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Burst Behavior ◆WWhm8QVzK6






「ブロリーは死にましたか……そうですか」

期待していた結果だ。
だというのに、それほど嬉しくないと文は感じた。
きっとそれよりも重大なことがあるからだろう。
果たして運がいいのか悪いのか。
こんな役回りを自分がさせられるなんて、彼女は思いもしなかった。

デパートと、オフィスビルに隠してあるプレミアム首輪。
これを付けられるのはおそらく8人だけ。
その首輪を付けるべき者を、選定しなくてはならない。
より自分に有利に働くように、より安全に事が進むように。

先ず、生かすべきは当然自分。
その次にチルノが入ってくる。これで残り6人。
そして首輪の解析を行える者、1人か2人。
残りの4、5人は信用できる強い参加者で固めたい。
余計な策謀を持たず、かつそれなりの強さを持つ者。
ひ弱な一般人は論外。生かすだけ無駄。
変な企みを持つ者も入れたくない。そこから綻びが生じるのは目に見えている。
まあ、そういう人間には事実を伝えずにこの会場で待機……もとい放置しておくのも悪くはない。
しかしその選定は厄介だ。頭が回る奴相手だと、特に。

(私1人じゃ決めかねるわね……尤も、完璧を求めるなんて高望みなんだろうけど)

どうにかして決める方法はないか。
手っ取り早く分かりやすいものがいい。
悠長にしている時間はそれほど無いのだから。
グラハムの事もある。おそらく、奴が誰かと出会うには充分な時間だろう。
こうしている間にも着々と文の悪評が広まって……

(いや、でもこれ……使えるかもしれませんね)

ふと、ある事を思いついた。
これは文の身にも危険な事だが、どの道何もせずとも現時点で敵対関係になるのは分かっている。
ならば、それを利用してやればいい。

視界が開ける。
やはり外は暗闇で、周りに人の気配は無い。
文は一つ深呼吸をし、両翼を広げた。
空に溶け込むような漆黒の羽は、艶々と輝いている。

「と、その前に……」

文はメモ帳に走り書きをする。読める字で。
書き終えるとそのページを破り取り、何かを包んで折りたたんだ。

(ギリギリ信用できそうな……と言うより、協力しそうなのはあの人間くらいかしら。
 利害を見極められて且つ余計な私情を挟まないのは……)

多少の妥協は仕方ないか、気に入らないのは除いて。
そう考え、文は中空に飛び立った。
行ってしまえばものの5分とかかるまい。

目的地はオフィスビル。
奴が仲間の下に向かうのであれば其処しかないからだ。
危険は承知。渡らずして次の段階へは辿り着けない。
若干の不安を胸に秘め、文はさらにスピードを上げた。

   ◆◆◆


ところで、ドナルドら首輪解除班は未だにオフィスビルに入っていなかった。
目前まで来ているのだが、放送を聴いてから入ったほうがいいだろうということで隠れていたのだ。
で、放送を聴いた結果は。

「難しいな…」

手放しで喜べる状況ではない。
確かにブロリー死亡は嬉しいことだが、それで穏健な武闘派が何人道連れにされたことだろう。
危険思考の強者がブロリーに立ち向かうとは考えにくい。そういう手合いは最後まで力を温存するからだ。
ブロリーと戦ったのかは知らないが、結果美鈴は死んでしまった。
楽に利用できる者が1人減っただけでも彼にとっては痛手だ。
危険人物が残るよりも辛い事である。
タケモトは静かに下唇を噛んだ。
これ以上時間はかけられない。あらゆる行動を迅速に起こさねば、目に見ることすら出来ない。

バクラにとっては誰が死のうとさして気にはならなかった。
意外といえば意外だが、それも想定の範囲内だ。
何より、自身の力で確実に撃破不可能なブロリーが死んだのは僥倖であり、今のところは順調だろう。
しかし。

(こいつら、全然喋らねえ……)

コメント一覧には、起動してからの参加者の会話が表示される。
それは所持者の半径2マスにも及び、ある意味簡易探知機のような役割も果たす。
故に距離から考えて間違いなく自分達以外に参加者がいることは確実で、その名前も判明しているのだが。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
                              :
                              :
23:57 ときちく :おい。 

