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五十数隻の水上バイクが、大海に波しぶきをあげて走っていた。 二列縦隊の隊列を組み、先頭には矢じり形に三つのバイクが並んでいる。 レジスタンスでも最強の貫通力を誇る、ポセイドン要塞のオーシャンスピアである。 海色の水上バイクが槍の如く隊列を組んでいる姿は、さながら海の神がその槍を掲げているかのようである。 先頭の三隻に乗るのは、ポセイドンのリーダー、トゥルー・ランスとレジスタンスリーダーのケビン・クレイン、そしてポセイドンの指揮官を務めるイワン・カルカロフである。 レジスタンスのリーダー、ケビンがこの偵察隊に加わっているのは、先の会議に端を発する。 その会議では、今後の方針や戦略、現在保有している資材や武器などの確認、そして現在の戦力で十倍にも及ぶ敵をいかにして丸め込み、撃退するかというものに議論が集中することとなった。 諜報部のヤマトの情報によれば、明らかに戦略的な実力や統率力だけならばレジスタンスが圧倒的に上であるが、絶対数の差は歴然たるものがあり、まともにやりあって勝つことの出来る相手ではない。 議論は一時膠着したかと思われた時に、イワンが発言をしたのだ。 「ここはやはり、坊っちゃまに戦いの経験を積ませるべきであると思います。 クレイン様のご子息とはいえ、実際の戦場で坊っちゃまは槍を振るったことがありませぬ」 彼がケビンのことを坊っちゃまと呼ぶのは、今は亡きルースへの敬愛と、ケビンに対する忠誠心が故である。 「しかし、それで小僧が犬死にしては元も子もあるまい、イワン。 初陣で大将首をくれてやれば、我々レジスタンスの壊滅は目に見えておる」 と、眼鏡をかけた男ががもっともな意見をした。 隣にいた、温厚そうな男も頷くが、多少穿った意見も述べる。 「しかし、それは士気を高めることにも繋がりますよ、ハール殿。 メリットとデメリット、天秤に掛け合わせればちょうど釣り合うのでは? いや、その行為の勇猛さを加えるならば、これ以上レジスタンスの明日を切り開く道もないと思います」 「ふむ、ホウィー殿の言うことももっともだが……」 ハールと呼ばれた男は、隣のホウィーにそう、言う。 そして、口々に賛成と反対の声が、およそ半々に分かれた。 ポセイドンのオーシャンスピアの面々は口々に賛成を声高にこの案を擁護する形を取り、反対にハールをはじめとするリンドブルムは慎重論を唱える。 ホウィーら、アポストロスは二つの意見を吟味し、ふるいにかけようとしているようだ。 と、ここでケビンが口を開く。 「みなさんの意見はよく分かった。 けれども、僕は遅かれ早かれ、戦いに出ることになるんだ。 その時、僕が臆病なうさぎみたいに穴に引きこもるのは御免だよ。 だからこそ、僕は、その……」 彼は口ごもる。 しかしランスは、彼の言いたいことを汲み取り代弁する。 この壮年の男は、意外と人の機微にさといのだ。 「つまり、ケビンはこの案に賛成だというわけだな。 確かに将は、時として前線で士気を上げなければならない、その時に足手まといになるのをケビンは嫌だ、そういうことだな?」 「そう、そうなんだよ! ありがとう、ランスおじさん」 と、彼は礼を口にする。 その後の多数決ではケビンの出陣が過半数で決議されたが、その際に一つだけ条件が付け足された。 それは、ケビンが戦死したときには速やかに三要塞のリーダーにレジスタンスの指揮権を譲渡するというものだ。 特に反対意見もなく、この条件は飲み込まれた。 以上が、ケビン・クレインの初陣に至るまでの事柄である。 [[海地戦記『二話』]]へ
五十数隻の水上バイクが、大海に波しぶきをあげて走っていた。 二列縦隊の隊列を組み、先頭には矢じり形に三つのバイクが並んでいる。 レジスタンスでも最強の貫通力を誇る、ポセイドン要塞のオーシャンスピアである。 海色の水上バイクが槍の如く隊列を組んでいる姿は、さながら海の神がその槍を掲げているかのようである。 先頭の三隻に乗るのは、ポセイドンのリーダー、トゥルー・ランスとレジスタンスリーダーのケビン・クレイン、そしてポセイドンの指揮官を務めるイワン・カルカロフである。 レジスタンスのリーダー、ケビンがこの偵察隊に加わっているのは、先の会議に端を発する。 その会議では、今後の方針や戦略、現在保有している資材や武器などの確認、そして現在の戦力で十倍にも及ぶ敵をいかにして丸め込み、撃退するかというものに議論が集中することとなった。 諜報部のヤマトの情報によれば、明らかに戦略的な実力や統率力だけならばレジスタンスが圧倒的に上であるが、絶対数の差は歴然たるものがあり、まともにやりあって勝つことの出来る相手ではない。 議論は一時膠着したかと思われた時に、イワンが発言をしたのだ。 「ここはやはり、坊っちゃまに戦いの経験を積ませるべきであると思います。 クレイン様のご子息とはいえ、実際の戦場で坊っちゃまは槍を振るったことがありませぬ」 彼がケビンのことを坊っちゃまと呼ぶのは、今は亡きルースへの敬愛と、ケビンに対する忠誠心が故である。 「しかし、それで小僧が犬死にしては元も子もあるまい、イワン。 初陣で大将首をくれてやれば、我々レジスタンスの壊滅は目に見えておる」 と、眼鏡をかけた男ががもっともな意見をした。 隣にいた、温厚そうな男も頷くが、多少穿った意見も述べる。 「しかし、それは士気を高めることにも繋がりますよ、ハール殿。 メリットとデメリット、天秤に掛け合わせればちょうど釣り合うのでは? いや、その行為の勇猛さを加えるならば、これ以上レジスタンスの明日を切り開く道もないと思います」 「ふむ、ホウィー殿の言うことももっともだが……」 ハールと呼ばれた男は、隣のホウィーにそう、言う。 そして、口々に賛成と反対の声が、およそ半々に分かれた。 ポセイドンのオーシャンスピアの面々は口々に賛成を声高にこの案を擁護する形を取り、反対にハールをはじめとするリンドブルムは慎重論を唱える。 ホウィーら、アポストロスは二つの意見を吟味し、ふるいにかけようとしているようだ。 と、ここでケビンが口を開く。 「みなさんの意見はよく分かった。 けれども、僕は遅かれ早かれ、戦いに出ることになるんだ。 その時、僕が臆病なうさぎみたいに穴に引きこもるのは御免だよ。 だからこそ、僕は、その……」 彼は口ごもる。 しかしランスは、彼の言いたいことを汲み取り代弁する。 この壮年の男は、意外と人の機微にさといのだ。 「つまり、ケビンはこの案に賛成だというわけだな。 確かに将は、時として前線で士気を上げなければならない、その時に足手まといになるのをケビンは嫌だ、そういうことだな?」 「そう、そうなんだよ! ありがとう、ランスおじさん」 と、彼は礼を口にする。 その後の多数決ではケビンの出陣が過半数で決議されたが、その際に一つだけ条件が付け足された。 それは、ケビンが戦死したときには速やかに三要塞のリーダーにレジスタンスの指揮権を譲渡するというものだ。 特に反対意見もなく、この条件は飲み込まれた。 以上が、ケビン・クレインの初陣に至るまでの事柄である。 -[[海地戦記『二話』]]へ

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