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*** 596 名前:AYA ◆zh2yobq4zs 本日のレス 投稿日:2006/10/09(月) 17:20:21.38 iMWrxZnc0
「こっち向いて!ななちゃーん!!」
「ななちゃん、可愛いぃぃ!」
空港で、ファンの人たちに呼ばれて、私は手を振る。
「きゃぁ!」
それに歓声で応えてくれる、みんな。
女の子が主だけど、混じって男の子も迎えに来てくれている。
来年公開の映画の撮影で海外に行き、怒涛の日々が終わって、
飛行機内でぐったりしてたけど、みんなの顔を見たら、元気が
出てきた。今の私の活力源は、みんなの応援。
雑誌で「国民的アイドル」と謳ってもらっている私だけど、
実は元男だ。でも、女体化してからは学校を即座に変えたし、
変えた先ではばらしてないし。
女体化後は、いろんな不安はあったけど、それは新しい学校に
慣れる事でいっぱいで、すぐに女の身体にも慣れてしまった。
学校の帰り道に声を掛けられたのが、芸能界入りの発端。
そんな事に慣れてなかった私は、誘われるまま、近くの喫茶店に
入ってしまったんだけど、その人は本当の芸能事務所の人で、
現在の所属先でもマネージャーを勤めてくれている。
その後、両親にも話してくれた。
もちろんその時に、ちゃんと自分は元男だって伝えた。でも、
その事はもちろん公開しない。今、君から発せられるアイドル
的なオーラが…云々と、いろいろと熱心に説得をしてきた。
その熱意と、新しい世界に誘われて、私はアイドルの道を進む
事を承諾した。
*** 597 名前:AYA ◆zh2yobq4zs 本日のレス 投稿日:2006/10/09(月) 17:24:06.27 iMWrxZnc0
学校との掛け持ちは大変だけど、クラスの友達はみんな応援
してくれるし、次第に雑誌のグラビアで載るようになると、他の
学年の人からもサインをねだられるようになってきた。
私は、みんなの笑顔が嬉しくて、言われるままサインをして
いたけど、その内、仲のいい友達が、プチマネージャーのように、
周りにちょっとした壁を作ってくれるようになった。
「ななは人がいいんだから。そんなじゃ疲れちゃうよー」
友達の話ではこうだ。確かに、休み時間も休みじゃなかった日々が
続いていたので、友達の協力は嬉しかった。
その内、ドラマ出演の話が来た。脇役だけど、セリフや出番が多い。
依頼が来たと言うより、押してくれたんだと思うけど、新たな世界を、
私は笑顔で引き受けていた。
アイドルの演技、と言う事で、誰もが期待してなかったと思う。
でも出演を知った演劇部の友達が、演技指導を買って出てくれた。
その子は、自分が演技するより、演出する方を目指していると
かで、その勉強にもなるし、アイドルのななに教えられるなんて!と
毎回、目を輝かせていた。でも、ほんと、彼女が居なかったら、私の
演技は、どうなっていたか分からない。
撮影所では、想像以上だったのか、皆さんから好評を得る演技が
出来たみたい。賞賛がとても嬉しかったから、思わず次の撮影には、
たくさんの手作りクッキーを持参して、皆さんに振舞ってしまった。
思わず、の行為だったけど、それがいい評価に繋がったみたいで。
ただのお高いアイドルじゃない、素の可愛い子と、とある雑誌で
撮影エピソードのインタビューにて、書かれているのを見た。
余計に嬉しくなって、もっと仕事が楽しくなったのは言うまでも
無かった。
*** 598 名前:AYA ◆zh2yobq4zs 本日のレス 投稿日:2006/10/09(月) 17:25:44.62 iMWrxZnc0
グラビア撮影、写真集、ドラマ出演、そして、新しく映画出演と、
巡るましく届く仕事に満足感とを感じている日々。
だけど。そんな私に、運命がいたずらを起こした。
雑誌に「特大スクープ!アイドルのななは、元男だった!!」と
書かれた記事が掲載された。
この雑誌を持ってきたのはクラスの人だった。
かなり綿密に書かれていて、私は固まってしまった。
その後、事務所から電話が学校にかかってきて、学校にも迷惑が
かかるかもしれないから、と、その場で早退する事になった。
微妙なクラスのみんなの視線を受けながら、とぼとぼと学校裏で
待っていたマネージャーの車に乗り込む。
私は、ただ、俯いていた。
事務所に密かに戻ってきたはずなのに、すぐ人ごみに囲まれて
しまった。
「国民的アイドルが元男だって、本当ですか!?」
「みんなを、騙していたんですか!?」
インタビューの人は、直球で痛い言葉をたくさん投げかけてくる。
マネージャーはそれを振り切ろうとするが、人数に差がありすぎる。
とうとう、動けなくなってしまった。
容赦なく言葉が、あちこちからかかってくる。
私の胸には、さっきの言葉が引っかかっていた。
『みんなを、騙していた』
確かに、元男だけど…でも、でも…。
*** 601 名前:AYA ◆zh2yobq4zs 本日のレス 投稿日:2006/10/09(月) 17:28:35.55 iMWrxZnc0
「私は…」
口を開く。マネージャーは、慌てて止めに入ろうとしてたけど、
私は言葉が止まらなかった。
「私は、確かに、元男でした。でもそれは過去で、今は女です。
でもこれまで「なな」と言う人間を、皆さんに伝えていたつもり
でした。
それを、皆さんは受け止めてくれていると思っていました。
けれど、それが騙していたのなら、もう、皆さんに自分を魅せる
事は出来ません…」
ここまで紡ぐと、涙でもう話せなかった。
時折フラッシュは炊かれるものの、周囲は静まっていた。
それから数ヵ月後。
私は、映画の初日の舞台挨拶に来ている。
あの時の言葉は、マスコミや応援してくれていた皆さんの心を
大きく動かしたようだった。
暫くは仕事が減ったものの、今ではまた、オファーが来るように
なった。CMの仕事まで来ている。
私は舞台上から、大きな花束を抱えながら、来ている皆さんに
「ありがとう!本当にありがとう!!」
そう言い、うっすら涙ぐんでいた。
FIN
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