23:57 ときちく :数人、ここに来る。俺達の目的はあくまで情報収集だが、決して気を抜くな。今俺達が死んだら全て水の泡だ。
      だがあと少しだ。あと少しで人殺しなんてしなくてもよくなるし、全て元通りにできるんだ。

23:58 荻原雪歩:はい。
                              :
                              :
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これだけ。
後は延々と自分達の会話が続くだけである。
情報を得るもへったくれもない。
だがそれでも、バクラには充分だったようだ。

(やはり情報収集が目的か…。初めから分かってりゃ組しやすいぜ。
 それに相手は二人。関係はドライだな。お互い利害関係で繋がってんのか?
 だが、『全て元通りになる』……てことは、主催者の言うことを真に受けてるか、それとも……)

「バクラ、何か分かったのか?」

レンが惜し気もなく訊いてくる。
その態度を図々しく思いながらも、バクラは口を開いた。

「相手は2人。多分情報収集が目的だな。会話から見るに、大して仲は好くなさそうだ」

「……それだけ?」

「それだけだよ。こいつら、殆ど会話しねえ。俺達の存在を感づかれている節は無さそうだが……」
 
「ふぅん、どうする?ドナルド」

「正面から堂々と入ればいいんじゃないかな?情報が欲しいなら、ドナルドは喜んであげるよ」

真実か嘘かは別として。
それだけ言うと、ドナルドは再び考え込んだ。

(フーム、そういえばドナルドエクササイズは中級編までしか創ってなかったなあ。さらなる信者拡大のためにも
 急いで上級編を創らないとね。手始めにレンにでも躍らせようかなぁ)

現在の事態とは、全く関係がない。
そんなドナルドの思案顔を横目で流し、タケモトは立ち上がった。

「よし、準備は整ったしそろそろ行くぞ。時間は限られている」

「確かにいつまでも………座れ、タケモト」

バクラがタケモトの服の袖を引っ張る。
とりあえず文句を言う前にしゃがみこんだ。

「なんだ、バクラ」

言うより先に理解した。
バクラは少し険しい表情でディスプレイを睨んでいる。
厭な事になりそうだ、とタケモトは感じた。

「……グラハムにチルノ?おい、あの鴉女はどうした……!」

「何かトラブったか?…しかしどうする。会うにしても何処で捕まえれば……いや、それは問題ないか。
 あちらで行き先の見当は付けてるだろうし。……間に合うか?」

「目算で、200mくらいかな。でももう、間に合わないと思うよ」

ドナルドには何が見えているのか。
言わずとも知れている。

「行こうぜ、事態も把握できないまま中に入られたら面倒だ」

「ああ、早く行くぞタケモト!」

「わかってるよ……」

(何が、面倒、だ。先に真実を伝えられるのが怖いんだろ。グラハムらが知ってること以外の嘘しかつけなくなるからな。
 まあ俺としてはどっちでもいいんだが……中の奴の人間性にも拠るだろうな)

全力で走っても1分。しかし急な体力の消耗は禁物だ。
200mを全力で走るとどうなるかは経験するに難くない。
スタミナを落とさないようにするなら2、3分はかかる。
いや、ルート上の遮蔽物も考えればそれ以上か。
とにかく、4人は続けざまに走り出した。
何が待ち受けているかは誰にも分からない。


それと、同時刻。
一つの乗り物が、オフィスビル前に停車した。



   ◆◆◆



「よし、入るぞ。タケモト達も中にいるに違いない」

「……うん」

事情を説明されたチルノは少し疑問に思いながらも粛々と従い、結果的にオフィスビルへと到着した。
候補地は他にもあるのだが、雰囲気からしてここだろうと目星を付けてのことだ。

