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美月(2) 禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo」(2006/11/02 (木) 18:38:51) の最新版変更点

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*** 260 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 21:49:30.09 gFWo409q0 常連には少しずつ美月が元男だと言う認識が広まり、美月を誘おうとする馬鹿はいなくなった。 日々は一見平穏だった。 あれから暁人は美月と距離を置くようにしていた。 理由は簡単だ。 傷付けてしまったのに、追い討ちをかけてしまったからだ。 でもあの時はそうでもしないと暴れだしそうだった。 なにもなかったという美月の言葉を疑ったわけじゃない。 だけどあんなぼろぼろになった美月の姿を見せられて、ホテルの刻印のされたライターを持った美月を壊したくなった。 そして、自己嫌悪した。 だから一緒に住んでいながら離れようとしている。 とんでもない矛盾だとは思うけれど、暁人には他に考えが浮かばなかった。 いつか美月も飽きて消えてしまうだろう。 そして別れは突然やってきた。 *** 262 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 21:59:06.38 gFWo409q0 小さなライブハウスとは言え、有名なバンドがたまに来たりもする。 その日はそんな日だった。 レコード会社の人間が数人来ていた。 客も多く、店長以下暁人も美月も開演まで走り回っていた。 「あの子、いつからいるの?前来た時にはいなかっただろう?」 顔見知りの業界人が美月の事を訊いてきた。 それに答えるべきではなかった。 いや、美月を店に置いておくべきではなかった。 「二ヶ月くらい前ですよ」 「そうか、ありがとう」 にっこりと大人の笑みを浮かべた彼にドリンクを渡したしばらく後、照明が落ちてライブが始まった。 そのライブの途中くらいからだ。 美月の様子がおかしかった。 表情が消えていた。 どうしたんだと訊いたら、帰ったら話すとの一点張りだった。 ライブが終わった後客を全て帰し、出演バンドの打ち上げのために貸切にしてから、様子のおかしい美月を連れて暁人は帰宅した。 店長も美月の様子を気にしていたおかげだ。 「どうしたんだ?」 すこしふらつく足取りで前を歩く美月はそれでも帰ってから話すとしか言わなかった。 危なっかしい美月を支えて歩くべきだったのだろうけれど、暁人にはできなかった。 極度に人に触られることを嫌う美月にこれ以上負担をかけたくなかったからだ。 マンションについてエレベーターに乗った後も美月は苦しそうに眉を寄せて壁に凭れていた。 「どこが悪いんだ?」 *** 275 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 22:38:25.92 gFWo409q0 「──なぁ、暁人。俺お前の事好きだよたぶん」 唐突に美月は言った。 「触られるの嫌じゃないし」 コートのボタンを外した美月が暁人の手を掴んだ。 「前、好きってわかるかって訊いただろ?」 「あぁ」 「わかった気がする。離れたくないって思うことなんだな。全部欲しいってそういうことなんだな」 白い肌を黒いコートが際立たせ、俯いた表情は髪に隠されていた。 こんな風に美月に手をつかまれるとは思わなかった。 あれからなるべく同じエレベーターにも乗らないように、なんだかんだと理由をつけてコンビニに行ったり、郵便受けを見に行ったりしていたのに、努力の甲斐はなかったらしい。 「そう言うこと言うと、やるぞ」 きっと美月の感情はとても幼いもので、全て欲しいなんてとてもじゃないけれど今の暁人には言えなかった。 だから脅しのように言った。 どうしようもないんだ。 すがるように見上げる目だとか、折れそうな手首とか、濡れた唇も、コートに隠されたまだ幼い体も、暁人には拒絶できない。 だけど美月は手を離さなかった。 一歩を踏み出せば、そこで捕まえられる。 「止めろってのは無理だから」 エレベーターの扉が開いた。 つないだ美月の手は冷たかった。 靴を脱ぐのももどかしかった。
