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史無国 拾参

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作戦会議が終わって数刻後、斥候部隊から報告が入った。

「総帥、報告いたします!」
「おう、頼む」
「敵の数はおよそ7万、三軍に分かれての進軍であり、それぞれの軍に指揮官が居る様子です」
「指揮官の情報は分かるか?」
「我々の部隊ではそこまではわかりませんでした。ですが、内偵部隊の方が入ればご報告ができるものと思われます」
「そうか、ご苦労だった」
「はっ!」

その斥候部隊の隊長は、こまやかな報告の後、再び部隊の統率へと戻った。
それを見てレイムッドはふとつぶやく。

「……あの者、女か?」
「ほう、レイムッド殿、流石は目聡いですな」
「どういう意味かな、ランディール殿?」
「はっはっは、冗談じゃ、冗談」

レイムッドはゴホン、と咳払いをして、続けて言う。

「して、あの者、女であるのは分かったのですが、何故現場の部隊指揮を?」
「ああ、そういうことですかな」
「うむ、確か『公爵の智嚢』所属の斥候部隊の女性というものは、情報統制の事務作業に従事しているものと」

ランディールはふと顎に手をやって考え込むような素振りを見せたが、間を置かず言う。

「あの者、ケレン・ド・ラムルマ子爵殿は、元々お父上が斥候部隊の総隊長であったのだ」
「ラムルマ……? ああ、先日亡くなったフォーズラン殿か」
「左様。それで、父の後を継いで斥候部隊の指揮をやってくれておるのだ」
「しかし」

レイムッドは傍にあった林檎を一つランディールに投げた。
自身もそれを齧りながら言う。

「斥候部隊は世襲制はとって居らんのであろう。わざわざ斥候などという危険極まりない職に就かんでも良かっただろうに」
「本人たっての希望、でな。それに、斥候部隊はその危険性から、隊長を進んでやろうという者が居らんのだ。こっちとしても助かっている」
「ふむ……」
「しかしレイムッド殿。なぜそのようなことを?」

ランディールが聞くと、レイムッドはふと笑いながら言った。

「いや、ウィノナ……妻のことを少し思い出してしまってな」
「ああ、そういうことですかな」

そう言うとランディールは手元の地図に、敵の三軍の概算兵力をそれぞれ書き込み、懐へと収めた。
と、丁度その時ケレンが再び駆け込んでくる。

「総帥、敵の指揮官及び兵力が確認できました!」
「よし、教えてくれ」
「まず右軍ですが、指揮官はアレイト・スフォンドル侯爵、兵力は2万」

それを聞いてランディールが素早く地図を出して、名前だけを書き込む。
兵力を書きこまなかったという事は、概算兵力と同じであったのだろう。
ケレンはつづけて言う。

「左軍はフォスター・ラタナージ子爵、兵力は2万。中軍はイード・ヴォルレンケル伯爵、兵力3万、合わせて7万となります!」
「ご苦労だった。引き続き、偵察の仕事を頼む」
「はっ」

ケレンは、あわただしく去って行った。
どうやら引き続き情報の収集に走るらしい。
エルムッドは立ち上がりながら言った。

「ティタルニア、クラムディン。兵8000を引き連れて右軍スフォンドル侯爵指揮の軍を撃滅せよ」
「承知」
「私とランディール殿は兵1万を以て中軍ヴォルレンケル伯爵指揮の軍を殺る。シェイリル、アドルフ、ジェリノール卿はデインガルド軍にトリエスト軍2000を加え、左軍ラタナージ子爵指揮の軍を討て」
「仰せのままに」
「各自作戦は任せる。すでに配置した罠や陥穽の位置をよく把握し、好きに使うが良い。それと、軍の分断をされぬ為に、二刻に一回、伝達の兵を出すよう」

レイムッドは腰に挿してある剣を抜きながら言った。

「では、皆。いざ、行かん」

レイムッドの一言で、その場にいた全員の目に闘志が宿った。

「アドルフ、テレグランツェ殿、行こうか!」
「おうよ、シェル! 『クリノールにエレナーデあり』と、もう一度叫んでやる!」

デインガルド組三人は真っ先に営舎から飛び出し、デインガルド国境軍が駐屯する人へと駆け去っていく。

「それではレイムッド。健闘を祈る」
「ああ、ティタルニア。『クリノールにエレナーデあり』の叫び、息子に取られるんじゃないぞ?」
「フン、取られるだろうよ。今じゃ、あいつの方が俺よりもずっと強い」

そう言い残してティタルニアは外へと出た。
少し離れた場所ではクラムディンがランディールと最後の簡易軍議を行っている。
と、それもすぐに終わったようだ。
ティタルニアを追って外に出る時、かすかにレイムッドを振り返って手を挙げた。

「では、ランディール殿。俺たちも行くとしましょうか」
「うむ、レイムッド殿。辺境地方の軍の底力、帝都の温室育ちの軍に知らしめてやりましょう」

そう言って二人も営舎を出た。
と、馬をつないでいる厩舎に向かう途中、ランディールがふと訊いた。

「そういえばエルムッド殿。先ほど貴方の剣を拝見しましたが、変わった剣ですな」
「そうですかね?」
「うむ。リムノールではあまり見ない、片刃の剣である。それも、やはりシルクロード向こうの唐からの仕入れ物ですかな?」

レイムッドは、ふっと笑いながら言う。

「この剣のもともとの剣は、唐よりもさらに東の、倭国という国の剣だそうで。非常に鋭く、切れる剣でしたが、若干脆いものでな」
「ふむ」
「折れるたびその剣を鍛え直してはまた折れて、という試行錯誤を繰り返すうちに、鋭い切れ味を持ちつつ丈夫な剣、という物を鍛えることに成功したのだ」

レイムッドは一閃だけ空を切ると、鞘に収めた。
ランディールは豪放に笑いながら言った。

「しかし、その剣もかわいそうなものだ」
「なぜだ?」
「その剣を使う機会がないまま、この戦は幕を下ろすだろう。某の策でな」
「はっはっは、そう願って居る、ランディール殿」

二人は馬に乗ると、トリエストの精鋭軍1万の前に立った。
レイムッドは息を大きく吸い込むと、ただ二言。

「全軍、前進」

その言葉だけで士気が跳ね上がったトリエスト軍は、3倍する敵相手に臆することなく進む。
かくしてここに、グラムドロヌスの前哨戦が幕を開けることになるのだった。