勢いよく駆け出したが、ちょうど自動ドアの前で二人は止まった。
ドアは開くが、それ以上前には進まない。
何しろ、目下はおおよそ水浸しになっているのだから。

「まさか…電流トラップ?」

グラハムは警戒度を引き上げる。
いささかありきたりだが、そう思ってしまうほど広々とした大理石の床は水で覆われていた。

「グラハム、どうなってんの?」

「……タケモトとバクラは何処だ」

厭な予感が脳裏を過ぎる。
もしかしたら、二人は――ー

『警戒する必要は無い。電流なんか流してないからな』

機械を通したような音声が中から響いてくる。
どちらにも、知らない声だ。

『安心しろ。お前の前には誰も来ていない』

見抜かれたような内容だ。
しかし、来ていないとはどういうことか。
まさか目的地は別だったとか……

「どこにいるのよ!隠れてるならこっちから仕掛けてやるわ!」

「なっ……!」

猛然とチルノが突進する。
グラハムには止められない、止まらない。
仕方あるまいと、彼は後を付いていった。

あまりの眩しさに目を細める。
外とは違い光にあふれたロビーは、それだけで目を眩ませる。
ビルの内部は全てが白い。そう錯覚させるほどの逆光だ。
二階は吹き抜けとなっていて、それが一階と合わさって大広間を作っていた。
縦横おおよそ30mあるかないか位の広さは、まさに無駄ともいえるスペースだ。
図太い柱が4本。対を為すようにそびえている。
一階を見渡しても人の気配はおおよそ感じられない。
チルノもさっぱりといった様子だ。

「出てきなさいよ。出てこないと、アンタを凍えさせてやるんだから!」

声が反響する。
返事は無い。
その代わり、グラハムは見た。

「………」

二階の踊り場に佇む一つの人影を。

混んだ装飾はあるが、全般的に白を基調とした服。
顔の表情はフードに覆われていて分からない。口元だけが視認できる。
がっしりとしたその身体は、鍛え抜かれた兵士のものだと理解した。

「……貴様は誰だ」

一秒。
沈黙はそれだけだった。

「もうすぐ多人数が来るようだから、その質問にはまとめて答えるさ。で、お前は誰だ?」

グラハムは一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに元に戻す。
ここは、相手の言うことをきいた方が無難だ。

「―――グラハム・エーカー」

「あたいはチルノだけど……タケモトはどこにいるのよ!」

「すぐに分かるだろうさ。…しばらく待とう」

男は動かない。
距離にして約20m。障害物はさほど無い。
武器は携えているようだが、手には持っていない。

空気が張り詰めている。
汚濁の無い静謐さが、グラハムにとっては逆に苦痛だった。
チルノの肩を掴み、静止を促す。
彼女はそれに大人しく従った。


ときちくは、それを黙って眺めていた。

(少々予想外だな。4人組とこいつらは仲間じゃないのか?それとも合流し損ねたか……。
 動くタイミングからして多分仲間か。やれやれ、残り20人程度しかいないのに6人グループとは
 中々だな。だがその分、リスクも大きいか……。どんな考えを持っているか分かったもんじゃないからな。
 こんな状況じゃ俺でも1人が精一杯だ。それにしても)

ふん、と二人の姿を見る。
明らかに、ときちくは二人を『知っていた』。

(グラハムと、チルノか……。1人はアニメ、1人はゲーム。創作物上の存在でしかない者が
 どうして現実で活動しているんだ?まあ、それを言ってしまえば俺の存在もそうなんだが、な……)

姿と名前を一致させることで、ようやく理解する。
といっても再生されるのはおおまかな情報だけで、細かい人物相関や特技などはいまいち記憶に現れない。
現状彼らのことも、グラハムはガンダムに登場した軍人、チルノは幻想郷の氷の妖精、ということくらいしか分かっていない。
もう少し情報を得るために、ときちくはグラハムに話しかけた。

「どうして此処に来た?」

「……その多人数の中に、私の同行者がいたら話そう」

「そうかい。だが、それなら念のために物陰に隠れておいた方がよくないか?」

「忠告感謝する。ところでこちらも訊いておきたい」

「何だ?」

「貴様は、殺し合いに乗っているのか……?」

つ。
と、グラハムの耳には聞こえた。

「愚問だな。狭義では殺し合いに興じている者をそう呼ぶだろうし、広義では最後まで生き残ろうとしている者をそう呼ぶことに
 なるじゃないか。生き残ることが、この殺し合いの目的なんだから。ついでに言っておくと、俺は生き残るつもりだ」