*** 260 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 21:49:30.09 gFWo409q0 常連には少しずつ美月が元男だと言う認識が広まり、美月を誘おうとする馬鹿はいなくなった。 日々は一見平穏だった。 あれから暁人は美月と距離を置くようにしていた。 理由は簡単だ。 傷付けてしまったのに、追い討ちをかけてしまったからだ。 でもあの時はそうでもしないと暴れだしそうだった。 なにもなかったという美月の言葉を疑ったわけじゃない。 だけどあんなぼろぼろになった美月の姿を見せられて、ホテルの刻印のされたライターを持った美月を壊したくなった。 そして、自己嫌悪した。 だから一緒に住んでいながら離れようとしている。 とんでもない矛盾だとは思うけれど、暁人には他に考えが浮かばなかった。 いつか美月も飽きて消えてしまうだろう。 そして別れは突然やってきた。 *** 262 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 21:59:06.38 gFWo409q0 小さなライブハウスとは言え、有名なバンドがたまに来たりもする。 その日はそんな日だった。 レコード会社の人間が数人来ていた。 客も多く、店長以下暁人も美月も開演まで走り回っていた。 「あの子、いつからいるの?前来た時にはいなかっただろう?」 顔見知りの業界人が美月の事を訊いてきた。 それに答えるべきではなかった。 いや、美月を店に置いておくべきではなかった。 「二ヶ月くらい前ですよ」 「そうか、ありがとう」 にっこりと大人の笑みを浮かべた彼にドリンクを渡したしばらく後、照明が落ちてライブが始まった。 そのライブの途中くらいからだ。 美月の様子がおかしかった。 表情が消えていた。 どうしたんだと訊いたら、帰ったら話すとの一点張りだった。 ライブが終わった後客を全て帰し、出演バンドの打ち上げのために貸切にしてから、様子のおかしい美月を連れて暁人は帰宅した。 店長も美月の様子を気にしていたおかげだ。 「どうしたんだ?」 すこしふらつく足取りで前を歩く美月はそれでも帰ってから話すとしか言わなかった。 危なっかしい美月を支えて歩くべきだったのだろうけれど、暁人にはできなかった。 極度に人に触られることを嫌う美月にこれ以上負担をかけたくなかったからだ。 マンションについてエレベーターに乗った後も美月は苦しそうに眉を寄せて壁に凭れていた。 「どこが悪いんだ?」 *** 275 名前:禁煙失敗した('A` ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 22:38:25.92 gFWo409q0 「──なぁ、暁人。俺お前の事好きだよたぶん」 唐突に美月は言った。 「触られるの嫌じゃないし」 コートのボタンを外した美月が暁人の手を掴んだ。 「前、好きってわかるかって訊いただろ?」 「あぁ」 「わかった気がする。離れたくないって思うことなんだな。全部欲しいってそういうことなんだな」 白い肌を黒いコートが際立たせ、俯いた表情は髪に隠されていた。 こんな風に美月に手をつかまれるとは思わなかった。 あれからなるべく同じエレベーターにも乗らないように、なんだかんだと理由をつけてコンビニに行ったり、郵便受けを見に行ったりしていたのに、努力の甲斐はなかったらしい。 「そう言うこと言うと、やるぞ」 きっと美月の感情はとても幼いもので、全て欲しいなんてとてもじゃないけれど今の暁人には言えなかった。 だから脅しのように言った。 どうしようもないんだ。 すがるように見上げる目だとか、折れそうな手首とか、濡れた唇も、コートに隠されたまだ幼い体も、暁人には拒絶できない。 だけど美月は手を離さなかった。 一歩を踏み出せば、そこで捕まえられる。 「止めろってのは無理だから」 エレベーターの扉が開いた。 