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満月を見上げて


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クレア→夜型人間、少し野生児。ちょっと大胆な牧場主
グレイ→自然スキーなシャイ男。謎の美人を想う

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 ここ数年じっくりと見ることがなかった、綺麗な満月だ。舞い落ちる小雪と寒さが冬だと実感させるこの頃。今日、空には大きな満月が浮かんでいた。

  【満月を見上げて】

 ジャンパーを着てきたが、寒い。牧場へと続く道を歩きながら、グレイはポケットに手を突っ込むとマフラーに顔を埋めた。いくら寒さに強いグレイでも寒いと感じる。

 ──今日、グレイ誕生日よね? お祝いしなきゃ!

 そう言ったランから誕生日会なるものを回避するために、「用事がある」と言ったのが馬鹿だったか。外に出ることが必須になってしまって、グレイはひとまず宿屋を出た。今はどことなくあの牧場を目指しているのだが、それにはなんとなく理由がある。
「今日は居るかな……」
 半年ぐらい前に牧場にやって来た、グレイと同じ二十歳ぐらいの金髪美人。夕方の鍛冶屋閉店間際に挨拶回りに訪れた、名をクレアと名乗ったその美人さんは、その挨拶回り以来一度も姿を見ていない。様々な時間帯に牧場を訪れても、外にも家にも誰もいないのだが。彼女は一体どこに居るのだろうか。
 グレイは夜に滅多に出歩かない。何かと物騒だからだ(それをランに話したら女みたいと笑われた)。もしかしたら夜に居るのかも知れない。だとしたら夜型の人か。グレイはめっきり(爺さんのせいで)朝型だから、なかなか時間が合わないのだろう。事実、ハリスさんは会ったことがあると言うし、リックは毎日、朝早くに牛達が鳴いているのを聞いていると言う。

 

 物凄くゆっくり歩いたせいか、いつもの倍近くの時間をかけて牧場についた。辺り一面を見渡してみる。あまり使われてなさそうな家、2週間前より綺麗になっている畑、そして、
「……あ」
 見つけた。出会った時と変わらない美しさの金髪を風に靡かせ、グレイから見て左側の、牧場をぐるりと囲む柵に、グレイが居る方を背にして立っている。少しずつ近寄っていくと、足音に気付いたのか顔だけで振り向いた。
「……ああ」
 近付いているのがグレイだと分かったらしく、クレアは小さくそう呟くと体ごと振り向いて柵にもたれた。
「グレイくん……だっけ?」
「ああ、そうだけど。お邪魔したか?」
 小雪が頬に張り付いて、グレイは鬱陶しそうに手で拭う。そしてクレアを見ると、クレアはゆっくりと首を横に振った。
「別に。むしろ、ちょっと嬉しかったり。──横、来てよ」
 言われるがまま横に移動する。柵に腕を乗っけて、クレアと一緒に満月を見る。
「……あんた、いつもどこに居んの」
 何となく、ぽつりと呟いた。クレアもぽつりと呟き返す。
「夜7時過ぎから朝7時までここ。他は全部マザーズヒルで寝てる」
「……げ」
 道理で居ないわけだ、という思いより、山で寝るのか、という思いが先に立って。それがどうもばれたらしく、
「野生児みたいでしょ?」
 と笑われた。何となく返す言葉が見つからず、そのまま満月を見続ける。その後は鍛冶屋で道具が整備できるみたいなことを話して、住人の話をしていたけれど。いつの間にか会話は途切れて、沈黙が降りていた。

 

「…… Light of a full moon is light of happiness. ……」
「……え?」
 唐突にクレアが英文を呟いて、グレイは聞き返す。聞こえてはいたのだが。
「”満月の光は幸福の光”……って意味。こうやって満月眺めてたら、幸せが舞い込んできそうな気がして。それに」
 クレアがグレイをじっと見据えて、そして笑う。
「早速一つ、幸せな事もあったしね」
「……ふーん」
 生返事だけして顔をそらす。クレアに背を向けて、グレイは少し跳ね上がりそうになっていた感情を押さえ込もうとした。と、
「……くしっ」
 くしゃみが聞こえた。振り返ればクレアが苦笑していて、何となくグレイはジャンパーを脱いでクレアに突き出す。
「着とけ」
「え、でも……」
「いいから」
 でも、グレイくんが寒いでしょ。その言葉を遮って無理矢理突き出すと、クレアは渋々受け取りながらも、きちんと着込んで暖かそうにしていた。
「うわ、マジ寒……」
 ほんとに寒かった。そして呟いて後悔した。見ればクレアはやっぱりとでも言うような顔をしていて、そして唐突に、
「……これなら寒くない?」
 グレイをぎゅっと抱きしめた。


 Fin