保管庫

星垣多美(2) ◆PqUOSvmR0w

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532 名前:星垣多美の話 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 11:41:22.47 cZULnLbf0

保守ばっかりもなんだから星垣さんの話の続きを投下してみましょうか。
====
俺がカツをモリモリと食っている間、母はゆっくり食べながらケータイを操作していた。

「どこにメールしてんの?早く食べないと冷めるよ」
「ああ、ちょっとお父さんにね」
「買い物なら今から買って帰ればいいじゃん」
「買い物抱えて重たいじゃない?お父さん車なんだしいいって」
「うは、悪人だ」
「こんなんで悪人呼ばわりされちゃ、私も立つ瀬がないわ」
「はは、冗談だって」

ちょっとおちゃらけてみて、俺は再びカツをほおばる。

「よし、これでいいかな」

母はメールを送信し終わると、いつものペースで食べ始めた。
俺はというと、ちょうどカツが半分無くなったところだ。
そしてご飯が早くもなくなってしまった。

「わ、食べるの早すぎ」
「食い盛りだしな。ご飯おかわり頼もっと。すいませーん」



534 名前:星垣多美の話 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 12:09:51.57 cZULnLbf0

「ちょっと食べ過ぎじゃない?わ、野菜に全然手を付けてないし。全くこの子は」
「野菜は後で食べるから…」

「はい、お呼びでしょうか?」

さっきのお姉さんだ。

「ご飯、お代わり頼みます」
「はい、かしこまりました」

空のご飯茶碗をお盆に載せて、お姉さんが奥へ引っ込んだ。
そしてすぐに代わりの茶碗を乗せて戻ってくる。

「お待たせいたしました」
「どうもありがとう」

ここで初めて気がついたが、にっこりと微笑みながら茶碗を置くお姉さんは、かなり美人だった。
俺は奥へ引っ込んでいくお姉さんの後ろ姿をいつの間にか追っかけていた。



541 名前:星垣多美の話 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 13:13:12.66 cZULnLbf0

昼ご飯から復帰
====
「ふうん、伸彦も色気が出てきたか」

母の一言で我に返る。

「な、なんだよいきなり」
「いや、ずっと追いかけて見てるから、素直な感想としてね」
「ちょ、まってよ」
「まぁそういうお年頃、だよねえ。わかるわかる」
「母さんに言われるセリフじゃないよな…」

俺はばつが悪くなって、残りのカツを猛然と食べ始めた。

「ごちそうさまでした」

箸を置いた俺の目に見えたのは、苦笑しながらもなんとか箸を進める母の姿だった。



545 名前:星垣多美の話 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 13:53:13.82 cZULnLbf0

「ぐえっぷ」
「ホラホラ、あんなに急いで掻き込むからよ」

俺はなにも答えられずに母の一歩後ろを歩く。
そして帰りのバスに乗り込み、家路に付いた。

バスに揺られながら今日のことを思い返してみた。

彼女が教室に入ってきたときのこと…
整列して体育館に行ったときのこと…
体育館で彼女に見とれていたこと…
拓己の母らしき人がいたこと…
しかし拓己はいなかったこと…
そして母の『推測』…

もう一つ繋がってないよな…
満腹で眠いせいもあって、今ひとつ考えがまとまらないまま、午後の黄色い光の中バスに揺られていた。



546 名前:星垣多美の話 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 14:02:28.50 cZULnLbf0

「あーっ、疲れたーっ」

家に帰り着いた俺は、リビングに入るなりソファーに倒れ込んだ。
母はそのままキッチンへ回り、お茶のコップを2つ持ってリビングへやってきた。

「はい、おつかれさま」
「ありがと母さん」

俺はお茶を一気に飲み干すと、コップをサイドテーブルに置いた。

そして一呼吸置いてから、母に質問をぶつけてみた。

「母さん、昼に推測がどうとか言ってたけど、母さんはいったいなにを考えてたのさ?」
「それを話す前に、伸彦に話しておかなくちゃいけないことがあるわ」
「話しておかなければ、いけないこと?」

母は空になったコップを手に握ったまま、話し始めた。

「そう、これは重要なことね」
「…」



548 名前:星垣多美の話 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 14:18:05.20 cZULnLbf0

母の顔がゆっくりこちらを向いた、声が出る、と思った刹那…

「でも、やっぱりお父さんが帰って来てから話すわ」

明るく言い放つ母。
俺は、軽くずっこけた。

「ちょ、人がこんなに身構えてるのにそれかよ」

「もう前振りは充分だけど、1対1で話すにはちょっと重いからね。まぁ多かれ少なかれショック受けるだろうし」
「なんなんだよ、ショックって。よけい気になるじゃないか」
「今はヒ・ミ・ツ♪」
「なにが『♪』だよー。高校生の息子持ちのクセして」
「むー、これでもまだ30代なんだからね!」
「はいはい、四捨五入すりゃ40だっ…」

言い終わらないうちに母が俺の方に飛びかかる、やばっ…

「そんなこと言うのは、この口かっ、この口かあぁ~」

「ひてっひたいってぇ」

次の瞬間、俺の口は母に思いっきり引っ張られていた。



549 名前:星垣多美の話 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/02(佐賀県教育委員会) 14:31:41.83 cZULnLbf0

久しぶりに喰らったせいか、ものすごく痛い。

「ほめん、もう言わらい、言わらいはら、放ひてっ」
「ほんとーだな?」
「ふほんと、ふぉんとだって」
「なら、よろしい」

「あ゛ー、マジ痛てぇ」
「変なこと言うからよ、もうっ」
「事実じゃねーか…」
「なんか言ったっ?」

母がギロっと睨む。

「いえなんにも」

母の睨んだときの目は気の弱い奴ならすくみ上がるだろう。
実際それだけの迫力がある。
俺も今でこそ慣れたが、小さいときはその目が怖くて泣いたもんだ。
単に瞳が大きいというだけではなさそうだけれど。
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