つないだ美月の手は冷たかった。 靴を脱ぐのももどかしかった。 *** 418 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 19:56:36.51 Eskt5/2X0 今の箱が終わったらまた禁煙します。そんでは続き。 抱き寄せた体は細く、暁人が少し力を入れたら折れそうだった。 何があったかを本当は追求すべきなのだろう。 冷たい柔らかい唇に拒絶されているようにも感じた。 だけど美月はしっかりと暁人のシャツを握ったまま離れようともしなかった。 口付けたまま手探りで部屋に入った。 何かが変わるかもしれない。ただそれだけだ。 暁人との関係も含めて全てが変わってくれたらと思った。 「なんかさ、変態っぽいよな」 脱がされながら沈黙が怖くて美月は言った。 「俺、中身男なのに」 年末も近い空気にさらされて、胸がわずかに震えた。 満月が暁人の肩越しに見えていた。 「気持ち悪くねーの?」 「なんで?」 向き合うようにマットレスに座った。 月が雲に覆われて闇が増した。 水仕事で荒れた暁人の手が頬にそっと触れる。それだけで背が痺れた。そのまま頭を抱かれて美月も唇を求めた。 ざらりとした感触が舌先に触れるたび、口腔を撫で上げられるたび眩暈がする。 下半身が脈打つ感覚がわかった。 もっと近づきたい。痛いくらいに抱きしめてほしい。変わらないなら忘れられないくらい強く残してほしい。 首に回した腕で暁人を抱いていた。 それに暁人は少し離れかけたけれど、すぐに抱きしめ返してくれた。互いに裸の上半身を寄せ合っていた。 *** 420 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 20:05:54.28 Eskt5/2X0 互いに裸の上半身を寄せ合っていた。 心臓も下半身も、それどころか指先すらどくどくと脈打っている。 もうこれだけじゃ足りない。初めて触れたのにそれ以上をもうほしがっている。 触れるか触れないかを繰り返す暁人の指先にもてあそばれているみたいで苦しい。 「ぁ…んっ」 甘えた声。 自分の声だと気づいて急激に恥ずかしくなった。 ふと体が軽くなる。固まった体を派手に押し倒された。 「美月」 のしかかられて美月の視界は真っ暗だった。 いきなり体から暖かかった暁人の温度が無くなって、少しだけ鳥肌が立った。 だから名前を呼ばれて美月は暁人に手を伸ばした。 「ちょっと待てって、ゴムが」 「いいよ」 中で出されても、これで子供が出来たとしてもそれでいい。 そうしたら何かがきっと変わる。 「出来たら面倒見てやる」 もう何回目かもわからないキスは首筋に落とされた。 どこからか何かもわからない感情があふれ出してくる。 少し冷たくなっていた膨らみに触れられて、暁人の手の暖かさがもっとほしくなる。 首筋を這った唇は鎖骨の窪みを通り胸に近づいてくる。 触られたことも無い乳首が自分でわかるくらいに硬くなって震えていた。 *** 423 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 20:25:28.44 Eskt5/2X0 「はぁあんっ」 舌は熱かった。 転がされて、吸われて、緩く噛まれて、美月は背を反らした。 息を吸うのも吐くのも声が漏れてしまう。自分の甘ったるい声を聞きたくなくて必死に止めようとするけれど止まらなかった。 さっきよりも強く脈打つ下半身に不意に何かが触れた。 「ひぁ!」 下着がひんやりとしていた。 「濡れてる」 なんのことかもわからない美月は暁人の顔を見ようと体を起こしたけれど、すぐについた肘が崩れた。 体が雷に打たれたらきっとこんな感じだ。 脳天からつま先まで何かが走った。痛みとそれから体に残る痺れ。 「ゃぁあん」 さっきまでのものとは比べ物にならない甘美な快楽に体が仰け反った。 少し暁人が指を動かしただけで動かしたくないのに体が跳ね上がる。 「なんかへん……っ」 頭がおかしくなりそうだ。 いたるところで真っ白い光が見える。 下半身だけが生きているみたいにドクドク脈打っている。もう下着の冷たさも感じない。 暁人の指先が動くのをただ体を震わせて待っていた。 