「…私達に敵意はないと捉えていいんだな」

「構わないさ。だが、周囲への警戒は怠らないことだな。何時何処でどんな危険があるか分からないんだぜ?
 死の危険は常に隣り合わせ。一瞬の油断が命取りだ」

「心得ているよ。職業柄そういうことには敏感なものでね」

しなくてもいい忠告をするあたり、本当に敵意はないとグラハムは感じ取った。
チルノは未だに訝しんでいるようだが。

ドアがスライドする。
其処には見慣れた仲間と、知らない者がいた。

「来たようだな。あれはお前の同行者か?」

「……半分そうだが、半分そうではないといったところか」

「グラハム…どういうことだ?」

一人の少年が若干声を荒げて言う。
説明責任があるとでもいいたげな貌だ。
何かあったのだろうが、ときちくには知る由もない。

「いいだろう。説明しよう……」



   ◆◆◆



「成程な……つまり、奴は殺し合いに乗ったということか」

「ブロリーも死んだし、改心するなんてことは無さそうだな…」

一同は重苦しい雰囲気に包まれる。
簡潔に事情を説明してもらったときちくも、黙り込んでいる。
相変わらず10mほど離れているのは変わりないが。

「そんなことさせない!文は私が倒して、考え直させるんだから!」

きっとそれは無理だろ……という空気が漂うが、チルノは気づかない。

「君は殺されないから大丈夫かもしれないけど、向こうはこっちを本気で殺しに来るんだろう?
 ならこっちも手加減はしていられないなぁ。あまり戦えはしないけれどね…」

ドナルドは折れた方の腕を労わるように摩る。
戦闘をしたくないという自己アピールが滲み出ているが、気づく者は気づくし気づかない者は気づかない。
気づいた方が有利なのは言うまでもないことだが。

「しかしグラハム、お前のそのキャラにも驚いたが……」

「こっちがデフォルトだ。まあ、もし前の人格に戻るような事があれば…そっとしておいてくれ」

触れない方がいいらしい。
そう判断したタケモトは、話を本題に移した。

「で、誰だあいつは?」

「それは当人からお聞かせ願おう」

その当人以外の視線が一斉に集中する。
明らかに得体の知れない存在。
少なくとも、この中でそれに出会った者はいなかった。

「名前はときちく。名簿を確認してもらえば分かる」

やはりこいつか、とバクラは思った。
となると話していたもう一人がいるはずだが……その姿は見当たらない。
ドナルドもそれには気づいているようだ。

「同行者がもう一人いるんだが、それは後で紹介する。こちとら余裕が無いんでね」

何の余裕が無いのか、文脈からしてさっぱりだがとにかく確認は取れた。
この男は二人組みで行動している。伏兵は、おそらくいまい。

(隠す気はねえってことか。それと力関係はこいつの方が上だな。おそらく強さはどう見積もっても人間の域を
 出てないだろうな……問題は、こいつの戦闘力だが)

バクラは男の身体を眺める。
自分よりも明らかに体格がいいし、佇まいに隙は見られない。
精神的な面なら漬け込める可能性はあるとしても、まともに戦っては勝てないだろう。

問題は、この男――ときちくのスタンスだ。
単純な正義感を持つ男ならば扱いやすい。薄っぺらな羊の皮を被っているなら引ん剥いてやればいい。
だが、その片鱗すらも見せない狡猾な善人であったなら。
はっきり言って、バクラにはそっちのほうが不都合だ。どうせなら同じ狡猾でも冷徹な殺人者であって欲しい。
正しいことを貫くものは、必ず自分を破滅させるだろうから。

「ところでさ、君はこの殺し合いに乗っているのかい?」

ドナルドは単刀直入に訊いた。
グラハムがそういう質問をしたという情報はとある手段で既に得ていたが、もう一度訊いておかねばならない。
しなければ少し不自然だし、再度どういう答えを出すのか知りたかったから。

