしますか?」
「いや、その前にまず隠れる。
普通の頭なら、糸が切れた時点で何らかの意図を感じ取るだろう。
頭を巡らす殺人者なら、奇襲の不可能を知りその場で退く。
その上でここへ向かってくるものは仲間を求めるものか、
ただ本能のままで戦う狂戦士、この二つだ。
後者なら私達が姿を晒していることは危険極まりない」
「はあ……」
わかったような、わからないような。
とりあえず、ここに古泉がいたら嬉々としてグラハムさんの言葉を解説しそう。
こうしている間にもグラハムさんは文さんを持ち上げて周りを見渡している。
……文さんを抱きしめたかっただけなんじゃないかと思ったけど言わないことにする。
ともかく一緒にカーテンの後ろに潜り込むと、同時に入場口の扉が開いた。
そこにいたのは……
「……なんとも奇抜な組み合わせだな」
「…………」
今回ばかりは、グラハムさんに同意。
視界に入ってきたのが、普通の女の子に角を生やした女の子に虎男という、
よくわかんない組み合わせだったからだ。特に虎男。
自称天狗の文さんの方がよっぽど人間っぽい。ユベルといい勝負だ。
三人(二人と一匹?)は首を動かして周りを見渡している。
私達はまだ見つかってないだけど、時間の問題のはずだ。
『モンスターかな。
個人的には、むしろ角が生えた小娘のほうが危険な感じがするんだけどね』
「危険な感じって?」
『勘だよ。
ただ、少なくとも何か特異な能力があるのは間違いない』
「……グラハムさん、どうしますか?」
「徒党を組んでいるということは、少なくとも無差別な殺戮者ではない。接触を図る。
君はここに隠れ、いざとなったら君の判断で射命丸を起こしてくれ。
彼女の戦闘能力は現状では切り札だ。できるだけ隠しておきたい」
てきぱきと告げて、グラハムさんは身を乗り出して懐中電灯を付けた。
三人の視線が集まる。けど、それは私には向けられてない。
堂々と歩いていくグラハムさんの姿は、しっかり注目を集めていた。
映画が上映中で真っ暗なのも、功を奏していると思う。
「私の名はグラハム・エーカー。
少なくとも、現状ではそちらと争うつもりはない。
そちらも似たような状況にあると判断するが?」
「アポロと言います。少なくとも、私はこのゲームを潰そうと考えています。
羽入さんやみさおさんも、無闇に人を害そうという気はありません」
豹男がものすごい礼儀正しく返してきた……見かけによらないなぁ。
ハルヒコがハッスルしそうだ。
「私は日下部みさお。
ま、ただの高校生だからいまいち役に立てないと思うけどさ。
グラハムは何かやってそうだけど……」
「これでも一端の軍人でね。誇りあるフラッグファイターの一人だった……
いや、こういっても君にはわからない可能性があるんだったな」
「え? どういうことだってヴぁ?」
「みさおさん、羽入さんの自己紹介を先に」
「あ、わり」
「……古手羽入なのです」
みさおとかいう普通の女子学生が一歩引くとともに、角が生えた子が挨拶する。
なんか、微妙に暗い。
ともかく私が隠れた状態のまま、グラハムさんは話を進めていく。
この三人は信用できると私は思うんだけど……いまいち出る機会がない。
ただでさえ真っ暗で、光は上映されてる映画と四つの懐中電灯だけだから尚更。
会話の内容は、情報交換へと移っていた。
「現在残っている危険人物としては、
白いワイシャツを着た白髪の青年と茶色の髪をした少女。
この二人は殺しに躊躇が無い。特に後者は、恐らく既に人を殺している。
見つけたら先手を打つかさっさと退くかのどちらかだろう。
それと、全身を黄金の鎧で身を包んだ騎士にも気をつけたほうがいいかもしれないな。
信頼できるのは逢坂大河という薄茶色の髪をした小さな少女と、
キョン子というポニーテールの少女、そして射命丸文という美少女。
伝聞ではあるがチルノという水色一色の妖精。こんなところか」
私が教えたことと文さんから聞いたらしいことを、
グラハムさんは分かりやすくかいつまんで喋る。
私と文さんはここにいないということになっているので、私たちについても述べてる。
……文さんだけやたら表現方法が違うのは気のせいだろうか。
とはいえそれに突っ込みを入れることなく、羽入が口を開いた。
「現状で私たちが知っているのは、フランドール・スカーレットという吸血鬼だけです。
たぶん、もしかしたら無闇に人を殺すことはなくなってるかもしれないのですけど、
危険なことには変わりないからあまり僕たちとは会わないほうがいいのです」
「……言葉が不明瞭だな。
ところで、会ったのは一人だけ、ということか?」
「いえ。
……その他の人は、みんな死んじゃったのです」
「失礼。気遣いが足りなかったようだ。
それで、そちら側は今後どう動くつもりか、計画を聞きたいのだが」
「特に決まっていないですね。グラハムさんは?」
「仲間との待ち合わせがある。ここからは動けん」
言うまでもなく、仲間とは大河のこと。
グラハムさんの答えに、アポロは手で頭を撫で付けた。悩んでいるみたいだ。
「そうですね……二人はどう思っていますか?」
「うーん、私に聞かれてもよくわかんね~な~……
アポロや羽入に任せるぜ」
「ここはグラハムに任せて、違う施設を見に行きたいのです。
近くが禁止エリアになった以上、ここにはあまり人が来ないと思うのです」
「了解した。ただ今後ここから動く可能性がある。
その場合は塔に向かうつもりだ。ここにいなかった場合はそちらへ頼む」
羽入の言葉にグラハムさんは返事をした後、支給品の交換などを行った。
聞く限りでは、アポロは弓の扱いが得意らしく弓を欲しがっているみたいで、
短剣と交換に彼(?)が弓を受け取るのが見えて。
更に新たな二人がその場に現れたのは、その時だった。
■
sm150:少し頭冷やそうか(考察編) | 時系列順 | sm151:「正解」と「理想」 -Killer Queen-(後編) |
sm150:少し頭冷やそうか(考察編) | 投下順 | sm151:「正解」と「理想」 -Killer Queen-(後編) |
sm145:『キャーブロントサーン』 | 野々原渚 | sm151:「正解」と「理想」 -Killer Queen-(後編) |
sm127:戦う理由 | キョン子 | sm151:「正解」と「理想」 -Killer Queen-(後編) |
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