「お……かしくなるっ」 「大丈夫」 くちゅ、と音がした。 「なん……あ、ゃあああっ」 腰が勝手に暴れた。うまく息が吸えない。 ぴちゃぴちゃと水音を立てながら暁人がさっきまで指で弄っていた場所に頭を埋めていた。 どこかに体が持っていかれる感覚をオ簿ながら体の奥が弾けた。 *** 429 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 21:00:30.53 Eskt5/2X0 上の オ簿ながら→覚えながら です('A` 本日もリアルタイムなので遅くてスマソ 痛みさえもただの刺激でしかなくて切ないくらい気持ちよかった。 痛くないかと暁人はしきりに聞いた。だけどもうそんなことわからなかった。 意識は霞がかってきていたし、暁人にしがみつくだけで精一杯だった。 全身を快楽が支配していた。 指が体の中で動いてはくちゅくちゅといやらしい音がする。 「あきとぉっ」 「なに?」 そのままキスをされた。口の中に少し変な味が広がる。 じわりじわりと奥へと進む指はそこでとまり、引き抜かれた。 「へんな味する……」 「美月の味だよ」 「な……ぅんっ」 口の中を暁人は暴れまわる。その動き一つ一つに美月の体は反応した。 上顎を撫でられるたびに仰け反ってしまう。 「これ気持ちいい?」 「んぅ……ぁ、ふぁっ」 さっきまで弄られていた場所がじくじくと疼いた。 太ももを知らず知らず擦り合わせようとして、暁人を挟んだ。 「だめ」 目ざとく見つけた暁人が手で美月の足を割る。 「もう…なんか変になるっ」 *** 435 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 21:18:39.85 Eskt5/2X0 「だから、なっていいよ」 下着はぐしょぐしょなのにまだ脱がされていないから、夜の空気で冷えていた。 それが剥ぎ取られた。 乳房を手で包んだ暁人はまたキスをした。 じゃらすように優しいキスだ。 「ん……っ!」 当たっていた。 指とは明らかに違う質量のものがぐちょぐちょに濡れた股間に押し当てられていた。 それだけで力が失われそうだ。 入れられているわけじゃない。入り口に先端が触れられているだけなのに、ぞくぞくした。 美月が動くたびに小さく水音がして、熱が増すようだった。 「エロすぎ」 頬にキスした暁人が言う。 「うるせ……」 「痛かったら言えよ」 それは肉をこじ開けて入ってきた。 充足感と強烈な痛み。 体が固まる。 「くぅ……ぅぁぁあああ…………っ!」 異質な刺激だった。 白かった頭に赤い斑点が浮かんでくる。 暁人の腕を掴んでいた手が肉に食い込んだ。 「止めるか?」 少し息を荒くした暁人が動きを止めた。 「や、だ……」 痛くてもそれでもいい。 *** 443 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 21:47:14.01 Eskt5/2X0 俺ミスタイプおおすぎ ぅtぁぁ ってなんだ ぅぁぁ でorz つーかエロでごめん 気持ちよかったことももう消えうせて、ただ痛みだけが体を蝕んだ。 閉じた目の奥でちらちらと見えた赤い斑点はきっと破瓜の血のイメージだった。 「大丈夫……だから……」 「わかった」 腰を両手でつかまれた。 そして暁人は強く腰を押し付けた。 「ひぁああああっ」 こじ開けられる感覚って言うのはきっとこういうことだ。 襞を抉りかき混ぜていかれていく。 そして痛みに少しずつ快楽が混ざる。 何かが抜けていくようなものとは違う、無かったものが満たされたような気持ちのよさ。 じわじわと痛みで強張っていた体から力が抜けて行き、違う力が入っていく。 「あき、とっ」 近くに感じたい。体の中で感じながら、肌を感じていたい。 手を伸ばしてキスを求めた自分は浅ましいだろうか。 だけどどろどろになった互いの境界線はたった一部で、もっと感じていたかった。 込みあがってくる、溢れてくる何かに突き動かされるよう美月は暁人に貪るようにキスをした。 背筋に快楽が溢れそうだ。 