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史無国 参」(2009/09/24 (木) 20:32:37) の最新版変更点

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史無国 参 その後、エルムッドらはレイムッドらと解散した。 どうやらこの後、軍議を行うらしい。 テレシスが何についてかを聞こうとしたが、クラムディンは答えてくれなかった。 「そのうち分かるよ、テレシス」 そう言い残して、三人は公爵邸から西にある軍営に向かった。 「エルムッド、この後どうするよ?」 「……ん、どうもしない。とリあえず、家にでも帰るかな」 「そうだね、私もいったん帰る事にするよ。同じ部隊に配属されるといいね」 「あぁ? なに言ってんだテレシス。お前は『公爵の智嚢』に配属だろうが」 『公爵の智嚢』とは、公爵直属の軍師集団である。 テレシスの父親であるクラムディンは、そこの副帥であった。 総帥の名は、三人は知らなかった。 「でもさ、公爵様の軍って、基本的に軍長・副長・参軍でなってるでしょ」 「ああ。それがどうかしたか?」 セリックに言われ、テレシスは言う。 「いや、普段は『公爵の智嚢』に居るけどさ。でも、『智嚢』の人たちも、戦時の時には専属の軍が割り当てられていると思うんだ」 「へぇ、そりゃ、初耳だ。だけど、道理だな」 セリックは感心する。 エルムッドはと言うと、また空を仰いで呆けていた。 「……ともかくさ。公爵様はきっと、相性とかも考える人だと思うんだ」 「俺かエルが軍長・副長で、テレシスが参軍、ってことか」 「ご明察」 テレシスが笑いながら言う。 「重臣の子って言っても、新米だからな」 「部隊を与えられるのは、まだ先だね」 「……いや」 エルムッドが、不意に口を開いた。 「どうした、エル?」 「……たぶん、次の沙汰で、俺達は部隊を与えられる」 「どういう事だい?」 「……勘、だ」 エルムッドが言った。 まさにばかげた理由だった。 「ま、お前が言うんならそうなんだろう」 しかし、二人はそれを信用した。 「だね。なんて言ったって、エルの勘は外れたことがないからね」 セリックとテレシスが笑う。 エルムッドも、それに少し笑みを浮かべた。 「じゃ、今日はこの辺で解散にするかい?」 「そうだな。んじゃ、テレシス、エル。また明日な」 「……じゃあ、な」 そう言って、エルムッドは二人と別れた。 暫く馬を疾駆させた。 いつも、呆ける丘が見えてきた。 エルムッドはこの丘がたまらなく好きだった。 何故かはわからないが、ここならよく風と会話できた。 「……特に今日は何もないみたいだな」 無論、本当に会話するわけではない。 ただ、何となくそう感じるだけだった。 風が、それを運んでくると、エルムッドは思っていた。 二時間、丘の上で呆けていた。 自邸に帰る頃には、日は沈んでいた。 夕飯の時間はとっくに過ぎていた。 エルムッドは、そろりと自邸の扉を開けた。 「兄さ――」 パタン。 「……幻覚か」 エルムッドは扉を開ける。 「兄――」 パタン。 「……三度目の正直だ。それを信じよう」 エルムッドは、扉を開けた。 刹那、棒がエルムッドに襲い掛かってきた。 エルムッドはそれをよける。 そのまま体を屈め、避け様に棒を掴みながら懐へと潜り込んだ。 「……何の真似だ、レイノナ」 「兄さんが悪いんでしょう! もうとっくに夕飯の時間は過ぎてるの!」 「……だからって、いきなり棒はないだろうが。お前の槍術は、真面目に喰らうと洒落にならん」 「じゃあなんで二回も開けて、閉じたの?」 「……幻覚を見た気がし」 言い終わらないうちに、レイノナの棒が再び繰り出された。 エルムッドはそれを見切り、紙一重で躱わすと、手刀で薙いだ。 急に素早い打撃を受けたレイノナは、衝撃で手がしびれたのか、棒を取り落とした。 「……甘いな。それでも、槍なら俺は負けるかもしれんが」 「半分奇襲で、負けた。兄さんは、やっぱり強いわ」 レイノナは、笑った。 と、同時に奥の方から少年が一人走ってくる。 「一体何を騒いでるんです?」 「……レイアンか。いや、特にどうと言うわけじゃ……」 「レイアン! 兄さんったら、またご飯の時間をすっぽかして帰って来たのよ?」 「……大体理解しました、はは……」 レイアンは呆れたように言った。 「ともかく、兄上も姉上も、早く来て下さい。ご飯が冷めちゃいますよ」 「……今出来上がったばっかりなのか?」 「呆けてるだろうと、母上が遅く作り始めたのですよ、兄上」 そう言うと、レイアンは奥へと入って行った。 エルムッドとレイノナもそれに続く。 居間に入ると、たった今出来上がったばかりのように料理が並んでいた。 キッチンには、エプロン姿の女性が、丁度エプロンを取り外そうか、と言う時だった。 「御帰りなさい、エルムッド」 「……悪い、母さん。ちょっと呆けてた」 「ふふ、分かっていますよ、エルムッド。このウィノナ、貴方の母を19年務めてますからね。なんでもお見通しです」 ウィノナは微笑みながら言った。 どうもエルムッドはこの微笑みを受けると、背中がかゆくなる。 この包まれるような感覚を受け入れたい、という素直さと、恥ずかしいという思いが交錯しているようだった。 「ところで兄上。今日は公爵様の所でどんな話をされてきたのです?」 「……任官がどうの、という話だったな」 「任官? 兄さんすごいじゃない!」 「……父さんの伝手だろう」 「いいえ、それは違いますよ」 ウィノナが口を開いた。 「あの人は、息子だからと言って過大評価はしません。むしろ厳しいのです。 そんなあの人が認めたと言う事は、エルムッド。貴方は力が有ると言う事なのです」 「……呆ける事しかできんよ、俺は」 そう言うとエルムッドは、椅子に座って食事に手を付け始めた。 「あ、兄さん! せっかく待っていたのに、先に食べるなんてひどいじゃない!」 「……冷める」 「……怒っていいかな、兄上」 「……体に堪えるぞ、レイアン」 「ふふ……」 兄弟喧嘩を繰り広げる子供達を、ウィノナは優しい目で見ていた。 [[史無国 四]]へ

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