保管庫

りょう 137 ◆i.AArCzLic

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137 名前:そのいち ◆i.AArCzLic 投稿日:2006/09/05(火) 18:37:43.19 c6yw7pLV0

今日も学校のベルが終わりの合図を鳴らす。
校舎中のあちこちで、みんなが椅子を一斉に引く地鳴りにも似た振動と音が響く。

「じゃあね~」
「うん。明日、またね」
帰る方向が違う友達と校門で別れ、私は一人で家へと向かう。家に帰るのは
気が進まない。家に帰るのは嫌い。私はいつものように、回り道に回り道を
重ねる。それでも、日が落ちるまでには帰らないと怖いので、赤く染まった空が
暗い藍色に変わり始めた頃、家へと戻った。

「お帰り」
僕の帰りを待っていたんだろう。父さんは僕が玄関の前に来るのと同時に
ドアを開けた。ただいまは言わず、父さんの脇をすり抜けるように僕は
家へ入る。背後で、鍵が閉まる音が聞こえる。一つ、二つ、三つ。
そして最後に南京錠が掛けられるがちり、という音。中から南京錠が掛けられるような
家は、いくら探したって僕の家くらいなものだろう。
だって、この鍵は全て、この家から僕が出られないように掛けられるのだから。
鍵が閉められるたびに、この家は、監獄になった。僕にとって、最悪の監獄。


141 名前:そのに ◆i.AArCzLic 投稿日:2006/09/05(火) 18:59:31.61 c6yw7pLV0

「ご飯にしよう」
父さんはそれだけ言って、さっさと食卓へ行ってしまった。僕はなるべく遅く歩いて
席へ着いた。父さんはすでにご飯を食べている。僕も、食べ始める。

会話など無く、食卓にはかすかに食器が触れ合う音だけ響いた。
父さんはまったくそんなことなど気にする様子も無く、ただ黙々と食べ物を
口へと運ぶ。僕はなるべく、ゆっくりゆっくりとご飯を食べる。
ご馳走様も言わずに父さんが食器を片付けはじめたのを横目に僕は
少し冷めたみそ汁をすする。キッチンから、水を流す音がし始めた。
僕の家には母親が居ない。だから父さんは自分で家事をする。
食器が触れ合う音は、すぐに止まった。洗うものが少ないせいだ。

「…食べ終わったらすぐに来なさい。いいね?」
白地にストライプの入った上品な感じのワイシャツの袖を触りながら、父さんは
言った。「うん」返事を返すと父さんはすぐにその場を立ち去った。足音が遠ざかる。
「そういえば、刺身包丁をどこにしまったか、りょうは覚えているか?」
離れた場所から父さんの声がまた聞こえた。

「…戸棚のどこかだと思う」
そうか。父さんはそうとだけ答えた。階段をあがる足音が遠ざかって行く。
時間をかけて食べた夕飯の食器を、流しに置いて自分の部屋へ向かった。
二階にある部屋へ向かう階段。父さんが少し前にあがっていった階段。
いつも死刑囚になったような気分になる、ここをあがる時は。
僕は毎日、この階段の行き着く先で殺されるのだから。


145 名前:そのさん ◆i.AArCzLic 投稿日:2006/09/05(火) 19:19:00.81 c6yw7pLV0

階段をあがり、自分の部屋の前で立ちすくむ。
ここは僕にとって死刑執行室。毎日毎日ここで僕は殺される。
肩にかけたバッグをぎゅ、っと握る。手が震えているのが分かった。
「…早く、入ってきなさい」
父さんの声が部屋の中から聞こえる。静かな声ではあったけど、間違いなく
僕への脅迫の意志が込められた声だった。

中を見ないように下を向きながら、ドアを開ける。ドアノブを放すと勝手に閉まり
鍵が掛かる。この部屋のドアだけが家の中で唯一のオートロックのドアだ。
父さんはブランド物のネクタイを外しながら僕のほうへと歩み寄り、僕の後ろへと
立つ。促されるように、僕はベッドへと座り込む。部屋の小ささに似つかわしくない
大きな、頑丈そうなベッド。父さんは隣へ座り、ワイシャツを脱ぎ始めた。

「…お前も、脱いだらどうだ」
命令され、僕は、震える指でワイシャツを脱いで、スカートも脱いだ。
一糸纏わぬ姿になった。僕は毛布に包まって体を見られないようにした。
でも、すぐに引き剥がされるのは分かっていた。それでも、そうせずには居られなかった。
案の定すぐに毛布を剥がされ、僕は横たわるように指示された。
大人しくそうした。そうしなければ何をされるのか分からなかった。
父さんが僕の足を開く。僕は目を瞑る。きっと今、父さんは自分のペニスに
潤滑剤を塗っているんだろう。僕のあそこは濡れたことなんて無かったから。
ベッドが少し揺れ、僕の足の間にある肉の穴がこじあけられるのを感じた。
短い嗚咽が口から漏れた。くちびるを強く噛んで、声をあげないようにガマンした。


