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史無国 拾四


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エルムッドは、震えていた。
その隣でセリックとテレシスも、震えていた。
寒いのでも、怖いのでもない。

「……これが、武者震い、か」
「あんまり、いい気分はしねぇな。だが、不思議と力は湧いてくる」
「前線戦闘部隊じゃない僕らですら、これなんだ。シェルさんやアドルフさんはどうなってるんだろう……」

参軍のテレシスですら震えているのである。
相手はフォスター・ラタナージ子爵が指揮する、帝国中央軍2万。
対するデインガルド・トリエスト混合軍は、デインガルド兵が5000、トリエスト兵が2000である。
エルムッドらの300は、このトリエスト兵2000の中の一部隊であった。
トリエスト兵の指揮官は、デインガルド軍統括役のジェリノール子爵が執るらしい。

「どうせなら、シェル兄とアドルフ兄貴の直轄が良かったな」
「……文句を言うな、セリック。ジェリノール卿はシェルの家庭教師も務めたことのある人なのだそうだ」
「そうなのか?」
「うん、そうらしい。だから戦争の腕にかけては、折り紙つきってことさ」
「何でそう分かるんだよ?」

アドルフが不思議そうに尋ねた。
エルムッドが呆れたように言う。

「……無能なら、わざわざ太守になったシェルの為に、公爵が遣わす筈がないだろう」
「そういうことか」

アドルフは妙に納得したように手を叩いた。
と、その時である。

「エルムッドさん、伝令です!」
「……イースか、どうした」
「いま、シェイリル様からの使者で、『直ちに北西の陥穽を切り崩し、その中に潜め』との命令が」
「……陥穽の中に? 死.ねということか」
「いえ、どうもその陥穽は底まで2mほどしか無いらしく、また地盤もしっかりしているので隠れるには最適のこと」
「……塹壕の代わりか。分かったと、使者に伝え.ろ」
「はい!」

イースはすぐに走り去っていた。

「……では、俺の部隊は命令通り、陥穽の中に潜むことにする。伝令は入っているだろうが、ジェリノール卿にその旨を伝えよ」
「はい!」

エルムッドの傍にいた兵が一人駆けていく。
それを見送って、エルムッドの部隊は動き出した。

四分の一刻後、エルムッドの部隊は陥穽の前にやってきた。
『公爵の智嚢』が手をまわしてくれたのか、すでにかなり崩されて地盤が固められている。

「セリック」
「おう、何だエル」
「歩兵は残りの土を運び出して、陥穽の前に土塁を。空気穴を確保して、穴はカモフラージュしておけ」
「エルはどうすんだ?」
「……俺は騎兵だからな。穴の中に入るわけにはいかん」
「そういうことか」

エルムッドは騎兵を連れて、ちょうど陥穽から死角になっている小山の裏へと駆けていた。
セリックはイースとネアに命令を出して土を運ばせる。
と、テレシスがダナンを呼んで何かを話している。
ダナンはテレシスに何かを聞いたあと、兵を数名連れて走り去って行った。

「何言してたんだ?」
「この辺りの地形の確認をね。僕はこの辺りの地形を完全に知らないからさ」
「おう、精が出るねぇ。お前のそこが、お前の兄貴とは違うところだな」
「……兄上は、天才だから。僕は、追いつくためには努力しないとね、ハハ」
「お前みたいなやつのことを、俗に秀才って言うんだよ」

セリックは、大笑いした。
それにつられてテレシスも笑う。
その時、ダナンが帰還した。

「参軍殿! 敵の分隊2000が進軍中です!」
「地形は調べたかい?」
「それはもう、ばっちりですよ。下準備も終わらせました」
「それじゃネア君に、そっちの方の指揮をしてもらおうかな。ダナン君とイース君は、セリックと一緒に歩兵の指揮をしてくれると嬉しいね」
「了解です」

三兄弟は、それぞれの責務を果たす為に配置につく。
と、向こうの方に砂煙が見えた。

「若干騎兵が多いようだな」
「まあね。ここはグラムドロスの中でも、まだ騎兵が使える場所だからね」
「だな。んじゃ、やるか」
「うん」

そう言って、テレシスはネアに見える位置に立った。
そして、敵が手前500mぐらいに迫ったとき。
手を上げて、振り下ろした。
刹那、大地が揺れる音がした。



デナールは、チャンスルの軍営でうつらうつらとしていた。
クリノール陥落後に残るは、オリノールだけである。
なので、昨日そのオリノール領主マキャベリアン・ガラディノール公爵が居を構える州都・ジェンロンに、降伏を勧める使者を送ったのだ。
しかし、そろそろ帰ってくるだろう、と思い待っていたのだが一向に使者が帰ってこない。
何時の間にやらうつらうつらとしていたのであった。
が、その浅い眠りは帝国兵の叫び声で破られる。

「で、デナール様ぁぁ!」
「……! ぬう、寝ていたか……」
「デナール様、大変でございます!」
「なんだ……!」
「こ、これが軍営の傍に、お、おちて……」
「……これは」

兵が持っていた物。
それは、昨日送った使者の首だった。

「……ご丁寧に、返書まで認めておるわ」

首の後ろに、血ぬりの羊皮紙が張ってあった。
それをはがすと、デナールは広げて一瞥する。

――我が領地が欲しくば、戦って奪い取られよ――

「……くそっ!」

返書を破り捨てると、即座に外に出る。
そして、指揮官に向いた、よく通る声で怒鳴る。

「全軍……! 出撃ぃぃ!」

その声に呼応して、帝国中央軍の兵たちもすぐに動き出す。
総勢21万を擁するオリノール攻撃軍が整然と整列する様子は、まさに圧巻であった。

軍が動き始めて、暫く経った時。
デナールのもとへ近づく人影があった。

「デナール卿、いえ、陛下」
「ああ、遅かったな」
「いろいろと下準備か必要なものでね」
「フン、そうか。それでは、策の通りに動いてくれ」
「仰せの通りに」
「期待しているぞ」
「はっ」

その人物は、静かに立ち去った。

「くっく……これで、帝国のすべてが私の物になる……くっははは」

軍営の中ではしばらく、デナールの笑い声が響き渡っていた。