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剣で戦う


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ここでもう少し、アルター=チェインという人物について触れておこう。
現在彼の年は人間年齢にして30代後半である。
今や高校生になる息子、つまりはノアの父となっているが――世界が終わった戦いでは激戦をなしたれっきとした一人の騎士である。
昔、と言っても、今現在彼がそうではないと――そう言いたいわけでもない。

それは彼には実力が在るということなのだ。

はっきり言えば強いということだが――とりあえず、補足説明はこれぐらいにとどめておこう。
詳しくは前作を見てほしい。

+++

チェインの指し示す先――黒い宝石。
見るからに怪しかった。
「……あれが、弱点なんじゃないのか?」
零はノア達の耳に届くくらいに、声を張り上げる。
「確かにそう考えるのが無難だろうけど……罠か、もしくは単に体の一部かもしれない」
「考えすぎよノア、あれは絶対に弱点よ。私には分かる!」
「……聞いても無駄だと思うけど、根拠は?」
「こういう状況で、あんなものが出てきたら、それは弱点と決まっているからよ!」
「…………」
もはや、何も言うまい。
本日使用するのが二回目の、ノアの今の表情から汲み取った言葉である。
「まあ案外、そのお譲さんの言うとおりかも知れないよ? 何ていうか……様子が違う」
そんなセシルの言葉が気になり、ノアは怪物に近付きながら黒い宝石を観察する。
鈍く光るのはそのままだが――点滅しているようにも見える。しかも、一定のリズムを刻んで。

これではまるで――心臓だ。

「の、ノアのお父様、危ないのですよ! 今近付いては――」
エレナの焦燥した声に反応し、振り向くと――チェインが怪物に向かって走っていた。
否、あれは――折れたモップに?
「と、父さん?」
ノアは爪の攻撃を軽くかわしながら、チェインに近付いていく。
「あんまり、この力は使いたくなかったけどな……武器も無い今はしょうがねぇ」
弁解するように呟くと彼は――モップを手に取った。
唐突に、手が光を発する。

+++

世界が終わった戦い。
それが終結する前まで、妖精界に住む誰しもが力を持っていた。
ある者は『色彩』、またある者は『収縮』の力を。
そしてその力を持つ者は――チェインだけが例外とは限らないのだ。

光が収まった頃にはもうすでに――チェインの手には剣が握られていた。
彼の持つ力は『変化』。
ひとつの物質を、別の物質に変化させる力であった。
「ノア、お前がやってみろ。お前も見たとおり、多分黒い宝石が弱点だ」
「え、待ってよ、何でぼくが――」
「小さい頃からクルーに特訓されてきただろ? お前なら大丈夫だ」
もしもの時は、ちゃんと助けに行くからよ。
と、そう締めくくり、チェインはノアに剣を渡す。
「……え、いや、だからって何でぼくが?!」
と。
怪物の爪が二人に襲い掛かり――

ガギンッ、と音がした。

ノアが咄嗟に、剣を上に構え、爪を受け止めていたのだ。
「――なかなか、上手いんじゃねぇの?」
「っ! か、代わってほしい」
ノアは、心の底からそう思った。

「うわわわわわわわ! ちょ、待って待って待って待ってっ!」
ノアは剣で爪の攻撃を防ぎつつ、そう叫ぶが――相手は(おそらく)言葉の通じない怪物である。言ったところでそれは、体力の無駄遣いである。
勇敢な騎士の血を受け継いだ――アルター=ノア。
しかし、勇敢――怖いもの知らずといっても、やはり『剣を使っての実践』はこれが初めての経験となるので、戸惑いや恐怖はまったく無いというわけではないらしい。

しかしそれも――所謂、時間の問題というものだろう。
つまりは、慣れればいい。
慣れれば――戸惑いや恐怖など、どうにでもなる。

「――うわっ、と」
現に、ノアは防御しつつも、そこから攻撃に移る体制へと変わりつつある。徐々に余裕を取り戻しつつあるのだ。

「ノア君……凄いのです。ほら、戦い方がましになっていると思いませんか?」
「確かに、動きに無駄が無くなっているように見えるが……」
エレナと零はまるで人事のように(この場合は冷静沈着に、の方が適切のように思われるが)校門より、そんなノアの姿を見ていた。
「ただ一つ、オレは心配だな」
「何がよ?」
セシルの言葉に、隣ですっかり乱れた黒髪(本人曰くダークブラウン)を手で直しつつ、アイリスが聞く。