「死にたいと思う人間は居ない筈だ。少なくとも、お前達もそうだろう?」

どっちつかずだ。
しかし、生き残りたいという意思表示をしたならば、扱いに問題が無ければ不意な裏切りはないと見ていいだろう。

「ところで、ここまで大人数の連合を作れるなんて、興味があるな。今まで何があったか聞かせてもらえるか?」

そう来たか、と一部は思う。
流動的な男の口調は自然と答えてしまいそうな雰囲気を与える。
だが所詮想定の範囲内の質問でしかない。
即座に、バクラは口を開いた。
嘘の情報で男を撹乱させるために。もとより、真実を教える気など毛頭ない。
グラハムがいる以上不用意な発言は出来ないが。
しかし、声を発する前に声に遮られる。

「いや待て。そういえば名前を聞いていなかったな。教えてくれないか?」

ごく普通の質問。
当然答えるのに憚りは無い。
各々が名前を告げ、ときちくは頷いた。

「じゃあ、タケモト…だったか。改めて、何があったか訊いてもいいか?」

「!?」

驚きを顕にするのを寸で堪える。
理由が分からない。何故、タケモトを選んだのか。
内心で不審感を憶えるも、バクラは文句を言うことができない。
タケモトはしばらく考えてそれに応じた。



   ◆◆◆



「成程な……」

危険人物の情報はおおよそ得た。
しかしそれの大半は既に放送で名前が呼ばれたらしく、注意すべきは数人程度。
呂布、射命丸文、藤崎瑞希、馬岱が生き残っている危険人物だ。
という風に、ときちくには伝えられた。

そして首輪無効化のために行動しているということ。
これに関しては彼は驚いたが(本当に試している者がいたのかという意味で)
さしたるリアクションはしなかった。実際首輪の無効化の目処すら立っていない以上、期待することは出来ないからだ。

最後に、誰得の部屋に関して。
これは全く伝えられてはいない。
グラハムが説明したときも彼が自身の判断で伏せたため、ドナルド達も知らない。

説明が終わる。
そこから、ときちくは思考を集約した。

(危険人物は本当と見ていいだろうな……少なくとも、馬岱という奴は俺も出会っているわけだし。
 射命丸に関しては野々原渚の事もあるし分からないな。危険視しておくに超したことはないが……)

名前を訊いておいて正解だと思った。
この白髪の少年……獏良は、果たして獏良なのかバクラなのかは分からないが、用心しておくに超したことはない。
裏の正確の方は確かやばかった筈だ。まともな情報を得られることはないだろう。
もっとも、彼がそっちでなかったら申し訳ないことだが。

故にこの中では俺の記憶にない奴に訊くのが一番だということで、タケモトに振ったのだ。
ドナルドはどういうキャラかよく分からないし、鏡音レンはおそらく要点をまとめられないだろう。
それで無難で危険の無さそうな奴にしたのだが、

ふと感じる違和感。
今までの者は、といっても実践したのは今だが、姿と名前が一致すればそういうキャラだと認識できた。
俺の記憶が情報を伝えているからだ。存在しないはずの架空のキャラクターが存在しているのはおかしな話だが、
現に存在しているのだからどうしようもない。似せたというわけでもなく、その当人そのものと感じる。
だが、このタケモトはどうだ。
該当する記憶が無い。姿と名前が一致しない。
偽名を使っているわけではなく、その名前は名簿にも存在する。
だというのに、俺はこいつを知らない。
拙い、失敗したかもしれない。俺はこいつに訊くべきじゃなかったのか――。


今のときちくには分からない。
知名度の問題だ。
もしときちくと同じような記憶の状態の者がいれば、ときちくを誰だか分かることは確率的にあまり無いだろう。
なぜなら、彼の姿はアサシンクリードのアルタイルそのものだからだ。
決して実況者である彼自身の姿ではない。
それは、タケモトにも言える事だ。
彼の姿は真実本人のものではなく、それは架空のものだ。
そして間の悪いことに、改造プレイ動画のステージを作っている作者の名前はそう知られてはいない。
故に、名を告げたところで合致することは無い。

