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風見鶏の向く方へ 序章 ◆IGfK3fyxFE

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827 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 13:52:40.54 bEr1Xz9x0

ダンッ ダンッ

夏の日差しに容赦なく照らされる体育館の中で十数人の男子がバスケの練習をしている。

「渡利、こっちだ!!」

「ッ!」

ゴールの手前で二人に阻まれシュートを打ちあぐねていた少年が、すかさず声を上がった方へ、

しかしそこを見ることもなくパスを出す。

受け取った少年は間をおかずにすかさず3Pを放つ。

ボールがきれいなやや高い放物線を描いてゴールに吸い込まれると同時に

第一クォーターの終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。




      • それが最後だった。

俺、一ノ瀬 遥凪(ハルナ)という存在が最後に聞くクォーター終了のホイッスル。

今でも幾度も聞くけれど、もうそれはあの頃の音とは違って聞こえてしまう。

ただ、最後のホイッスルは試合終了のホイッスルではなかった。

830 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 13:58:27.25 bEr1Xz9x0

      ※          ※



渡利「ナイスッ!」

パン!

渡利がうれしそうに駆け寄って俺とハイタッチを交わす。先ほどの3ポイントシュートのことだろう。

しかし俺は渡利と違ってあまりテンションが高くはなかった。夏の気温にやられたのか少し頭がクラクラする。

それを悟ってか渡利が一瞬心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

「遥凪(ハルナ)やっぱお前今日調子悪いのか?」

「いや、大丈夫。さっきの見ただろまだまだいけるって」

「そうか・・・、まぁ無理はすんなよ、ただのチーム内の練習試合なんだから」

渡利は少し不満そうだったが長い付き合いで気を利かせてくれたのか、それ以上何も言わずに

体を休めることに集中した。

834 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 14:05:06.80 bEr1Xz9x0




ビーーーッ

休息終了の合図が残響して聞こえた。

――――やれやれ、今日はホントに調子が悪いらしい・・・やけに休憩が短く感じる。

    このゲーム練習終わったら切り上げるか。

ゆっくりと立ち上がって俺はコートに向かった。

ダンッ  ダンッ

渡利がコートを縦横に駆け抜ける。俺も幾度もコートを駆け上がる。

体がだるい。自分でもパスがぶれるのがわかる。

――――くそ、早く終われよ

841 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 14:10:23.94 bEr1Xz9x0

もうほとんど思考が出来ていなかった。

「遥凪っ!」

渡利の声で咄嗟に前を向き、受け取ったボールを機械的にシュートする。

幾千幾万と繰り返した動作をただ体が動くままに。

サフッ

ゴールネットが短い音を立てて揺れる。それをみて心をホッと撫で下ろす。

――――よし、まだいける!

「ッシ!次も行k――――」

ッバタン!

