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タイムリミット 2


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 人の願いは、儚い。
 人は、自然の摂理の前では、無力だ。


【タイムリミット-2-】


「今日は何がいい?」
「そうだなー、何でもいいけど」
「それじゃ決まんないじゃん」
「クレアが決めればいいだろ」

 クレアの家。
 クレアはもういつ死んでもおかしくない。俺はほぼ同居といえる状態で、クレアの家に寝泊りしていた。いや、生活していた。

「……あっ!」
「ん、どした?」
「ごめん、グレイ。アスナの様子見てきてくれる?」
「? いいけど」

 アスナというのはクレアが育てている牛の名前だ。ちなみに妊娠中。今はもう臨月に入っていて、アスナの観察は欠かさないクレアだった。

「めずらしいな。忘れるなんて」
「そうだね、なんでだろ」

 クレアは小首を傾げる。

「1人で平気か?」
「大丈夫! どうせすぐ戻ってくるでしょ?」
「そうだけどさ……」

 心配をよそに、アスナはまだ産気づく気配はなかった。アスナに内心少し毒づきながらも、クレアの身になにかあってはいけないので足早に戻る。でも、もう後の祭りだった。

「クレア!」

 慌てて駆け寄る。クレアが机の近くに倒れていた。

「クレア! 聞こえるか?!」

 小さく首を縦に動かすクレア。 意識はあるようだが、胸のあたりで服を強く握っていることから苦しい、もしくは胸が痛いと窺える。息も長距離マラソンの後のように荒かった。

 なんとかベッドに横たわらせる。上半身は斜めにして、毛布の山に身を沈めさせた。
息は喘息のようにヒューヒューと鳴り、時折体をビクンと震わせては咳き込むクレアを俺はただ見ていることしか出来ない。
 そんな発作の間隔が短くなってきて、俺は慌てて薬を取り出した。発作を抑えるためなのだが、肝心の発作に邪魔されてなかなか飲み込めない。仕方なく俺が口で2つに割り切り、口移しで飲ませた。 つまりはもうキスがどうとか言ってられなかったほど切羽詰っていた。

 多少は飲みやすくなった薬を何とか飲み込んだクレアは言った。

「ねえ」
「?」

 クレアは部屋の片隅にある棚を指差して言う。

「あれの上から2番目の引き出しに、小さな青い袋があるはずなの。取ってくれる?」
 
 困惑しながらそれをとりだすと、おずおずとクレアに差し出す。
 するとクレアは、近くにあったもともと薬を飲むために用意した水にその粉状の物を入れた。

「な、なんだよそれ」
「え? 青酸カリ」

 さらっとすごいことを言うクレアだが、俺はそんなに冷静じゃなかった。

「せ、青酸カリ!?」
「そ。これ飲んじゃえば30秒後にはもうポックリいっちゃうわ。苦しまなくて済むもの」
「の、飲ませるもんか。そんなもの……」
「あら、無理よ。だってもう――」

 そこまで言ってまた咳き込むクレア。こぼしたくはないのか、元の場所にコップを置きなおすとまた咳き込んだ。薬の効き目が切れたようだった。

「クレア!」

 大きく息を吸う暇もなくなるほどに狭まる発作の間隔。
 そろそろ終わりだと告げる体に鞭を打ち、時々咳き込みながらもなんとか話そうとする。

「あーあ、もう、タイムリミットね……(こほっ)私が死んだら、あの青酸カリ、どうにかしてくれる? 多分ドクターが知ってると思うから」
「その前に、死なせるもんか!」
「無理よ、もう……(こほっ)」

 大きな咳を繰り返すクレア。
 俺はただ手を握って

「クレア、クレア」

 そう言うしかなかった。