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15話


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 紅兎(ホントゥ)は王宮の敷地内の近衛兵専用の兵舎に来ていた。王宮を騒がせたあの事件から、早くも10日が経過していた。あのあと虎は兵士数十名がかりで捕らえられた。幸い死者は出なかったものの、かなりの数の怪我人が出たらしい。蒼豹(ツァンバオ)もそのうちの一人だった。人づてに聞いたところ、かなりの重傷のようだが、死んではいないらしかった。心配ではあったが、あの後王族の警護は平時の数倍の厳重さだったため、今まで体が空かなかったのだ。事故として処理されているはいえ、万が一のことがあってはならないからだ。星光(シングァン)の命令という建前が無ければこうして様子を見に来ることはできなかっただろう。

『行ってこい』
『・・・・・・は?』
『仲間が心配だろう。お前は盾三人の中でも人一倍仲間に気を遣ってるから
な。お前明日非番にしてやる。蒼豹の見舞いに行ってこい』
『・・・・・・しかし』
『いいから行け。お前が居ない間は近衛兵を増やすから大丈夫だ。
命令だ。行ってこい』

というわけで今蒼豹の居る兵舎の前に来ているのだ。中に入って廊下を進み
階段を上がる。二階の3つ目の部屋に、彼女の名が書いてある札が掛かって
いた。

「蒼豹、紅兎だ。居るか?」

 部屋の中からは、しばらく何の反応も無かった。留守ということは無いだろ
うし、寝ているのだろうか?
紅兎が出直そうかと考えていると、突然何の前触れもなく引き戸が右側に開
いた。

「お前、居るなら返事くらいしろ」

蒼豹はボサボサに乱れた髪に薄い青の寝巻きを着ていた。少し痩せただろうか?蒼豹は紅兎の顔を一瞥して言った。

「・・・・・・入って」

紅兎は中に入って驚いた。物が異様に少ないのだ。中には布団と小さな箪笥
と煮炊きの道具が一揃いあるだけだ。紅兎は、この部屋の中での蒼豹の日常生活を容易に想像することができた。

「物が少ないな」

紅兎が正直に感想を述べると蒼豹は面倒くさそうに言った。

「必要な物しか置いてないから。・・・・・・で、何の用?」
「見舞いに来たんだよ。あの後どうなったか分からなかったから。俺も
殿下も、心配したぜ」

心配した、という言葉を聞いて蒼豹は微かに眉間に皺を寄せた。

「心配されるのは、慣れてない」

紅兎はフゥッとため息をつくと、話題を切り替えた。

「怪我の具合は?」

蒼豹は答える代わりに寝巻きの左側から体を抜いた。鎖骨の下辺りから包帯
が巻かれている。

『──────!』

紅兎は目を見開き、彼女の左腕を凝視した。そこに本来あるはずの腕は二の腕までしかなく、先まで包帯で巻かれていた。

「──────無いのか?」

紅兎が搾り出すような声で言うと、蒼豹はなぜか目を逸らして言った。

「刀ごと虎の口の中に腕を突き込んで、そのときに喰いちぎられた」
「なんて無茶を・・・・・・」

しかし、あのとき虎を止めるにはそれしかなかっただろうということは紅兎にもわかった。普通に戦って、人間が虎に勝てるはずはないのだ。

「傷口、痛むか?」
「痛まないと思う?」
「いや・・・・・・。治るのにどのくらいかかる?」
「それは、私が動けるようになるまでの時間?それとも復帰できるまでの時間?」

蒼豹の問いに、紅兎はたじろいだ。人とは自分の身に起こったことををこうも冷静に見ることができるのか。

「・・・・・・両方だ」

蒼豹はしばし思案顔になり、少しして言った。

「動けるようになるのは・・・・・・あと10日くらいかかる。復帰は、多分できないと思う。盾が隻腕では話にならないだろう」

紅兎は、容易に予想できた蒼豹の答えに、小さく呻き声を漏らした。分かってはいたが、改めて本人の口から聞くと、やはりこたえた。
紅兎の様子を見て、蒼豹が言った。

「心配しなくとも、殿下が新しい盾を入れて下さるだろう。私の代わりなどいくらでも居る」
「・・・・・・そういうことじゃない」

紅兎は蒼豹の言葉に苛立ちを覚えて言った。こいつは、何故こうも人の情が分からないのだろう。

「・・・・・・そういうことじゃないんだ。仲間が欠けるのは何度体験したって慣れることはない」
「そういうものなのか」
「そういうものだ」

紅兎はよろよろと立ち上がり引き戸に手をかけた。

「俺は帰る。今度殿下に自分で報告に行け」
「分かっている」

そう言うと、紅兎は帰って行った。



* * * * * * * * *



「・・・・・・ぐぅっ」

 紅兎が出て行った直後、蒼豹は横向きに布団に倒れこんだ。
左袖を掴んだ手はぶるぶると震えている。
蒼豹は紅兎が帰ってくれたことに内心感謝していた。そろそろ耐えられない
ところまで来ていたのだ。
 幻肢痛。失ったはずの手足が痛む原因不明の症状である。最近、しばしば
何の前触れもなくやってきては蒼豹を苛むのだ。

「・・・・・・くそっ」

 蒼豹はギリギリと歯噛みした。時たまやってくるこの痛みが、自分を笑って
いるような気がしてならない。失った左腕が痛む度に蒼豹は身を焦がすほど
の怒りと苛立ちを覚えるのだ。
 左腕を失ったことで、盾としての自分の存在意義は無くなった。それも、全ては自分の弱さのせいだ。弱い自分が嫌だった。今こうして芋虫のように転がって呻くことしかできない自分が、どうしようもなく情けなくて、惨めだった。


* * * * * * * * * *


『蒼豹、お前、俺を舐め過ぎだ』

 部屋の中から微かに漏れる声を聞きながら、紅兎は廊下の柱に寄りかかっていた。きっと自分と話してる間はやせ我慢してたんだろう。そのときも、時たま蒼豹が苦しそうに眉間に皺を寄せるのを見逃しはしなかった。
紅兎は柱から身を起こし、音を立てないよう気を付けて、歩いて部屋から離れた。
 紅兎はゆっくり廊下を移動しながら心の中で呟いた。

『蒼豹、早く気付け。俺たちも殿下も、お前を捨てたりしない』








やっと書けた!!!実に3日掛かり!

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