最初は何が起きたか分からなかった。次に渡利と他の部員が俺に駆け寄ってくるバッシュの音が聞こえて、

ようやく自分が倒れたことに気付いた。

「――――aるな、s―かり―――ろ」

声が、やけに遠く聞こえた。



燦燦輝く太陽が窓から見えたが、今は唯の白い虚空に思えた。

844 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 14:16:04.84 bEr1Xz9x0

        ※         ※

    ――――関東某所・水無(ミズナシ)総合病院――――

熱中症で倒れたと俺が直接電話して知らせておいた遥凪の母親がにやってきた。

セミロングの艶やかな茶髪に遥凪とよく似ている通った鼻筋を中心としたきれいな顔立ちが目立つ。

とても10代の子供が居るとは思えない容姿だ。とりあえず立ち上がって挨拶する。

「あ、どうも」

「渡利君、遥凪倒れたって?」

「はい、すいません。俺調子悪いの知っててあんまり強く止めれなくて。」

「ああ、そんなの気にしないで。あの子の鍛え方が生ぬるいだけだから。」

――――いや、そんなことはないと思うが・・・

俺は内心苦笑しつつ笑って「厳しいッスね」と返しておいた

845 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 14:20:50.18 bEr1Xz9x0

その後なんだか医者と話があるみたいで何かぶつぶつ言いながら急いでどこかへ行ってしまった。

「全く今日はあの子の誕生日なのに不憫な子ね・・・まぁしょうがないか。

 だって・・・・・。 ・・・・・・・・。」

最後の方は声が小さくなってよく聞き取れなかった。

俺は遥凪の様子を見るのと、一言謝りたくて待っていることにした。

――――しかし遥凪のお母さんめっちゃ美人だな。しかも若いし。

    ・・・。

    ・・・・・・。

    ・・・・・・・・・・。    

    おっきしちまうぜwwwwwwww


馬鹿なことを考えていても時間は過ぎていった。

853 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 14:31:31.64 bEr1Xz9x0

うはw皆テラヤサシスwマジやる気でたおw
では続き

     ※          ※


やがて俺の愛しのマダm・・・ゲフンゲフン遥凪の母親はなにやら複雑そうな表情をして帰ってきた。

「あら、渡利君。もしかして遥凪のこと待っててくれた?」

「はい、やっぱちょっと心配だったんで」

「あ~、しまった先に言っとけば良かったな。ごめんね今日からあの子ちょっと入院する

 事になっちゃって。」

「え?」

俺の思考は予想だにしない答えに一瞬停止してしまった。

「うん、一週間くらいね」

すぐにあわてて聞き返す。

「そんなにやばいんですか!?」

「う~ん。まぁ・・・ねぇ・・・」

857 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 14:40:54.46 bEr1Xz9x0

俺の慌て様と裏腹に遥凪の母親は苦笑いのような表情を浮かべている。

「あの、すいません。俺かなり真剣に心配なんですけど」

焦って少し声に怒気が入ってしまう。だけど今の俺には相手に気を使う余裕などなかった。

そんな俺の様子を見て観念したように「まぁ、渡利君ならいいか」

と呟いてゆっくりと口を開いた。

「他の子には内緒にしてくれる?」

「はい、約束は守ります。」

「助かるわ。実はね・・・」

ゴクリ・・・。

「あの子ね、女体化しちゃうみたいなの」

「・・・え?そんなだって遥凪は・・・」

呆然とする俺を残して「ごめん、夕飯の支度しなきゃいけないから・・・」

と言って彼女は去って行ってしまった。

865 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 14:47:23.84 bEr1Xz9x0

この時の俺には知る術はなかった。

彼女の心に深い悔恨と悲しみの情が渦巻いていることを。

それが彼女なりの精一杯の俺達へのエールだったと。

     ※         ※

中途半端な都会で、道路に走る車の音だけが響く夜陰に浮かぶ月は

汚い空気に霞む雲に沈みそうで家路をいつもより暗く陰鬱に見せるばかりだった。


俺は家に帰ってもまだ頭の中は混乱していた。

――――おかしい。遥凪は少なくとも中2には童貞を捨ててたはずだろ?

    何であいつが?

    昨日までは何も元気にバスケやってたのに?

    最近は確かに彼女もいなかったが・・・

    いやでも過去の例から行くとそれでも一度童貞を捨てれば大丈夫なはずだろ?

    おかしいじゃないか!なんでもう一緒にバスケ出来ないんだよ?

    なんであいつが?

877 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 14:57:57.65 bEr1Xz9x0

考えがループしている事に気が付いて俺はさらに狼狽した。

――――くそっ!