「締め過ぎ……だっ」 *** 447 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 21:59:58.55 Eskt5/2X0 「そんなん、わかんな……ゃああああっ!」 一際強く叩きつけられ軽い絶頂を迎えた。 痙攣する体を暁人は気にもせずに抽送を繰り返す。 がくがくと揺さぶられながら連続してハレーションを感じた。 何度も何度も浮かんでは弾ける。 体の感覚が失われ、戻るたびに頭のどこかで何かが弾けて力が入らなくなる。 「死んじゃぅう……!」 「俺も、そろそろっ」 暁人の息が上がっていた。 一段と中で質量を増した暁人が動きを早めた。 それまでとは比にならない力強さで奥まで叩きつけられて、硬く張り詰めた先端からの迸りを感じながら、美月は意識を失った。 やりすぎたと反省したものの、寝息を立てる美月を抱きながら眠りに付いた。 長く感じたことの無い満足感に包まれながら、心に残っていたしこりを無視した。 翌朝、美月は消えていた。 *** 456 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 22:31:07.29 Eskt5/2X0 ごめん続き 『月、きれいだなー』 初めてこの部屋に連れて来たとき、美月は嬉しそうに言った。 お互いの事は会ったとき以来話さなかった。 話すのが怖かったし聞くのも怖かった。 今更聞いて置けばよかったと、居なくなって思う。 お互いにどう思っているかを言った事も無い。 勢いで好きだよと言ったのを美月はきっとそういう意味だとはとらえていないだろう。 たった二ヶ月だ。 たったそれだけの日々なのに馬鹿みたいにこの部屋には美月の匂いがする。 特別なにかをつけていたわけじゃないのに、美月はいつも優しい花の匂いがした。 年が明けて、一月が過ぎ去り、二月が終わり、春が来ても美月は戻らなかった。 「一年我慢した。これ以上は見過ごせん」 父親は言い放って暁人の部屋を勝手に解約した。 そうして暁人の帰る場所は、美月の戻ってくるかもしれない場所も無くなった。 見たくも無い義母の顔を見ながら、滅多に帰ってこない父親に管理される日々。 考えるのはいつもあの美月のどうしようもないくらい不安定な二面性だった。 なによりも鮮烈に、激しい喪失感と後悔とともに唐突に感情が揺らいだ。 夏が終わった。 我慢の限界だった。 部屋に鍵をかけてまで監禁じみた行為を正当だと思うような親だった。 美月の祖母を異常だと思ったが、うちの親も大概異常だ。暁人は自嘲した。 『ちゃんと触れよ』 触れるのが嫌なくせに熱っぽい声で、潤んだ瞳で見上げてきた美月。 *** 459 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 22:44:46.39 Eskt5/2X0 ちゃんと触っただろうが。ちゃんと抱いただろうが。 「馬鹿野郎はどっちだ馬鹿」 また嫌いだと言っていた祖母に虐げられる日を送っているのか。 また誰かの家に転がり込んでいるのか。 それとも一人で生きているのか。 それとも───。 「くそっ」 クッションを壁に投げつけて暁人は立ち上がる。 深夜の家には義母と暁人しかいない。 ドアノブを回すといつもどおり鍵がかかっていた。 「だめか」 自然、口元に笑みを浮かべて暁人は扉から離れた。 マンションの9階から逃げるとは思っていないらしく、ベランダに続く窓は自由に開けられた。 両手にバンダナを巻きつけ、暁人は別室で眠る義母に聞こえるよう叫んだ。 「もう二度と帰って来ないって言っとけ!」 鞄を肩にかけて、窓を開ける。 学校帰りに買ったロープをきつく手すりに固定して、ベランダを飛び越えた。 マンションの壁にうまく体重をかけながら、ロープにかかる比重を軽くしつつ、下へと向かう。 頭上で義母の悲鳴が聞こえた。 見上げると秋の藍を刷いた夜空にぽっかり白い月が笑っていた。 美月は笑っているのだろうか。 それだけが心配だった。 美月のつけた腕の傷は跡になっていた。 *** 462 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 22:55:25.44 Eskt5/2X0 閉店前という時間のせいもあるだろうが暁人が働いていたときと同じように、店は閑古鳥が鳴いていた。 