(まあ、話半分に捉えるしかないか。こいつらと共に行動するならその心配は無いけどな……)

甘んじて共犯者になるか。
まだそうと決まったわけではないが、総合すると黒に近いグレーと推定せざるを得なかった。
無論全てを把握できたわけではない。しかし、その大まかな形態は理解できる。

タケモトという首輪を無効化できるかもしれない技術者を中心に添え、その周りを強者で固める。
そして出会った参加者に協力を仰ぎ首輪の無効化を可能とするための情報を集める。
幾度と離別と合流を繰り返し、現在に至ったのだろう。実に出来たシステムだ。
尤も、一番得をしているのは周りを固めた強者だろうが。

タケモトは首輪を無効化する意外に余地は無い。
喩えそれが嘘だとしても、そうするしか生きられないのだ。
守られていると言うことは、命を握られているに等しい。
一見安全に見えて実は危険な綱渡りをしているのだ。
強者には、首輪の無効化が出来なくとも優勝をするという選択肢が残されている。
優勝した後どうなるのか。約束すら守られないかもしれないが、可能性は在るのだ。
言い分としては首輪を無効化したほうが動きやすいから、辺りだろう。

しかしここで疑問が出る。
果たして、バクラとドナルドは強者なのか?
身体面で見ればただの人間でしかない。ときちくの記憶では少なくともそうだ。
ならば何か強力な支給品を扱えるとか。推測の域を出ないところが辛い。

(自分の立ち位置は危ういってのに……一体どう動けばいいのかね)

「ねぇ、こっちも教えたんだから君も何があったか教えてくれてもいいでしょ?」

生温い口調でバクラは話しかける。
先入観がある所為で、ときちくにはそれが不気味で仕方なかった。
しかし嘘はそう簡単に言えない。
こいつらが隠していることもあるだろうし、それに触れないように、なるべく単純に話すことにした。

彼が話したことは、さして多くは無い。
故に情報量は少ないと吐露してしまったようなものだが避けられないことだった。
触れられたくない箇所を避けようとすれば、どんどん話の肉が削ぎ落とされていく。
馬岱を襲撃したことは伏せ、単に遠くから発見したと嘘をつき、それと十六夜咲夜を見たことを伝えた。
野々原渚とルイージに関しては話の先すら出さなかった。

「そうか、中々辛かったんだね。ハンバーガーでも食べるかい?」

「いや、遠慮しておく……」

「そう言わずにさぁ、これはドナルドのささやかな気持ちだから受け取ってよ」

ドナルドはずいずいとときちくに話しかける。
まるで押し売りのセールスマンのようだ。

「いや、あんたが食べるべきだよ。その左腕を見る限り、体力を付けないと辛いんじゃないのか?」

「ふぅん。これはドナルドが創ったものだから食べてもあまり意味が無いんだけれどね……。
 けれど、辛いのはやっぱり君のほうじゃないかな?」

「……どうしてそう思う?」

ドナルドはにこりと笑い、

「そりゃあ君は今まで守る側だったんだろう?そのストレスは心中察するよ。上に立つものの苦労は
 計り知れないからね。でももう心配しなくていい。ドナルド達と一緒になれば、負担は少なくなるよ」

「……」

バクラは静かに目を瞬いた。
ドナルドがこの男を仲間にする気だと分かったからだ。
彼としては、不安は尽きない。
そう、例えばさっきの事態。
ときちくが、バクラからの答えではなくタケモトからの答えを求めたこと――。

(あれは何だったんだ……?名前を訊いた途端、俺への態度が変わったような気がしてならねえ。
 そしてドナルドでもなく、レンでもなくタケモトに訊いた。ここから導き出せる事は……)

アイツは、俺の事を…俺たちの事を知っている?