ガツッ

力任せに壁を殴る。

痛みの現実さだけが少しだけ俺を冷静にしてくれた。

(「・・・まぁ、まずは主要な問題点を考えようぜ」)

不意に押され気味の試合で遥凪がいつも言っていた台詞を思い出す。

――――問題点・・・か。ためしにやってみるか。

  • 遥凪が女体化してしまう

この一点に尽きる。

(「・・・次は解決法」)

――――それがあったら苦労しない

881 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 15:07:42.82 bEr1Xz9x0

(「・・・ないなら今自分達に出来ることは?」)

バスケなら一つ位は俺にも出来ることがある。

だから本来ここは絶対に何かしらの意見が出る。

――――バスケじゃねんだ、それもねぇよ

(「・・・よしじゃあそれだけ意識していこう」)

試合の時と同じ遥凪の声が、また頭をよぎる

――――くそ、やっぱり意味ないじゃないか

どうしようもないのかよ

(「・・・俺達の負けか、仕方ないな。だけどこれで終わりじゃない。

  俺達が帰ってからやるべきことを考えよう」)

ようやくハッと気が付いた。

882 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 15:12:57.39 bEr1Xz9x0

――――そうだ、今回の遥凪の女体化は俺には何の出来ることもなかった。

    だけどあいつがそうなった後もあいつ自身が居なくなるわけじゃないんだ。

    今日から出来ることはあいつが帰って来た時にどう接してやれるかを考えることだな。

    自覚がある奴ならいざ知らず、自分が女になるなんて自覚のない

    あいつ自身が一番戸惑うはずだしな。

だけど、俺に何が出来る?

(「・・・自分の手に余ることはみんなで考よう、一人で出来んこともあるし

  それを背負い込んだって無駄だ。俺達は一人じゃ試合も練習も出来ないんだろ?」)

――――・・・そうだな、みんなに相談してみるか。

帰ってから大分錯乱してたのか、いつの間にか時計の針はは0時を回っていた。

今日はもう寝よう・・・。

疲れていたのかすぐに俺は眠りに落ちた。



寝る前にみた、窓から漏れる月華は陽光に佇む水面のように澄んで穏やかだった。

891 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 15:25:56.51 bEr1Xz9x0

じゃあ、いけるとこまで頑張る


     ※         ※

   ――――翌日・バスケ部部室――――

俺は一ノ瀬家に電話し母親の遥凪の秘密に関する許可をもらってバスケ部のみんなにに打ち明けた。

「と言うわけでみんなに相談するんだけど・・・」

みんな固まっている。

「やっぱり信じられないか?」

部員が口々に騒ぎ出した。

「だってなー」

「ほかならともかく、遥凪だろ?」

「ドッキリカメラじゃないよね?」

「むしろ信じろって方が・・・」

そこでお調子者の桐原篤志(アツシ)先輩がおもむろに口を開いた。

897 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 15:34:22.05 bEr1Xz9x0

「てかさ・・・」

一斉にみんなが注目する。

「あいつ童貞じゃないだろ」

「「「「そうそう」」」」」

全員息ぴったり。

「むしろ女とか食い散らかしてるイメージなんですけど」

「俺この前あいつをラブホでみたぜ」

「この前遥凪さんらしき人をSMショップで見たよ」

ひどい言われようだな、遥凪www

いかん、ついこいつらと居るといつものノリになってしまう。

そろそろ真剣にやらないと。

「お前らもっと真面目にやtt」

そう叫ぼうとした時だった。

899 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 15:41:26.13 bEr1Xz9x0

「渡利、その話は本当なんだな?」

俺が口を開きかけたところで今まで黙って壁にもたれかかって何事か考えていた永井一疾(イチハヤ)先輩

が口を開いた。みんなからも一目置かれている頼りになる先輩だ。

「はい、こんなこと冗談じゃ言えませんよ。」

「だそうだ、みんな。遥凪は確かにかなり女で遊んでそうだが実際女体化してるんだ。

 本人もかなりショックを受けるだろう。真面目な話、多少は気を使ってやるべきじゃないのか?

