「五重奏な日々」(2009/03/10 (火) 08:00:57) の最新版変更点
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怪物に捕まってしまったアイリスは言った。
私を助けて、と。
それに対し、ノアは何も言わず――命がけで、その言葉に従い、そして見事彼女を救出した。
何故、このようなことができるのか。
その理由の発端となる、昔の出来事についてをを語る機会は後に回すとし、とりあえず二人の関係について今後のために簡単に触れておこう。
アルター=ノアとクルー=アイリスの関係とは――まさに、騎士と姫。
そして、決してそれは恋愛関係の部類には入らない。
むしろそれよりかは、もっと深い、もっと強い、もっと永い関係なのかもしれないのだ。
互いが互いを信じ信じられ、頼り頼られ、そして何より――護り護られる。
そんな騎士と姫の関係が今の今まで、途切れることなく続いている。
そしてそれはきっと、未来永劫続く――はずだ。多分。
何はともあれ。
兎にも角にも、怪物との最初の接触において、ノアは騎士としての義務は果たしたのであった。
+++
「しっかし、結局あの怪物って何だったんだろうな。君は何か知らないの?」
「セシル……ぼくにだって分かるはずも無いよ。父さん曰く、本当はゴーレムって名前らしいけど」
「ノア君が剣で黒い宝石を砕いた瞬間、黒い煙になって消えてしまいましたものね。ますます意味が分からないのです」
「問題は、これで終わるのかどうか……」
「ああー、もう! 何で皆終わったことをいちいち持ち出すの!? もういいじゃない、怪物はもう居なくなったし、特に被害も無かったし――万事元通り、そうでしょ?」
四人が歩いていく石畳の道を塞ぐようにアイリスは立ち、偉そうに腕を組む。
「夢の高校生活が遂に始まるんだから、もうそんな過去の話は忘れるに限るのよ!」
「いや、過去の話と言ってもまだほんの数時間前のことなんだけど」
「過去は過去じゃない」
「……そうだけどさ」
ノアは半ば呆れたように溜息をつくと――ふと、先刻の事を思い出した。
怪物は無事に倒した――エレナが言っていた通り、煙に変わったのだからそう断言しても構わないと思う。……そうそう、ちなみにチェインは、怪物の消滅を確認し「この騒ぎだと、入学式も仕切りなおしだろうな」と五人に言い残すと、家へと帰って行った。
さて、話は戻し――『怪物は無事に倒した』の件だが。
しかしこの場合、問題となるのは『この先のこと』である(ちなみに、アイリスの言う高校生活なんたらのことではない。いや、かと言って無関係とは言えないかもしれないが)。
また再びあのようなものが出てきたら、どうするのか、どうすればいいのか。
今回はあくまでたまたま、環境人数技術、その他もろもろの条件が上手い具合に揃ったから、万事元通りの結果に終わったのだ。
結局は、そういうこと。
まあ何も、ノアを含めた五人が怪物を倒さなくてはならない義務や使命や運命を持っているわけではないので――そもそもの話、もしかしたら根本的にそんな心配は無用なのかもしれない。
大体そんな風なことを、ノアは思い出しつつ考えた。
「確かに、アイリスの言うことも一理あるけど……何だろう、この嫌な胸騒ぎ」
「だーかーらー、ノアはいちいち考えすぎ。頭ショートしても知らないからね!」
「それは現実的にありえないよ、アイリス」
ノアは冷静にツッコミをする。
アイリスは「ふんっ」とそっぽを向く。
平和だな、と。
零とエレナとセシルは、根拠もなくそう思った。
+++
妖精界立第一高等学校の体育館内。
白髪の男性が堂々と、前方のステージに登り、礼。厳粛な雰囲気で、紙を見ながら生徒の名前を読み上げ始める。それに従い、一人、また一人と、呼ばれた者がその場で椅子から立ち上がった。
入学式、である。
だがしかし、式中にまた再び怪物が現れたわけでもないので、それほど事細かに描写する必要は無い(少なくとも、今後の展開においてに限るが)。しかしここで敢えて、その重要なこととして挙げるならば――ノア、アイリス、エレナ、セシルの四人が同じクラス、すなわちは一年A組になったということぐらいだろうか。
何はともあれ。
こうして正式に、ノア達は妖精界立第一高等学校に入学したのであった。
+++
その入学式の後。
ノアとアイリス、そしてセシルは各々の家路へと着いた……が、しかし。
「……俺はどうする……?」