150 名前:そのよん ◆i.AArCzLic 投稿日:2006/09/05(火) 19:47:09.83 c6yw7pLV0

「恨むのならば自分の母親を恨め」

僕が男から女へ変わってしまった朝、父さんはそう言ってから僕を犯した。
何日か前にまだ童貞なのか?そう聞かれ、恥ずかしながらそう答えたら
部屋へ閉じ込められた。あの嬉しそうな顔が未だに脳裏に焼き付いて離れない。

僕の母さんは、父さんにどんな酷いことをしたんだろう。
お腹の中をかき回される痛みに耐えながら顔も知らない母さんのことを考えた。
母さんが居たなら、父さんは僕にこんな酷い仕打ちをしなかったんだろうな、とも
考えた。シーツを赤く染めた僕の血と、へそに溜まった父さんの出した白い
どろどろしたものを見ながら。
それから何日かの間、僕は父さんに調教された。
父さんは殴ったり蹴ったりといった直接的な暴力を振るわない代わりに
先が引きちぎられた延長コードを僕の皮膚に押し当てたりした。
それは、僕が抵抗を止めるまで何度もされた。結果、僕は抵抗を止めた。
出来なくなった、と言ったほうが正しかった。
そして、避妊用の薬を毎日決まった時間に飲むことを義務付けられた。
どこから手に入れてくるかは知らなかったけど、父さんはある大きな会社の
重役だった、きっとそのくらいどうにでもできるんだろう。
と僕はそれを飲み下しながら理解した。


154 名前:そのご ◆i.AArCzLic 投稿日:2006/09/05(火) 19:58:31.73 c6yw7pLV0

やっと学校へ行っても良いと言われた時、僕は素直に嬉しかった。
外に出られる。誰かと話が出来る。天から降りてきたくもの糸だった。
もう、冷たい水に窒息しそうになるまで顔を沈められたりしなくて済む。
学校は、変わってしまった僕をすんなりと受け入れてくれた。
僕は、男だった時のように努めて明るく振舞った。誰にも父さんにされたことを
知られたくなかった。休んでいたのは、僕が女のなったことを恥ずかしがっていた
から、そう処理されていた。

父さんはその日の夕飯のとき、僕にキャッシュカードをくれた。
好きなだけ使えばいい、と言われた。一度だけ口座の残高を確認したことがある。
数字は八桁並んでいた。どうしてそんなカードをくれたのか。
罪悪感だったのだろうか、それとも僕と交わるための料金のつもりだったのか。
でも僕はそのお金にほとんど手をつけることはなかった。汚ならしい、そう感じたから。


159 名前:そのろく ◆i.AArCzLic 投稿日:2006/09/05(火) 20:20:58.60 c6yw7pLV0

父さんが僕の中をうごめく感触から意識を逸らしながら、僕は
今日までのことを頭の中でなぞった。枕の下に手を差し込んだ。
ベッドと枕のものに触れた。それはとてもひんやりとしていた。

意識をお腹の中に集中させる。僕の中の父さんは熱く、すぐにでも
果ててしまいそうだった。
もうすぐ終わる。僕は静かに呼吸を整えた。
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く。
とっとと射精しろクソヤロウ。声に出さずに罵った。
父さんの動きがどんどんと激しくなって、そして。
うめくように声と、汚らしいものを搾り出す父さんを目を開けて、見た。
父さんはいつものように僕をきつく抱きしめていた。顔は僕のお腹に向いていた。
その様子を見ながら枕の下のものを握り締めて、それを注意深く持ち上げた。両手で持って。
そして振り下ろした。父さんの首の後ろ目掛けて何度も、力いっぱい。
父さんは分かっただろうか。自分の首に何度も突き刺さるそれが。
さっき探していた刺身包丁だと言うことを。


171 名前:そのなな ◆i.AArCzLic 投稿日:2006/09/05(火) 20:39:37.03 c6yw7pLV0

それから僕は、家中にガソリンを撒いて火をつけた。
時間が深夜になるのを待ってから。時間を潰す間、シャワーを浴びて
汚れを落としたりした。でも、全部の汚れは落とせなかった。
シャワーなんかで落ちる汚れではなかった。お腹の中を血が出るまで洗った。

轟々と燃え上がる家を見ながら、羽織ったパーカーのフードを深く被った。
夜中だと言うのに、野次馬がたくさん集まってきていた。それに一瞥をくれて
僕はリュックを背負いなおし、歩き出した。背負った荷物の重さが華奢な肩に
のしかかる。お金というものがこんなに重いとは思わなかった。お金は父さんが
僕に渡したカードから引き落としていたものだ。リュックいっぱいのそれさえあれば
どうとでも出来る。お金を積めば戸籍だって買えることを僕は知っていた。
女になってからの写真は撮っていないから、きっとどうにかなる、そう考えていた。
それにもしかしたら僕の遺体を発見できずに行方不明とされる可能性もあった。
歩きながら僕は、自分が泣いているのに気づいた。
誰のために泣いていたかは分からなかった。辺りに漂う煙の匂いをかぎながら
涙を拭って足早にそこを立ち去った。もう二度とここに来ることはないだろう。
この先どうなるか分からなかったけど、これだけは確かだ、そう思った。

【終わり】
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