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シーモの再的空間」(2009/03/15 (日) 20:27:13) の最新版変更点

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そして あれは結局夢だったのか。 もしくは現実か。 今となっては分からないけど、しかし―― +++ 僕はどうして、此処に居るのだろう。 眼前の『彼』を見ながら、どうしようもなくそう思う。 「……こんなことって、在るんだね」 「ああ、本当だな――シーモ」 そして『彼』は可笑しそうに、ケラケラと笑う。 昔、僕と初めて会った時と――まるで変わっていなかった。 と言っても、これで会うのは二回目。 その上、昔というのは、十年前。 子供だった僕という人間は、夢を持たない大人になっている。 だから、その理由もあって。 フォルテさんに変化が無いことは――僕にとっては異常に見えた。 と、まあ、こんなことをうじうじ考えていても話は進まない。 僕は眉を顰めて、訝しげに聞いてみる。 「よく、僕の名前を覚えていましたね」 「はんっ、天才のオレ様にとって、それは愚問だな。まあ、それだけお前が印象深かったっていうこともあるが」 ……天才、か。 確かに『彼』は己のことを、天才の中でも郡を抜く天才と自負していた。まあ、そこには誇りと自信と言うよりも、空言と自称が混じっていた気がする。 だけど、 「印象深い……? 何処が」 「目だ」 「目?」 「オレ様のことを見下すように見る『小僧』の目、だ」 あん時は、驚いたぜ。 と、鼻で笑い、僕へと歩み寄る『彼』。 見下す、だって? まさにその通りじゃないか。 僕はあの頃――世界に、いや、宇宙に存在する森羅万象を見下していた。 全てを哀れみ、全てを嫌がり、全てを嬲っていた。 何故なら。 僕は――天才だから。 全人類の中で、僕だけが正常で高尚な生き物だと、確信していた。 だが。 『彼』に出逢ってから、それは図らずも変わってしまった。 「お前の思っていることは分かるぞ、『小僧』」 僕はもう夢を持っていた小僧ではないと言うのに――何故貴方はそんなに突き刺さる呼称で呼ぶのですか。 貴方は、何せ。 僕が唯一、『天才』と認めた人。 僕が唯一――『音楽』に酔いしれられた人。 貴方は、誰ですか。 一体、何者ですか。 「オレ様は、フォルテだ」 『彼』はそれでも、そうとしか答えない。 頭の中を読み取るように――シーモと名づけられた僕という人間を、理解しているように。 「オレ様はお前に、ただの御伽噺を――フォルテの私的空間というタイトルのフェアリーストーリーを、提供しただけだぜ?」 「……だけど」 それが僕の人生を変えたんですよ? 現実しか知らない僕に、理想を教えてくれた貴方は。 僕は半端者だと気付かせてくれた貴方は――。 「茶でも出していきたいところだが生憎、オレ様は眠い」 そう言いながら『彼』は、昔のように真っ黒なピアノに向かう。 「おい、シーモ。よおおおく聴け。耳ん中に染み込むまで、弾いてやる」 「……はい」 僕は静かに返事をして、そのまま阿呆みたいに突っ立っていた。 『彼』は、薄く笑う。 (三度目は……あると思うか?) (いえ、おそらくこれっきりでしょう) そして。 合わせていた眼を――離して。 『彼』はとびっきり、格好良く言う。 「オレ様の音楽に――酔いしれろ」 +++ 『彼』の音楽をかみ締めていた時。 僕は多分――涙を一筋流していた。 今となっては、分からないけどね。 結局。 僕の再的空間は、最適空間でした。 ということで。 めでたし、めでたし。 そんな風に、戯言を思って。 僕はようやく空を見上げる。

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