 少なくとももう俺達と一緒のコートで試合することは出来ないんだぞ。」

皆の間に気まずい沈黙が訪れた。

最後の一言がみんなに現実感が出てようやくみんな事の重大さに気付いたみたいだ。

「でも、具体的にどうするん?俺達の中にそんな奴おらへんかったし・・・」

俺と同じ高校1年の霧島幸谷(コウヤ)がたずねた。

俺は口をつぐむ。悔しいが俺じゃ何したら良いかわからない・・・。

904 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 15:47:52.47 bEr1Xz9x0

「・・・」

皆が一斉に黙り込む。一疾先輩がしばらく様子を見てやがて口を開いた。

「これは悪魔で俺個人の意見だが・・・」

少し迷っているのだろうか、一旦言葉を切ったがまたすぐにみんなを見据えていった。

「逆にいつも通り接してやれば良いんじゃないか?変に気を使ってるとあいつの負担になりそうだしな。

 ただいつもよりほんの少し注意してみてやって、あとは軽く背中を押せる時だけ押してやろう。

 遥凪は多分精神的にも強い奴だからそれで大丈夫だと思う。

 ・・・それでどうだ?」

912 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 15:59:26.99 bEr1Xz9x0

連投すまそ

一瞬みんなが聞き入って返事が遅れた。篤志先輩だけがいつもの調子で

「俺はそれでいいぞー」

と挙手しながら答えた。みんながそれに続いた。

「俺もそれでええで!」

「文句ある奴いないだろ?」

「さすが一疾先輩!賛成ですよ。」

「俺も俺も!」

幸谷を始めみんなが賛同していた。この人は本当に頼りになる。

「さて、じゃあ練習をはじめるか。」

みんなが一斉に立ち上がって行こうとした時だった。

915 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 16:05:27.34 bEr1Xz9x0

「今日の練習メニューなんだっけ?」

誰かがふと思いついたことを軽く口にしただけだった。

練習メニューはいつもは遥凪が管理していた。だからいやでもその不在を確かめさせられる。

          • そしてもう戻って来ない事も。

「・・・わり」

小さく謝るのが聞こえた。空気が一気に重くなった・・・

919 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/09/03(日) 16:09:47.72 bEr1Xz9x0

「なあ!一疾!!」

不意に篤志先輩が大きな声で呼び止めた。

「あいつが帰ってきたらなんかして喜ばしてやったら良んじゃね?」

「何をするんだ?」

「遥凪はドMだから縛れば悦ぶと俺はおもうんだg―――」

ガスッ

篤志先輩の言葉は、しかし一疾先輩の投げたボールによって途中で遮られた。

しかし、この人は

「ック!このむっつりめ!さっきみたいにさもいい人の様に振舞いやがって。俺は知ってるぞ!

