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史無国 四

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史無国 四



数日後、ヴァンディール邸に、領主邸より使者が来た。
白い服を着ているから、任官か緊急伝令の使者である。

「エルムッド・ヴァンディール」
「……俺だ」
「直ちに領主邸まで出頭なされよ。公爵様より、任官の儀が行われるとのことである」
「……分かった、すぐ行く」
「この旨、しかと伝えた。では、私はこれで失礼する」

そう言うと、使者は領主邸とは真逆の方向へと駆けて行った。
どうやら、最初にヴァンディール邸に来たらしい。
フォンベルグ邸とエレナーデ邸より近いからであろうが。

「……ふう」
「兄上、どうかしたんですか」
「レイアンか。今から領主邸に行く」
「任官ですか?」
「……たぶんな」

エルムッドが自分の馬に荷を載せているとき、レイアンがやってきた。
その額には汗が浮かんでいる。
どうやらさっきまで、鍛錬をしていたようだ。

「剣の腕は上がったか?」
「まだまだです。姉上には、かろうじて勝てますが」
「……あれは、長得物だけが取り柄だからな」

そのレイノナは、と言うと、ティタルニアの武術指南所で鍛錬しているころだった。
何でも、シルクロードを通ってやってきた東方物の中に、『戟』なる武器があったからだ。
長得物と見て、レイノナは昨夜から泊まり込みでその『戟』を振るっていた。

「……じゃあ、レイアン。留守は任せた」
「はい、お任せ下さい!」

そう言ってエルムッドは、馬を駆けさせ始めた。


数十分後、領主邸の前に着いたエルムッドは、近衛兵に用件を話し、再びあの広い部屋に通された。
今度は三つ椅子が用意されており、エルムッドは一番右の椅子に腰をおろした。
と、数分もしないうちに誰かが入ってきた。
テレシスとセリックと思って振り返ったが、そこに居たのはクォリアスだった。
名前は知らないが、荘厳な雰囲気をした男を一人従えている。

「侯爵……ああ、様」
「ほっほ、良い良い。様何ぞ、付けんでもの。なんならおぬしの父君と同じように、クォリアス、と呼んでくれても構わんぞ?」
「いや、流石にそれは……父さんの名前を汚すわけにはいかない」
「ほっほっほ、流石は、レイムッドの子、じゃのう」

クォリアスはその豊かなひげを揺らしながら笑う。
そして、隣に居る男を一歩前に出した。

「エルは会うのは、初めてかの?」
「……そうだと思う」
「では、紹介しようかの。おぬしも世話になる事が有るやもしれんしのう」
「クォリアス様、紹介ぐらい、某で出来申す」
「ほっほ、そうじゃな」

男はエルムッドの前にやって来た。

「ランディール・フェルノリア、『公爵の智嚢』総帥である。
レイムッド、貴公の噂はかねがね聞き及んでいる。
以後、某の策謀に関わる事もあると思うが、その時は宜しく願い申す」

そう言って、手を差し伸べた。
エルムッドはこういう言葉で話されたことはなかったので、少々困惑したが、恐る恐る手を出した。
ランディールは、にっこりと笑って、力強く握った。

「さて、自己紹介も終わったことじゃ。任官の儀に入るぞ」
「……セリックとテレシスは?」
「個別に来てから行うのじゃよ。あれらの邸宅は、おぬしの邸宅より遠いでの」

そう言うとクォリアスは、書簡を一本取り出した。

「エルムッド、エルムッド、と……おお、あったあった。
ふむ、主は部隊新設、及びその部隊の軍長、であるな」
「……そうか、嬉しい事だ」

内心、予想していたことなのであまり驚きはしなかった。
しかし、一部隊の長である。
やはりどこか、嬉しいものだった。

「おお、ちなみに、副長はセリック、お付きの参軍はテレシスじゃ。相性を考えたら、必然とそうなるがの」
「テレセリノス・フォンベルグは、一時某の下で預かる。みっちりと、軍師とは何たるかを教示してやるつもりである」

クォリアスとランディールは、そう言った。

「そうじゃ、エルムッド。新設部隊は300名、騎兵は50名までとする。好きな兵を選ぶが良い」
「……エルノーの者だけか?」
「好きにするとよい、エルムッド。おぬしの部隊じゃ」
「……有難う御座います」

エルムッドは礼をし、そして退出した。
領主邸を後にしたエルムッドは、村の方向へと馬首を向けた。

「好きにせよ、と言われたからな……何事も、相性のいい者がいい」

エルムッドは、そう呟いた。

村に入ったエルムッドは、馬から降りて貸し厩舎へ馬を繋いだ。
そのままの足で何時も屯している、酒場へと入った。


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