これで二度目の乗車となる黒いリムジンに揺られながら零は、真面目に、そしてどこか切羽詰った様子で隣に座るエレナに聞く。
それもそうだ。日常生活の真っ最中に、突然拒否権も何も無いまま、異世界へと飛ばされてしまったのだから――当然、帰る家も無いだろう。奥の手として野宿という選択もあるが……高校生の彼にとっては、あまり選びたくないものではある。
すると、エレナは当たり前のように、
「私の家で暮らせばいいのです」
と言った。
「…………は、い?」
「それにそれに、そもそもです。何故、カシノキさんをリムジンに乗せたと思ったのですか? 道すがらに捨てていこうだなんて、微塵も思っていないのですよ?」
「……だ、だが――」
「部屋のことは大丈夫なのです! お客様用の部屋が空いていますから」
「お客様用?」
「ほら、私の家が見えてきましたよ!」
前を指差すエレナ。その指先を追うように目を向けると――煙突付きの、青い屋根が見える。
なんというか、とてつもなく大きかった。
「……あれが、お前の」
「家です。そしてこれから――カシノキさんの家ともなるのです」
零は、本来ならばリムジンを見た時に『その可能性』に気付いても可笑しくは無かったのだが。ともあれ、青い屋根のその家は、遠くからでも見て分かるほどの――豪邸であった。
+++
――こうして。
アルター=ノア。
クルー=アイリス。
柏乃曲零。
アルトゥール=エレナ。
ナイトメア=セシル。
以上に挙げた、個性も性格も全てが違う、計五人による五重奏な日々はこうして幕を開けた。
と、最後にここで、序曲を終わらせる前にもう一つ。
危険分子――所謂、悪党の今現在について。
+++
某時某所にて、スクエア=ジャイルは呟く。
「ああああ……ゴーレムも倒されちゃったし、僕には覚悟が足りないって分かっちゃったし、おまけに――良い収穫も何も無い。こんなんじゃいつまでたってもダークヒーローに成れないじゃないか……ああ、だけど、こうして弱音を吐いているようじゃ駄目かもねえ。よし、気持ちを入れ替えて新しくてとびっきり悪質で憎たらしい悪事でも考えよう。まずは経験、次に度胸、最後は――実力。今の僕にはそういう細かい段取りが必要なのかもね。何せ――
――僕は赤い絶望の後継志望者なんだから」
第1章 五重奏 End,,,,
怪物に捕まってしまったアイリスは言った。
私を助けて、と。
それに対し、ノアは何も言わず――命がけで、その言葉に従い、そして見事彼女を救出した。
何故、このようなことができるのか。
その理由の発端となる、昔の出来事についてをを語る機会は後に回すとし、とりあえず二人の関係について今後のために簡単に触れておこう。
アルター=ノアとクルー=アイリスの関係とは――まさに、騎士と姫。
そして、決してそれは恋愛関係の部類には入らない。
むしろそれよりかは、もっと深い、もっと強い、もっと永い関係なのかもしれないのだ。
互いが互いを信じ信じられ、頼り頼られ、そして何より――護り護られる。
そんな騎士と姫の関係が今の今まで、途切れることなく続いている。
そしてそれはきっと、未来永劫続く――はずだ。多分。
何はともあれ。
兎にも角にも、怪物との最初の接触において、ノアは騎士としての義務は果たしたのであった。
+++
「しっかし、結局あの怪物って何だったんだろうな。君は何か知らないの?」
「セシル……ぼくにだって分かるはずも無いよ。父さん曰く、本当はゴーレムって名前らしいけど」
「ノア君が剣で黒い宝石を砕いた瞬間、黒い煙になって消えてしまいましたものね。ますます意味が分からないのです」
「問題は、これで終わるのかどうか……」
「ああー、もう! 何で皆終わったことをいちいち持ち出すの!? もういいじゃない、怪物はもう居なくなったし、特に被害も無かったし――万事元通り、そうでしょ?」
四人が歩いていく石畳の道を塞ぐようにアイリスは立ち、偉そうに腕を組む。
「夢の高校生活が遂に始まるんだから、もうそんな過去の話は忘れるに限るのよ!」
「いや、過去の話と言ってもまだほんの数時間前のことなんだけど」
「過去は過去じゃない」
「……そうだけどさ」
ノアは半ば呆れたように溜息をつくと――ふと、先刻の事を思い出した。
怪物は無事に倒した――エレナが言っていた通り、煙に変わったのだからそう断言しても構わないと思う。……そうそう、ちなみにチェインは、怪物の消滅を確認し「この騒ぎだと、入学式も仕切りなおしだろうな」と五人に言い残すと、家へと帰って行った。
