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ほしがみさきのゆめ 40 YQSWm8ae0

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40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/09/14(木) 20:34:02.11 YQSWm8ae0

「ほしがみさきのゆめ」 1


「ようやく若様も、十六歳ですな」
「うむ…」
「やはり、決心がつかないのですか?
 しかし、これも殿のためでございます」
「…解っておる」

「ふう」軽いため息が虫の演奏にかき消された。
 ぼ…いや、私は十六歳を明日迎える。
そしてここを離れ、将軍様の許へ嫁ぐことになっているのだ。

 (明日の夜明けで…か…)
あくまでも、我が家元のため…
と思いを廻らせていたら、幼馴染が頬をつついていた。

「元気出せよっ」
「…言葉使いを直した方がいいね。一応、貴族のはしくれだろ」
「あの場所で待ってるから」
 勝手に呟き、どっかに消えてく。

 日は沈みかけ、辺りは朱に染まる。
空間を支配しようと、漆黒の闇が近づく。
「今日は、満月か…」独り言が漏れる。
 誰もいない幻想的な中庭を私は、急ぐように去っていった。


49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/09/14(木) 20:48:57.85 YQSWm8ae0

「ほしがみさきのゆめ」 2 今日はここまでです。


 最後の食事を胃に流し込こみ、幼馴染に最後の言葉を送ろうと立ち上がった。

あの場所

 幼少の記憶が頭に駆け巡り、甘酸っぱいものが心にやってくる。
しかし、そこには誰もいなかった。
帰って身支度を整えようと重い腰をあげたとたん

「どさっ!」
 闇の塊になすすべもなく私は、倒れるしかなかった。

「ちょっと、黙ってなさい」どっかで聞いた声がする。
 けれども、馬乗りの状態だから手も足も動かせない。口も塞がれている。
 暫しの沈黙。
私たち二人の気配しか今は無い。

「海に行かない?」
 どうやら質問形なのに、拒否権は無いらしい…

 規則的に体は揺れ、辺りは馬が走る音しか聞こえない。
整備された、道を越え、獣道になっても馬の速さは変わらなかった。

 城から何里位離れたのだろうか? 
辺りは月の光に淡く照らされた花が咲き乱れ、ささやかに潮風に吹かれていた。


233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/09/15(金) 17:42:18.80 bh4zahbo0

「ほしがみさきのゆめ」仮完成しました。
伏線とか思い出とか特に書かなかったので
想像力で補ってください。>>49の続き
少女と少年は互いに向き合う。

「ばしっ」
 さざなみをかき消すような大きな高い音がはじけ飛ぶ。

「なんか言う事はないの? 女になっちゃうんだよ? 
 なのに…なのに…」 
 洪水の様に涙と言葉が幼馴染の口から溢れ出す。

「私だって…」

「だって何よ? 自分の人生位、自分で決めたらどうなのよっ」
「私、アンタの無理している笑顔なんて見なくないの、
 幸せな笑顔を見たいのよっ!」 強い口調で奮起を促しているようだ。

「…言わせてくれ」
 頭の中で色々な、感情・運命・過去が膨らんでいく。
今なら、思いを伝えられると感じ全霊を込めて喋った。

「君が好きだ、運命を変えてくれないか?」
一字一句に思いを込めた一言。

「本当?」
「ああ…本当だよ」
一人では動かせない歯車は、二人の手でゆっくりと動き始めた。


237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/09/15(金) 18:17:15.21 bh4zahbo0

「ほしがみさきのゆめ」 4
 星が輝き、月は舞う。潮の流れと虫たちは優しい曲を奏で出す。

 わ…僕と幼馴染はこの清涼感溢れる
時の中で求め合い、やがて儀式を終えた。
 海から太陽が顔を出し岬が赤色に染まる。
僕と幼馴染は新しい道へ走り出そうと、
ここを去ろうとした。

 しかし、風を切って飛来する馬の足音と野太い声。
それから逃げる手立ても無く、ついに見つかってしまう。

「若! 探しましたぞ」
「動くな! この娘は貴族の一人娘であるぞ!」
 僕は幼馴染に呟く。
「…」

 小さく頷く、動作を確認した。
幸いにも囲んでいる大男は三人だった。
鯉口を切ろうにも、人質がいるので手を出せないでいる。
じりじりと、僕たちは後ろに下がり刀を捨てた。

その刹那--

二人は海へと消えていった。


238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/09/15(金) 18:23:37.01 bh4zahbo0

「ほしがみさきのゆめ」 5

 友人は話すのをやめた。
それなのにこう切り出す。
「最後に唄みたいにこう終わるんだ」

星が岬にかかるころ
二人の男女の恋実る
虫は喜び花開く
遠き思ひは近づくが
決して実らずすぐに散る

二人の体は海に消え
心は天に昇りけり
やがて天地でめぐり合い
変わらぬ愛を誓い合う

朧月夜の春が舞い
雷を落ちたり夏が鳴く
朝霧だちたる秋が来て
霜月降りる冬が去る
幾度の時が流れても
二人の想いひは変わらずや

ほしがみさきのよる 終わり
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