名前を訊くことで何かの情報を引き出せるのか。
いや、しかし。
確定したわけではない。ただこの仮説は逆もありうる。
とにかく分かるのは、既にバクラは危険視されているということだ。
下手な小細工は打てまい。

しかし、ドナルドが懐柔する気なのはある意味助かった。
常にドナルドに使われることになるだろうし、直接的に手出しはされないと見ていいだろう。
警戒はされても、不用意に近づかなければいい。
邪魔になって殺すにしても、自分の手で行わなければ良いだけの話だ。
万が一のときにも、不意を搗く手段はある。

「俺が同行することでそっちにメリットはあるのか?」

「もちろんさぁ。君のような勇敢な人がいてくれるなら、ドナルドは大歓迎だよ」

あくまでも優しく声を掛ける。
盾はいくらあっても困らない。
反抗するようであっても、お前程度なら叩き潰せる。
言葉の裏には、そういった思索があるのだろう。
そう思い、ときちくは考えた。

断るのは状況的におかしい。
ここで多人数と関係を悪化させるのは拙いし、今後の行動に影響も出そうだ。
しかしデメリットよりメリットが多いからといって安易に受けることは出来ない。
そのデメリットは全てが死に直結していると考慮するのが妥当だからだ。
危険を減らす、という意味では受けるべきなのかもしれないが。

「そっちはどうなんだ。言ってるのがアンタだけじゃ話にならないだろ」

「ドナルドがいいなら問題ないよ」

「別に構わんが」

「右に同じだ」

「まあ、いいだろ」

「あたいが守ってやるから大丈夫よ!」

「だ、そうだけど…どうするんだい?」

成程、異論は無いらしい。
まあ全員が同じ思惑ということではなさそうだが……

「わかった。そういうことなら協力させてもらう」

「よし、決まりだね。……そうだ、隠れてる君の仲間も呼んできたらどうだい?」

「ああ、そうする」

そしてときちくは、二階へと続く階段をゆっくりと上った。


「いいのかよ?あんなどっちともつかない奴を引き入れて……」

「ううん?君は了承したじゃないか」

バクラは小声でドナルドに話しかける。
この程度なら、聞こえはしないと判断して。

「大丈夫さ。使える奴なら丁重に扱えばいいし、役に立たないなら切り捨てるだけだしね。君も実際そのつもりなんだろう?」

「そうだけどよ……タケモト、お前はいいのか?」

「どっちでも構わないな」

「そうかい」

(訊くだけ無駄か……まあこれだけ目があれば暴走することもねえだろ。付け入る隙はあるようだから、俺寄りにしておくのも
 悪くは無いがな。問題は、どれだけ使えるかってとこだが――)

見ればあの男はまだ2階の踊り場にいた。
視線は届かないが、こちらを見ているのが分かる。

(まさか……聞こえてるなんてこたあねえだろうな……?いやいや、流石にありえねえか)

バクラは自嘲する。
少し神経質になり過ぎだ。もう少し余裕を持っても問題は無いだろう。
確かに短時間で色々あったが、流石に杞憂を心配するとはどうかしている。
やれやれ、とバクラは溜息をついた。

在り得た。

(予想通りか……。てか、バレバレだっつの)

ときちくのスキルには『盗聴』がある。
単にある程度の距離の会話なら聞き取れる程度、のものだが。
しかしその範囲は常人を圧倒的に凌駕している。
おまけに人の喧噪がない場所ならば余計に聞き取れてしまう。
異常な地獄耳を欹てた結果、ドナルド達の会話は楽に掴み取れた。

(そういう腹積もりなら、俺も俺の思うとおりに動かさせてもらおう。
 お前たちとは違って、俺は知らなければならないことがあるんだ。
 虚構の存在が闊歩している理由。そして、この場に俺がいる理由。
 だから何としてでも生き残り、真実を掴まなければならない。
 座席を譲ってやるつもりは無い。何も分からないまま、無為に死ぬわけにはいかないんだ)

廊下の突き当りの一室に入った。
此処が管理室となっており、その中に荻原雪歩がいる。
何をしているかは監視カメラで読み取れているだろうから、簡易な説明で済むだろう。
首を縦に振るか横に振るか、本人の気持ちは分からないが多分了承するだろうと踏んだ。
そうであってくれないと困る。事後承諾の形だが、委任したのはそっちなんだから文句は言わないでほしい、と。

