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いつもの昼休み


「えい、この、くそっ! あ! ああっ、またこれか! クソ、ピヨるなって…って、ちょ、やめやめやめあぁぁぁぁぁぁ!」

秋風も心地よい、ある晴れた日の昼休み、
学校の校舎の屋上の一角で男が一人、端から見れば意味不明な叫びを上げていた。
その彼が手にしている携帯ゲーム機の画面には、
無様なポーズで地に倒れ伏したごてごてとした装備の男と、【力尽きました】とのメッセージが表示されていた。

「おい、さっきから何一人で騒いでるんだよ……見てるこっちからすると馬鹿みたいに見えるぜ?」
「いやな、またティガにハメられちまってよー……これで三度目だ、同じパターンで乙るの……
うー、これクリアしないとランクが上がらないってのにー、悔しいなー……」

その横でヤキソバパンを齧っていた同級生が、彼の方へ顔を向け半眼混じりに問い掛ける。
その問い掛けに対し、彼は同級生をちらりと見やると、何処か悔しそうに言いつつ携帯ゲームの画面を見やった。
ちなみに、乙る、と言うのは、
彼が今やっているゲームで言うプレイヤーが敵モンスターに倒された事を指す言葉である。

「お前な……また馬鹿正直に真正面から斬りかかったんじゃないのか? それだと攻撃食らうのも当然だぜ?」
「う、何故分かる? まさかお前さんはエスパーか!?」
「いや、お前の事だからそうするだろうなーって思っただけだよ」
「ぐ、本当にそうだから反論できん」

同級生に図星を突かれた彼は、思わず呻き交じりに言葉を漏らした。

「……にしても、お前がモンハンやってるのを見てると、なんかすっごい違和感を感じるんだがなぁ」
「んあ? 何でだー?」

唐突に同級生が言った言葉に、彼は不思議そうに首を傾げる。

「いや、お前の顔ってどう贔屓目に見てもモンハンのレウスそっくりなんだよ、
つか、お前はどちらかというと狩る立場より討伐される立場にしか思えないんだよな。
だから、そんなお前がモンハンやってるのってどうかなーって思って」

「うっせー! リザードマンがモンハンやって悪いかー! 
しかも人が一番気にしている事をー! 本当に火を吐くぞー、ぎゃおー!」

同級生にからかわれた事に対し、彼は同級生に向けて口腔に並んだ鋭い牙を剥き出しにしてきしゃーと威嚇し、
更に不機嫌そうに尻尾の先端をバシバシと屋上の床へ叩き付ける。
そう、彼は全身を硬質かつ鋭角的な赤褐色の鱗に覆われた身体に、指先に凶悪なまでに鋭い爪が生えた屈強な手足、
そして腰から伸びる長い尻尾を有する二足歩行のトカゲの姿をした、所謂リザードマンと呼ばれる種の獣人であった。


「ハイハイ、お前じゃ如何頑張ってもバインドボイス(いわゆる大声)くらいしか出せないって。
それに、その怒っている姿は余計にクリソツに見えるんだけどな」

下級生ならば確実に恐れおののいて逃げ出すくらいの彼の威嚇を、
軽く受け流し、それ所か彼に向けてへらへらと笑って見せる同級生は小学生時代からの彼の親友である。
ちなみに、この同級生は普通の人間である。

「うあ、ムカツクその言い方。
くっそー、俺だって頑張れば火くらいは吐けるんだぞ!……まあ、ウォッカとか色々必要だけどな!」

「それってただの大道芸だろ常考」
「う、それは言わない約束だ」
「何時何処で約束したか知らんが、ボケに対して突っ込める時に突っ込むのが俺の正義だ。
そしてその俺へくだらんボケをしたお前は全面的に悪だ。ついでに見た目も悪っぽいし」

「うわ、一方的に悪扱いされた!? しかも容姿にダメ出し!? ショックだー!」

同級生の言葉に、彼は無表情ながらガビーンと効果音が思わず聞こえてしまう位の大げさなリアクションを取る。
その様子に同級生は苦笑しつつ

「まあ、お前はそのナリの割にその性格だからなぁ、なんかお前と話しているとこっちは楽しい気分になれるんだよな」
「…それって遠回しに俺を馬鹿にしてるのか?」
「いやいや、違うって。それは良い意味でって言ってるんだ」
「なら良いけど……でも、それでもなんか微妙な気分だなー……」