自分だけいい格好して、今から女になった遥凪のポイント稼ごうなんて卑怯だぞ!!」

――――いや、絶対一疾先輩そんなん考えてねぇwwwwwwwwwwwwwww
                          by部員一同 

924 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 16:18:46.68 bEr1Xz9x0

おkでは続き

「光源氏も幼女に対してポイントの前稼ぎやってたんだぞ?これぐらいは当然だ。」

さも当然のように一疾先輩が言い放つ。

「いや、現行の日本国憲法あたりで禁止されているはずだ!!!」

「それも阿部さんが総理大臣になって憲法9条改正するついでに許可して万事解決だ」

「・・・!!」

「さて、練習だ。さっさと行くぞ、メニューは俺が向こうで指示する。」

踵を返して体育館に向かう先輩に連られてみんながついて行った。

みんな先ほどのやり取りに口々に騒ぎあっている。

「先輩!実はマジで狙ってんじゃないですか?w」

「つかマジで光源氏そんなことやったん?」

「一疾先輩むっつり~www」

全て無視して体育館につくなり

「さぁ練習だ練習!!」

と叫んで全ては有耶無耶にされてしまったのだった。

925 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 16:24:13.56 bEr1Xz9x0

だが練習を始めた時のみんなには、先ほどの重い雰囲気はまるで漂っていない。

先輩達のやり取りの陽気さが皆にいつの間にか伝染していた。





「ったく手間のかかる・・・。

 いつも通り接してやるんだろ?お前らがいつも通り練習しなくてどうするよ。」

もう他に誰もいない部室で篤志は虚空へ呟いた。

      • でも、と思う







「可愛かったらマジ縛っちゃおっかなwwwwwwwwwwwwwwww」

926 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 16:30:10.24 bEr1Xz9x0

―――――――1週間後――――――

    ――――水無総合病院・一般個室――――

「――ん、んぅ・・・。」

起きたばかりなのに全身に気だるさが付きまとう。

「どこだ、ここは・・・?」

気が付いたら見たことのない部屋に寝かされている。一見するとどうもどこかの病院のようだ。

「・・・。」

――――ああ、そういえば途中で倒れたんだっけ、俺。

    しかし、あのくらいで病院のベッドとは。

大げさなんだなと軽く苦笑しつつ俺はさっぱりしたくて部屋の隅にある洗面所に顔を洗いにいった。

歩いていく途中でやけにベッドが高く扉もやけに大きく感じたが、まだ気付くはずもなかった。

自分の体の変化に。今自分がどうなってしまっているかなんて。

まして、これから俺に訪れる問題の大きさに。

928 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 16:36:46.68 bEr1Xz9x0

パシャッ  パシャッ

顔にかかる水が気持ち良かった。顔拭いてすっと鏡を見た。

さらさらの黒髪の女の子がうつる。いや、最初はそこに居るのかと思った。

通った鼻筋になんとなく小動物を思わせるような漆黒の眼。

全体に凛としても、どうしようもなくにじむ可愛らしい顔立ち。

すぐに小さな頃に見せてもらった、母親の若い頃を思い出した。

数瞬ののち、俺は理解していた。自分に何が起こったかを。

「・・・でもなんでっ?!!」

完全に女の子の声、分かっていてもショックは大きかった。

931 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 16:43:46.69 bEr1Xz9x0

頭が真っ白になりそうだった。だけど、試合を重ねるうちに身に付いた自制心が理性を何とか自分に縛りつけてくれていた。

――――とりあえず落ち着くか・・・

    とりみだしたところで何がどうなるわけでもないしな。

「・・・。」

――――しかし何で童貞でもない俺が・・・?

ベッドの上で疑問は募るばかりで時間だけが過ぎていく。さすがに少しづつ焦り始めていた。

そんな時だった。

ガチャリ―――

扉の開く音が聞こえた、聞きなれたあの声が響く。

「おーい、遥凪いるか?先輩達とお見舞い来たぞ」

「え?あ・・・」

突然の渡利の来訪に俺は困惑してしまってうまく返事が出来なかった。

渡利の後に続いた一疾先輩と篤志先輩とも次々に目があう。

さらに困惑して俺は黙ってしまった。

「・・・」

935 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 16:54:51.18 bEr1Xz9x0

降りた沈黙を渡利が気まずそうに破ってくれた。

「あ~、え、っと君は遥凪・・・だよな?」

問いかけにコクリと頷く。

「あ~良かった間違ってたらどうしようかと思った」

ここで初めていつもの様に渡利がホッと微笑んだ。




         今でも私は忘れてはいない。この時の渡利の笑顔が私に与えてくれた

         安らぎと、わずかな勇気と、愛しさを――――

936 名前:風見鶏の向く方へ ◆IGfK3fyxFE 投稿日:2006/09/03(日) 16:59:47.10 bEr1Xz9x0

「よう、体は大丈夫か?」

一疾はいつもと何も変わらない口調で聞いた。

「はい、今は平気です」

答える遥凪も大分和んでいて、その様子をみて安心する。


   一方、篤志は・・・

「これは――――・・・」









「縛るしかないだろwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

                    ――――序章・完――――
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