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最悪の隣人

 「一週間 毎晩夢に きみが 現れて リアルに側に居る ウウッウ~」
 「………やめて………」
 「サーカス団 軽業師 さながらに 満面の笑みで 自転車 乗りこなすー」
 「……やめてよ……」
 「焦る僕をからかって 上手く話せない。きみは無防備装って 触れそうな距離」
 「やめろォ!」
 「あー? 俺様はただ単にthe pillowsのご機嫌なナンバーを歌ってるだけだぜぇ」
 「うるさいんだよ!音痴!」
 「ぐぴぴぴぴ。死神野郎の実習はたった五日だろうが? それでそのザマかよ淫乱!」
 俺のからかう声がクロナの喉に突き刺さったかのように声も出ないようだ。
 「足の爪の先から瞼の裏、ケツの穴の中まで可愛がって欲しいんだろぉ? あの腐れ死神によ!」
 「……う……うう……」
 下品な罵りに何も言い返せなくて、それでも無視できなくて、それでも口からは踏み潰される蛙み
たいな潰れた声が出ただけだった。睨みつける目が恨みがましくて最高にセクシーだぜ!
 「ゲシャシャシャ!いいオチだなクロナ!全く、最高にくだらねぇ!欲望に振り回されてりゃ何も
かも忘れられていいな!お前はただ逃げてるだけで、何の解決にもならねぇ!」
 俺はいつだって“何もしないこと”にだけ腹を立てた。
 「……だって、だって……!抱かれたら、温かいんだよ……!」
 こいつが何か行動を起こすのなら、いやいやでも今までは付き合っていたのにな。
 「その半開きの寝てんだか起きてんだかわかんねー目を開け。そして見ろ。この世はテメーにとっ
て何一つ優しくなんかしてくんねぇんだよ。あいつはお前の魂を刈り取る死神で……」
 それなのに何故、こいつにしては能動的なことしてるはずなのにムカついてんだろうな。
 「うるさいな!解ってるよ!……そんなこと言われなくたって解ってる!」
 ああ腹立たしい。
 「ヘェー。解っててコレかよ。ますます救えねぇ。悲惨だ、主に俺様がな」
 いつにも増して腹立たしい。
 「いいかクロナ。お前は誰の側にも寄っちゃいけないんだ。あの腐れ死神が俺様の毒を無効化する
ってのは単なる偶然で、運命でも希望でもねぇ。忘れるな、呪われた魔女の子。お前はお前の道があ
る。俺様はその道を切り開く為に“蛇の魔女”からもたらされた“草薙の剣”だ。お前の心が鈍れば
俺は意味がなくなる。なあクロナ、俺を捨てるなよ。一時の感情に道を見失うな。それはお前が死ぬって事だ」
 何故こんなにも腹立たしいのか解らなくて腹立たしい。
 「解らない!解らないよラグナロク!まるで僕が恋をしちゃいけないみたいだ!」
 おお珍しい噛み付いてきやがったぜ。アホの死神に何か吹き込まれやがったのかな。
 「……違うぜクロナ。こいつは恋じゃない。お前解ってるんだろ?懐いてるだけさ。頭を撫でられ
ていい気分になってるだけだ。恋なら、考えてやれ。
 お前にしがみ付かれて身動きできない死神野郎の心中ってヤツをよ」
 目に見えるなんて生ぬるいほど顔色が変わって、こっちは満面の笑み。主題をずらされていること
にすら気付いてない。全く、ガキだ。泣けてくるほどにクソガキだ!
 「哀れなもんだぜ。リズもパティも、死神野郎とお前に気を使って遣り繰りして時間を作ってくれ
ている。本当は誰より側に居たいだろう死神野郎の隣りをお前に譲ってる。死神野郎は今まで孤独で
可愛そうな人生を歩んできたお前を一人に出来ないだけなんだ。それを馬鹿が勘違いしてさ、滑稽だね」

 「…………うそ……」
 かすれる声、ああなんと心地いい!畳み込む饒舌はいよいよなめらかになってきやがる!
 「嘘なもんかよ。お前の目が曇ってるだけだ。お前は邪魔者なんだ。マヌケのピエロだ。マカだっ
てそうだ。あいつはお人よしだからな、いつまで経っても独り立ちできないお前を仕方なく構ってる
だけなんだ。可愛そうなのはソウルだぜ。パートナー取られちまってさ、いい面の皮だ」
 「うそ……!」
 ひび割れる声、絞られてゆく瞳孔、ハハハッ背筋があわ立つぜ!
 「それを友情だの、愛情だの。ハッ、馬鹿かテメェ!人の迷惑ってものを全く考えてねぇ!俺に言
われるまで気付きもしねぇ!ほんっとに救えねえ愚鈍だ!間抜けの白痴だ!」
 「うそだ……!嘘だ!そんなの嘘だ!」
 「なら言い返してみな。ほら、どうしたよ? ラグナロクのいう事はみんな嘘だって言ってみろよ」
 「うそだよ!そんなの、何の根拠もない!」
 「ぐぴぴぴぴ。そうだな、そうだな。そうとも、そうとも。……で?それで?」
 「うそ……嘘に決まってる……だって、キッドは、僕のこと好きだって言ってくれたもの……マカ
は僕のこと友達だって言ってくれたもの……!」
 「そうだな。言ってくれたな。じゃあそれを信じろ。俺の言葉に魂揺らすなよ」
 「うそうそうそうそだうそだ……うそ、うそだよぉ……!」
 「所詮他人は他人だ。信じるに値するものなんてねぇ。確かなのは絶望だけ」
 俺は甲高く叫び声を上げた。悲鳴が魂を著しく振動させて魂が膨れ上がってゆく。
 怒りと悲しみと不満だけが俺達をつなぐ。そいつは悪くない。そうだろう、クロナ。 
 「忘れるなクロナ。お前が両手に頂くのは魔剣ラグナロクただ一本のみさ」
 ……なんて言いながら、頭のどこかがこんだけ引っ叩いてもどーせあのアホが帰ってきたら泣き付
きに行くに決まってる、と囁いた。
 ますます救えねぇ。悲惨だ、主に俺様がな。





著者コメント

ラグナロクのデレは外に出しちゃいけないよ派参上
内心だけで出れてればいい