「果たして――いつまであの怪物と戦っていられるかっていうこと、さ」

セシルはポン、と音をたてて手の中に真っ赤なバラを出し、さらに言葉を続ける。
「ノア、でいいんだっけ? あんなにさ、防御するにも攻撃するにも――走り回ってたら、ノアもその内動けなくなるほど疲れるだろうし、ノアの体力は無限にあるっていう設定もないでしょ?」
「……確かに、そういえばそうだよな」とチェイン。
『そういえばそうだよな』から、本当に考えなしに――自身の息子に剣を渡していたことが推測できる。
そういう部分は、彼らしいといえば彼らしいのか。
つまりはチェインはそういう性格なのである。
「なら、もうそろそろ――決着を着けないといけねぇか」
チェインは言う。
セシルの方を向いて。
「お前の手品、利用してもいいか?」

+++

チェインが作戦を皆に伝えるのと時同じくにして。
ジャイルは屋上で――葛藤していた。
「本当に、これで良かったのか……?」
ジャイルはそして、手すりを強く握りながら独り言を続ける。
「いや、決めたのは確かに僕なんだから『そんなこと』を思うのは可笑しい。それはつまり――まだ僕が『あの方』のように成れていないからなのか? それとも僕が――覚悟しきれてないのか? どうして――」
そして、苦悩に満ちた顔でジャイルは言う。

「僕は何で――今している悪事を後悔してるんだ」

+++

此処でいきなりだが。
時は遡る。
ジャイルが人間年齢にして12歳の時だった。
「今話した流れが――世界が終わった戦いの全てだ」
白い文字で埋め尽くされた黒板を前に、スーツを着た男性がそんなことを言った。
ここは某中学校の中の某教室。
ジャイルは窓際の後方の席に座っていた。
「…………凄い」
黒板をじっと見つめながら、思わずそんな一言を漏らすジャイル。
「最強の赤い絶望――八妖精と女神を相手にたった一人で、互角に戦った人」
人々の心を絶望で支配し――世界を壊滅させようとした男。

なんて、凄い。
なんて――素晴らしいんだ。

その時、ジャイルの赤い眼はキラキラと輝いていたという。
まるで、生きがいを見つけたかのように。

+++

そして、少なくともいえるのは。
スクエア=ジャイルは――ダークヒーローに憧れる、一風変わった少年だと言う事だ。
しかし『憧れる』ということは、未だ彼はダークヒーローになりきれていないのである。まだ彼には善良な心や、思いやりの心が残っているのだ。

だからこそ彼は――葛藤している。
己の中の二つの気持ちが、反発しあっている。

それ故――彼は苦悩しすぎてしまった。
苦悩しすぎてグラウンドで起こっていることに、気付けなかったのだ。
皮肉にも、彼の心の葛藤が落ち着いた時には、全てが終わっていることになる。

+++

――さっきから、足が思うように動かなくなってる……手は、まだいけるかな。
ノアはふらつく足を寸での所で踏ん張り、体勢を直すと――真上からの爪の攻撃を防ぐために、両手で支えた剣で受け止める。
びりびりと、腕が衝撃で震えた。
「ノア!」
「……!」
ノアが首だけ振り返り――これも戦いに慣れて、余裕が出来たからこそできる行動である――こちらへ駆けている零とセシルを見た。二人が二人、手ぶらだった。
「ちょっと、危ないよ二人共! 早く校門まで戻って――」
「ああ、オレ達のことは気にしないで、君は戦いに専念しててよ」
セシルは息一つ切らさずに言うと――零と共に、ノアと怪物の横を通り過ぎていった。ノアは訝しげに彼らを一瞥すると、剣で怪物の爪を弾き、後ろへと逃げる。

瞬間。

セシルが再び――何も無い空間からロープを取り出した。
今度は、先程よりも丈夫で太いもの。

セシルはそれを、横にいる零へと投げた。
「よし、いくぞ少年!」
「……ああ」
零はどこか不満げな返事を返すが――足並みは、早い。

二人は1本のロープの両端をそれぞれ持ったまま、怪物の背後に向かって走っていく。そして、ロープを張るように力強く引っ張り、そのまま勢いとともに怪物の足に引っ掛けた――!
怪物は倒れはしなかったが、体制をくずすことはできた――

――結果、怪物は今まさにこの瞬間のみ『無防備状態』!

「今だよノア!」
校門から、楽しげなアイリスの声が聞こえた。
……元はと言えば、アイリスを助けようとしてたから、こんな怪物と戦わなくちゃいけないんだけど――まあ、それもしょうがないか。

「ぼくはアイリスのナイトだからね」

ノアは一人呟き、怪物を見据えた。
そしてノアは残った脚の力で助走し、剣を構え、黒い宝石へと――