さて、話は戻し――『怪物は無事に倒した』の件だが。
しかしこの場合、問題となるのは『この先のこと』である(ちなみに、アイリスの言う高校生活なんたらのことではない。いや、かと言って無関係とは言えないかもしれないが)。
また再びあのようなものが出てきたら、どうするのか、どうすればいいのか。
今回はあくまでたまたま、環境人数技術、その他もろもろの条件が上手い具合に揃ったから、万事元通りの結果に終わったのだ。
結局は、そういうこと。
まあ何も、ノアを含めた五人が怪物を倒さなくてはならない義務や使命や運命を持っているわけではないので――そもそもの話、もしかしたら根本的にそんな心配は無用なのかもしれない。
大体そんな風なことを、ノアは思い出しつつ考えた。
「確かに、アイリスの言うことも一理あるけど……何だろう、この嫌な胸騒ぎ」
「だーかーらー、ノアはいちいち考えすぎ。頭ショートしても知らないからね!」
「それは現実的にありえないよ、アイリス」
ノアは冷静にツッコミをする。
アイリスは「ふんっ」とそっぽを向く。
平和だな、と。
零とエレナとセシルは、根拠もなくそう思った。
+++
妖精界立第一高等学校の体育館内。
白髪の男性が堂々と、前方のステージに登り、礼。厳粛な雰囲気で、紙を見ながら生徒の名前を読み上げ始める。それに従い、一人、また一人と、呼ばれた者がその場で椅子から立ち上がった。
入学式、である。
だがしかし、式中にまた再び怪物が現れたわけでもないので、それほど事細かに描写する必要は無い(少なくとも、今後の展開においてに限るが)。しかしここで敢えて、その重要なこととして挙げるならば――ノア、アイリス、エレナ、セシルの四人が同じクラス、すなわちは一年A組になったということぐらいだろうか。
何はともあれ。
こうして正式に、ノア達は妖精界立第一高等学校に入学したのであった。
+++
その入学式の後。
ノアとアイリス、そしてセシルは各々の家路へと着いた……が、しかし。
「……俺はどうする……?」
これで二度目の乗車となる黒いリムジンに揺られながら零は、真面目に、そしてどこか切羽詰った様子で隣に座るエレナに聞く。
それもそうだ。日常生活の真っ最中に、突然拒否権も何も無いまま、異世界へと飛ばされてしまったのだから――当然、帰る家も無いだろう。奥の手として野宿という選択もあるが……高校生の彼にとっては、あまり選びたくないものではある。
すると、エレナは当たり前のように、
「私の家で暮らせばいいのです」
と言った。
「…………は、い?」
「それにそれに、そもそもです。何故、カシノキさんをリムジンに乗せたと思ったのですか? 道すがらに捨てていこうだなんて、微塵も思っていないのですよ?」
「……だ、だが――」
「部屋のことは大丈夫なのです! お客様用の部屋が空いていますから」
「お客様用?」
「ほら、私の家が見えてきましたよ!」
前を指差すエレナ。その指先を追うように目を向けると――煙突付きの、青い屋根が見える。
なんというか、とてつもなく大きかった。
「……あれが、お前の」
「家です。そしてこれから――カシノキさんの家ともなるのです」
零は、本来ならばリムジンを見た時に『その可能性』に気付いても可笑しくは無かったのだが。ともあれ、青い屋根のその家は、遠くからでも見て分かるほどの――豪邸であった。
+++
――こうして。
アルター=ノア。
クルー=アイリス。
柏乃曲零。
アルトゥール=エレナ。
ナイトメア=セシル。
以上に挙げた、個性も性格も全てが違う、計五人による五重奏な日々はこうして幕を開けた。
と、最後にここで、序曲を終わらせる前にもう一つ。
危険分子――所謂、悪党の今現在について。
+++
某時某所にて、スクエア=ジャイルは呟く。
「ああああ……ゴーレムも倒されちゃったし、僕には覚悟が足りないって分かっちゃったし、おまけに――良い収穫も何も無い。こんなんじゃいつまでたってもダークヒーローに成れないじゃないか……ああ、だけど、こうして弱音を吐いているようじゃ駄目かもねえ。よし、気持ちを入れ替えて新しくてとびっきり悪質で憎たらしい悪事でも考えよう。まずは経験、次に度胸、最後は――実力。今の僕にはそういう細かい段取りが必要なのかもね。何せ――
――僕は赤い絶望の後継志望者なんだから」
第1章 五重奏 End,,,,
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