「どうでしたか、ときちくさん」

「油断ならないな。特に白髪の軽装の奴と道化師は。一応奴らと行動することになったから、それなりに注意しておけよ。
 生き残るためには必要なことだからな。……それじゃあ、簡単に伝えるからちゃんと記憶しろよ」

「はい。……ところで、あともう一人来そうなんじゃありませんでしたっけ」

「ん?そういえばそうだな。失念してた」

急いで探知機を取り出す。
あと一人、何か乗り物に乗っているであろう参加者がいた筈だ。
時間的にもうすぐ来る頃だが……。

「………なんだ、これ」

確かに、そいつはもうすぐ来そうだ。
市街地だからか、少し遠回りして来ている。
だが、それ以上に遥かに問題なのは。

何倍ものスピードで、真っ直ぐこちらに向かっている、光の点があった。

時速にして約4、50キロ以上はありそうだ。
車で移動しているのか。だが、その考えはすぐに打ち消される。

(こいつ、市街地を横切っていやがる……!)

地面を走るならばそれは出来ない。
ということは飛行手段を持っているのか。
相手は空からやってくるのか、それとも。

「念のため、3階以上のシャッターを下ろしておけ。出来たら一階に来い」

「……わかりました」

即座に管理室を出て、階段を下りる。
ときちくの姿に気づき、ドナルドが声を掛けた。

「アラ?お仲間の方は来ないのかい?」

「すぐに来る。ところで、訊きたい事があるんだが」

「……答えられることなら何でも答えてあげるよ」

ときちくの雰囲気がただならぬ事に気づき、ドナルドは声を落とした。

「あんた達が出会った参加者の中で、車並みの速度で飛べるか、もしくはそういう支給品を持っている奴はいたか?」

バクラとタケモトは顔を見合わせる。
グラハムは思案顔だ。
チルノは、なにやら不安な様子を見せている。

「ねえ、車並みってどれだけ速いの……?」

チルノの質問がよく分からない。
何故そんな事を訊くのか。

「幻想郷で強いのは大抵飛べるけど……文は幻想郷最速なのよ」

重苦しい雰囲気が漂う。

「だけど、他にも飛べる奴はいるんだろ?」

「そうだとしても、一直線に向かってくる奴なんていそうにないが…」

タケモトは、はたと気づく。
何故今そんな質問をしなければならないのか。
答えは、それが近づいていることを知っているから。
こいつは、まだ何か隠している。

「おい、ときちく…だっけか。お前何で――」


ドン、と。
ガラスが砕ける音と石が砕ける音が同時に響く。
その凄まじさはビルを震動させるほどのものだ。
全員がそちらを向く。
煙が湧き立ち、破片が幾つか飛来してくる。
ドナルドはそれを右手で弾き、前方を見据えた。
浮かび上がる人影。だが、推理するまでも無く煙はすぐに晴れた。



「毎度御馴染み、射命丸文でございます。お初の方は以後、お見知り置きを」



仰々しい口調で、朗らかに。
口元をニヤリと歪ませて、漆黒の翼を緩やかに羽ばたかせながら。
幻想郷の鴉天狗は、大いに名乗りを揚げた。



sm216:運命 時系列順 sm217:Capital Chat
sm216:運命 投下順 sm217:Capital Chat
sm210:Bad People!? ドナルド・マクドナルド sm217:Capital Chat
sm210:Bad People!? 鏡音リン sm217:Capital Chat
sm208:変に落チルノ? チルノ sm217:Capital Chat
sm210:Bad People!? タケモト sm217:Capital Chat
sm212:第四回放送 射命丸文 sm217:Capital Chat
sm210:Bad People!? ときちく sm217:Capital Chat
sm208:変に落チルノ? グラハム・エーカー sm217:Capital Chat
sm210:Bad People!? 萩原雪歩 sm217:Capital Chat
sm210:Bad People!? 鏡音レン sm217:Capital Chat
sm210:Bad People!? 獏良了 sm217:Capital Chat






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