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エソラの美的空間


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そして

あれは結局夢だったのか。
もしくは現実か。
今となっては分からないけど、しかし――

+++

「………………」
お気に入りの白い枕買ったばかりの目覚まし時計そしてわたし。

それらの中心に堂々と、その人は暢気に眠っていた。

「……わたしは何をしている」
そうだよ。
わたしは何をしているの。
勝手に男の人を――しかも初対面のそれを、テリトリーというなの要塞(簡単に言うならば寝室)に入れてしまうなんて。

わたしらしくもない。
こんなのわたしではない。
わたしでないとしたら一体?

「んう……んあ?」
その人は、まず。
眼を開けることは勿論、ゆっくりと上体を起き上がらせて、眼を擦って、乱れた髪を軽く撫でて直し――目線の照準をわたしに。

「馬っ鹿野郎かお前は。オレ様のプラオベートルームに無断で入りやがって」

「…………はあ、すいません」
あまりにも。
そう、あまりにも非現実的な、又は非常識な言葉が飛び出してきたので、思わず素直に頷いてしまった。
「あの、此処、わたしの部屋なんですけど」
「知るかそんなこと、オレ様がプライベートルームだと宣言したところは例外なく全て、フォルテの私的空間と決まってんだ、当たり前だろう?」
「ふぉ、ふぉるて?」
容姿と、そして顔立ちからして日系だと思ってたんだけど……。
と、思いながらもわたしは聞きなれない名前をリピートする。
「ふぉるてじゃない、フォルテだ。ちゃんと発音しやがれ」
と。
そして唐突にベットから文字通り、ピョンと反動をつけて飛び上がると、わたしの前に音もなく着地し、ずんずんと、ただでさえ近い距離だったわたしとフォルテの間を近づけて――。

ひょい、と。

……ひょい?
不思議に思って――上を見上げるとフォルテの顔、下を見ると床から離れた二本の足。
補足だが、わたしは猫ではない。
れっきとした人間だ。
「と、いうわけでだ。お前には即刻この部屋から出てもらう」
「い、意味が分かりません!」
もう本当にこんな馬鹿げた空間――フォルテの言葉を借りるならば、彼の何とか空間だろうか――出て行きたい、けど、やっぱりわたしは女。見ず知らずの男を自分の部屋には取り残しておきたくは無い。

「と、とにかく! わたしを部屋から出したら警察呼びますから――」
「うるせえ」
そして、彼は。
腕を下ろしてわたしを床に立たせると、キスをした。
前兆も予兆も、そして前置きさえないのに、わたしはあの口付けから逃げられただろうか。
どちらにしても出来なかっただろうけど。
唇が離れた。
呪縛から開放されたわたしは、まだ状況を飲み込めていない脳をフル回転させながら彼を見る。
「あ、何だよ? オレ様のキスが物足りなかったか?」
「…………あ」
よくよく見ると。
フォルテはなかなかお綺麗な顔を持っていらっしゃった御様子。
わたしは何故かキスをされたことよりも、そのことに頭がいってしまっていた。
「あ、って言われても分からねえよ……とりあえずお前、早くここから出――」
と。
彼が言い終わらないうちにわたしは。
彼の腕をめいいっぱいに引っ張って――お返しのキスをした。
今度はさきほどよりも短く、そして優しく。
ああ、こんなにも甘い一時なんて、何年ぶりだろう。
そして、フォルテを顔をうかがうと――意外にも驚いていて、わたしは何故かそれが可笑しくて、小さく笑う。
「……お、おいおいおい、まさかオレ様の唇を奪う女がいるとはな……お前、名前は何ていうんだ?」
「エソラ、絵を描くの絵に青い空と書いて、絵空」
「えそら、えそら……エソラな、分かった」
彼は何度も、まるで確認するようにわたしの名前を何度も何度も――。
「エソラ、お前は面白い。オレ様が今まで会ってきた女の中で一番だ」
すると、刹那。
部屋は一気に暗くなり――本来ベットがあるはずの位置に、立派なグランドピアノが在った。
否、現れた。
「エソラ、これは特別だぞ。お前のために即興で弾いてやる――

――オレ様の音楽に酔いしれろ」

+++

そして、思ったんだ。
ああ、これが恋なんだ、と。
わたしは朝、フォルテもピアノも音楽も無い空間に、一人涙してした。