呟きを漏らす彼の気分を表すように、尻尾の先端が何処か不満げに僅かに左右に振られる。
その様子を見て取った同級生は彼の背中をぽんと叩くと、

「はは、からかって悪かったな。
そのお詫びにってなんだが、お前が今てこずってるティガの攻略、俺も手伝ってやるよ」

言って、ポケットから彼の持つ携帯ゲーム機の色違いを取り出す。
それを見た彼は、ぱあっと目を輝かせ(リザードマンには表情筋がない故、無表情に等しいが)

「何!? そりゃマジか!? よっしゃー、お前さんが来れば百人力だー!
待ってろよー、ティガレックス! 今からボコボコのギッタンギッタンにしてやんよ!」

まるで今勝ったかの様にガッツポーズで喜びを顕にし、尻尾をブルンブルンと大回転させる。
その様子を何処か楽しそうに眺めながら、同級生は自分の携帯ゲーム機の電源を入れたのだった。

                              * * * 

「なあ、前々から疑問に思っていた事なんだが、今、聞いて良いか?」
「ん? 疑問って何だ?」

放課後、家路に付いている最中、
彼と同じ帰り道である同級生が彼に対して疑問を投げかけてきた。

「いや、お前の、その全身に刺々しい鱗がある身体ででさ、シャツとかどうやって着てるんだろうなーって」
「ああ、それかー?、俺達が着るシャツとかは筒状になっている部分が全部開く様になってるんだー
ほら、肩口から袖口の部分へチャックがあるだろ? 袖を通す時は鱗が引っかからない様にここを開くんだ」

いって、彼は肩の上に付いてあるチャックを同級生へ見せる。
どうやら、服に引っかかる鱗を持つ彼らのような種族が着る服は完全に開きに出来る構造らしい。
それを見た同級生は納得した様に言う。

「なるほど、なかなか面倒な構造してるんだな」
「ああ、面倒だよ。シャツ着るのにも一々前のボタン留めて、
そして肩のチャック締めてってやらないと行けないんだぜ。
しかもズボンは尻尾穴の為に後にも切れ目があるもんだから、たまにズボンの前後ろ間違える時もあるんだ。
この前、通学中にそれに気付いたときは本当に焦ったよー」

彼は言いながら、何処か恥かしそうに人間で言う後頭部のあたりをぽりぽりと掻く。

「ああ、道理であの時妙に焦ってたなぁ? と思ったらそう言う事だったのか」
「恥かしい限りだよー。 この事が他の奴に気付かれてないか本当にビクビクもんだったぜー」
「……其処で残念なお知らせだが、あの時近くに居た虎山さんはとっくに気付いてたみたいだぞ?
この前、虎山さんが狭山の奴へその事を話していたのをたまたま立ち聞きして知ったんだけどな」

「うげ。それスッゲーショックだー! しかもよりによって虎姐さんに知られちまうなんて最悪だー!」

知りたくなかった事実を同級生から知らされた彼は思わず頭を抱え、尻尾を項垂れさせる。

「別に良いじゃねえか、それくらいの事で一々気にするなよな」
「そうだな、なら気にしないことにするー」
「うわ、立ち直り早っ!?」

彼の余りの立ち直りの早さに、同級生は思わず驚きの声を上げた。

「立ち直りの早さと変わり身の早さは俺の美徳だぜー。
所でさー、話変わるけど、今度はシェンガオレン倒すの手伝ってくれないかなー?」

「本当に変わり身早いな……つか、それぐらい自分でやれ。何時までも俺に頼ってちゃお前の腕前が上がらんぞ」
「……う゛ー、分かった。何とか一人で頑張ってみるよー」
「(どうせ、こいつの事だから、すぐに俺に泣きついて来るんだろうな……一応、念の為に準備しておくか)」

その懸念は同級生が予想していた通り、家に帰った十数分後、
彼が半泣きになりながら同級生の家に駆け込んできた事で現実のものとなった。

―――――――――――――――――了―――――――――――――――――