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夢幻花に宿る音

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とある病院の一室に響く、機械音の中に岡崎 織[オカザキ シキ]はいた。

回想~
 織は生まれつき体が弱く、歩くことすらままならない少女だった。その代わり美的感覚、いや、内の世界というべきか……、それがとても豊かな少女でもあった。豊か過ぎて、周りが見えなくなることもしばしばあったが……。
 それが織に災いをもたらした。織は庭の散歩中に、うっとりと鴬の鳴き声に聞惚れていた。そして見舞いに来ていた人とぶつかり、そのまま頭から地面へ(しかも運の悪いことに大石のところへ)。なんとも、どんくさい限りである。しかし彼女にはただ事じゃないのも事実である。
~回想終了

 そうして織は植物状態、つまり現実世界に出れなくなっていた。彼女は、彼女の世界に閉じ篭もるようになったのだ。彼女の両親は泣き崩れ、医師はただ苦い顔で一言、

「彼女は……、ずっとこのままでしょう、彼女自身が戻りたいと願わぬ限り」

というばかりであった。


織は暗い闇の中を漂っていた。そして何かが軋むような音も彼女の周りに漂っている。しかしそれは次第に何処かへ消え去り、闇も晴れていた。その晴れた先には、一面の花畑が広がっている。

「うわあ……綺麗。でも……歩けるかな?」

彼女は自分の体力がないのを自覚していた。だからこそ、眺めることしかできないのでは、と不安に思っていたのだ。
 そうして織はその場に座り込もうとした……そのときポロンという一音が空間全てに響いた。それは一滴[ヒトシズク]の涙の落ちる音にも聞こえたが、二音目でハープの音だと織は理解した。と同時に無意識に織の体は、その音の音源を探すように動き出した。その動きは緩やかで、徐々にスピードを上げてゆく。織自身、この体がこんなに動くのを驚いていたが、不思議と嫌な気持ちはせず、寧ろそれに同調していく。

「どこ……どこ?」

狂うように花畑を歩くその姿は、美しく儚い蝶のようだった。
 そうして彼女はどこまでも歩き続け、白い人影を見つけた。美しい黒髪に、相反するような真っ白な肌。その上には純白のワンピースを着ている。そんな見ているだけで浄化されるような美しい女の隣には、金色と銀色に光るハープがおいてある。
織は、その女の美しさに眩暈すら起こしそうだったが、それに何とか耐え、女に近づいていった。女のほうも途中で織の気配を感じたのか、くるりとそちらに顔を向ける。沈黙する少女と女。そして一声目をあげたのは織だった。

「あ……あなたは?」
「ぁ、わ……私の名前はリオ。……そちらは?」

女はか細く、けれど響くような声で織の質問に答える。

「私の名前は、織と……いいます。素敵なハープの音に誘われて来たの……ですが、貴女が演奏していたのですか?」

繰り返されるのでは、と思われる質問と答えに意外な言葉が返ってきた。

「いえ、ここの……花々が奏でているのです」
「え?」

誰だって驚くだろう。しかしリオの言うことに従って耳を澄ますと、織の耳にまたハープの可憐な音が響いてきた。ポロン、ポロン――。もちろん、リオはハープに手を触れていないのを彼女は見ている。織は、認めざるを得ない状況に追い込まれた。

「わかり……ました。花々がハープを奏でていたのですね」
「そうです……、此処の花々は来た者の心を奏でます」
「え??」

と織がそう言った瞬間、花々は曲調を変えた。早く遅く、大きく小さく……狂ったようなおかしな音楽が空間に広がったと思ったら花畑は闇に飲まれた。そしてリオの白いワンピースや肌も闇に溶け込んでいく。そして最後に織がリオの顔を見るとそこには自分にそっくりの顔があった。


 その後、織は奇跡的に目を覚ました。体はいつもように動きはわるかったけど、彼女にとって不自由でも何でもなくなっていた。それは、夢なのかもわからない、あの空間のおかげなのかは彼女しかわからない。が彼女は両親に一つのお願いをした。

「私、ハープがほしい」

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