「いらっしゃい」 店長はそれだけ言うとドリンクを渡してくれた。優しい笑顔は義母や父親から向けられなかったものだ。 それだけで癒される気にすらなる。 「美月、来たりしてないですか?」 少し考えた風の沈黙の後、店長は暁人の手のひらを掴んだ。 それから、ペンで数字をいくつか書いた。 「お給料、払えて無い分があるから取りに来てって言っといてくれないか?」 「了解です」 携帯電話の番号はたぶん美月のものだ。 あまりに一緒に居ることが多いから必要ないと言って、美月自身携帯の電源を切りっぱなしにしていたから知りもしなかった。 「でもなんでかけなかったんですか」 「美月ちゃんはワガママでどっかいく子じゃないから、理由があったんだろうからね」 グラスを拭きながら店長は言った。 カウンターは店長一人には広く感じた。 「俺……」 「美月ちゃん連れてきてくれよ。うちの看板娘だ」 携帯電話はすぐに繋がった。 美月ではなかった。 「どちらさまですか」 しわがれた男の声だった。 美月の名を告げると声は名前を尋ねてきた。 「暁人と言えばわかるはずです」 後日連絡をします。 連絡は来なかった。 *** 467 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:17:03.38 Eskt5/2X0 知っているのは、名前だけ。 藤間美月。 苗字も店長に訊いて知ったくらいだ。 他は何も知らない。 手がかりと呼べるものはそれだけだった。 携帯電話はあれからずっと電源が切られている。 年齢は16か15かそれくらいで、女体化した男。 たぶん金持ちの息子(娘?)。 こんなものは手がかりにすらならない。 だから、美月に再会できたのはとんでもない偶然だった。 大きな車道を挟んだ向こうのホテルのエントランスに立った少年っぽい少女。 スーツを着て携帯を片手に紙コップを持っているのは見間違えるはずも無い。 キレイに切りそろえられた髪が風と戯れていた。 「美月!」 声が届くわけも無い。 交通量の多い道路を挟んで叫んでも聞こえないのはわかっている。 だけど叫ばずにはいられなかった。 「美月っ!!」 横断歩道は遠かった。 ここで見失ったらきっと二度と会えないだろう。 また出会った頃と同じ季節の風が吹いていた。 美月が背を向ける。 ここで車道を抜けていけば気づいてくれるだろうか。また馬鹿と言うのだろうか。 ずっと何を考えているかわからないと言われ続け、冷たいと言われ続け、暁人自身、こんな自分が激情を持つとは思っても居なかった。 ごうと車が風を巻き起こした。 *** 475 名前:禁煙マニア ◆CrZFiJnWzo 投稿日:佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 23:46:22.47 Eskt5/2X0 タイヤが鳴り、罵声が聞こえる。自動ドアをくぐろうとした美月が振り返る。 残照の中、オレンジに染まった街に美月の居る場所だけが淡く白かった。 「美月!」 クラクションがこだました。 少し背が伸びて前より痩せていた。 近づいていく影が重なる。 「お前やっぱ馬鹿だ」 携帯電話を閉じた美月が笑っていた。 怒声を飛ばしてきていたドライバーたちからいつの間にやら野次が飛ばなくなっていた。 いつかと同じように美月の唇は冷たかった。 「暁人、俺ヤバイよ?いいの?」 いいのと訊いておきながらきっと美月は答えをわかっている。 そんな笑顔だった。 「ヤバかったら二人で逃げればいいだろ」 美月は無邪気に笑った。 祖母が死んだのだと美月は言った。 だから色々遺産関係と会社関係でゴタゴタしていたのだと。 しばらくは続くからもう少しだけ待ってくれと美月は言った。 そして、冬になった。 客に飲まされたアルコールを飛ばそうと非常階段に出た。 白い影が立っていた。 「俺、美月。あんたは?」 「暁人だ」 白いコートの裾を揺らしながら非常階段の柵をひらりと越えて、暁人の前に立つと、美月は手を伸ばした。 「ただいま」

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